奴隷スタートの異世界ライフ ~異世界転生したら速攻で奴隷として売られてしまったんだが~

タジリユウ

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第33話 バスケがしたいです

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「………………」

「………………」

 気がつくと俺はまた白い部屋にいた。目の前にはいつものちゃぶ台と見た目だけは相変わらず可愛らしい格好をしているこの世界の神様がいた。

 どうやらまた俺は死にかけてこの部屋に来てしまったらしい。あんなに格好つけてエレナお嬢様に見栄をはった直後に死にかけるとか恥ずかしすぎる……

 とりあえず生きていたのはよかったけどまた神様に散々馬鹿にされるんだろうな……

「……よく頑張ったね、君は本当によくやってるよ」

「本気の同情はやめてくれ!」

 これなら馬鹿にされて爆笑された方がまだましだよ。

「いやいや、正直に言ってさすがの僕も笑えないよ。超ドン引きしたね。むしろなんでなんで君まだ生きてるの?」

 神様をドン引きさせるとかどんな訓練だよ……いや、もはや訓練なのかあれ。

「常に暗殺や殺気に気をつけるとかなんとか言って日常的にナイフや斧が飛んでくるし、訓練では3人からの集中砲火をひたすら避け続けて、被弾したり限界がきたら回復魔法で即座に回復して再開。今の時代にこんな訓練やってる人なんてみたことないよ」

 ですよね~虐待とかいうレベルじゃないもん……トイレに行ってる最中ですらリールさんがナイフ投げてくるんだから心の休まる暇がない。

 そしてエレナお嬢様に気づかれないようにやってくるからタチが悪い。さすがに俺からエレナお嬢様に告げ口なんてできないしな。

「特に凄かったのが、食事に毒物を少しずつ混ぜて毒の耐性をあげる訓練だっけ?彼らは本当に何と戦っているんだか?ちなみに今回死にかけたのもそれが原因だからね」

 だよねえ。夕食を食べている際中に倒れたところまでが最後の記憶だし。しかし珍しいな、酒が絡んでいない時は完璧執事であるアルゼさんが毒の量を間違えるなんて初歩的なミスを犯すとは。

「厳密に言うとあの執事さんが適度に盛った毒物にあのドジなメイドさんが君の料理にうっかりチコの実をこぼしたことが原因だね。普通ならちょっと味が辛くなるくらいで済むんだけど、その毒物とはとても相性が悪くて毒性を強めちゃって死にかけたわけ」

「シェアル師匠~!」

 あんの駄メイド、まじふざけんなよ!あの人に殺されかけたの2回目だぞ!戻ったら絶対に告げ口してやる!

 それにしても本当にどこの暗殺一家だよ。強力な毒物か、生まれた時から浴びてたぜ、家庭の事情でね。とかリアルだと嫌だわ。まああれは電気か、ってどちらにしろやばすぎるが。

「まあ見てるぶんにはとてもおもし……いや楽しかったからいいんだけどね」

 なぜ言い直したし。まあはたから見たらアトラクション番組を見てる感じなのかもしれない。それにしてもこの神様、実は暇なんじゃないか。盗賊に捕まった時も見てたって言ってたし。

「うわ~ん、神えもんみんなが僕をいじめるんだ。持ってるだけで最強になれるチートな道具出してよ~」

「もう、しょうがないなあユウ太くんは。テケテテン、異世界破壊爆弾~。これがあれば君の敵を全て殲滅できるよ」

「うわ~い、やったあ!これがあれば異世界で僕が最強になれるんだ!……ってなるわけあるか!使ったら俺も死んじゃうじゃん。てかなんで神様がこのネタ知ってんだよ」

 なんとなくやってみた青い猫型ロボットのネタだけど一瞬で反応が返って来た。これだいぶ古いネタだからな。そして秘密道具のチョイスが渋い。

「なめちゃいけないな。君の世界は娯楽が進んでいるからね。僕も暇な時に拝見してるよ。漫画に関しては火○鳥から鬼◯の刃まで網羅しているね。知っているかい?のび◯くんは無人島で10年過ごしていたから実は精神年齢はみんなより10歳年上なんだぜ」

「知らねーよ!てかあんた暇すぎるだろ」

 火○鳥は学校の図書館にあったから知ってるけどあれ半世紀以上前の漫画だろう、逆に鬼○は最近の漫画だ。あんたどんだけ暇人……いや暇神なんだよ!

「もちろん仕事の合間にだよ。そうだね、最近のお気に入りはスラムダ○クと転生したらス○イムだった件かな」

 スラム○ンクはいいとして異世界の神が異世界もの読んでんじゃねえよ!いろいろアウトじゃねえか!

「異世界ものを読んだことがあるならああいうチート能力くださいよ」

「何を言ってるんだいユウキくんは。ああいう能力は漫画や小説だけのものだよ。いけないなあ、現実と漫画や小説をごっちゃにしちゃ。言葉が通じるだけでも感謝してもらわなくちゃ。ちなみに君の好きな漫画はなんだい?」

 もはや何が現実なんだか。まあ言葉が通じるだけでもありがたいと思おう。

「そうですね、俺もスポーツ漫画だったらスラム○ンクかな。あとは鋼の錬○術師とかキン○ダムとかですね。少女コミックもありならハチ○ロとのだ○カンタービレあたりかな」

「ふむふむ、君もいいところをつくじゃないか。ハ○クロもいいけど個神的には次作の3月のラ○オンも好きなんだよね。あの人間味溢れる主人公の葛藤がいいよね、みんな青春してるって感じで。……同じくらいの年齢なのになんだろうね、この差は」

「やかましい!」

 ボコボコにされて毒まで飲まされて死にかけてるもんね。俺も普通の青春を送って主人公したい。

「おっと、そろそろ時間だ。君の世界の漫画の話ができる機会なんて滅多にないからなかなか楽しかったよ。早くまた会いに来てくれると嬉しいな、ってへ!」

「もう来ないわ!」

 そんなに可愛く上目遣いで微笑まれても駄目だ!ここに来るってことは死にかけてるってことだからね、俺。そう何度も死にかけてたまるか。

「ちぇっ、こんなに可愛い神様が会いに来て欲しいって頼んでるのにつれないなぁ、ユウキくんは」

「そんな頻繁に死にかけてたまるか!てかアドバイスは!確か死にかけたら何かアドバイスもらえるんでしょ」

 一応前回の神様のアドバイスは役に立った。期限というものがわかるだけで、それに向けて行動することができた。今回も起きた後に待っている地獄の訓練に耐えるためのアドバイスをください!

「……そうだね君にアドバイスがある。どうかこの後待ち受けている苦難を乗り越えてくれたまえ」

 今の間はアドバイスのこと忘れてやがったな。このまま起きたら笑われて漫画の話をしただけで終わっちゃうじゃん。てかやばい眠くなるように意識が薄れてきた。早く、早くアドバイスを!

「諦めたらそこで試合終了ですよ」

 安○先生、バスケがしたいです……ってアドバイスになってないわ!諦めずに耐えろってことかよ、ちくしょー!

 俺はこの白い部屋で意識を失った。



 目が覚めるとマイルと2人部屋のいつもの天井があった。そうだな、もうこの天井は見知らぬ天井ではなく俺の部屋の天井だ。

「ユウキお兄ちゃん!」

「ユウキ兄ちゃん!」

「ごふっ……」

 お腹のあたりに衝撃が走る。気づけばサリアとマイルが横になっている俺の体に覆いかぶさっていた。

「ユウキ、大丈夫!?無理して起き上がらないで!まだ痛いところはある?」

 横にはエレナお嬢様、アルゼさん、リールさん、シェアル師匠もいた。ありがたいことに屋敷の人総出で俺を心配してくれていたようだ。

「いえ、もう大丈夫です。痛いところももうありません、大変心配をおかけしました。ほら、サリア、マイル、もう大丈夫だからな」

「うう……ユウキお兄ちゃん、本当によかった。もう1時間も目を覚さなくて本当に死んじゃったかと思った」

「ひっく、せっかく一緒に暮らせるようになったのにいなくなっちゃうなんて嫌だよ」

 1時間も起きなかったのか。そりゃ心配になるわけだ。それにせっかくみんなで幸せに暮らせるようになったのに、ここで死んだら死んでも死にきれない。

「本当によかったわ、朝ごはんを食べていたら急に倒れて目を覚まさないんだもの。心配で心配で」

 よく見るとエレナお嬢様の両目に少し涙が見える。こんなにみんな心配してくれるなんて不謹慎だけど少し嬉しくなる。

「……ああなんだ、最近は少し忙しすぎたのかもしれん。しばらく仕事のことはいいからゆっくり休め」

「そうだね、少し訓練も厳しすぎたのかもね。もう少しゆっくり強くなっていけば大丈夫だよ」

 アルゼさんにリールさんも優しい言葉をかけてくれる。食事に毒物を入れた負い目もあるのかもしれないが、それでも俺を強くしようと思ってのことだ。

 それにみんなを守れる強さが欲しいと望んでいたのは俺自身だ。そうだ、アルゼさんもリールさんも貴重な時間を割いてまで俺を鍛えてくれているんだ。少しくらい訓練が厳しくても、非人道的でも贅沢なんて言えるものか。なんだかやる気がふつふつと湧いてきた!うし、絶対に諦めないからな安○先生!

「それにしても危なかったですねえ。私の回復魔法がなければもうユウキくんは目を覚さなかったかもしれませんねえ。本当によかったですう!」

 そうだね、シェアル師匠。あなたがやらかさなければ、そもそも危険な目にあうことすらなかったんだけどな。

「……そうなんですか。本当にありがとうございました、シェアル師匠(棒)」

「そうね、本当にシェアルのおかげだわ!ふふっ、これは何かご褒美をあげないとね」

「……ふん、こういう有事の際のために雇っているようなものだ。だがまあ、今回はよくやった」

「シェアルお姉ちゃん本当にすごかったのよ。ピカピカって大きな光がユウキお兄ちゃんを包んで顔色がよくなってきたの。シェアルお姉ちゃん、今度サリアにも魔法を教えて!」

「えへへ~それほどでもないのですよう。ご褒美ですかあ、嬉しいですう。いいわよ、サリアちゃん、今度一緒に魔法の練習しましょうねえ!」

 全員がシェアル師匠をベタ褒めである。まあ確かに師匠の魔法でなければ俺も本当にやばかったのかもしれない。

 だが、それはそれ、これはこれだ。しっかりと告げ口させていただこう。何より何度も危険な目に遭ってはたまらない。きっちりと再発防止に努めていこう。

「そういえば夢の中で女神様に会ったような気がします。なんでも今回死にかけたのは誰かが間違えて俺の料理にチコの実をこぼしちゃったことが原因だとか言ってましたね。チコの実と料理と俺の身体が悪いように反応したとか。まあきっと夢ですよね、ははは」

 カランッ

 シェアル師匠が持っていた杖を落とす。目は泳ぎまくっているし、よく見ると足も震えている。

「やややややだなあ、ユウキくんは、なななかな何を言ってるんですかねえ~そそそそんなドジなことをする人はこの屋敷にいませんよう」

 ……完全に自白したも同然である。ここまで嘘がつけない人を初めて見たよ。

「……シェアル。今ならまだ正直に言えば屋敷から追い出すことだけはしないでやろう。だがもしも……」

「ごめんなさいいい~私がこぼしましたあ」

 早えな、おい。まだアルゼ様が話している途中で自白したぞ。まあ正直に言って挙動不審すぎてバレバレなんだが。

 こうしてシェアル師匠はアルゼ様からのきついお叱りを受け、今後は台所への立ち入り自体を禁止されて、ますますメイドとしての立場がなくなりましたとさ。めでたし、めでたし。
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