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第53話 日本刀の完成
しおりを挟む「すみませんユウキと申します。以前頼んでいたものを取りに来たんですけど」
「はい、ユウキ様ですね。少々お待ちください。ええっと、ああこちらの方でしたか。すみませんお手数なんですけどちょっと親方の仕事場まで来てもらってもいいですか?」
「はい」
武器と防具の依頼をしてから2週間が経ったので工房に取りに来た。一応向こうからの連絡はなかったから予算を超えてはいなそうだけど果たしてたった2週間で日本刀はできたのだろうか。
「親方~ユウキさんがいらっしゃいました。あとはお願いしますね」
「おう!ユウキ、入ってこい」
「失礼します」
鍛冶場への扉を開けると中はかなりの熱気だった。ここは親方専用の鍛冶場なのか、あまり広くはなく、親方しかいなかった。というか作業場に入ってもいいものなのだろうか。まあ作っているところを見たところで簡単に真似できるものではないのだろう。
「うわっ!なんですかこの刀の量は!?」
床には少なく見ても30本以上の日本刀の刃が置いてあった。半数以上は短い刃だったから試作品なのかもしれない。
「いやあ、こいつは本当に奥が深えな。いろいろ試してみてるうちにいつの間にかこんな量になっちまった」
「それにしても作り過ぎでしょう。これ明らかに渡していた予算を超えてるんじゃないんですか?」
「ああ、そっちの方は俺が自分で出すから大丈夫だ。そんなことより、ようやくある程度納得いくもんができた。まずはそいつを見てくれ」
そんなことって数百万レベルの話なんですけど。本当に大丈夫なんだろうか。俺の心配をよそに親方は一本の刀を持ってきた。
「おおすごい!素人の俺にも分かるくらい完全に日本刀ですよ!ちゃんと反りも入っているし、美しい刃紋も付いています!」
「ガハハ、そうだろう?それに見てくれだけじゃねえぞ。ちょっとそいつで強化魔法を使わずにこの木材を切ってみろ」
そういいながら親方は一本の木材を投げてくる。受けとってみたが、確かにこれは普通の木材だな。とりあえず木材を台において居合斬りの構えを取る。
ちなみに剣道とは別に居合道というものもある。しかし巻藁みたい台に固定していないし、そこそこ厚さのある木材だし、普通に考えたら三分の一くらい切れれば上等といったところだろうか。
「せい!」
木材がなんの抵抗もなくスパッと真っ二つに切れた。やだ何これ怖い、例えるなら包丁で豆腐を切った時くらいの感触だ。切れた木材の切断面を触ってみるとガラスのようにツルツルしている。
「……親方、ほとんど抵抗もなく切れてしまったんですけど」
「おうよ!間違いなく俺が作ったもんの中で一番の切れ味だ。いやあ、日本刀の形自体は4~5日で出来たんだがよ、そこから適した素材の加工が大変で魔剣と同じくらい作るのが難しかったぞ!」
「……ちなみに聞きたくないんですけど素材は何を使ったんですか?刀身が黒いから鋼ではないですよね?」
「聞いて驚け!心鉄の部分にはミスリル、皮鉄の部分にはアダマンタイトを使っている。ミスリルは魔法耐性に優れているが金属としては柔らかめだからな。
特殊な加工をしたミスリルだからな、試してはねえが魔法自体も切れるかもしれねえぞ。アダマンタイトは俺が知ってる中では一番硬い金属だな。いやあ、2つの金属の割合を決めるのと竈門の高温を維持するのがすげえ大変だったな、がはは!」
「最高級素材じゃないですか!?そこまで高品質な刀を求めてないですよ!」
S級冒険者が持つような武器じゃねえか!どう考えても一介の使用人が持つようなレベルの武器じゃない。そして考えたくもないが金額に換算したら一体いくらになるんだよ。どう考えても日本円にしたら数千万円超えてる気がする。下手したら億いっちゃうかもしれん。
「まあ気にすんな。実際に作ってみて分かったんだがよ、この日本刀ってやつは間違いなく売れるだろ。扱いは普通の剣よりも数倍難しいが、この切れ味は使いこなせりゃ相当な武器になる。上級冒険者が欲しがるだろ。
そんでもって見た目の美しさからお貴族様も美術品として買う可能性もあるな。だからまあ日本刀の製法とこの武器と防具でとんとんてところでいいだろ」
「ええ!それで元が取れるんですか!?」
こちらとしてはありがたいがそれで店としては大丈夫なんだろうか?数千万円だぞ?
「元と言うならそれ以上だな。何せこれからずっと売れるわけだからな。まあ流行んなかったらそれまでだがよ。そんときゃ俺の懐から出すからお前は気にすんな」
なんというか懐が広いというか大雑把というか分からんが親方はあまりお金のことは気にしてないようだ。
「ありがとうございます。大事にします」
「おうよ!いやあ、久しぶりに面白え仕事だったぜ!そんかわし、またうまい酒が出来たら持ってこい。ついでに武器と防具の整備もしてやっからよ。あとはまた面白そうな武器とか防具があったら教えろよ」
「はい、また何かあったらよろしくお願いしますね」
どうやらグルガーさんとは長い付き合いになりそうだ。またお願いしたいものができたら相談することにしよう。
ちなみにグルガーさんは日本刀にかかりきりだったため防具の方は別の職人さんが作ってくれたのだが、こっちも相当いい素材で作ってくれたようだ。
そして作ってもらった最高級の日本刀は屋敷に飾られることとなった。えっ、使わないのかって?そんな高いもん街で歩く際に持っていけるか!有事の際以外には試作品として作ってもらった鋼の方の日本刀を身につけている。これでも今まで使っていた剣より数段攻撃力があがっているからな。
盗賊討伐の時に持っていくかも微妙だな。この刀の価値がばれたら奴隷よりむしろ俺の方が狙われてしまいそうで困る。とりあえず鍛えまくってはやくこの刀に見合うような実力を身につけるようにしないと。
さて、今日は工場のみんなにお知らせがある。夕方、みんなの仕事が終わった頃に工場を訪れる。
「だからびびってんじゃねえ!どんなに怖くても目だけは離すんじゃねえぞ」
「うわっ、うわっと!」
「俺たちゃ上品な剣術なんか知らねえからよ。教えられるのは気構えくらいだ。あとは身体の鍛え方くれえだな。おら、もっと根性見せろ、村に戻ったとしても戦えるようになりてえんだろ」
「うん、お父さんもお母さんもいつも村の魔物に困ってるって言ってたからな。俺もユウキ兄ちゃんみたいに魔物をやっつけられる男になりたいんだ!」
「はっ、そんじゃあ口だけじゃなくてさっさと強くなんだぞ!おら、もう一本いくぞ!」
「おう、モラムのおっちゃん、ガラナのおっちゃん、ありがとな!」
どうやら仕事が終わった後にモラムさんとガラナさんでルイスに剣を教えているようだ。俺のようにって実際に言われるとだいぶ恥ずかしいけどな。
そしてミレーといえばと言うと机に座って勉強をしているようだ。目の前にはカミナさんが座っている。
「ほれ、そこのところが間違っておるさね」
「あっ、本当だ。ありがとうカミナおばあちゃん!」
「なあに、こんなババアでも役に立てて何よりだよ。村でも計算ができたり文字が書けると便利だでな」
「うん、ミレーの村には計算できたり文字を読める人は一人もいないの。だから頑張って覚えるんだ!」
そういいながらマイルやサリアが作ってくれた計算ドリルを解いている。カミナさんは簡単な読み書きや計算ができるらしいが、やはり普通の村にそれができる人がいることはほとんどないそうだ。
「こんばんわ」
「あっ、ユウキ兄ちゃんだ。あいたっ」
「おら、油断すんな。剣を持ったら命かけてると思えって言ってんだろ」
「ユウキお兄ちゃん、こんばんわ」
「おや、ユウキさん、こんばんわ」
「みんなにちょっとお知らせがあってね。今度工場はもうひとつできることになって、それに合わせてこっちの工場も人が増えることになったんだ。それもみんなが頑張ってくれたおかげだよ、ありがとう」
「おお、よかったべ!これでみんなも少し楽になるべな」
「そうだね、今まで人が足りてなくて忙しかったもんね。今度も子供とお年寄りとあとは足が動かない人も入ってくる予定です。それで今更なんだけどここの工場の責任者をモラムさんとガラナさんの二人にお願いしたいと思います」
もう一つ新しくできる工場の方は力仕事が多くなるから若い人をいれる予定だが、こちらの工場は遊具や今度新しく販売する絵本のように座って作業ができる子供やお年寄りなどを積極的に雇う予定だ。
まあ雇うというよりかは奴隷として買うことになる。これからも盗賊狩りは続ける予定だし少しずつは奴隷になる人が減ってくればいいんだけどな。
「ああん、面倒なこと押し付けんなよ」
「けっ、分かってんだろ?人に物を頼む時はそれ相応の対価ってもんが必要だろ?」
二人がそういうことをいうのは分かっていたよ。すでにエレナお嬢様と話して報酬は決めてある。
「ええもちろんですよ。2人とも10年間、問題なく働いてくれれば奴隷から解放してくれると約束をもらえました。もちろんこれからの働きでさらに短縮することもできるかもしれません」
10年というと長いかもしれないが、犯罪奴隷となると話は別だ。そもそも犯罪奴隷の罪とはかなりの罪を犯したものにしか与えられない。この国では死刑の次に重い罰となる。いや、死ぬまで重労働を科されるとなると下手をしたら死刑よりも重い罪なのかもしれない。
そして基本的には解放されることがない。犯罪奴隷は国で管理されており、解放するためには国に申請をしなければならない。そこは領主であるエレナお嬢様の力で普通よりも申請は通りやすいからな。
「かあー分かってねえな、ガキ主人は!」
「全くだぜ。俺たちのことを何も分かってねえな!」
えーこれ以上はさすがに難しいぞ。10年でも相当異例なんだけどな。まさかいくら2人でも自分の自由より酒が大事なわけはないだろうしな。
「んなことはどうでもいいから酒の量を増やせってことだよ。もっと多くの量を作るからよ、試飲の量ももう少し増やしてくれよ」
「あとは毎週一回の酒の配給をせめてもう一日増やしてくれよ。なっ、アルゼの旦那とエレナお嬢様に伝えてくれよ」
……酒の方が大事だった。さすがに自分の身より酒の方が大事なのはどうかと思うぞ。
「2人ともずるいべ!ユウキさん、オラももっと頑張るから、もう少しだけ酒の量を増やして欲しいべ」
ローニーまで混ざってきた。本当にこの酒飲みどもは。
「……わかりました。たぶん大丈夫だと思うんで伝えておきます」
「よっしゃあ、そう来なくっちゃな!」
「うし、やる気が出てきたぜ!」
「オラ頑張るべ!」
「いいなーモラムのおっちゃん達!なあユウキ兄ちゃん、俺もちょっとだけ飲んでみてもいい?」
「うーんどうだろうな。それに俺もちょっと飲んでみたけどあんまりうまいもんじゃなかったぞ」
ルイスもお酒に興味をもっているようだ。まあほんの少しなら大丈夫だと思うけど。
「これだからガキ主人はまだガキなんだよ。酒の良さまだわからねえなんてよ」
「ルイスもまだ酒を飲むには早えな。どうしてもって言うならせめて俺たちから一本とってからにしろや」
「分かった、約束だぜ。すぐに一本取ってやるからな、ガラナのおっちゃん!」
「こらルイス、お前まで3人みたいな酒飲みになったらいかんぞ」
「やかましいぞ、ラッセル爺さん。心配しなくてもあと5年は一本も取らせるつもりはねえよ」
「そうじゃぞ、酒は確かに美味いが飲まれたらだめじゃ。若いもんは酒の強さや飲める量を競っているが、もつとゆっくりと味わって飲まんとの」
「はっ、ブロンテ爺さんにとっちゃ俺たちもまだ若造かよ、まったく」
「ほら、ローニーもサリアもこんな馬鹿な男たちを見習ってはだめさね。女の子はもっとお淑やかでなくちゃいけないよ」
「本当に男の人はだめね。カミナお婆ちゃんを見習ったら」
「わあった、わあった。カミナの婆さんには敵わねえよ」
どうやらここではカミナさんが一番強いようだ。それにしてもみんなよく笑うようになったよ。これなら新しい人達が入ってきても大丈夫そうだ。
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