奴隷スタートの異世界ライフ ~異世界転生したら速攻で奴隷として売られてしまったんだが~

タジリユウ

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第79話 決定的な証拠

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 突然の獣人の登場に大広間にいた人全てがざわめく。当然俺だって驚いている。確かに今日のローラン様の護衛はラウルさんで、ルーさんはいないとは思っていたが、まさかこんな突然に現れるとは思わなかった。

 そしてルーさんの後ろには両手を縛られ、縄で繋がれた一人の男がいた。年齢は30~40代、白髪の混じった髪であまり綺麗ではない服装をしている。どこの誰だか俺にもわからないが、どこかの村人かなにかだろうか。

 俺もエレナお嬢様もアルゼ様もローラン様から何も伺っていないので何が起きたのか現状がわからない。ルーさんの登場に部屋の後ろ側にいる衛兵達が慌てて前に進むのを止めようとするが、ローラン様がそれを制す。

「ふう、ギリギリですが間に合いましたね。ルー、よくやりました。証言の方はどうですか?」

「……連行する際に裏を取りました。恩赦と引き換えに証言するそうです」

「よくやりましました。国王様、妾の意見を述べる前にこの男に証言をさせることをお許しください」

 いつも俺と話している言葉遣いではなく、完全に猫被りモードでルーさんと国王様に話しかけるローラン様。

「ロっ、ローラン様!偉大なる国王様の前でどこの誰かもわからない下賤な者の話など聞く必要はありません!そっ、早急にその奴隷の獣人と共にご退席ください!」

 なんだ?ドルネルのやつが急に慌て始めた。ルーさんが連れてきたあの男を見て明らかに動揺している。

「フローレン卿、そのままの位置で証言を許可しよう。ドルネル卿はそこから動かぬようにしておれ」

「……しっ、しかし!」

 ドルネルがその男に近付こうとしたところで国王様がそれを制す。

「国王様、感謝致します。さて、この男はとある犯罪集団のボスとなります。妾の私兵を動員してなんとか捕まえてここに連れてくることができたようです。多少の恩赦と引き換えにここに立ち、証言をすることを誓わせました」

 多少の恩赦、つまりは司法取引により刑期を短くしたりその罪を問わないようにしたりすることか。領主の1人であるローラン様ならば多少は融通をきかせることができるのだろう。

 それにしてもあの男のことについてローラン様からは何も聞いていない。ローラン様にはこちらの調査状況を伝えており、襲撃に参加していた奴隷の身元を調査してもらっていたはずだがあいつは何者なんだ?

「この男はとある者の命令で近隣の村から人を攫い、強制的に奴隷契約を行わせる奴隷狩りを行っておりました。最近ではこの辺りの盗賊どもが少なくなり、奴隷商にまわってくる奴隷が激減していたことによるものと思われます」

 盗賊達を潰していたのは俺とリールさん達のことだな。そういえば行商人のエドガーさんが最近盗賊ではなく奴隷狩りをしている輩がいると教えてくれたし、そのことについてローラン様にも伝えていた。こいつらが奴隷狩りをしていたのか。

「アルガン家が襲撃されたことにつきまして、妾も調査を依頼され調べておりました。アルガン家を襲撃した奴隷のうち、約半数は犯罪奴隷としてこの街の奴隷商で売られておりましたが、残りの半数はこの街の付近の村などでこの男達に捕まってしまった農民達でした」

 工場を襲ってきた奴隷達の半数は元は普通の農民だったということか。

「ここからは妾の推測となるのですが、この襲撃者の黒幕は犯罪奴隷のみを最初は使う予定でしたが、なんらかの理由で奴隷の数を大幅に増やそうとしたのでしょう」

「……おそらくは襲撃のある少し前に我がアルガン家の屋敷や工場の警備を強化したためでしょう」

 エレナお嬢様が答えるように、おそらくはそういうことだろう。俺が神様からの忠告を聞いて屋敷や工場の警備を強化した結果、用意していた犯罪奴隷だけでは足りず、急遽この街の近くで奴隷狩りを行って人数を増やしたということか。

「……なるほど、おそらくはそのためでしょうね。あまりにも急な計画変更だったため、ルーゼルに指示する暇もなく、自ら動くしかなかったのでしょう。そうして急遽奴隷を捕まえ、奴隷紋の契約自体はルーゼルにさせたということですか。

 そしてその後こやつに口止めを行い、この街から遠くの街に避難させたようですが、甘かったですね。妾からは逃れられず、こうして捕まりこの場に連れてこられたというわけです。さあ、あなたに指示を出して奴隷狩りを行わせた者は誰か自ら話しなさい」

「へえ、恩赦の件、忘れずにお願いしますよ。そこにいるドルネルという貴族でした。そいつから口止め料を含めた大金をもらい、この街でチンピラをやっていた俺の仲間達と一緒に奴隷狩りをして、そいつから指定された場所に届けました。そのあとはこの街から離れるように指示されました」

 周囲がざわつく。

「でっ、デタラメだ!ワシはそんなやつ知らんぞ!これは罠だ。誰かが私を貶めようとしている!」

 ドルネルが喚き散らしているが、明らかにさっきよりも動揺している。この男の証言は明らかに今まで俺たちが見つけることができなかった決定的な証拠になる!

「見苦しいですよ、ドルネル卿!彼は一時的にですが奴隷契約を結んでも良いと言っております。奴隷契約を行い、嘘を禁じれば彼の言っていることが本当であるということはすぐにわかります」

 なるほど、奴隷契約にはそんな使い方もあるのか。嘘をついたら奴隷紋による罰が発動するように設定しておけば、反応を見て嘘かどうか見破ることができるということだ。

「うぐぐ……」

 ローラン様に言い返すことができないドルネルを見て国王様が一歩前に出る。

「なるほどのう。フローレン卿、貴重な情報を感謝する。ドルネル卿の様子を見るにアルガン家の襲撃に関わっている可能性はかなり高いじゃろう。念のためその男は宮廷の者に奴隷契約を結ばせ真偽を確認しよう」

「はっ!ありがたきお言葉!」

 ローラン様とルーさんが片膝をついて国王様に跪く。

「ドルネル卿は重要参考人として真偽のほどがわかるまで拘束させてもらおう。分かっておると思うが自害などは絶対にさせぬようにせよ。引っ立てい!」

 国王様の号令で兵士達がドルネルを拘束しようとする。直接みんなの仇を討つことができないのは残念だが、これだけの事件を引き起こした張本人であれば、例え上流貴族であろうとも死罪は免れないはずだ。

「ええい、離せ!ワシを誰だと思っている!おい、奴隷、さっさとワシを助けぬか!」

 兵士がドルネルを拘束しようとしたところ、ドルネルはまだ諦めずに拘束を振りほどこうとする。そしてやつの屋敷を訪れた時にいたガタイのいい奴隷の男が後ろの席から姿を現す。

「きゃあー!」

「こいつ、剣を抜いたぞ!逃げろ!」

 ドルネルの奴隷が剣を抜いたことにより大広間はパニックになる。どこまでも往生際の悪いやつだ、ここには国王様の護衛もいるし、アルゼ様もルーさんもラウルさんも、冒険者ギルドのガードナーさんもいる。逃げられるわけもないのに。

「往生際が悪いぞ、ドルネル卿。大人しく、捕まるがよい!」

 このような状況でも罪人に対して一歩も引かずに前に出る国王様。すごいな、一歩間違えれば国王様が狙われてもおかしくない状況なのに。かなり高齢に見えるがもしかしたら強かったりするのか?

「国王様、違うのです!ワシも騙されていたのです!本当の黒幕は別にいるのです!」

「……ドルネル卿、この後に及んでまだそんなことを言うのか、諦めて罪を認めたらどうだ?」

 っ!!

 確かにこの状況でそんなことを言ってもただ言い逃れをしているだけかのように思える。だが、ドルネルの表情は真剣そのものだ。

「本当なんです!ワシは絶対にバレないと言われて唆されただけなのです!うまくいけば領主の座を手に入れることができるとそこにいる……」

「スリープ!」

「ふぁぁ……」

「ぬぅぅ……」

 突如ドルネルとその奴隷であるガタイのよい男が崩れ落ちる。その原因は灰色のローブを身に纏い、高価そうな杖を掲げた魔法使いの手によるものだった。

「国王様、これ以上罪人の戯言に付き合う必要はないかと存じます。あとは牢屋で取調べをすれば済むことにございます」

「おお、エディス卿!助かったわい。これはその者の魔法か?」

「はっ!我が右腕たる者の高位魔法にございます。今のうちに拘束を」

「すまんのう。その二人を牢屋に繋いでおけ!先刻も言ったようにくれぐれも自害させるでないぞ!」

「「はっ!」」

 国王様の命令により衛兵達が二人を連れ出す。

 しかしなんだ?ドルネルのやつは何を言おうとしたんだ?

 確かに一つ思っていたことがある。あのドルネルというやつは上流貴族でかなり良い暮らしをしていたはずだ。最初にあいつと出会った時も新しい店を出したと言っていた。

 そんなやつがバレたら重罪になることが分かりきっている領主の襲撃なんて自ら考えたりするのだろうか?もちろん元からルーゼルのやつを身代わりにするつもりだったとは思うが、あまりにハイリスクだと思う。

 もしかして本当にまだ黒幕はいるのではないかと疑ってしまう。いや、もし黒幕がいたら捕まったドルネルの証言でわかるはずか。奴隷契約をすれば嘘もつけないのならすぐに判明するはずだ。あの聡明そうな国王様ならそれくらいはやってくれるだろう。





「エディス卿、フローレン卿、この度はご迷惑をおかけいたしました。また、御二方の御助力、本当に感謝致します」

 二人が連行されていったあと、エレナお嬢様がローラン様とファウラー様に頭を下げる。

「いえ、この度は災難でしたな。私自身はなにもしておりません故、お気になさらず」

「妾もすでに別の者に大きな貸しを与えることができましたので問題ありませんわ、お気になさらず」

 おっと、そういえばローラン様に大きな借りができてしまったな。しかし、一瞬でもこちらを味方しないかもしれないなどと思ってしまった自分が恥ずかしい。今回はローラン様に大きな借りができてしまった。何か俺に借りを返せることがあればいいんだけどな。
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下記作品は現在書籍化進行中です!(o^^o)
◆  ◇    ◆    ◇    ◆   ◇    ◆
異世界でキャンプ場を作って全力でスローライフを執行する……予定!
◆  ◇    ◆    ◇    ◆   ◇    ◆

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