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第39話 ドナドナドナド〜ナ

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 ドナドナドナド~ナ荷馬車が揺れる……

 まあ気分は荷馬車に乗せられた仔牛の気分である。

「すごいね、ユウキお兄ちゃん。もう街の城壁があんなに遠くに見えるよ!」

「うわ~前にも見たけどやっぱり大きな壁だね!」

 荷馬車の中から街の城壁を見ながらサリアとマイルが話しかけてくる。そういえば外からこの街の壁を見るのは盗賊達にここに連れてこられた時以来だな。

「なにこれすっごい!私たちこんな大きい街の中にいたんだ!」

「すっげえ!ユウキ兄ちゃん、俺こんなの見たの初めてだよ!父ちゃんと母ちゃんに自慢してやろうっと!」

 ルイスとミレーが盗賊達にこの街に連れてこられた時は目隠しをされていて何も見えない状態だったらしい。

「ほらほら4人とももう少し落ち着けって。まだまだ先は長いんだからな。今からそんなにはしゃいでいるとあとで疲れちゃうぞ」

「ふふ、ユウキくんの言う通りだよ。これから1週間くらいはかかるからね、のんびり行こう。そうだユウキくん、僕もずっと馬車の運転はできないからね。あとでやり方を教えるからところどころで交代してね」

 荷馬車の運転をしているリールさんが前の業者席から声をかけてくる。この荷馬車には窓が横と前に付いているので運転中も話しかけることができる。

「はい、リールさん!俺も馬車の運転してみたかったんでお願いします」

 というわけで、リールさん、サリア、マイル、ルイス、ミレーの大人1人、子供4人と俺で馬車に揺られている。

 幸いなことに4人の村が同じ方向にあったので、一度の旅程で全てまわってしまおうということになった。もしかすると、4人の村の近くにみんなを攫った盗賊達のアジトがあるのかもしれない。

 そして村をまわる人選だが、子供達4人と俺とリールさんになった。滞在期間をいれると2~3週間かかるので、流石にエレナお嬢様を連れて行くことはできず、護衛としてアルゼさんとシェアル師匠が残ることになった。工場自体はもう俺がいなくてもまわるようになったし、アルゼさんがたまに様子を見に行ってくれる予定だ。

 屋敷の料理や掃除をする人がシェアル師匠だけになってしまうという致命的な問題については、リールさんの奥さんが臨時で泊まり込みで手伝ってくれることとなり解決した。リールさんも奥さん一人を長い期間一人にしてはおけないので一石二鳥である。

 もちろん盗賊や魔物という危険が多いこの世界だが、アルゼさんとリールさんいわく、俺とリールさんがいれば問題ないそうだ。だいぶ鍛えられたとはいえ、俺は不安なんだけど……



 そして唯一の問題がルイスとミレーの両親への説明をリールさんと俺がしなければいけないということだ。マイルとサリアは奴隷契約も解除したし、エレナお嬢様の屋敷で働く許可をもらうだけだからまだいい。

 2人とも屋敷で働いてくれる気だし、給金は間違いなく村で働くよりいいし、それほど2人の村から離れていないから会おうと思えばすぐに会えるし、説得は不可能というわけではないと思う。

 だが、ルイスとミレーはまだ奴隷紋がついているし、そう簡単にはいかない。エレナお嬢様とアルゼさんからは2人を買った分のお金が払えるなら奴隷契約を解除しても良いと言われているが、2人の話を聞く限りそれほど裕福な家庭ではないし難しいだろう。

 法律的には問題ないとはいえ、お宅の子供を奴隷商から買っちゃいましたテヘペロで許されるわけがない。説得できる自信が全くない……最悪、武力で訴えてくる可能性もあるので、その場合は逃げる予定ではあるが、なんとも気が重い。まあここまで来たらなるようになれで出たとこ勝負でいこう。

「ユウキお兄ちゃん、また新しいお話して!」

「いいよ、時間はたくさんあるからね。あとはみんなでできるしりとりとかなぞなぞとかやってみようか」

 一応長旅とわかっていたから簡単なトランプも作ってきたけど場所の揺れがあまりにも酷くて出来そうにない。やはり舗装された道路とサスペンション機能のある現代技術は偉大だ。

 バネを使ったサスペンションをローニーに作れるか試してもらったが、構造的になかなか難しいらしい。今回の旅には間に合わなかったので、分厚いクッションを引いてみたが、まあまあ役にはたっている。クッションがなかったらきっと尻がやばいことになっていただろう。



 初日は無事に盗賊や魔物に会うことなく目的の場所に到着した。日中は荷馬車の中でみんなに童話を聞かせたり、遊んだり、勉強したり、魔法の練習をしたりしてのんびりと過ごした。途中荷馬車の運転をリールさんから教えてもらったが、乗馬とは違い馬に乗るわけでもないから結構簡単に覚えることができた。まあ止まれとか右とか左の合図だけだったからな。

 今日は道のそばに流れている川の近くに野宿だ。みんなの村に着くまでにいくつか街を通るが、さすがに毎回6人で宿を取るのはもったいない。

「うん、このくらい綺麗な川なら煮沸すれば十分飲めるね」

「ありがとうございます。それじゃあ晩御飯の準備はこっちに任せてください」

 まだ日が出ているうちに馬車を泊めて野営の準備をする。水はリールさんが川の水をチェックしてくれた。今日の晩御飯は自家製トマトソースパスタだ。屋敷で作ってきたトマトソースを茹でた自家製パスタの上にかけただけのシンプルなものだ。トマトソースはそんなに持たないから早めに消費する。余った分は明日の朝のトマトスープにして使い切る予定だ。

「ユウキ兄ちゃん、これすっごくうまいよ!」

「本当!こんなに簡単に作れるのに美味しい!」

「うん、結構いけるな。たまにはみんなで外で作って食べるのもいいもんだね。それにみんなで作ったから美味しいんだよ。ほら、おかわり分もあるからいっぱい食べていいんだぞ」

「やった!ユウキお兄ちゃん、おかわり!」

「わたしも!わたしも!」

「まだまだいっぱいあるから焦らなくても大丈夫だよ。リールさんはどうですか、お口にあいます?」

「うん、これは美味しいね。いやはやユウキくんには恐れ入るよ。旅の食事といえば昔まで食べてた硬いパンと干し肉くらいだからね。道中こんなに美味しい料理が食べれるなんて思ってもいなかったよ」

「今日は水場が近くにあると聞いていましたからね。さすがに水がないと厳しかったです。うん、パスタも十分旅の食料としていけそうですね」

 一応この世界にも小麦粉を伸ばして切ってスープに入れた麺料理のようなものはあったが、それほど好んで食べられてはいない。今度はうどんやパスタやラーメンなどの麺料理を売れるか試してみるのもいいかもな。

 晩御飯を食べて、後片付けをして寝る準備を整えるとあたりは一面真っ暗になっていた。さっきまでは焚き火の周りでみんなで楽しく話しながらご飯を食べていたから完全にキャンプのような気分だったが、今は灯りも焚き火だけでかなり怖い雰囲気だ。

 寝床は荷馬車に布団を敷くからテントはいらない。俺とサリア、リールさんとマイルで交代で火の番をする予定だ。リールさんによると見張りは2人以上で行うのが基本らしい。1人だと眠ってしまったり、話し相手もなく孤独すぎて幻影を見たり、見落としがあったりしてしまうからだ。

 先に俺たちが眠らせてもらい、適当な時間で起こしてもらい、空が明るくなり始めたら朝食の用意をしてみんなを起こすといった流れだ。

 明るい時間帯にどれだけ進めるかが大事なので朝早くから行動して夕暮れ時には泊まる場所を見つけて晩御飯の準備ができてるくらいが理想らしい。まあ日が暮れるのも早いから寝る時間を半分にしたとしても5時間以上は眠れる計算だ。



「ユウキくん、起きて。見張りの交代の時間だよ」

「う~ん」

「ありゃ、全然起きない。まったくしょうがないなあ、ふっ!」

「うおっ!!」

 急に凄まじい殺気を感じて跳ね起き上がる。なんだ、敵襲か!?普段からの寝込みを襲われた場合の訓練のおかげで一瞬で覚醒して臨戦態勢となる。無詠唱で身体能力強化魔法と硬化魔法をかけて、寝るときに横に置いた剣を構えて外に出て一気に距離をあける。

「うん、いい反応だね。ちゃんと殺気に反応できてるよ。そろそろ見張りの交代の時間だよ」

「……できれば普通に起こしてくださいよ、リールさん」

「いや軽く声はかけたんだけど、全然起きなかったんだよ。まあ君も普段より疲れていたんだろう。それにこういう環境だからこそより一層気を引き締めていかないとね」

 くそう、正論すぎて返す言葉もない。いや俺も外だし、布団も硬いしちゃんと眠れるかななんて思っていた時期が俺にもありました。まさかの即落ちでしたわ。俺もだいぶこの世界にも順応してきたようだ。

「そうですね、確かにだいぶ気を抜いてたみたいです。気をつけます」

 なにせこの世界では危険がだいぶ身近な世界だ。一瞬の油断で致命的な事態につながりかけない。気を引き締めていかなければ。



「星がとっても綺麗だね、ユウキお兄ちゃん」

「おお、本当だ!さっきは全然気が付かなかった。すごいなあ、天の河まではっきりと肉眼で見えるなんて!本当に綺麗だ、今までで見た星空の中で一番綺麗かもしれない」

 サリアの言う通り空を見上げてみるとそこには一面の星空が広がっていた。街灯もなく、排気ガスで空気の汚れていないこちらの世界では星空が本当に綺麗に輝いて見えた。まあもちろんこっちの世界で知っている星座なんてひとつもわからないんだけどな。

「ふふ、ちょっと大袈裟だよ。街にいる時は明るくて全然見えなかったけどサリアが村にいた頃はこれくらいの星空全然普通だったよ」

「そうかサリアの村ではこれが普通なんだな。俺の故郷だと夜も結構明るいから星なんて全然見えなかったなあ」

「ユウキお兄ちゃんの故郷ってすごいんだね。いつかユウキお兄ちゃんの故郷にも行ってみたいなあ」

「そうだなあ。俺の故郷はここからとっても遠い場所にあって、もうどこにあるかも分からなくて、帰れなくなっちゃったんだよな。」

 神様にも帰れないと言われたし、無理なんだろう。魔法があるという世界だから可能性はあると思い、元の世界に戻る方法も探してはいるが、今のところ全く成果はない。

「……大丈夫だよ!ユウキお兄ちゃんにはサリアもマイルもいるし、エレナお嬢様やみんながいるもん」

 おっとサリアに気を遣わせてしまったな。いかんいかん、サリアみたいな子供に気を遣わせてしまうなんて男として情けない。

「そうだね。俺もそこまで故郷に帰りたい訳じゃないからもう大丈夫だよ。エレナお嬢様に助けてもらったし、みんながいるからね。そういえばサリナの村はどんなところだったの?」

「えっとねえ、サリアの村は50人くらいのちっちゃい村でね、みんな畑を耕してたの。収穫と時はサリアも手伝うんだよ!すっごく大変なんだけどその後みんなでお祭りをするのがとっても楽しみなの!いつもは食べられないご馳走がいっぱいでるんだよ!

 あっ、でもユウキお兄ちゃんが作ってくれたご飯の方が全然美味しいから、今はそんなに美味しく感じないかも」

「はは、そういってくれるのは光栄だな。でもお祭りの雰囲気で食べるものは別の美味しさがあるからね。そういえばサリアの両親はどんな人なんだ」

「お父さんはね、普段はとっても優しんだけど怒ると本当に怖いの。サリア達が入っちゃいけない森にこっそり入った時なんてすっごい怒られて1週間くらい家から出してくれなかったんだから」

 ……これからその父親に会いにいくんだよなあ。まあ話を聞く限りはサリアをとても大事にしているみたいだし悪い父親ではなさそうだ。なおのこと説明に行くのが怖いけど。

「お母さんはね、とっても綺麗で歌がすごい上手なの。夜眠る時はいつも優しい歌を歌ってくれたわ。あとねご飯がとっても上手なの。はやくお母さんが作ってくれたご飯を早く食べたいなあ。あとね、あとね……あっ」

 笑顔でとても嬉しそうに両親のことを話すサリアの瞳から涙が流れた。

「えっとね、違うの!サリア悲しい訳じゃないの、すっごい嬉しいんだけど、お父さんとお母さんのことを思い出したら少しだけ寂しくなっちゃって。あはは、おかしいな、もうすぐに会えるのにね」

 笑顔で話しながらもサリナの涙は止まらない。次から次へと溢れてくる。そうだよな、普段あんなにしっかりとしていてもまだ小学生高学年くらいだ。盗賊に捕まって、奴隷として売られ、優しい主人とはいえ半年以上も働いて両親と会えてないなんて辛くない訳がない。

 俺はとっさにサリアを抱きしめて頭を撫でてあげた。

「ユウキお兄ちゃん!?」

「サリア、もう大丈夫だからな。今までお父さんにもお母さんにも会えない中で本当によく頑張ったね。サリナが本当に良い子だから神様が助けてくれたんだよ。すぐにお父さんとお母さんに会えるからね!

 それに無理はしないで村に戻ってもいいんだからな。村から街まで近いし俺もすぐに会いに来れるし、もう少し大人になってからエレナお嬢様のお屋敷で働いてくれてもいいんだよ」

「……ユウキお兄ちゃん!ユウキお兄ちゃん!」

 今までずっと悲しいことをため込んできたのだろう。俺の胸に小さな頭を押しつけてえんえんと泣き続けるサリナ。そうだよな、やっぱりこのくらいの子供が両親といるのは当たり前のことなんだ。屋敷にとってはだいぶ痛手だか、2人とも両親の元に返してあげるのが良いだろうか。

 そのままサリナは泣き疲れて眠ってしまった。サリナのあどけない寝顔に少しだけドキッとしてしまったが、俺はロリコンではないので、毛布をかけて寝かせてあげた。

 というか見張り中であるのをすっかりと忘れていた。さすがに今のサリナを起こす気もなかったので、そのあとは気を引き締めて1人で見張りを続けた。幸いにも野外での1人での見張りという非日常的なことに興奮して眠気が来ることもなく、盗賊や魔物に襲われることなく夜を明かすことができた。
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