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第34話 お祝いの準備
しおりを挟む地獄の訓練が始まってしばらくたったがギリギリのところで俺は生きていた。死にかけて神様に会えたのも前の一回だけだ。
人間死ぬ気になればなんとか生き延びられるもんだ。悲しいことに地獄の訓練や毒物の入った食事に体が慣れてきている自分がいる。こんなことに慣れたくはないんだがな……
さて、今日は朝ごはんを食べた後にすぐに工場に来ている。というのも昼ごろからエレナお嬢様が工場にやってくるのでその準備をするためだ。
今日で工場を稼働してから約1ヶ月が経つことになる。ある程度の生産体制も整い、ついに明日から蒸留酒と高級菓子が販売されることになる。今日は稼働1ヶ月のお祝いと明日からの繁盛を祈願して軽くお祝いをすることになっている。
リバーシと将棋は最初から作り始めていたこともあり、すでにランディさんの商会を通して一部の貴族達に販売されている。高級感を持たせた駒と台と説明書のセットで日本円にして1万円くらいのボッタクリ価格ではあるが、主に口コミで売れ始めているらしい。
そして思った以上にやばかったのが酵母を使ったパンのレシピだ。それほど難しくなく、安価で味がとても良くなるとパン屋だけでなく、パンを扱っている料理店にまでレシピが売れているそうだ。国中のパンが酵母を使ったパンに代わるのも時間の問題だとか。単価が安いとはいえまさか国中に広まるとは思いもよらなかった。
ちなみに娯楽や酒、高級菓子には「アルガネル」というブランド名がつけられている。アルガン家からのアルガをとって、ネルについては言わなくてもわかるな。
ブランド名をつけることでこの街の領主のうちの一つであるアルガン家の名を広めコピー品への牽制にもなる。ただし、それは商品が人気になって始めて意味を成すもので、問題のある商品を出すと逆に家名に泥を塗ることにもなる。
というか売れてくれないと困る。資金的にはパンのレシピのおかげで多少の失敗は問題ないが、国を豊かにして奴隷解放作戦のためにもこんなところで止まってはいられない。
基本的に商品の最終チェックは卸先の商業ギルドにお金を払ってお願いしているが、今回新しく販売する商品の売れ行きが好調なら人を増やして、そこもうちの工場で見れるようにしたい。新しい商品もどんどん増やしていきたいしな。
というわけで工場に到着。こっちはそろそろ朝ごはんの時間かな。うちは朝8時から夜18時までの超ホワイト企業だ(異世界基準)。お年寄りと子供にも働いてもらっているが問題ない(異世界基準)。
「おら、じいさんもばあさんも座ってろ。朝飯の片付けならこっちでやるっていつも言ってんだろ」
「そうだせ、こっから仕事なんだからちっとでも体を休めとけや」
「んだ、んだ。じっちゃとばっちゃは座っててくれだ」
工場の食堂のドアを開けようとしたところで手が止まる。モラムさんとガラナさんとローニの声のようだ。
「そうだよ、食器洗いなら僕たちがやるよ」
「そうよ、3人は座ってて」
「やかましい!てめーらガキどもの手もいらねえっつってんだろ!こっちは3人で十分だ。暇があるならガキ主人が持ってきた計算ドリルとかいうやつで勉強でもしてろや!」
「大人になって読み書きと計算できねえと苦労すんだぞ、俺たちみたいにな」
どうやら誰が朝食の後片付けをするかで揉めているようだ。それにしてもあの2人はおれのことをガキ主人と呼ぶのはやめてほしい。
ちなみに子供の2人には簡単な読み書きと計算を教えている。さすがにサリアとマイルほど教える時間は取れないので、本当に少しずつになってしまうがそれでもゆっくりと上達している。最近ではサリアとマイルに2人の問題を作ってもらっている。問題を作るのもいい勉強になるからな。
「そうさね、家事は大人に任せておいて、子供達は勉強しておきなさい。子供のうちは勉強が仕事さね」
「ほれ、ばあさんの言う通りじゃ。家事はわしらに任せてルイスもミレーもちょっと休んどくんじゃ」
「だからてめーらも必要ねえっての!」
……なんだろうなこれ。普通は家事を押し付けあうものなんだけど。基本的に家事はみんなに任せておいて、モラムさんとガラナさんとかがサボりそうならこっちで均等に割り振ろうと思ってだんだけどな。まあ仲良くやってるなら何よりだ。
「みんな、おはよう。伝えるのが遅くなったけど明日からみんなが作ってくれた商品が販売されることになったよ。
あと今日でこの工場でみんなが働き始めて1ヶ月になるから今日は昼からエレナお嬢様達もきて軽いお祝いがあるからね。そのあと今日は工場はお休みになるから各自で自由にしてね」
工場の稼働が始まってからの初休日である。個人的にはせめて週一で休みをあげたいものだが、工場の稼働が厳しく、人が増えるまでは難しそうだ。そもそも我々の奴隷業界では休みをもらえるだけで超ホワイトな職場だ。今のところ高齢者や子どもばかりのため、多めに休憩を入れているが、今後はしっかりと休日も作っていきたい。
「ユウキさん、おはようだ。ついにこの酒も販売だべか。くう~この酒をたくさん飲めるなんてみんなは幸せもんだ」
「ユウキ兄ちゃん、おはよう。俺が作ったリバーシとか大丈夫かな。ちゃんと売れっかな?」
「大丈夫よ、ルイス!こんなに上手く作れるようになったし、頑張っていっぱい作ったんだもの。絶対に売れるわよ」
「ユウキさん、おはようございます。ルイスもミレーも大丈夫じゃよ、みんなで頑張ったし何より、カミナ婆さんの絵が上手いから爆売れ間違いなしじゃ」
「ユウキさん、おはよう。こんな老いぼれたジジババでも役にたてて嬉しいのう。主人のエレナお嬢様もええ方じゃし、本当にわしらは運がええ」
「ユウキさん、おはよう。ラッセル爺さんとブロンテ爺さんも手先が器用だから駒の形もとても上手さね。ゲームの内容も簡単で面白いから売れるとええのう」
「大丈夫ですよ。商業ギルド長のランディさんのお墨付きももらってますからね。絶対に売れますよ!」
正直に言って売れるかどうかは俺には分からないが、ランディさんが売れると言ってるし大丈夫だろう。まあお菓子やリバーシとかは売れそうな気はするけど蒸留酒は売れるか分からんな。あんなまずいものをお金を出して買う人はいるのだろうか。
「おい、ガキ主人。お祝いってえなら当然旦那も来て酒も振る舞ってくれんだろうな。いつもの試飲じゃちびっとしか飲めねえからな」
「この前試飲以上に飲もうとしたら飲む直前に奴隷紋から激痛が走りやがったからな、ありゃ痛かったぜ」
だからガキ主人って呼び方はやめてほしい。まあ一応モラムさんとガラナさんも少しずつは普通に話してくれるようになってはきたが、この呼び方だけはやめてくれない。てか奴隷紋あるのに飲もうとするなよ。
「アルゼ様も一緒にきますよ。たぶんお酒も少しは飲ませてくれるんじゃないですかね。奴隷紋は自業自得です。あといい加減にガキ主人はやめてください」
「けっ、ガキ主人はガキ主人だろ。酒の味がわかるようになってからいいやがれ」
「けっ、あるいは酒樽一杯持ってきたら考えてやるぜ」
「全くこういう時だけ調子がいいんだから。さあ、そろそろ準備を始めますよ。せっかくのお祝いなんでライガー鳥とかの高級肉も持ってきましたからね」
「ガキ主人にしちゃ気がきくじゃねえか!おら、さっさと料理しろや」
「よっしゃあ、早く作りやがれ」
二人とも料理できるのに俺の場合は手伝ってくれる気ないんですね。まあ最近は料理することも半分趣味になってきたから別にいいんだけど。元の世界の料理法を色々試したり、みんなが美味しそうにご飯を食べてくれるのも見てて嬉しい。そんじゃまあ、腕によりをかけて色々作るとしますか。
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異世界でキャンプ場を作って全力でスローライフを執行する……予定!
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