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第74話 怪しい輩
しおりを挟む「やつの屋敷に行くことになったぞ」
ローラン様に協力を求めてから数日後、突如アルゼさんがそんなことを言う。やつというのは当然ドルネルのことだとは思うが、何でいきなり?まだ証拠集めは終わっていないはずだが。
「まだ襲撃の証拠は集めきれていないと思いますがもう乗り込むんですか?」
「いや、今回は乗り込むわけではない。名目上は挨拶、本当の目的は調査と牽制となる。……一応やつも上流貴族でこの街に多額の税金を納めているし、エレナ様が訪問することは問題ない。
やつが今回の襲撃に関わっているという証言を引き出したい。襲われた張本人が目の前に現れれば、何かボロを出すかもしれない。あとはこちらが貴様を疑っているぞと牽制をかけることで、これ以上こちらに何かさせないように牽制をする」
……なるほど、さすがアルゼさんだ。少なくともこちらから相手側に圧をかけられれば、しばらくの間は向こう側から襲撃などはしてこないだろう。
「あの、俺も一緒について行くことは可能でしょうか?」
「……エレナ様と私と、一応お前も予定している。先に言っておくが絶対に手は出すなよ。まだ証拠は集まっていない。こちらから先に手を出せばアルガン家が不利になることは間違いないからな」
「はい、もちろんわかっています」
さすがにそこまで馬鹿ではない。いくらドルネルが限りなく黒に近いとしても、まだ証拠がない状態で手を出すことがまずいくらい俺でもわかる。
「うむ。冒険者ギルドマスターのガードナーより不審な依頼者からこの辺りで暮らしている魔法使いの情報を集めるという依頼があったと報告が来ている。そして商業ギルドのランディ殿からルーゼルの過去の取引を確認したところ、怪しい金の流れがあると報告が来ている。そのあたりから攻めてみる予定だ」
そうか、ガードナーさんやランディさん達も色々調べてくれていたんだな。本当にありがたい!
「そうですか、今度2人にもご挨拶に行かないといけませんね!あと俺にも何か出来ることはありますか?」
「ユウキはフローレン家の協力を取り付けたのだろう。今のところはそれで十分だ。まあついでと言ってはなんだが工場やアルガネルの店のこともたまに見てくれれば助かる」
「はい、わかりました」
工場の方は顔を出したが、アルガネルの店はまだだったな。この後行ってこよう。
「ウェストさん、お久しぶりです!」
「ユウキさん、お久しぶりです」
アルガネルのケーキ店1号店へやってきた。ウェストさんはこの1号店を開いた時からずっとこの店の責任者をお願いしている。そして2号店と3号店の方への連絡及び事務を行ってもらっている。
「ユウキさん、お伺いしておりますよ。なんでもアルガン家が襲撃にあったとか。数人の負傷者もいたと聞いておりますが、アルガン様はご無事で何よりです」
「ええ、不幸中の幸いです。それにこちらのお店はご無事で本当に良かったです」
「はい。おそらくですが、この街の中心地近くでしかも商店を襲撃すれば、商業ギルドや街を敵に回すと同義ですからね。敵もさすがにそこまではしたくなかったのでしょう」
「そうですね、アルゼ様もそのように見ています。とはいえ、油断は禁物ですからね。一応新しく警備の人を配置しましたし、何かあったら避難を最優先にお願いしますね」
「はい、以前にお伺いしました通りに避難を最優先にさせていただきます」
神様からの忠告をもらった際に、アルガネルのお店全てに緊急時のマニュアルを渡してある。避難方法や屋敷への連絡など俺や屋敷のみんなで考えたものだ。
「2号店と3号店のほうはどうですか?」
「ええ、そちらも1号店と同様のマニュアルを渡しておりますし、警備の方も手配しておりますので大丈夫です」
「ありがとうございます。あとはちょっと襲撃の方でゴタついていて、しばらく新作ケーキの方は試せそうにないですね」
「ええ、問題ありませんよ。現在おかげさまでかなりの種類のケーキが販売されておりますので、しばらくは新作を出さなくても大丈夫かと思います。あとは季節限定のフルーツやクリームなどだけこちらで試させていただきまして、最終的なチェックをお願いしたいとアルガン様にお伝えください」
「はい、それで大丈夫だと思います。エレナお嬢様に伝えておきますね」
アルガネルの方は問題なさそうだ。既に20種類以上のケーキも用意できるようになっているし、ウェストさんに任せておけば2号店も3号店の方も大丈夫そうだな。
「エドガーさん、お久しぶりです!」
「ええ、ユウキさん、お久しぶりですね!」
今日は屋敷の方に行商人のエドガーさんが訪れてくれている。エドガーさんは以前にマイルやミレー達の村を一緒にまわって以来、行商をしながらこの街に来た時にアルガン家の屋敷に寄ってくれている。
もちろん今日も例の醤油を持ってきてくれている。醤油は今のところエドガーさんからしか手に入らないからものすごく助かっている。今のアルガン家の食卓には醤油は欠かせないものになっているからな!……まあ主に俺にだけれど。
「はい、こちらが醤油の代金と盗賊の情報料です。いつも本当にありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそいつもありがとうございます。それよりもアルガン家に襲撃があったとお聞きしておりましたがご無事でしたか?」
「……ええ、全員というわけではないですが、少なくともこの屋敷の人間やルイスとミレーは無事でした」
「……そうですか。いえ、まずはみなさんがご無事で何よりです」
エドガーさんの知っている人達が無事でほっとしたのだろう。特に子供達はエドガーさんが行商で回っている村での顔見知りだったから、とても心配だったに違いない。
「ところでエドガーさんはドルネルという上流貴族かルーゼルという貴族は知っていますか?」
「ドルネルとルーゼルですか?残念ですが2人とも名前くらいしか聞いたことはないですね。会ったこともございません。もしかするとそいつが今回の襲撃を行った者ですか?」
「ええ、俺達はそう睨んでいます。でもまだ決まったわけではないので他言はしないようにお願いします」
「はい、もちろんです!名前はルーゼルとドルネルですね、何か情報を掴んだらすぐにアルガン家にお伝えします」
「はい、ありがとうございます。でも2人を探っていることがばれたら危険かもしれないので無茶だけはしないでくださいね」
「ええ、もちろんですよ、その辺りは心得ております。そういえば盗賊の情報についてなんですが、一点気になる点がございまして。どうやらおかげさまで最近この辺りに盗賊は少なくなったらしいのですが、かわりに怪しい輩がうろついているという噂を耳にしました」
「怪しい輩?」
「はい、運よく逃げ延びた人達の話によると、どうやら盗賊どもとは少し様子が違ったそうなんですよ。普通の盗賊は人より金や積荷を優先して狙います。持ち運びも難しいですし、反撃される可能性もありますからね。ですがそいつらは積荷や逃げ出した馬を追わずに真っ先に人を追ってきたそうです、美しい女性ではなく普通の男性だったにもかかわらずです」
確かにおかしな話だ。リールさんから聞いた話では普通の盗賊はまず何よりも金を狙う。持ち運びも楽でなによりも足がつき難い。
次に馬や物品だ。こちらもさばくところさえ確保できればある程度は安全に金に換えることができる。そして人は維持も大変で反撃の恐れもあり、金に変えるのも馬や物品よりも遥かに難しい。それほど高く売れるわけでもないし、あまり割りがいいというわけでもないらしい。
例外として若い女性などは真っ先に狙われるのは当然といえば当然か。そして抵抗される恐れも少なく、維持や移動も楽な子供達が最後に狙われると言うわけだ。
「それに加えて格好も少し盗賊らしくはなかったようです。武器も立派なものを持っていて防具まで付けていたそうですよ」
そもそもいい武器や防具を持てるようなら盗賊なんかに落ちぶれないものな。
「たしかにおかしいですね。どう言うことなんでしょう?」
「私にもはっきりとは言えませんが、もしかしたら盗賊とは別に人を狙った奴隷狩りを行っているものがいるのかもしれませんね」
う~ん、誰がなんのためにそんなことをしているんだろう?まあわからないからエレナお嬢様やアルゼさん、ローラン様に報告して丸投げしよう。
「エドガーさん、本当にありがとうございます。こちらの方でも調べてみます」
「少しでも役に立ててよかったです。また何かありましたらお伝えしますね」
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◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
異世界でキャンプ場を作って全力でスローライフを執行する……予定!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
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