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一日目(その一)
しおりを挟む「ユリ、会いたかった」
「ユリちゃん、もう、離さない」
神様、どうか、夢なら覚めないで。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「……んあっ! ん………………あ?」
聞き慣れたメロディラインが枕元の携帯から流れている。
ガーゼケットにくるまったまま手探りで見つけると、顔だけピョコッと出し寝ぼけ眼で画面を確認する。
(……九時)
アラームを切るとポイっと投げ出し、今度は枕を抱きかかえるようにして顔を突っ伏す。そして、そのまま右へ左へゴロゴロと転がる。
「んっ……んー……、んにゃむ、にゃむ、うーうーうー」
意味のない言葉を口にしつつ、しばらくゴロゴロとする。
「うー、だき……まくら……ほしい……ほ、し、い……なあ。……ギュッ……ふふ……、ギュッて、し、た、い……んふふふ……、ふふ……うへへ……ぐふっ、んふふ………………………ふふふ…………………すぴー…………………………んあっ!」
枕を抱えたままハッと目覚める。
そして今度は目をカッと開くと、勢いよくベッドの上に起き上がった。
「……あっぶな、……また寝ちゃうところだった」
ガーゼケットをどかしてあぐらをかくと、しばらくボーッとする。
ぼやけた視界に映るのは、リビングとの間にあるロールスクリーンの隙間から差し込む朝の光。
(夢……うん、……なんか、いい夢見た気がする……)
なにかいいことあるかしらん。
「ふああぁぁ~~……っんんー!」
大きなあくびと伸びをすると、はみ出た寝間着がわりのTシャツの裾をスウェットパンツに押し込む。
そしてベッド脇の小さなテーブル上に置いてあるメガネを取ると、まだ少し眠い目にかけた。
「さて、起きるか」
ベッドから立ち上がると、ロールスクリーンを開けキッチンへと向かう。
* * * * * *
シンク横のワゴンには、手狭なキッチンに入りきらない雑貨や保存食などいろいろなものが収納されている。
そのワゴンの一番上に置かれたミネラルウォーターを手に取ると、コンロの上が定位置になっているやかんにトプトプと注ぎ、火をつける。
そしてドリップバッグ式のコーヒーをひとつ、同じワゴンのカゴから取り出すと、お気に入りの青い陶器のカップにセットする。
お湯が沸くのを待つ間、首をコキコキしたり腰をフルフルとしたりして、少しずつ体をほぐしていく。
「ピィィ……」
やかんがか細い音を立て始めると、慌てて火を消す。
「うあっ!」
(しまったー……もう少し早く止めたかった。……まあ、淹れた後で冷ませばいっか)
カップにお湯を少し注ぐと、時間を置いてまた少しと、蒸らしながらゆっくりとお湯を注いでいく。香ばしい香りが広がると、鼻と頭にほどよい刺激が入るのか頭が少しずつさえてくる。
淹れたての熱いコーヒーを猫舌仕様とするため、そのまましばらく置いておく。
(……この間に、レトルトとお菓子のストックを見ておくか。トイレもいっとこう)
シンク下の扉の中、それからワゴンを見て足りないものをチェックする。
諸々を済ませると、猫舌仕様に仕上がったコーヒーを持ってリビングのお気に入りの座椅子に座る。
そしてお待ちかねのひと口をいただく。
「んー、うまっ!」
思わず声が出る。
普段は濃いめの番茶、しかし今日は特別! 休日であり――しかもなんと四連休の初日!
そういうわけで、ちょっとだけオシャレな休日気分を醸し出してみたのだ。
果たしてコーヒーを飲むことがオシャレといえるのかどうかは別として、である。
「ふー」
ひと息つき、考える。
(連休一日目、……どうしよっか?)
思えば、警察官という職業に就いてから早何年……
なりたてのころはそこそこ取れた休みも、刑事になってからというもの、あまりしっかり取れた記憶はない。
世間様が週休二日だ、ゴールデンウィークだ、お正月だと言っていようがいまいが私たちには関係のない話。
基本は土日の休みとなっていても事件があれば呼び出されるし、代休なんて……ちゃんと取れたこと、あったっけ?
ではなぜ、そんな私が四連休を取れたのかというと……
ーーそれは、上司命令だった。
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