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一日目(その十ニ)

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 私は今、一階のリビングにあるソファに座り、テーブル上のノートパソコンとかれこれ一時間ほど睨めっこをしている。

「ユリちゃん、まだ決まらないのー?」

 環くんがキッチンのほうからやってきて、パソコンを覗き込む。

「うーん、もう少し待って」

 ここに泊まるために必要なものを、通販で注文することになったのだ。
 もう夕方になる時間だが、まだ今からの注文でも翌日には届くらしいので、そのリミットギリギリまで悩んでいるところだ。
 錬が私を脅迫ーーいや、私に選択をさせ、私はお泊まりを選んだ。

「だから俺が決めてやろうかって」

 私の向かいに置かれた三人掛けのソファに座り、雑誌を読みながら錬がいけしゃあしゃあと言う。

(はあー、なんでこうなるかなあ)

    *   *   *

『胸の確認をしておかないとね』

 錬にそう言われた私は完璧にフリーズし、しばらくそのままでいた。
 すると、錬の手がタンクトップをまくりあげようと動いたのを見て慌てて『うー、わかった! わかったから……泊まります……』と、涙ながらに返事をしたのだった。

    *   *   *

 ……この子は一体、なにを考えている?
 なんで泊まれ、なんて。
 体目的じゃないのはわかった。ちょっとだけ遊ばれたけど。
 私が嫌がることは一切しないと言ったし、あの後、再度念押しもした。
 それになにかするなら、あの時点でされている。
 いやっ! 元々こんなおばさんに手は出さないでしょう。
 でも、だったらなおのこと、なんで?
 おばさんの刑事が物珍しくて?
 でも、ちょっと会っただけの人間に自宅に泊まれって言うだろうか? しかも三泊も、だ。

(うーん。でもまあ、あのまま錬がなにかしていたらそれこそ犯罪だし、そうならなかっただけでもよしとして……。うーん、でもやっぱりなんでだ? なんでこうなる? うーん、うーん、うー……うん! やめよう! 考えてもわからないことは考えても仕方ない)

 ーーそれにしても、錬、変な子。


   * * * * * *


「ユリちゃん、これで注文しちゃっていいの?」
「うん、お願いします」

 ーー環くんも、相当変わっている。
 錬が連れてきた私を受け入れ、普通にというか、とてもフレンドリーに接してくる。
 あんなエッチなイタズラをしてくるところもあるけれど、なんか可愛いし、憎めないし、もしかして小悪魔……かも。

「そうだ。ユリちゃん、携帯番号きいてもいい?」

 環くんが携帯を準備して尋ねてくる。

「あ、そうだったね、もちろん」

 配達先はここになるけれど、連絡先は私の携帯番号、荷物は代引きで私が支払う。

(こういうのはちゃんとしなきゃね)

 番号を伝えると環くんは手早く操作をし、すぐに私の携帯が鳴る。

「りりりりーん。りりりりーん」

 慌てて出ようとするが、すぐに切れる。

「注文は僕のIDが登録してあるから大丈夫。それより今の電話、僕だからね。環で登録しておいて。じゃあ、これで注文しとくからねー」

 環くんはそう言うと、パソコンを持ってダイニングテーブルのほうへと行った。
 
(……よかったのかな? 注文は)

 携帯には、環くんの着信あり。

(んー、じゃあ、一応登録しますか)

 通販は悩んだ結果、洋服と下着を二日分、後は寝間着になるものを頼んだ。
 歯ブラシなどのお泊まりセットは常に持ち歩いているから大丈夫。仕事上、急な泊まりに対応するためだ。ショーツも一枚は持っているし、今日はなんとかなるだろう。
 まあ、後は環くんにお任せしよう。
 錬は、変わらずソファで雑誌を読んでくつろいでいる。


   * * * * * *


 それにしても、この家。どうやらマンションらしいがーー
 まずここ、リビングとダイニングキッチンがつながったいわゆるLDKというのか、広さ十五畳くらいはあるだろうか。
 階段を下りるとまずカウンターキッチンがあり、その近くに小さめのダイニングテーブルと椅子のセット。その右奥、今座っている場所になるが、ここにソファとローテーブル、テレビなんかがある配置だ。
 先ほどの部屋とはまた違い、少しくすんだ青と黒でまとめられたシックな雰囲気になっている。
 天井や床、部屋の多くに木を使っているからか全体的に暗くならず、かえって暖かみのある部屋に感じる。
 こういう雰囲気、実は好きだったりする。
 そして、キッチンを挟んだ左側に浴室やトイレなどがあるようだ。
 二階はというと、私がいた部屋も含め三部屋あるみたいだが、ふたりで住むには十分過ぎる広さに感じるのだがーー
 まあ、彼らも働いているだろうし、これくらいは借りれる……か?

「ねえ、錬。環くんもだけど、あなたたち、今日は仕事が休みだったの?」

 錬に問いかけると、キョトンとしている。

「仕事って?」
「だからあなたたちの仕事よ。今日は木曜日で平日でしょ? 平日休みってことは……サービス業とか?」
「仕事はまだしてねーよ?」
「へっ?」
(仕事をしていない? まだ? ん、どういうことだろ?)

 ふとテーブルの上の雑誌に目がいく。そして雑誌の横には定期入れみたいなものが置いてある。免許証だろうか? さっき名前は聞いたけれど、錬も環くんも一体何歳なんだろう?
 私の視線に気づいたのか、錬がそれを私に見せる。

「ほら、俺らまだ大学に通ってるから働いてねーよ? 今は、夏休み」

 ん? 大学? 夏休み? えっ?
 目の前に出されたそれを見るとーー
《T大学 学生証 宇賀神 錬》となっていた。

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