47 / 95
第47話 ただいま
しおりを挟む無事に盗賊たちの制圧が完了した。俺が倒した盗賊以外にリールさんと2人で10人以上の盗賊を捕らえていたようだ。キャンプ地から荷馬車を持ってきて拘束した盗賊たちを押し込む。
もちろん中途半端な拘束はせず、武器がないことを確認した後に両手両足を金属の手錠をつけた後に縄で縛り上げた。半数以上は両手両足の骨が折れてるから逃げられないとは思うが念の為だ。
こいつらが攫っていたのはさっき人質にされていた子供が3人だった。元にいた場所を聞くと、ここから少し離れた村の方だった。盗賊たちはエレナお嬢様がいる街ではなく、ここから近いそこそこ大きな街で憲兵さん達に引き渡す予定だ。その後にこの子たちは3人が責任を持って村まで送ってくれるとのことだ。
盗賊たちと子供たちを3人に任せて俺とリールさんはミレーの村に戻った。身体中が泥だらけだったから水で身体を拭いたけど、やっぱり風呂に入りたくなった。街にいた時はエレナお嬢様の屋敷で風呂に入ることができたけど、あれはやっぱり贅沢なことなんだな。そしてキャンプ中は火が使えず冷たい食事しか取れなかったから温かい食事が身に沁みた。
ミレーの村でぐっすりと休んで翌朝早朝にはルイスの村に出発した。3日ほどミレーとゆっくりと話した両親は俺たちの話を信じてくれたようだ。ただしミレーの父親であるビーンさんは一度街までミレーを送りに来てエレナお嬢様と話したいそうで一緒についていている。
「ユウキお兄ちゃん、特訓大変だった?」
「意外と大丈夫だったかな。むしろ屋敷での訓練の方が地獄だったかも」
ぶっちゃけあの盗賊100人よりもアルゼさんやリールさんやシェアル師匠のほうが全然やばい。ようやく力や速さで追いつけたような気はするんだけど、それでも全く敵わないんだよなあ。
「ユウキさんはすごく強いんだってね。それに面白い物を作るのが得意なんだってね」
「そんなことないですよビーンさん。俺より屋敷にいる人の方が全然強いですからね。あと俺が作っているわけではなくて、とても遠いところで別の人が作ったことがあるものをいろいろ変えて教えているだけですよ」
「なるほど、それでもすごいですよ。この村には何にもありませんからね。それにミレーがあんな物をつくれるようになったなんて驚きです」
あんなものとはリバーシと将棋もどきだ。ミレーとルイスの村に一つずつ置いてきた。
「ええ、ミレーは手先がすごい器用で助かってます。今工場ではもう一人と一緒に将棋の駒に絵を書いてもらっていますけどこの勇者の絵とかすごいうまいですよね」
「そうですか、ミレーが……。皆さんには本当に感謝しています。盗賊に捕まっていた時の話も聞きましたがうちの子は大丈夫でしたが、同い年くらいの男の子は何度も殴られていたと聞きました。それに奴隷にしてもボロボロになるまでこき使われて人間として扱われないと聞いていましたから」
「俺もエレナお嬢様にとても感謝しています。俺も普通の人以上の生活が遅れるとは思っていなかったです」
「はは、娘が帰ってこれたお祝いにご馳走を作ったら工場で食べていた料理のほうが美味しいと言われましたよ」
「だってみんなが作ってくれるご飯の方が美味しかったんだもの。ミレーね、ユウキお兄ちゃんが作ってくれた唐揚げが一番好き!」
「はは……」
嬉しいんだけどさすがにコメントに困る。そんな感じでミレーの父親とも少しずつ打ち解けながら旅路を進んだ。意外なことにミレーの父親はリールさんと話が合うようで、俺が馬車を運転しているときに後ろで作物や花を育てる話をしながら盛り上がっていた。
ギリギリ日が暮れるまでにルイスの村に着くことができた。ルイスも久しぶりに両親と過ごしたおかげで楽しそうに笑っていた。ルイスから話を聞いてこちらの話を信じてくれたようだ。次の日の朝、ルイスの両親も一緒に荷馬車に乗ってサリアとマイルの村を目指す。
サリアとマイルの村にも問題なく到着することができた。一度魔物に遭遇したが、数匹でしかもすぐに諦めて逃げていったので大丈夫だった。本当にこの世界で遠くに旅行に行くのも命懸けである。
「ユウキお兄ちゃん、おかえり!」
「ユウキ兄ちゃん、おかえりなさい。特訓は大丈夫だった?」
村に入るとすぐにサリアとマイルが飛び込んできた。2人に会うのも1週間ぶりだ。2人とも元気そうでよかった。
「おっと、ただいま。特訓は大丈夫だったよ。いつも屋敷の訓練で鍛えられているからね」
「よかったあ。森の中でキャンプするって聞いてたから心配したの。ユウキお兄ちゃんがすごく強いのは知ってるけどあんまり危ないことしちゃ駄目だよ」
「ほら、サリアちゃん。ユウキ兄ちゃんなら大丈夫だって言ったじゃん。普段アルゼ様やリール様やシェアル師匠にあれだけ鍛えられていたんだもん」
「はは、あの3人より強い人なんて見たことないからね。それよりも2人はどうだった?このまま屋敷で働けそうか?」
「うん、お父さんもお母さんもわかってくれて、しっかりと鍛えて勉強してこいって!あと1月に一度手紙を送るから宛先を教えて欲しいって。それと3ヶ月に一度くらいはお父さんとお母さんが街の方に来たいって言ってるんだけど大丈夫かな?」
「そっか、よかったな!なるほど手紙という方法もあったか。大丈夫だよ、エレナお嬢様とアルゼ様からいつでも屋敷にきても大丈夫って言われてるから」
「サリアも同じで大丈夫!お父さんが最後まで許してくれなかったんだけどお母さんがサリアの気持ちを大事にって言って説得してくれたの!」
「おお、2人ともよかった。また一緒にいれるな」
俺も2人を抱きしめる。よかったまだ2人と一緒にいられるのはとてもありがたい。
ハッ、殺気!?
「………………」
サリアの父親がこちらを睨みながら拳を握っている。やばい、盗賊なんて目じゃないくらいの恐ろしい形相をしている。すぐにサリアとマイルから離れた。
「えっと、サリアに許可を出してくれてありがとうございます」
「……サリアの気持ちが一番だからしょうがない。俺一人なら街まで走っていけるからな。ところでユウキくん、話は変わるがちょっと放課後に体育館の裏に来てくれないかな」
「すみません、ちょっと忙しいのでまた次の機会にお願いします」
どう考えてもヤキを入れられてしまう。というか全言語理解でどうやったらこんな翻訳になるんだよ。あれか、ちょっと畑仕事終わったら倉庫の裏に集合な、みたいな感じか。
「ほらあなた、いい加減にしなさい!さあユウキさん、お疲れでしょう。詳しい話はゆっくりと家の中でしましょう」
「あっ、はい」
サリアの母親から助け舟が来た。さすがに戦っても負ける気はしないんだが迫力的には盗賊やアルゼさん以上に怖い。
そのあとサリアの両親とマイルの両親に話を聞いたところ、今までの2人の話や屋敷での生活を聞いて屋敷で働くことを許可してもらえたようだ。
ただし、2人が辞めたくなったらすぐに辞めれるようにすること、一月に一度手紙を送ること、3ヶ月に一度街で2人と会う許可を求められた。条件については事前にエレナお嬢様とアルゼさんと話していた許容範囲なので問題なかった。
次の日の朝、マイルの父親とサリアの母親が一度街まで同行するため、これで俺とリールさん、子供たちが4人とその親が6人の大所帯となった。
「うおーサリア!いいか、嫌なことがあったらすぐに連絡するんだぞ!いつでも仕事を辞めて村に戻ってきていいんだからな。いや、やっぱり俺もついて行こう、それがいい!」
「はあ、いいからあなたは畑仕事をお願いね。サリアが大事なのはわかるけど、私に任せてしっかりと働いてちょうだい」
「お父さん、サリアならもう大丈夫だよ!恥ずかしいから大人しくしてて!」
「ぐはあ!」
相変わらずサリアにべったりな父親が精神的ダメージを負った隙に出発する。正直なところあの父親と一緒に街に戻るのは精神衛生上よろしくない。街の中でサリアと目線があったというだけで喧嘩でも起こしそうだ。
そこから街までの4日間は順調な馬車の旅だった。人数がだいぶ増えたため、寝る時は馬車に子供たちだけで、大人は馬車を囲むようにテントを張って野宿をした。基本的に食事はみんなの村でもらった野菜や麺を使って作ったがそこそこ好評だった。
日中はみんなや親たちといろんな話をしたが、意外とそれぞれの村での生活は村ごとに違っていて驚いた。設備が違ったり、育てている作物が違ったり、村で取れる作物を使った料理などいろいろな話をしたが楽しかった。最近は街で忙しく過ごしていたから、こうしたのんびりした時間も気分転換になってリフレッシュできた。
ようやく半月の長い旅を終えて街の大きな城壁が見えてきた。ここまで来るとようやく帰ってきたんだなと実感が湧く。わずか半年ほどしか過ごしていないがエレナお嬢様の屋敷がもう俺の家になっているんだなと思えた。
「おかえりなさい、リール、ユウキ、マイル、サリア、ルイス、ミレー。長旅ご苦労様!」
「「「ただいま戻りました、エレナお嬢様」」」
「うむ、みんなよく戻ってきてくれた。帰って早々のところを悪いが屋敷での仕事がかなり溜まっていてな、屋敷の仕事を手伝ってくれ」
あれ、なんかアルゼさんが疲れ切った顔をしているんだが。そういえば俺たちがいない間は屋敷のことはシェアル師匠とアルゼさんの2人で回していたのか。そりゃ疲れるわけだわ。
「もう、じいったら。まだ帰ってきたばかりで疲れているんだから明日からでいいでしょう」
「いえ、馬車で座っていただけなんで大丈夫ですよ。むしろ身体が固まっちゃってるんで少し動きたかったところです」
「すまんな、仕事を減らすどころか増やす奴が一人いてな。リールの奥さんがいてくれなかったら食事もままならないところだった」
「すいませえん~」
おう、やっぱりシェアル師匠がいろいろとやらかしたんだろうな。
「こちらがみんなのご両親ですね。はじめまして、この街の領主の一人のアルガン=ベルゼ=エレナと申します」
「「「ははあ!!」」」
みんなの両親たちが片膝をついてエレナお嬢様に跪く。屋敷の中に案内された時からものすごい挙動不審になっていたが、やっぱりこれだけ大きな街の領主の屋敷であることを再確認して驚いているのだろう。
「そんなに畏まらなくても大丈夫ですよ。領主といってもまだなったばかりで何もわからないものですから。あちらに椅子がありますからお昼ご飯でも食べながらみんなの仕事内容やお給金を説明させてもらいますね。そのあとは実際の仕事の内容を見ていってくださいね」
そしてエレナお嬢様とアルゼさんはみんなの両親に説明をしに別の部屋へ。マイルとサリアに書類仕事の計算を任せて、俺とルイスとミレーは屋敷の掃除、リールさんと奥さんは庭の手入れとパンを焼く作業に取りかかった。半月分とはいえ、だいぶ汚くなっていた。やはりこれだけ大きな屋敷だと維持をするのもなかなか大変だ。
15
お気に入りに追加
362
あなたにおすすめの小説
テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…
小桃
ファンタジー
商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。
1.最強になれる種族
2.無限収納
3.変幻自在
4.並列思考
5.スキルコピー
5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。
貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!
やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり
目覚めると20歳無職だった主人公。
転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。
”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。
これではまともな生活ができない。
――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう!
こうして彼の転生生活が幕を開けた。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!
家ごと異世界ライフ
ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる