62 / 95
第62話 フルーツサンドの約束
しおりを挟むさて、今回でローラン様の屋敷に来るのは5回目となる。毎回新作のケーキを持っていき、感想を聞きながら世間話をして、そのあとルーさんや護衛の人と組手をさせてもらっている。
最初は面倒だと思っていたが、ローラン様もきちんと新作ケーキの食レポはくれるし、何よりルーさん達護衛の人との組手が非常に勉強になる。他校で練習試合をするような感じでいつもとは違った心構えで訓練ができ、今ではむしろ楽しみにしている自分がいる。
「くっくっく、変異種を討伐した宴会のあのあとはどうじゃったか?妾のファンに刺されたりはしなかったか?」
開口一番にそんなことを言ってくるローラン様。
「あのあと本気で大変だったんだからな!誤解を解くのが面倒だったし、嫌がらせとかもあったし!」
そう、誤解はあの宴会の場で解いたはずだったんだけど、あのあと市場とかで何度か、襲撃まではいかないがゴミとか投げられたんだよな。最初は暗殺者からの襲撃かと思って剣まで抜いたくらいだ。
そのあと犯人を問い詰めたところローラン様と仲良くしている自分が気に入らないとか言っていた。さすがにゴミを投げられたくらいで警備兵に突き出すのもあれなんでそのまま解放はしたけどな。
「ほう、それは何よりじゃ!それより早く新作ケーキをよこすのじゃ!あと約束していたフルーツサンドというやつもちゃんと持ってきているんじゃろうな!」
「よくその流れで約束とか言えるな!しょうがないから新作のケーキは持ってきたけど、フルーツサンドは持ってきてないぞ!屋敷の人達で美味しくいただいたな」
元の世界でフルーサンドなんてたべたことなかったんだが、一応作ってみたら結構美味しかった。そのあと屋敷のスタッフみんなで美味しくいただきましたわ。
「なっ、なにい~!約束は約束じゃろうが!妾はずっと待っておったのじゃぞ。変異種討伐からどれだけ待ったと思っているのじゃ!」
いやどれだけってまだ1週間も経ってないからな。
「おいルー!戦争の準備をせい。約束を守らないアルガン家に攻め込む準備をするのじゃ!」
「いやいやいや!」
冗談じゃない!フルーツサンドを持ってきてないだけで戦争になってたまるか!よろしいならば戦争クリークだ、の人なみに沸点低いぞこいつ!
「……ユウキ、お前のことだからちゃんと持ってきているのだろう。お嬢様も冗談とはいえ軽々しく戦争などというのはおやめ下さい」
さすがルーさん、短い付き合いだけどわかってくれている。なんだローラン様も冗談か、ちょっとだけ本気でビビッてしまったぜ。
「ええ、ちょっとした冗談です。まあ面倒はかけられましたけど約束は約束だからな、ちゃんと持ってきてるよ」
前回の意趣返しにちょっとした冗談のつもりだった。実際にこっちは軽い被害も受けてるしこれくらいは許されるだろうと思ってな。
「な、なんじゃ、ちゃんと持ってきているんなら先に言わんか。わ、妾も軽い冗談に決まっておる!たかがフルーツサンドごときで戦争なんて冗談に決まっておるじゃろ」
……このお嬢様、少しは本気だったな。ローラン様はキレると何するかわからない、覚えておこう。
「ほら、さっさと新作ケーキと一緒にフルーツサンドを出すのじゃ」
「へいへい、ちゃんと感想はお願いしますよ」
一応フルーツサンドの評価も上々だった。今度はファーストフード店みたいな感じで、冒険者をターゲットにしたサンドウィッチ屋さんでも出してみるのはありかもしれないな。
「うおっと!」
ローラン様の食レポが終わった後、庭でルーさん達と組手を行なっている。見ていて面白いのかわからないがローラン様もいつも庭に出て組手を見ている。
やっぱり一番最初の組手でルーさんに勝てたのは運がよかっただけで、それ以降の組手ではルーさんの本気のスピードについていくことができていなかった。
前回の組手からようやくルーさんの動きに身体が対応できるようになってきて、少しずつ強くなってきたことを実感してきたのだが、今日のルーさん達は気合が違った。なんというか、組手にも関わらずいつも以上に気迫が感じられた。
「今日は前回以上に気迫がこもってましたね。前回ようやくルーさんのスピードについていけるようになったと思ったのに、また引き離された気分です」
組手が終わるといつも感想戦のようなものをして、お互いの良かったところや悪かったところを確認している。
「……変異種の討伐で我々は結果を残すことができなかった。シェアル殿やユウキにはっきりと負けた。ローラン様の護衛としてもっと強く在らなければならない」
「そうだな、競っていたわけではないが我々は何もできなかった。私もローラン様の護衛として恥じぬようになりたい」
もう1人はラウルさんと言って盾と片手剣をメイン武器としている。変異種討伐の際もルーさんと一緒にローラン様を護衛していた。
なるほど前回の変異種の討伐の結果を受けてか。シェアル師匠はともかく俺に関してはたまたま相性が良い相手なだけにすぎないんだけどな。
「……ユウキはシェアル殿のファイヤーボールを刀という武器で切ったが、あれはどんな魔法相手でもできるのか?」
「あの時はうちの師匠が本当にすみませんでした。今のところあの刀で切れるのは、8割くらいの魔法ですかね。なんて言うのかな、ファイヤーボールとか魔法の中心がなんとなくわかるのはいけるんですけど、目に見えない風魔法や身体能力強化魔法みたいな魔法の実体が見えないものには使えなかったです」
前回のシェアル師匠の失態のお詫びとして正直に話す。どちらにせよルーさんは魔法が使えないし、組手であの剣は使わないのであまり意味はないけどな。
「……なるほど。おそらくあのファイヤーボールは私には防げなかっただろう。正直に言って助かった、ローラン様を救ってくれて感謝する」
「そうだな、私もあの規模の魔法は防ぐことはできなかった。せいぜいローラン様の盾となることしかできない、感謝する」
「いやいや、そのファイヤーボール自体がうちの師匠のせいですからね!おふたりに感謝されるいわれはありませんよ!」
そもそもの原因がこっちなのに感謝されても罪悪感で胸が痛くなるから勘弁してほしい。
「……主人を守るために私はもっと強くならなければならない」
「私もまだまだ若いもんには負けたくないからな、せいぜい頑張るとするさ」
「ええ!俺も主人のためにもっと強くなりたいです!これからもよろしくお願いします!」
ルーさんもラウルさんも本当にいい人達だ。というかあの性悪な領主様にはもったいない。うむ、折を見てエレナお嬢様に鞍替えしないか聞いてみようかな。いや、今度こそ戦争だとか本気で言ってきそうだからやめておこう。
15
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
異世界でキャンプ場を作って全力でスローライフを執行する……予定!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
お気に入りに追加
364
あなたにおすすめの小説
女神様の使い、5歳からやってます
めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。
「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」
女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに?
優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕!
基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。
戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。


加護とスキルでチートな異世界生活
どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!?
目を覚ますと真っ白い世界にいた!
そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する!
そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる
初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです
ノベルバ様にも公開しております。
※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません

宇宙戦争時代の科学者、異世界へ転生する【創世の大賢者】
赤い獅子舞のチャァ
ファンタジー
主人公、エリー・ナカムラは、3500年代生まれの元アニオタ。
某アニメの時代になっても全身義体とかが無かった事で、自分で開発する事を決意し、気付くと最恐のマッドになって居た。
全身義体になったお陰で寿命から開放されていた彼女は、ちょっとしたウッカリからその人生を全うしてしまう事と成り、気付くと知らない世界へ転生を果たして居た。
自称神との会話内容憶えてねーけど科学知識とアニメ知識をフルに使って異世界を楽しんじゃえ!
宇宙最恐のマッドが異世界を魔改造!
異世界やり過ぎコメディー!

異世界転生漫遊記
しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は
体を壊し亡くなってしまった。
それを哀れんだ神の手によって
主人公は異世界に転生することに
前世の失敗を繰り返さないように
今度は自由に楽しく生きていこうと
決める
主人公が転生した世界は
魔物が闊歩する世界!
それを知った主人公は幼い頃から
努力し続け、剣と魔法を習得する!
初めての作品です!
よろしくお願いします!
感想よろしくお願いします!

元チート大賢者の転生幼女物語
こずえ
ファンタジー
(※不定期更新なので、毎回忘れた頃に更新すると思います。)
とある孤児院で私は暮らしていた。
ある日、いつものように孤児院の畑に水を撒き、孤児院の中で掃除をしていた。
そして、そんないつも通りの日々を過ごすはずだった私は目が覚めると前世の記憶を思い出していた。
「あれ?私って…」
そんな前世で最強だった小さな少女の気ままな冒険のお話である。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】
一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。
追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。
無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。
そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード!
異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。
【諸注意】
以前投稿した同名の短編の連載版になります。
連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。
なんでも大丈夫な方向けです。
小説の形をしていないので、読む人を選びます。
以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。
disりに見えてしまう表現があります。
以上の点から気分を害されても責任は負えません。
閲覧は自己責任でお願いします。
小説家になろう、pixivでも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる