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第90話 遠征2日目

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「ユウキ殿、ユウキ殿」

「う、う~ん」

 まだ眠い。なんだまだ外は真っ暗じゃないか。ってあれ、いつもの俺の部屋じゃない。そうか、ローラン様の遠征に同行しているんだった。まだ外は暗いけどもう明け方近くか。

「おはようございます、リーブさん」

「おはようございます。もう1時間もすれば夜明けの時間かと」

「わざわざありがとうございます」

「いえいえ、見張りで起きていますからたいしたことありませんよ。それよりも昨日のご飯とても美味しかったです!まさか、野営をしてる最中にあんなにうまいご飯にありつけるとは思ってもいなかったです」

「そう言ってもらえて何よりですよ。でも昨日はほとんどできたものを持ってきただけですからね。今日からが本番です」

「なるほど、期待しております。何か手伝うことはありますか?」

「いえ、エレノアさんが手伝ってくれる予定なので大丈夫ですよ。ありがとうございます」

「ああ、そういえば今回はエレノアがいるんでしたね。ユウキ殿も大変だと思いますが、どうかあいつに料理というものを教えてやってください」

「ユウキでいいですよ。昨日手伝ってもらった時は全然大丈夫でしたね。普通に包丁とか使えてましたよ」

「いや、そりゃ包丁くらいは使えて当たり前じゃないですか」

「………………」

 そうだよね、俺の感覚がおかしくなっているけど、普通の人は包丁くらい使えるよね。どこかの屋敷のメイドのようにすっぽ抜けて後ろに突き刺さるようなことはないよね。

「前にあいつが作ったものを食べたのですが、しょっぱくて食えたもんじゃなかったんです」

「なるほど、どうやら味付けに問題がありそうなかんじなんですね。教えてくれてありがとうございます、ちょっとそのあたりを気をつけて見てみますね」

「ええ、よろしくお願いします」



「おはようございます、ユウキさん」

「おはようございます、エレノアさん。それじゃあ今日の昼ご飯を今のうちに作っちゃいましょうか」

「はい、よろしくお願いします」

 といっても別に昼食は軽食レベルでたいしたものを作る予定はない。日が出ているうちに進む必要があるし、お昼に馬を少し休ませるための休憩時間の間に食べられる物にしないといけないからな。





「よし、それでは出発するぞ。今日は川のあるところまで進む予定じゃからな、みな気合を入れるのじゃ」

「「「はい!」」」

 昼ご飯の準備も終わり、野営の撤収も終わって二日目の旅路が始まった。とはいえ、行者をしない俺は馬車の中でローラン様達とトランプをしているだけなんだけどな。

 今日はラウルさんが行者でエレノアさんとリーブさんがこっちの馬車に乗ってローラン様とトランプの相手をしていた。当たり前だが、ローテーションで御者とローラン様の馬車に乗る人は変わるらしい。



「……くそ、ポーカーも勝てないのかよ」

「くっくっくっ、本当にユウキは弱いのう。まったく何のゲームなら勝てるんじゃ?」

「ぐぬぬぬ……」

 昨日に引き続き今日はトランプを使い馬車の中で4人でポーカーをしている。木のコインをチップ代わりにしているのだが、ついには俺の目の前からコインがなくなった。かわりにローラン様の前には50枚以上のチップがある。

 昨日の大富豪というゲームは運の要素がかなりの割合を占め、一度大貧民に落ちてしまえば、そこからしばらくは逆転が難しい。そのため今日は運の要素の他に駆け引きが重要な要素であるポーカーで勝負することになった。しかし、その結果は見ての通りローラン様の圧勝で2位がリーブさん、3位がエレノアさん、4位が俺という結果になった。

 昨日の大富豪もそうだが、ローラン様は運がとてつもなく強く、なおかつ切り札の切り方や駆け引きが圧倒的にうますぎる。この人本当にスペックが高すぎるんだよ。

「ほれ、次のゲームはなんじゃ?どうせならお主の得意なゲームにしたらどうじゃ?」

 ……大富豪とポーカーが俺の得意なゲームだったとはいえない。俺自身はあまり運がないことは自覚しているが、それを場のカードや状況を見極めて戦略で補うのが好きなんだよ。しかしそれもローラン様にはまったく通用しなかった。

 あと4人でできて、馬車の揺れの中でできるゲームはダウトと戦争とババ抜きくらいか。う~ん、どれもこの人に勝てる気はしないんだが。

「ローラン様、少し開けたところに出たので、ここで馬の休憩と昼食にしてはいかがでしょうか?」

「うむ、そろそろお腹も空いてきたのう。よいぞ、ここで休憩じゃ」

「はっ!」

 どうやらここで一度休憩を入れるようだ。馬もそれほど速くは走ってはおらず、一台の馬車を2匹で引っ張っているとはいえ、1日に2~3回の休憩は必要となる。

「それでは俺は昼食の準備をしてきますね」

「うむ、期待しておるぞ!」



 さて、朝に準備をしていたので、あとは軽く焼いていくだけだ。10人分でとにかく量があるからな、どんどんやっていこう。エレノアさんも手伝ってくれるのはだいぶ助かるな。

「できたぞ、今回作ったのはホットサンドだ。前に変異種の討伐の時に作ったサンドウィッチを焼いたみたいなもんだな」

「ほう、今回はだいぶ速いのう。それに何やらいろんな種類があるようじゃな」

「朝に準備をしていたからあとは焼くだけにしておいたんだ。種類はたくさん作っておいたから好きなのを食べてくれ」

「ふむ、ではこれにするかの。……うむ、中には薄く切られたハムと温められてとろけたチーズが入っておる!うむ、シンプルじゃが温かくてとてもうまい」

 ホットサンドの定番だけどうまいよな。特にとろけたチーズが最高なんですよこれが。

「ほう、こっちは茹でた卵とベーコンか。そしてこっちはポテトとチーズ、そしてこっちは甘辛い味の肉、そしてこっちは果物のジャムが入っておる!」

 ホットサンドやサンドウィッチの強みはお手軽にでき、そして何よりいろんな種類を作れることだからな。自分だけしか食べないなら2~3種類でいいが、せっかく大人数で食べるということもあり、全部で8種類くらい作ってみた。

 大きな皿の上に乗せ、自分で好きなものをとって食べれるというのも魅力的だ。ひとつひとつはそれほど大きくないから、全種類は無理でも4~5つくらいは食べれるだろう。

「ぐぬぬ、まだ全種類食べれてないのにもうお腹がいっぱいじゃ……」

「ちょっと手抜きだけど明日も同じメニューだからその時に違う種類を食べれば大丈夫だよ」

 パンもそうだが、足の早い食材は早めに使い切っておきたいからな。あとホットサンドのいいところは、とりあえず何でもいいから入れて焼けば大体のものがうまくなる。わざわざローニーにホットサンドメーカーを作ってもらった甲斐があったようだ。

「それを早く言うのじゃ!ならば残りの味は明日の楽しみにとっておくかのう」

 ローラン様が食べ終わった後は護衛のみんなで食べ始めた。手軽に食べれるので見張りの人に持っていくことも可能なのもホットサンドのいいところだ。

 結構多めに作ったつもりだったが、みんな思ったよりもよく食べたので用意していた分がすべてなくなってしまった。明日はもう少し多めに作ったほうがよさそうだな、こりゃ。




 そして午後の旅路も特に問題なく進んだ。日暮れまでに今日の目的地である川の近くまで到着することができた。

「今日も予定通りに目的地についたようじゃな。皆の者、このままの調子で頼むぞ」

「「「はい!」」」

 今日も予定通り進めているようだ。今日の野営する場所には水場があることは聞いている。川の水を見てみると汚れもなくだいぶ澄んでいるので煮沸すれば問題なく飲めそうかな。さすがにローラン様に万が一のことがあったらまずいから、ローラン様には街から持ってきている水を使う予定だ。

「今日はどのようなものを作るのですか?」

「今日は俺の故郷でよく食べられている麺料理にします。まずは朝作っておいたこの小麦粉の塊を切っていきます」

 今日の晩ご飯はジャパニーズトラディショナルうどんだ。まずは朝作って寝かせておいたうどんのタネを均一に切る。そしてカツオ節のような素材はなかったので、代わりとなる小魚を干した煮干しもどきと醤油でツユを作る。

 そしてうどんを茹で野菜やキノコ、干し肉を入れてひと煮込みすれば完成だ。お手軽に作れるところも楽でいい。うどんの場合は伸びてしまうから先にローラン様の分だけ作っていおいて、他のみんなの分は後で茹でる予定だ。

「お待たせ、今日の晩ご飯は俺の国でよく食べられていた麺料理のうどんだ。結構熱いから気をつけてな」

「ほう麺料理は久しぶりじゃな。ふむ、以前に食べたものとはだいぶ違うのう」

 そういえば麺料理はこの世界にもあるんだったな。ただツユというようなものはなく、塩味や香辛料で味をつけたものしかないようだ。

「小魚を干したものでダシを取って醤油という調味料で味をつけたものなんだ。うちの屋敷では好評だったけど、合わないようだったら違うスープも作れるから言ってくれ」

 あまりないとは思うが、醤油がダメな人もいるかもしれないからな。

「どれどれ。……うむ、素朴じゃが魚の香りがして良い味じゃ!そしてこのスープが染み込んだ野菜や肉と一緒に、この食感の良い麺が絡みあってこそ、この料理をいっそう高みへと引き上げておる!」

 相変わらずの食レポぶりである。一言でうまいとか、美味しいで十分なのにな。

「ああ、口にあって何よりだ。今日は昨日と同じように焼きナナバのデザートがあるから、また少しお腹を空けといてくれ」

「おお、今日もデザートがあるのか!わかったぞ、おかわりは少しだけにしておこう」

 おかわりは前提なんだな。意外とこのお嬢様も結構な量を食べるんだよね。まあこれだけ美味しそうに食べてくれれば、作ってる方も嬉しくもなるもんだ。
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