94 / 95
第94話 美味しいご飯を作って待っています
しおりを挟む「これはフローレン様!この度は誠にありがとうございます。皆さんのおかげで誰も死なずにすみました」
村に入ると60~70代の男がこちらの方にやってきた。この村の村長だろうか?
「ウォルケル殿、遅くなりまして申し訳ございません。本当にギリギリですが間に合ってよかったです」
「とんでもない!領主様自らこんな辺境の村までわざわざ来ていただきまして本当に感謝しております。早く頭をお上げください!」
「そう言っていただけるとありがたいです。詳しいお話をお聞かせ願えますか?」
「ええ、もちろんですとも!どうぞこちらへ。幸い私の家はやつらに壊されずに無事でした」
確かによく見るとあちこちの家の屋根が少し壊されている。おそらくはワイバーン達に壊されてしまったのだろう。そして奥の方ではエレノアさんが怪我をした村人を回復魔法で治療していた。怪我人は数人だけのようなので本当によかった。もしも回復魔法の使い手が不足していたら俺も手伝おう。
「それでワイバーンはどのような状況でしょうか?」
村長さんであるウォルケルさんの家にお邪魔する。この村は前回寄ってきた村よりも大きいので、村長さんの家も結構大きく、見張りを数名と治療をしているエレノアさん以外の全員が家の中に入れた。
「はい、初めてワイバーンを見つけたのはちょうど2ヶ月ほど前になります。儂がこの村で生まれ育った70年近くの間、この辺りでワイバーンなど見たこともなかったのですが、狩りに行っていた若者がドラゴンを見たと言いました。
初めは何をバカなことを言っているのか、大きな鳥を見間違えたんだろう、と相手にしておりませんでした」
「……なるほど。確かにワイバーンが生息するのは大きな山や谷がある場所が大半です。この近くにはそれほど大きな山も谷もないし、見間違いと思っても仕方がありませんね」
「はい、しかしそのあと他の者からもワイバーンの目撃証言が相次ぎました。ですが、目撃証言は一匹だけだったので、女子供は村の外に出ないようにし、うちの村の狩人に任せておけば大丈夫だろうと思っておりました。
ですが一月ほど前に狩人達が襲われて1人が亡くなりました。なんとか逃げて帰ってきた者達に話を聞くとなんと5匹ものワイバーンに襲われたとのことでした。これは我々では手に負えないと判断し、早馬を走らせて領主様に知らせたというわけです。
そして1週間ほど前からはこの村を見つけたのか、1日数回ほど7~8体の群れでこの村を襲うようになってきました。日に日に襲う間隔も短くなっていき、初めは家に入るとすぐに諦めて帰っていったのですが、今では家を壊して中に入ってこようとしてくる始末です。
家が壊され、中に大量のワイバーンが押し入って殺されるのではないかと怯えておりました。先程皆さんがワイバーン共を追い払ってくれました時には打ち震えましたよ!」
思ったよりもかなり切羽詰まっていた状況だったらしい。元の世界でいうと毎日熊とか狼とかが家を壊そうとしてくるってことだろ、そりゃ怖すぎる。
「なるほど、ギリギリのところで間に合ったようで本当によかったですわ。それではすぐにでもワイバーンの討伐に向かいたいと思います。この辺りの地理に詳しい方はいらっしゃいますか?」
「はい、猟師をやっておりますこのバドーが案内します。ワイバーンの巣は確認できなかったのですが、いつもワイバーンがやってくる方角の方へ案内します」
「バドーだ。この村で狩りをしてる。領主様、どうか俺達を助けてくれ!」
村長さんの隣にいた若者が大きな声を上げる。大きな弓を背負っているところを見るとあの弓で獣や魔物を狩っているのだろう。
「こらバドー!だからお前は口の利き方には気をつけろと言っておるだろうが!」
「すっ、すまん。今まで一度も偉い人と話したことがないから、悪いが勘弁してくれ」
「だからその口の利き方を気をつけろと言っているのだ!」
「いえ、構いませんよ。バドーさん、こちらこそ案内をよろしくお願いしますね」
「おっ、おう!まっ、任せておいてくれ!」
バドーさんがものすごく動揺している。まあこれだけ外見が綺麗な女性は滅多にいないからそうなるのも当然といえば当然か。
「それでは予定通り二手に分かれるぞ。ニアよ、もうすぐ日も暮れる。今日のところは周囲の状況を確認しておくくらいに留めて、明日から本格的な調査を始めるがよい」
「はっ!」
現在、村にある一軒の家を借りて作戦会議中だ。エレノアさんも村の人達の治療を終えて合流している。ついさっき襲撃があったばかりでまたすぐに来ることはないとは思うが、またワイバーン達がきたら村の人達が教えてくれるはずだ。
「エレノアとルーは周囲を警戒、ワイバーンがこちらにきた時は村の者達と協力して村を守るのじゃ!」
「「はっ!」」
今回エレノアさんとルーさんは村に残ってローラン様の護衛だ。もちろん俺も村に残る予定だったのだが……
「ローラン様、やっぱり俺も討伐部隊の方に同行することはできないか?」
「……あのな、ユウキ。妾はアルガン殿にお前を借りている立場なのじゃぞ。お前を危険に晒させるわけにはいかん」
いや、もちろん俺だってわかってはいるよ。でも道中で馬車が魔物に襲われた時も、この村がワイバーンに襲われていた時も、どうしてもただ見ているだけではいたくなかった。俺の目の前で誰かが傷付くかもしれないと思うだけで動き出したくなる。
たぶん工場で襲撃があったときにモラムさんを目の前で助けられなかったことが、俺が思っているよりも心に残っていたらしい。
「自分の身なら自分で守れるし、逃げるだけなら身体能力強化魔法で強化した足でワイバーンからでも余裕で逃げられる。なんなら俺が自分の意思で討伐に向かったと証文を書いてもいい」
「……それでも駄目じゃな。余裕で逃げられると言っていたが、周りの者が襲われた時に全員を見捨てて逃げるられると本当に誓えるか?」
「………………」
それは誓うことができない。目の前で命が危険に晒されている人がいたら、また俺は自分の身を顧みずに突っ込んでしまうかもしれない。今までは運良くなんとかなっていたが、今後もそうなるという保証なんてない。むしろ今までも俺自身が怪我どころか死んでしまう可能性の方が高かったかもしれない。
「ユウキ殿、私達を信じて欲しい。敵はワイバーンとはいえ油断はしないし、もし危険な状況に陥ればすぐに撤退する。それにルーやエレノアだけでなく、あの変異種を倒したユウキ殿がここで村とローラン様を守ってくれているなら、我々も安心してワイバーンの討伐に向かうことができます」
リーダーのニアさんがそんなことを言う。顔だけじゃなくて言うことまで本当にイケメンだ。そんなことを言われたら俺にはそれ以上言うことはできない。
ルーさんとラウルさん以外の人はまだ1週間の付き合いしかないが、それでも戦闘での連携やあれだけのワイバーンを全員無傷で倒しているところを見れば十分に信じられる。
「……そうですね、ニアさん達を信じます。すみません、我儘を言いました。さっきまで俺が言ってたことは忘れてください」
「ええ、大丈夫ですよ。すぐにワイバーンの巣を潰して帰ってきますから美味しいご飯をお願いしますね。私は一昨日の晩御飯のポトフという料理が一番気に入りました、ぜひあれをもう一度食べたいですな」
「私は昨日の味噌というやつで炒めた肉と野菜が好きだな。ワイバーンの肉であれを作って欲しい」
「わっ、私はうどんをもう一度食べたいです!」
ニアさんだけじゃなくラウルさんやエレノアさんまでそんなことを言う。どうやら気を使わせてしまったようだ。いかんな、これじゃみんなの足を引っ張っているようなものだ。
「わかりました、美味しい晩ご飯を作って待っています。みなさん気をつけてくださいね!」
本当にみんないい人達だ。それにみんなルーさんやラウルさんと同じくらい強いらしいし、俺は俺のできることをしよう。
「うむ、それではみなのもの頼んだぞ。くれぐれも慎重にな」
「「「はっ!」」」
15
お気に入りに追加
362
あなたにおすすめの小説
テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…
小桃
ファンタジー
商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。
1.最強になれる種族
2.無限収納
3.変幻自在
4.並列思考
5.スキルコピー
5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。
貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!
やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり
目覚めると20歳無職だった主人公。
転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。
”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。
これではまともな生活ができない。
――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう!
こうして彼の転生生活が幕を開けた。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!
家ごと異世界ライフ
ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる