奴隷スタートの異世界ライフ ~異世界転生したら速攻で奴隷として売られてしまったんだが~

タジリユウ

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第76話 奴隷紋

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 そのあともドルネルはアルゼさんと問答を繰り返すが決定的な尻尾を出すことはなかった。しかし、最初はあれほど陽気にエレナお嬢様と話していたやつが、アルゼさんと問答を繰り返すうちに表情がだんだんと険しくなっていった。

 人の表情の変化に疎い俺でもこいつが何かを隠していることがわかる。エレナお嬢様やアルゼさんはどう見ているのか気になるところではあるが、さすがにこの場で聞くことはできない。



「なるほど、いろいろと参考となる情報をありがとうございました」

「いえいえ、こちらでも何か新しい情報を得られましたらアルガン様にご報告させていただきますよ」

「ええ、感謝いたしますわ、ドルネル様。それではそろそろ私達はお暇させていただきます。お忙しい中、貴重なお時間をとっていただきまして誠にありがとうございました」

「とんでもない。それにしてもアルガン様がご無事で本当によかったですな」

 心にもないことを言うドルネル。もし万が一、襲撃の犯人がこいつでなかったとしても、こいつからしたらエレナお嬢様は邪魔なはずだ。

「死んだのはたった3人だけ、それも身近な人は全員無事だったらしいですね。いやはやなんとも運のよろしい限りで、よかったではないですか」

「……ええ。とはいえ私の力不足で3人もの命を失ってしまいましたわ。本当に残念です」

「たった3人で済んだのですから良いではありませんか。それに聞くところによると死んだうちの1人は奴隷で、しかも犯罪奴隷だったそうではないですか。いやあ、本当に良かったですな!社会のゴミが1匹死んだとなると逆に襲撃者に感謝でもしないといけませんかな、がっはっはっ」

「黙れ!」

 俺は叫んでいた。俺にはどうしてもこれ以上黙って聞いていることができなかった。モラムさんが死んだのによりにもよって襲撃者に感謝しろだと、ふざけるな!

「ああ?なんだ、貴様のような奴隷風情が何様のつもりだ!そうかお前もその犯罪奴隷の仲間か何かか?まったく奴隷に堕ちたゴミクズ如きがワシに話しかけるな!」

「おいユウキ、やめろ!」

「ユウキ、下がって」

 アルゼさんとエレナお嬢様が俺を止める。同時にドルネルの奴隷であるガタイの良い男も少し前に出てきた。

 だが、俺も止まらない。モラムさんがそんなことを言われてもう我慢ができるわけがない!

「モラムさんは身を挺して子供達を守って死んだんだ!確かに犯罪奴隷ではあったけれど、それでも立派な人だった!絶対に社会のゴミなんかじゃない、取り消せ!」

「はっ、まったく何を言い出すかと思えば。お前もそうだが奴隷に堕ちた時点でただのゴミだ。後ろのやつらもそうだが、お前らゴミどもはワシら主人の言うことを聞いていればそれでいい。そのゴミのような命を精々ワシらのために使い潰せ!」

 ブチッ

 俺の中で何かが切れた。

「フィジカルアップ!プロテクト!」

 腰に手をやるが刀がない。そうだ、こいつと会う際に武器は預けていたんだった。だが構わない、強化魔法をかけた今の俺の力ならこいつを殴り殺すくらいのことはできる!

「ユウキ、止まれ!」

 アルゼさんが前に立ち塞がる。もちろんアルゼさんにも武器はない。強化魔法をかけた俺のすぐ目の前で鋭い目をして俺を睨みつけてくる。

「どいてください!俺はあいつを許さない!」

 薄らと笑いながら、最後だけは満足だったと呟きながら死んでいったモラムさんの最後が頭に蘇る。みんなで美味しいご飯を食べ、酒を飲み、笑いながら楽しんでいたあの工場での光景はもう見ることができない!

「馬鹿が!手を出すなと言っていただろうが。ここで手を出してモラムのやつが喜ぶとでも思っているのか」

「そんなことはわかっている!それでも俺はあいつをぶん殴る!どけ!」

 ここで手を出すことにより問題になることは百も承知だ。だが、俺にはそんなことはどうでもいい!今この瞬間にこいつをぶっ殺すことの方が重要だ!

 確かにモラムさんは罪を犯して犯罪奴隷になった。でも、それでも彼は同じ奴隷という境遇であった俺を助けようとしてくれた一人の人間だ!お年寄りや子供達を気にかけ、最後は子供達をかばって死んでしまった心優しい一人の人間だ!ただ金を持って威張り散らしているだけのお前ごときがゴミ扱いしていいような人じゃない!

 強化された力でアルゼさんを無理矢理押しのける。戦闘ではなく純粋な力だけなら強化された俺の方がアルゼさんよりも強い。今のアルゼさんでは俺は止められない。

「この大馬鹿者が!エレナ様、奴隷紋を!」

「ユウキだめ!お願い、止まって!」

「ぐっ、がああああああ!」

 俺がドルネルの奴隷のところに辿り着くよりも早く、エレナお嬢様が祈りを捧げるように両手を前に出しその手を合わせる。その瞬間に俺の全身に奴隷紋による激痛が走った。あまりの激痛に俺はその場で倒れ込み悶絶する。

「なっ、なんたる無礼な奴隷だ!アルガン様、こいつを処分しますぞ!奴隷の分際でこのワシに手をあげようとしやがって!おい、やってしまえ!」

 ガタイの大きい男が剣を抜きこちらに迫る。まだ奴隷紋による激痛が続き、動くことができない。男は手に持った大剣を大きく振りかぶる。

「お待ちください!」

「おい、待て!……アルガン様、なんのつもりですかな?」

 大剣を振りかぶった男の前にエレナお嬢様が両手を広げて立ち塞がる。ドルネルの静止により男は大剣を振りかぶったまま動きを止める。

「この度は私の奴隷がご迷惑をおかけしまして申し訳ございません。こちらの方でも奴隷紋による厳しい罰を与えておりますので、どうかそちらでお許しください」

「そうは言ってもですねえ、実際にワシに殴りかかってきましたよ。そう簡単に許されるとワシの威厳に関わりますからな」

「……では私が代わりに頭を下げましょう。元はと言えば私の教育不足でもありますことですからね」

 エレナお嬢様が俺の代わりに頭を下げる。

 くそっ!そんなやつにエレナお嬢様が頭を下げる必要なんてないのに!ぶん殴ってやりたいが、奴隷紋の激痛により立ち上がることができない。

「……ちっ。アルガン様がそこまでするなら仕方ありませんな。しかし、もう二度とこのようなことがないように厳重に罰をお願いしますよ」

「はい、大変ご迷惑をおかけしました。それではこちらで失礼いたします」

「大変申し訳ございません。こちらで失礼いたします」

 エレナお嬢様もアルゼさんもドルネルの野郎に頭を下げる。俺は奴隷紋の激痛に苦しみながら、アルゼさんに引きずられて部屋を出される。

 くそっ、離せ!頼むから俺にそいつを殺させてくれ!モラムさんの仇を討たせてくれよ!
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