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第80話 功労の儀
しおりを挟む「さて、いろいろとありましたが功労の儀に移らせていただきます。まずはゴドリー卿、前へ」
「はっ!」
無事にドルネルが連行され、上流貴族の緊急逮捕という大捕物があったが、引き続き城の大広間では功労の儀が進められている。これは半年間ごとに何か栄誉あることを行なった者が国王様の前で表彰されるという名誉を受け、褒賞を賜る儀となる。
今表彰されているゴドリーという上流貴族はこの街とは別にある自らの領地を大いに発展させたという理由で表彰を受けている。
「続いてフローレン卿、冒険者ギルドマスターのガードナー殿、アルガン家のユウキ殿、前へ」
「「「はい!」」」
そして俺とガードナーさんとローラン様の番になった。ローラン様は元から前の方に出ていたので俺とガードナーさんが前に出る。
そう、今日俺とガードナーさんとローラン様はこの功労の儀で表彰される予定となっている。もちろんその内容は変異種の討伐についてである。
俺は変異種の発見と討伐に対して、ローラン様は危険な変異種の討伐へ参加したことと冒険者達の士気を大幅に上げたことに対して、ガードナーさんは討伐部隊の指揮を取って早急に変異種を討伐したことに対して評価がされた。今回の討伐戦のMVPとして3人が選ばれたという訳だ。
「それではガードナー殿、前へ」
「はい!」
まずはガードナーさんが国王様の前に出る。
「こたびの変異種討伐、一人の犠牲者も出さず、迅速な事態の収束は実に見事であった!」
「はっ、ありがたき幸せ!」
「うむ。変異種の素材の一部も国に納めてくれて感謝しておる。褒賞については先日冒険者ギルドに渡したが他に何か必要なものはあるか?」
「いえ、ございません。そもそも私はあの変異種を仕留めることができなかったので、この場で賞されることだけで存分でございます」
「……そうであるか、その忠義見事である。冒険者ギルドの方で何か必要となったら、すぐに言うが良い。今後も頼りにしておる、有事の際はよろしく頼むぞ!」
「はっ、こちらこそ今後ともよろしくお願い致します!」
ひざまずくガードナーさんに国王様自ら、小さいが美しく光り輝く薔薇のような形をした水晶をガードナーさんに手渡す。あの水晶自体が大変貴重なもので、この功労の儀で賞されるもの全てに与えられると聞いている。
パチパチパチ
ガードナーさんが水晶を受け取ると盛大な拍手が彼等を包んだ。この辺りは元の世界の表彰式と同じような感じだ。
「続いてフローレン卿、前へ」
「はい!」
ガードナーさんに続いてローラン様が国王様の前に出る。
「こたびの変異種の討伐、危険を顧みず領主自ら先陣を切ることにより、皆の士気を大幅にあげたと聞いておる。この街を守ろうとする忠義、実に見事であった!」
「はっ、ありがたき幸せ!」
「先のドルネル卿の件とあわせて何か褒賞を与えたいが何がよいか?」
「はい、お褒めの言葉をいただきまして、誠に光栄にございます。しかし妾は変異種の討伐戦において、それほどお役に立てたとは思っておりません。また、先程のドルネル卿の件に関しましては、アルガン卿より正式な依頼を受け、報酬もそちらから受け取るようになっておりますので、ガードナー殿と同じよう、この場で賞されることだけで十分でございます」
うん、報酬という名の大きな貸しだね。改めて何を頼まれるか不安になってくるな。
しかし変異種の討伐戦に関しては十分役に立っていたと思う。ガードナーさんもあれほど士気の高い討伐戦は今までなかったと言っていたし、ローラン様の私兵であるルーさんやラウルさんも十分すぎるほどに活性化した魔物を倒していた。
少なくとも3人の功労者を挙げろと言われた際にローラン様が入っていて不満を言うものはいないだろう。
「……そうであるか。討伐戦に関しては十分賞されるべきであったとは思うが、本人がそう思うのであれば何も言うまい。その忠義、実に見事である!引き続きこの街の領主の一人として、その責務をまっとうするがよい!」
「はっ!全身全霊をかけてこの街の領主を務めあげることを誓います!」
ガードナーさんの時と同様に薔薇の形をした水晶を国王様自ら手渡す。
パチパチパチ
ガードナーさんの時よりも大きな拍手が城の大広間を包み込む。本当に猫をかぶったローラン様は大きな人気があるらしい。確かにドルネル卿を追い詰める時は格好良かったもんな。
「続いてユウキ殿、前へ」
「はっ、はい!」
いよいよ俺の番が来た。一応アルゼさんにリハーサルをしてもらいオッケーをもらったのだが、やはり本番は違う。何よりこんなに大勢のお偉い人達の視線を浴びるなど初めてのことだ。
漫画とかアニメの主人公達はよくこんなの平気だよな。俺に至ってはすでに足がすくんでいる。大丈夫かな、声とか裏返ったりしないようにしないと。
「そう固くならずともよい。ここではそれほど作法も気にせんでよいからのう」
俺があがりまくっているのを見て、国王様が小声で話しかけてくれた。よかったどうやら作法に物凄く厳しいというわけではないらしい。
何より、奴隷である俺に対してそれほど嫌悪感があるというわけではないらしい。今更だがそもそも奴隷である俺がこんな大広間で褒賞を受けること自体間違っている気もする。この国の王様が奴隷と直接話をするだけでも本当に大丈夫なのかと疑ってしまう。
「はい、御心遣い感謝致します」
「うむ。こたびの変異種の討伐戦において、変異種の発見および討伐を見事に成したと聞いておる。また、活性化した魔物の討伐数もかなりのものであったらしいのう。よくぞこの街を守ってくれた、その忠義実に見事である!」
「はっ、ありがたき幸せ!ですが、こたびの討伐戦において、変異種を発見したのは私というより同行しておりましたもう一人の者で、活性化した魔物を多く討伐した者は我が師であります。
そして何より、変異種を討伐できたのは他の冒険者や他の領主様の兵みんなのおかげでございます。総員で変異種の弱点を探し、総員で総攻撃を行い、たまたま相性の良かった私が倒せただけに過ぎません」
もちろんありとあらゆる質疑応答パターンをアルゼさんと想定している。いや、面接と同じで準備って本当に大事だよ。
「そう謙遜せんでも良い。ガードナー殿からの報告を聞いたが、そなたでなければ変異種は倒せなかったらしいではないか。褒賞に関しては領主への規定分しか払われていないと聞くが、何か希望はあるかのう?奴隷の身であると聞いているが、奴隷の身から解放するというのはどうじゃ?」
おっとそうくるか。
「我が身をおもんばかってのお言葉ありがとうございます。ただ、私はアルガン様に大きな御恩がございます。そして普段より良い待遇をいただいておりますのでそちらに関しましては問題ございません」
うん、ドルネルの屋敷でのようにいざとなったら奴隷紋の力で強制的に止めてもらえるから、俺はまだ奴隷紋はつけたままでいい。どうやら俺はたまに自分でも抑えられないくらい我を忘れてしまうことがあるからな。
「ふむそうは言ってものう、奴隷として扱われることも不便なことも多かろう。それにこの機会であればそなたの本心を言ってもよいのだぞ」
……なるほど、どうやら俺がエレナお嬢様にそう言わされているのかと心配してくれているのかもしれない。この国王様はとても優しい人なんだろう。
俺自身もローラン様に言ったことがあるが、自分から好き好んで奴隷でいたいと思うやつは少ないよな。とはいえ自分の本心を伝えるというのは難しいしどう伝えるかな?
そうだ、さっきローラン様が言ってた奴隷紋の力が使えるかもしれない。エレナお嬢様はすぐ後ろにいるから試してみるか。
「アルガン様、先程フローレン様がおっしゃっていたように、奴隷紋の力でこの場で私が嘘を言えないようにすることは可能でしょうか?」
「えっ、ええ。おそらくできると思うけど……ユウキ、本当にいいの?」
「ええ、問題ありません」
「それじゃあ……今この場において嘘をつくことを禁じます」
エレナお嬢様が両手を組み、祈るように念じる。これで俺が国王様に嘘をつくと奴隷紋による激痛が響くはずだ。改めて国王様の前に立つ。
「国王様、私はアルガン様に命を救ってもらいました。その御恩に報いるために今はまだアルガン様の奴隷でありたいのです。そしてアルガン様には良い待遇をいただいており、いつでも奴隷から解放して良いと言われておりますので、可能でありましたら別の褒賞をいただければ幸いです」
……うん、俺の本心だからやはり奴隷紋の罰は反応しない。
「ユウキ……」
「ふむ、どうやら本当にアルガン卿の奴隷でありたいと思っているようじゃのう。アルガン卿、本当に良い従者を得たようじゃな」
「はい!我が身には過ぎた自慢の従者です!」
「はて、そうなると褒賞はどうすべきかのう?何か希望はあるか?」
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