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二日目(その六)

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「ふっ、自分のことは棚にあげ、ってか?」
(あれは無理して明るくしてるな)

 環の心中を察した錬は、複雑な気持ちでユリの寝顔を見つめる。

「それにしてもアンタさ、ほんとに刑事かよ? 環にこんないいようにされてさ。……って、俺も昨日似たようなことしたけど」

 錬は気づかないまま環と同じことを言うと、ユリの上体を抱き起こし、脱がされたトレーナーを手早く着せた。
 ズレたメガネを外しテーブルに置くと、再びユリを寝かせてジッと顔を見る。

「う、ん……」

 少し動いてソファから落ちたユリの腕を取ると、そのままそっと手を握る。

(細い腕……。母さんも、細い人だったな。華奢な体で、抱き締めてくれたの、覚えてる。……雰囲気、やっぱりちょっと、似てるのか?)

 頬に軽く触れると、もぞもぞと動き、寝返りを打つユリ。

(な、なんだよ。起きたのか?)
「すぴーっ」

 そして気持ちよさそうに寝息を立てる。

「くっくっ」
(……雰囲気が似てても、……ユリは、ユリだな)
「ったく、人の気も知らねーで」

 優しく微笑むと、今度は頬をツンツンっとつつく錬。
 すると突然ユリの手が、錬の顔へと伸びてくる。

「おっ、なんだ」

 そして頬を探り当てると、グイッと自分のほうへと引き寄せる。

「おわっ」

 その瞬間、ユリの唇が錬の唇に触れた。


   * * * * * *


「⁉︎    ……ユリ」

 顔を離そうとするが、ユリはそのままキスを続ける。
 それは優しく、まるで小鳥がついばむように、何度も唇に触れてくる。

「チュッ、チチュ」

 時折音を立て、軽く吸いつき、優しく触れてくる。

(なんだこれ。こんな、可愛い、甘いキス……初めてだ)

 錬は、キスはもちろん初体験もとっくに済ませている。今まで数人の女性とも付き合った。
 だが、こんな感覚のキスは、初めてだった。
 それは若さゆえか、はたまた性格か。

(柔らかい、ユリの唇。少しひんやりして、でも余韻が温かい。気持ちいい)

 ユリは錬の両頬を押さえたまま、まだ離さない。
 甘い時間が流れていく。

(ヤバい……。昨日とは全然違う。環には悪いがこのままだと……)

 すると突然、ユリの舌が錬の中へと入ってきた。

「⁉︎」
「ちゅっ、ちゅる」

 錬の舌を探し当てると、軽く吸いつき、舌先を使い、ゆっくりと錬の舌をなぞり、味わうように優しく絡めてくる。

「ハアッ、ユリ……」

 錬が耐えきれずに動こうとしたその瞬間、ユリが唇を離して寝言を言った。

「ハルキ……」
(えっ、ハルキ? どこかで聞いたような……)
「ナリタ、ハル、キ?」

 その名前は、昨夜聞いたばかりだった。
 ユリのーー恐らく以前に付きあっていた奴の名前。

(クッソ! ハルキって奴だと思ってこんなキスしてきたのかよ)

 錬が、悲しみとも憎しみともとれる表情でユリを見つめると、ユリの目にはうっすらと涙が滲んでいた。

「なんだよ……なんで泣いてんだよ」

 涙を指先でそっと拭う錬。

「ーー今でもそいつのこと、好きなのかよ」

 錬は悲しい目でユリを見つめた。


    * 二日目 終わり * 

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