上 下
18 / 89

二日目(その一)

しおりを挟む


「ん……」

 朝? 朝かな……
 眠い、まだ眠い……
 アラーム、鳴ったっけ……?
 ……いっか、うん、もうちょっと、寝てよう。連休だし、ね。
 あー、なんか、布団がふかふかしてる。
 気持ちいいなあ。
 あっ、抱き枕だ。
 えい! ぎゅーっとしちゃえ。んー?
 この、抱、き、ご、こ、ちー!
 き、も、ち、いいー!
 なにこれ、あったかーい!
 あれ? 抱き枕……あったっけ?
 私、買ったんだっけ? まっ、いっかー。

 両腕でぎゅっとして、足を絡めてまだウトウトしていると抱き枕が喋る。

「ユリちゃん、苦しいよー?」

 ん? なんで抱き枕が喋るの?
 眠たい目を開けて、目の前の抱き枕を見る。

「⁉︎」
「おはよー、ユリちゃん♡」

 驚いてベッドの上に飛び起きると、周りをキョロキョロ見渡す。

「あ、れ……?」

 その喋る抱き枕は、枕元に置いてあるメガネに気づくと「はい」と渡してくれる。
 受け取ろうと手を伸ばすと、メガネがヒョイッと上に持ち上げられる。
 それに合わせて視線を上に動かすと……その瞬間、抱き枕あらためーー環くんの唇が、私の唇に触れた。

「⁉︎」
「やった! ユリちゃんと初キッス♡」
(……ほんと、この子は。……隣に寝ていただけでも心臓に悪いのに、なんなの? この突然の可愛いキスは⁉︎)

 こめかみを抑え、ため息まじりにそんなことを考えていると視線を感じる。

「ふふ、メガネのないユリちゃんも可愛い♡」

 環くんが、ジッと見つめながらそんなことを言ってきた。
 
「⁉︎」

 そうだった! メガネなしの顔……しかも、寝起きの顔を見られるなんて、恥ずかしすぎる!

「環くん、……返して?」

 うつむいたままお願いすると、環くんは意外にも素直に渡してくれた。
 後ろを向き、そっとメガネをかけると再度辺りを見渡す。

(そうだ。昨日は本当にいろいろあって……錬と環くんの家に泊まったんだ)

 環くんは、あぐらをかいてこちらを見ている。

「ユリちゃん、それ、錬の服?」

 昨夜は、錬から借りたスウェットで眠った。

「うん、そう」
「大きいよね、それ」

 袖口はダボダボ、ズボンの裾もずいぶんと折っている。

「だって、着替えがなかったんだもの」

 環くんはクスクス笑うと、ダボダボの袖口を触ってくる。
 ふと顔を上げると、環くんの顔がすぐ近くにあることに気づき、慌てて横を向く。
 隣に寝ていたこと、さっきのキス、そしてーー昨日の猫マネの出来事が思い出されると、一気に顔が熱くなった。


   * * * * * *


「あー、えっと、今、何時?」
「今ね、十一時過ぎだよ」
「えっ⁉︎    十一時? 嘘、ごめん。九時集合だったのに」

 どうやらすっかり寝過ごしてしまったらしい。

「いいよー。疲れちゃったんでしょ。ゆっくり眠れたみたいでよかった。シャワーがまだだったら、ゆっくり浴びてから下りておいでよ」

 環くんはベッドから軽やかに下りると、扉の方へと歩きながらそう言った。

「ありがと。でもシャワーは昨夜のうちに借りて浴びたから大丈夫。支度したらすぐに行くね」

 あれ? ふと気づく。

「環くん、鍵……かかってなかった? 私、鍵をかけて寝たつもりだったけど……」

 環くんは立ち止まると、おもむろにポケットに手を入れ、なにかを取り出す。

「鍵ならあるよ、ここに」

 手にした鍵を顔の近くでプラプラさせて、振り向きながらにっこりと微笑んだ。

「⁉︎」

 この双子たちはもう、ほんと信じられない!

「それからユリちゃん。荷物が届いているからね」
「へっ? 荷物?」

 そういえば、替えの洋服やらなんやらを頼んでもらったのだった。

「わかった。ありがと。すぐ行くね」
「うん、待ってる」

 環くんを見送ると、急いで支度に取りかかる。
 はああ、それにしても、朝から心臓に悪すぎるわ……

 準備が整うと、下だけ自分のジーパンに履き替え、上は錬のトレーナーを借りたまま、急いでリビングへと向かった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

【R18 大人女性向け】会社の飲み会帰りに年下イケメンにお持ち帰りされちゃいました

utsugi
恋愛
職場のイケメン後輩に飲み会帰りにお持ち帰りされちゃうお話です。 がっつりR18です。18歳未満の方は閲覧をご遠慮ください。

【R18】隣のデスクの歳下後輩君にオカズに使われているらしいので、望み通りにシてあげました。

雪村 里帆
恋愛
お陰様でHOT女性向け33位、人気ランキング146位達成※隣のデスクに座る陰キャの歳下後輩君から、ある日私の卑猥なアイコラ画像を誤送信されてしまい!?彼にオカズに使われていると知り満更でもない私は彼を部屋に招き入れてお望み通りの行為をする事に…。強気な先輩ちゃん×弱気な後輩くん。でもエッチな下着を身に付けて恥ずかしくなった私は、彼に攻められてすっかり形成逆転されてしまう。 ——全話ほぼ濡れ場で小難しいストーリーの設定などが無いのでストレス無く集中できます(はしがき・あとがきは含まない) ※完結直後のものです。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

うちの娘と(Rー18)

量産型774
恋愛
完全に冷え切った夫婦関係。 だが、そんな関係とは反比例するように娘との関係が・・・ ・・・そして蠢くあのお方。 R18 近親相姦有 ファンタジー要素有

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

処理中です...