23 / 89
二日目(その六)
しおりを挟む「ふっ、自分のことは棚にあげ、ってか?」
(あれは無理して明るくしてるな)
環の心中を察した錬は、複雑な気持ちでユリの寝顔を見つめる。
「それにしてもアンタさ、ほんとに刑事かよ? 環にこんないいようにされてさ。……って、俺も昨日似たようなことしたけど」
錬は気づかないまま環と同じことを言うと、ユリの上体を抱き起こし、脱がされたトレーナーを手早く着せた。
ズレたメガネを外しテーブルに置くと、再びユリを寝かせてジッと顔を見る。
「う、ん……」
少し動いてソファから落ちたユリの腕を取ると、そのままそっと手を握る。
(細い腕……。母さんも、細い人だったな。華奢な体で、抱き締めてくれたの、覚えてる。……雰囲気、やっぱりちょっと、似てるのか?)
頬に軽く触れると、もぞもぞと動き、寝返りを打つユリ。
(な、なんだよ。起きたのか?)
「すぴーっ」
そして気持ちよさそうに寝息を立てる。
「くっくっ」
(……雰囲気が似てても、……ユリは、ユリだな)
「ったく、人の気も知らねーで」
優しく微笑むと、今度は頬をツンツンっとつつく錬。
すると突然ユリの手が、錬の顔へと伸びてくる。
「おっ、なんだ」
そして頬を探り当てると、グイッと自分のほうへと引き寄せる。
「おわっ」
その瞬間、ユリの唇が錬の唇に触れた。
* * * * * *
「⁉︎ ……ユリ」
顔を離そうとするが、ユリはそのままキスを続ける。
それは優しく、まるで小鳥がついばむように、何度も唇に触れてくる。
「チュッ、チチュ」
時折音を立て、軽く吸いつき、優しく触れてくる。
(なんだこれ。こんな、可愛い、甘いキス……初めてだ)
錬は、キスはもちろん初体験もとっくに済ませている。今まで数人の女性とも付き合った。
だが、こんな感覚のキスは、初めてだった。
それは若さゆえか、はたまた性格か。
(柔らかい、ユリの唇。少しひんやりして、でも余韻が温かい。気持ちいい)
ユリは錬の両頬を押さえたまま、まだ離さない。
甘い時間が流れていく。
(ヤバい……。昨日とは全然違う。環には悪いがこのままだと……)
すると突然、ユリの舌が錬の中へと入ってきた。
「⁉︎」
「ちゅっ、ちゅる」
錬の舌を探し当てると、軽く吸いつき、舌先を使い、ゆっくりと錬の舌をなぞり、味わうように優しく絡めてくる。
「ハアッ、ユリ……」
錬が耐えきれずに動こうとしたその瞬間、ユリが唇を離して寝言を言った。
「ハルキ……」
(えっ、ハルキ? どこかで聞いたような……)
「ナリタ、ハル、キ?」
その名前は、昨夜聞いたばかりだった。
ユリのーー恐らく以前に付きあっていた奴の名前。
(クッソ! ハルキって奴だと思ってこんなキスしてきたのかよ)
錬が、悲しみとも憎しみともとれる表情でユリを見つめると、ユリの目にはうっすらと涙が滲んでいた。
「なんだよ……なんで泣いてんだよ」
涙を指先でそっと拭う錬。
「ーー今でもそいつのこと、好きなのかよ」
錬は悲しい目でユリを見つめた。
* 二日目 終わり *
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
【R18 大人女性向け】会社の飲み会帰りに年下イケメンにお持ち帰りされちゃいました
utsugi
恋愛
職場のイケメン後輩に飲み会帰りにお持ち帰りされちゃうお話です。
がっつりR18です。18歳未満の方は閲覧をご遠慮ください。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
【R18】隣のデスクの歳下後輩君にオカズに使われているらしいので、望み通りにシてあげました。
雪村 里帆
恋愛
お陰様でHOT女性向け33位、人気ランキング146位達成※隣のデスクに座る陰キャの歳下後輩君から、ある日私の卑猥なアイコラ画像を誤送信されてしまい!?彼にオカズに使われていると知り満更でもない私は彼を部屋に招き入れてお望み通りの行為をする事に…。強気な先輩ちゃん×弱気な後輩くん。でもエッチな下着を身に付けて恥ずかしくなった私は、彼に攻められてすっかり形成逆転されてしまう。
——全話ほぼ濡れ場で小難しいストーリーの設定などが無いのでストレス無く集中できます(はしがき・あとがきは含まない)
※完結直後のものです。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…
ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。
しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。
気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…
ねえ、私の本性を暴いてよ♡ オナニークラブで働く女子大生
花野りら
恋愛
オナニークラブとは、個室で男性客のオナニーを見てあげたり手コキする風俗店のひとつ。
女子大生がエッチなアルバイトをしているという背徳感!
イケナイことをしている羞恥プレイからの過激なセックスシーンは必読♡
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる