おばさん刑事、恋をする！ 〜超年下イケメン双子と甘々生活〜

一日目（その七）

　彼がポカンとした顔で私を見ている。

（だって私の胸はＣカップはある！　若い頃はちょっとだけ谷間ボンッてなってた！　寄せて上げてだったけども！　でも今だって、ブラ付きタンクトップでゆったりとさせちゃってるだけで……ちゃんとあるっ！　はずだものっ！　フンッ！　どうだ、言ってやったぞ。こんのクソガキめっ！　ちょっと睫毛が長いからって、いい気になるんじゃないってのよ！）

　私は上体を起こすと両手を腰に当て、仁王立ちしたままスッキリとした表情で彼のほうをチラッと横目で見る。
　すると彼は、なぜだか笑っている。

「ちょっと！　なに笑ってるのよ」
「くっくっ、アンタさー、いや、なんでも」

　彼は私から顔を背けるようにして横を向くと、一方の手で口元を隠し、もう一方の手で私を遮るようにしながら肩を震わせまだ笑っている。
　なんなのよ、この子……ほんと、失礼極まりないったらないんだけど……。フンッ、なによ……ほんと……失礼ね……ふ、……ふふ……ふふ……

「ふ……」
「？」
「ふふ……」
「な、なんだよ？」
「ふふふ、あはは！」
「……はあぁ⁉︎」

　私はいつの間にか声をあげて笑っていた。
　だって、なんだか、とても楽しくて。
　こんな感覚はーー久しぶりだ。
　ふふ、いいよね別に、笑ったって。
　だって、楽しいんだもの。あはは。


「……なにアンタ……変な奴」

　彼はそう言いながらも、また「くっくっ」と笑い出す。
　そうしてしばらくの間、名前も知らないイケメンの男の子とふたり、笑い合っていたのだった。


　　　＊　＊　＊　＊　＊　＊


「さて、と。じゃあ私、帰るわ」

　ひとしきり笑い合った後そう告げると、彼は驚いた様子で言う。

「えっ、もう帰んの⁉︎」
「帰るわよお。あなたももう、大丈夫そうだし。また変な誤解を受けないよう、今後気をつけるのよ？　じゃあね」
「……」

　まあ彼もなんだかんだで大人だろうし、ひとりで帰っていけるだろう。
　そう言って歩きだすと帰り道を模索する。

「ねえ、刑事さんさー」

　呼び止められ振り向くと、彼はまだしゃがみ込んだままで話しかけてくる。

「さっき休みって言ってたよね。この後、あの本屋にまた行くの？」

　話しかけてきた割には、なぜかそっぽを向いてそう私に尋ねる。

「へっ？　いや、彼らがいるかもしれないし、今日のところはもう行かないわ」
（そうだ、彼らには改めて説明をしたほうがいいわね。まあ、そのうちまたどこかで会うでしょう）
「ーーふうん、じゃあこの後は……家で、旦那とゆっくり過ごす、とか？」
（独身の私に嫌味かっ！　って彼に悪気はないわね）
「旦那なんていないわ。ひとりでのんびりするだけよ」
「そうか……。ふっ、そうなんだ。……ねえ、明日からまた仕事？　おばさんには酷だね」

　ニヤニヤとしながら、今度はこちらに顔を向けてそう言った。

（ぐっ、ぬぬ。また小憎らしいことを言いやがって、こいつー）
「ふん、別に明日から仕事でも私的には全っ然平気ですけどっ！　でも日曜日まで休みなの！　なんと、よんっ、れんっ、きゅうっ！　せっかくだからゆっくりするわ！　……じゃあね」
（まったくっ、なんて奴だ。さっきの胸のトキメキを返して。まあ、いいけど。これで二度と、会うこともないのだろうし）


　　　＊　＊　＊　＊　＊　＊


「痛っ！　痛たた……！」

　再び歩き出すと、後ろから悲痛な声がする。
　振り返ると、彼がお腹を抱えてうずくまっている。

「どうしたの？　お腹が痛いの？　大丈夫？」

　慌てて駆け寄り彼の肩に手をかけると、とりあえず背中をさする。

「ねえ、大丈夫？　どこが痛いの？」

　彼はうずくまったまま、問いかけに答えない。

（なに？　なにがあったの？　……どうしよう？　実はさっき殴られていたとか？　それとも持病かなにか？）

　とにかくこのままにしておけない。

「待ってて、今救急車を呼ぶから……」

　ボディバッグから携帯を取り出そうとすると、彼の手がそれを引き止める。

「？」
「刑事さんさー、甘いよね」

　うずくまっていた彼が顔を上げると、ふいにキスをしてきた。

「⁉︎」

　そしてみぞおちに強い衝撃を感じると、そのまま彼の腕に抱き止められ意識を失った。