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第52話 ドワーフとの交渉

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 ランディさんから紹介状を書いてもらったあと、アルゼさんと別れて一人でその有名な鍛冶師に会いに行く。教えてもらった通りの道を行くと何やらでかい建物があった。どうやらあの建物らしいがこんなに大きいのか。

「いらっしゃい!初めて見る顔になりますね。販売している武器や防具はそちらになります。実際に試してみたいという場合には必ず店員に声をおかけください。あと高級なものはあちら側のケースに入っておりますので、こちらは見学する際にもお声をおかけください」

 さすがに受付の人までドワーフというわけではなく普通の人族の女性だった。

 なるほど、そりゃ元の世界みたいに治安がそれほどいいわけじゃないから盗難対策は必須か。新しく武器を打ってもらいたいんだが、とりあえず既存の武器や防具の性能や値段を見たいから見学してみるか。

 まずは高級でないほうの商品を見てみる。いやそれでも元の世界で換算すると数百万円くらいの武器や防具がポンポン置いてある。てか最低でも数十万から何だけど!これがこの世界では普通なのか?いやさすがに有名な店だからだよね?さすがに全部の店がこんな値段だったら冒険者とかどうやって生活してるのかわからない。

「すみません、たぶん買えないと思うんですけど高級品のほうも見ても大丈夫でしょうか?」

「ええ、大丈夫ですよ。見るだけの方もたくさんいらっしゃいますから。すみません、見学の方お願いします」

「「おう!」」

 店の奥からごつい装備の男2人が出てきた。なるほど防犯のため、この2人に見張られながら見学するわけね。当たり前だが2人ともいい武器と防具を装備している。当然ここで作られた装備なんだろうな。



 うおっ!一千万とか超えているのもある。こっちはミスリル製、あっちはアダマンタイト製。めちゃくちゃファンタジーな金属製の装備もある。

 そして中央の一番目立つところに飾られている漆黒の剣。なんと魔剣ですよ奥さん!もしかしたらこれがあれば、属性魔法を使えない俺にも属性魔法が使えるかもしれない。と思っていたら、注意書きでこちらは火属性の魔法を使える人しか使用できないと書かれている。そして販売価格については驚きの5000万円!まじかよ家とか買えちゃうじゃん!

 一回通りの武器や防具を見て回った。護衛の人には悪いが、剣や防具とかには興味津々だったので、買いもしないので長い時間見入ってしまっていた。素人の俺が見てもどれも良い物だということがわかる。さすが商業ギルド長のおすすめのお店だ。

「ありがとうございます、もう大丈夫です」

「はい。いかがでしたか?何か興味があるものはございましたか?」

「はい、どれも素晴らしかったです。それでオーダーメイドでの作成をお願いしたいのですが」

「はい、オーダーメイドは現在半年待ちとなっております。また、ご注文を受けます際に審査がございます。予約なされますか?」

 おう、さすが有名店…いくら商業ギルド長の紹介状があったとしてもこれはダメかもな。

「すみません、一応こちらに紹介状があるのですが」

「拝見させていただきます。おや珍しい、ランディ様からの紹介なんていつ以来でしょうか。すみません、こちらは私では対応できかねますので親方に直接お話ください」

 そう言われて別の部屋に案内される。そういえばここの親方もドワーフなのかな。そういえば男のドワーフを見たことはないけどローニーみたいに合法ロリの男版ってことはないよな。

「待たせたな。ランディの野郎が俺に紹介状をよこすなんて珍しい。俺はグルガーだ。それでどんなもんを作りゃいいんだ。あと予算はどんくらいだ」

 男のドワーフはイメージ通りのヒゲモジャだった。外見も背の低い普通のおっさんな。今ふと思ったんだが、成人女性がローニーみたいな合法ロリで成人男性がグルガーさんみたいだったらドワーフの夫婦って絵面やばくないか?いやまあどうでもいいんだけどさ。

「初めましてエドガーさん。アルガン家で使用人をしておりますユウキと申します。作ってほしいのは……」

「まてまて、アルガン家ってあれか?ここの領主のアルガン家か?」

「えっ、はい。たぶん紹介状にも書いてあったかと思いますけど」

「紹介先の相手なんざいつも見てねえよ。どれどれ、おお本当にアルガン家じゃねえか」

 いやそこは見ろよ。というかアルガン家だと何かあるのか?

「ユウキって言ったな。悪いがアルガン様に伝えといてくれねえか。アルガン家で新しく出した蒸留酒とかいう酒は本当に最高だったぜ!一度あの酒を飲んじまったらもう前の薄い酒には戻れねえ」

 そういうことかよ。やっぱりこの親方も酒好きなんだな。そういえばランディさんも蒸留酒はドワーフに必ず売れると言っていたし、やっぱり好きなんだな。

「わかりました、伝えておきます。ちなみにこちらはお土産です。今度新しく発売する予定の蒸留酒になります。今まで販売していたものより酒精が強くなっていますのでお気をつけください」

 作戦その1である。ドワーフといえば酒、酒といえばドワーフなので、まずはお近づきに一杯どうぞ作戦である。ちなみにこの蒸留酒は半年近くお酒を作ってきておかげで、更に蒸留する精度を高めることができ、その技術で作ったお酒なのでアルコール度は前に作っていたものよりも高い。あいかわらず工場のみんなはがぶがぶ飲んでいるが俺にまだこの良さはわからん。

「うおお、本当かよ!あの酒よりも強えのか!ありがてえ、大事に飲ませてもらうよ。それで何を作ってほしいって?大抵のものは作ってやるよ。もちろん新しい酒ももらったしアルガン家には感謝してるから値段もサービスしてやる」

 すごいな酒の力は。というか親方は気難しい方が多いんじゃなかったのか。酒でイチコロだったんだが。

「ありがとうございます。作ってほしいのは俺の防具と武器です。まず防具なんですけど、俺は身体能力強化魔法を使って動いて戦うのであんまり重くない素材で胸当てと腕と脛を守るような防具が欲しいです」

「なるほどな。軽くて丈夫な素材で胸当てと腕当てと脛当てだな。腕当ての長さはどれくらいがいい?」

「そうですね、これくらいの長さでお願いします」

「これくらいだな、わかった。あとで別のもんに採寸とらせるからよ。そんで予算はどれくらいだ?」

「予算についてなんですけど、ちょっとご相談がありまして。お願いする武器に関してなんですけど実はある新しい剣の製法を教えるんでその製法で作って欲しいんです。もちろん作れるかどうかもわからないんで、作れなかった場合には試作にかかった費用はお支払いします」

「ほう、言ってくれるじゃねえか。俺たちに作れねえ可能性があるだと」

「いえ、ランディ様からの紹介ですし、あれほど立派な武器や防具を作られてましたし、腕の方は全く心配していません。むしろ俺が伝える製法が本当に正しくできるのかということと、素材がちがう場合にも同じようにできるかが分からなくて不安なんです」

「なるほどな」

「それで予算についてのご相談なんですけど、もしこの製法で上手く新しい武器ができたらその製法を買ってほしいんです。それで武器と防具の値段から引いてほしいなと思ってます。ただ正直に言って武器の製法の値段とかは全くわからないので、そこはグルガーさんにおまかせになりますが」

 一応エレナお嬢様達から数百万円分の予算はいただいているが、さすがにそんな大金は使いたくない。一応それ以上に稼いでいるし、アルゼさんの武器もそれくらいの値段はするらしいけどそれでもだ。

「ふむ、なるほどな。いいぜ、もし面白いもんだったらその製法を買い取ってやる。値段については信じてもらうしかねえな。だが俺たちドワーフは自分で打ったものと酒に関してだけは嘘はつかねえ!」

 ……酒が入っていることはこの際置いておこう。

「わかりました。そこはグルガーさんを信じていますので。それで新しい武器とは日本刀と言いまして、俺が知る限り最も美しく、最も切れ味が鋭い武器となります」

 この世界の剣について思ったことがある。それは何かを切る際に切ると言うよりは引き千切るという感触が伝わってくることだ。確か昔の西洋の剣とかも切るというより叩き切るといった目的だったはずだ。

 魔物と戦った時も身体能力強化魔法と硬化魔法を使っているにも関わらずスパッと切れた感触がなかった。おそらく魔法がなければ切断することはできていなかっただろう。

 その点日本刀は切ることに特化した武器である。比較的に柔らかい心鉄を包み込むように硬い鋼の皮鉄を巻き付ける。これによって外側は硬く内側は柔らかい構造となり、よく切れるが折れにくいという性質を持たせることができる。そして刀に反りをつけることによって対象を切りやすい斜めから切ることができ、また引く力も加えられ切れ味が増す。

 何でそんなこと知っているかって?剣道部にいたとか関係なく男なら何度か日本刀の作り方は調べるよね。焼刃土とかかっこよくてググったりするよね、普通は?

「……なるほどな、切ることに特化した武器。中は柔らかく外は硬くか、理にかなってやがる。問題はこの反りってやつが本当にできるのかってところと、刃紋ってのが付けられるのかってところだな」

「ええ、あとは鋼でできたとしても他の素材でできるかですね。熱する温度とかも違うでしょうし、金属の性質自体も違いそうです」

「ふん、面白えじゃねえか!おい、ユウキとか言ったな。この仕事引き受けるぞ。そうだな、とりあえずまずは2週間くれ。まずは鋼で試してみて、それができたら別の素材だな」

 ドワーフの3日くれはなかったか。まあ日本刀を3日で出来たら逆に不安になるけどな。

「わかりました。ちなみに予算は先程伝えたくらいなんで、もしも試作とか製法の買取分を引いても足りなそうだったら一度屋敷まで伝えてください」

「ああん?その場合には俺の金から出しとくから気にすんな。面白え仕事なら細けえことは考えちゃいけねえよ」

 いや数百万円分だよ、さすがに考えようよ。まあここの剣一本分と考えたらグルガーさんなら安いのかもしれないけどさあ。

「そのあたりはお任せしますけど、大幅に超えても払えませんからね」

「わかった、わかった。いいからさっさと採寸とって早く帰れ。俺は早く酒を飲んで鍛冶場にこもるからよ」

 ……お客に早く帰れとはすごいな。しかも酒飲んでから籠るんかい!まあ腕はありそうな人だし、信じて任せよう。

「わかりました、よろしくお願いします」

 グルガーさんと分かれて採寸を取ってもらって屋敷に帰る。実際にできるかはわからないけど楽しみだな。
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