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第28話 工場での仕事
しおりを挟む「みんな、おはよう!昨日はよく眠れたかな?」
おはようと言いつつも今はちょうどお昼頃だ。俺やマイルやサリアがこの屋敷に来た時と同じように初日だけはゆっくり休んでもらい、昼から仕事をするように伝えてある。
何事も始めが肝心である。最初から最後まで全力疾走では何事もうまくいくはずがないからな。
「おはようございますユウキさん、おかげさまでぐっすりと眠ることができました」
「ユウキ兄ちゃん、俺すっごい久しぶりに地面じゃないところで寝れたぜ」
うんうん、気持ちはわかるよ。地面で寝てるとザラザラしてて寝心地も何もあったもんじゃないからなあ。身体もガチガチになって痛くなってくる。まあしばらくすると身体がなれてくるんだけどな。
「みんなよく眠れたようで良かった!それじゃあ軽くだけどご飯にしてそのあとにこれからみんなにやってもらう仕事について説明するからね」
今日の朝食のメニューはパンとサラダとシチュー。まずは栄養をバランスよくとってもらいガリガリの身体をなんとかしてもらわないとな。
パンのほうは屋敷で焼いた天然酵母のパンである。少し贅沢かなとも思ったが酵母液もそれほどお金がかかるものでもないし、屋敷にあるパンを焼く釜もかなりでかいのでそれほど時間がかかるわけでもない。エレナお嬢様は笑って許可を、アルゼ様は苦々しい顔をしながらも許可をくれた。
今までこんなに美味しいパンを食べたことがないと涙を流しながら食べてる者もいた。今思うと流石に落ちぶれているとはいえ奴隷が領主様と同じものを食べれるというのは少し贅沢すぎたかもしれない。
まあこれでみんなのやる気が出てくれるなら安いものだ。それに俺やエレナの目的は全奴隷の解放だからな。偽善だろうが今身近にいる奴隷には人並みの生活をさせてあげたい。てか人並みの以上の生活をしているけど俺も奴隷だしな。
「よし、簡単な自己紹介も終わったしこれから仕事の説明を始めます。まずはここでこれらの遊具を作ってもらいます」
食事のあとに自己紹介をおこなったあとに。子供2人とおじいちゃん2人とおばあちゃんを呼ぶ。
「ユウキ兄ちゃんこれなに?」
「初めて見るねえ」
「これは俺の国で遊ばれているゲームでリバーシと将棋と言います。室内で二人で遊べる遊具です。二セットずつ置いておくんで仕事が終わった後にでも、みんなで遊んでみて下さい。ルールは後で教えますね。リバーシは簡単ですけど将棋はルールが難しいのでまずはリバーシがおすすめです」
「りばあし?しょおぎ?」
「なにやら面白そうだねえ」
「みんなにはこの遊具で使う駒と台を作って欲しいんだ。それじゃあ今から説明するね」
工場などと言っているが、当然この文明レベルで大規模な工具や機械などあるわけがない。当然全てが手作りである。
とりあえず駒を型通りに切り、ヤスリで磨いて角をとる。リバーシの駒なら白と黒の色を塗り、将棋の駒なら表と裏に絵を描いてもらう。最後に色艶を出すニスの様なものを塗って乾かして完成だ。
ちなみに将棋は飛車とか金とかの文字じゃわかりにくそうなので簡単な絵にした。王は王様、飛車は勇者、角は賢者、金は騎士みたいな感じでこちらの世界の人にわかりやすいようにしてみた。
元の世界で軍人将棋ならぬ異世界将棋とかで売り出したら結構売れたんじゃないかな?まあ本物の将棋好きの人にボコボコに叩かれそうだけど。
「こんなところかな。それじゃあみんなで作業を分担してどの作業が自分に合っているか試してみてね。今日は売り物を作るというより練習の気持ちで明日からやりやすい方法を探してみる感じでお願い」
「はーい!」
「わかりました、ユウキさん」
「それじゃあロー二とモラムさん、ガラナさんは別の作業をお願いするのでこっちにお願いします」
「はいだ!」
「……ちっ」
「……けっ」
約二名程返事に問題あるがまあ最初はこんなもんだろう。仕事さえきちんとやってくれれば問題ない。
ちなみに街でエレナお嬢様を襲おうとしたもう一人のチンピラの名前はガラナさん。モラムさんは長く生えそろった顎髭が特徴的、ガラナさんの特徴はなんといってもこのモヒカン。この世界に来て多くの人間や別の種族の者達を見てきたけれど、モヒカン頭の人はこの人だけだった。
どこかの世紀末の漫画にでも出てきそうな頭だが、工場でみんなが着ている工場での作業用の服と絶望的に合っていないな。
「それじゃあまずはロー二にはこれを大きくして強度をあげたものを作って欲しい。まずは試作で一つ作ってみて問題なさそうなら大量に作ってもらう感じかな。設計図も忘れないように作ってね!」
「はいだ、ユウキさん!」
うんうん、元気で気持ちのいい返事だね!
「お二人にはロー二の手伝いをしてもらいます。ロー二の指示に従って手伝ってあげてください。力仕事も多そうですからね、頼りにしてますよ!」
「……ちっ」
「……けっ」
うんうん、不貞腐れているただのチンピラだね……
どうしようかなあ、全然言うことを聞いてくれそうにない。
とはいえさすがに奴隷紋の力を使って強制はしたくはない。働いた分だけ食べれるご飯を増やすみたいにするしかないのかなあ。できれば自発的にやる気になってくれると嬉しいんだけど。
「ユウキさん、これはなんだべか?正直言って何に使うかさっぱりわかんねえべ」
「ああ、そういえば説明していなかったね。これは蒸留器といって、……なんて言うかな、簡単に言うと今あるお酒をもっと美味しくする装置みたいなかんじかな」
「「「酒!?」」」
……なんか3人からものすごい反応が返ってきた。ドワーフであるロー二はともかくこの二人も酒好きかよ。
「ええっと、普通のお酒よりも酒精が強くなるのでお口に合うかわかりませんよ。実際に俺も飲んでみましたけど苦すぎて普通のお酒のほうが美味しいと思いましたし」
「ユウキさんはまだまだお子様だべな」
「ガキに酒の味がわかってたまるか!」
「ガキらしくジュースでも飲んでろや!」
ひどい!!
俺一応は上司的な立場なんだけど……優しいはずのロー二まで。そしてこういう時だけチンピラズはちゃんとしゃべるのな。
それにしても最近鍛え始めてようやく一人前の男になれてきたなあとかひそかに思っていたのに自信を一瞬で打ち砕かれた。
「おっと、失礼したべ。えっとユウキさんももっと大人になったらわかりますだ。あの苦味の中にこそ深い味わいがあるってもんですだ!」
「ほう、わかってるじゃねえかねえちゃん。付け加えればバランスだな。甘み、苦味、酸味がバラバラじゃあいけねえ。こいつが揃ってこその完璧な酒だ」
「わかっちゃねえなモラム、バランスなんかよりも酒の強さに決まってんだろ!体の奥からカッと熱くなるくれえの強さ、それを一気に飲みきってこそ漢ってもんだろ」
「いやあそれじゃあ女の人は楽しめねえべさ。酒精が強くて旨い酒こそゆっくりと味わってこそでねか?」
「そこはちげえな、ねえちゃん。旨い酒こそちびちびいかずに一気に行くべきだろ!しっかりと酒を味わいつつもガツンといかねえとな」
「だろ、モラム!そういや二人は最近出たザラスって酒知ってるか?ありゃあ強くていい酒だぜ、レッドボアを食った後にあれを一気に流し込むとやべえぞ」
「ストップ、ストーップ!!」
あんたらさっきまで全く喋らなかったのにいきなり話が弾みすぎだろ!放っておいたらいつまでも酒について話してそうなので無理矢理に話に割り込む。
「えっと、とりあえずみなさんがお酒好きなのはよくわかりました。それじゃあ早速、蒸留器の仕組みを説明するのでみんなで頑張っていきましょう!」
「すまねえユウキさん、オラとしたことが酒の話になると止まらなくなっちまうだ。了解しただ、酒に関することならなおさら気合い入れていくだ!」
「……ちっ」
「……けっ」
また不貞腐れモードに戻ってしまった。だけど二人が大のお酒好きということはよくわかった。それなら話は簡単だ。
「……さっきも言ったように俺はお酒が飲めないので味を見るのもみなさんにお願いしたいんですけど、二人が協力してくれないならロー二さんだけに任せるしかないですかね?」
「しょうがねえ、仕方ねえから手伝ってやる。酒の味なら任せておきな」
「しゃあねえ、特別に手伝ってやらあ。酒が飲めねえなら俺達に任せておけ!」
「………………」
ちょろすぎるだろこの二人……まあ物で釣るのは微妙だが、これでやる気も出るだろう。てかアルゼさんもそうだけど酒ってそこまでうまいもんかねえ?
ちなみに三人には奴隷紋の力で必要以上にお酒を飲まないように『命令』しておいた。三人に向かって奴隷紋の力を使おうと意識し、命令を口にすると三人の奴隷紋が光る。
奴隷紋を意識して命令をすることにより、その命令を破れば契約時に定めた時よりも効果は落ちるが全身に激痛が走るらしい。ロー二以外の二人は明らかにがっかりしていたから、必要以上のお酒を飲む気だったに違いない。
さすがに商品として販売するわけだからそのあたりの管理はきちんとしないとな。あまり奴隷紋の力で縛りたくはないがまだみんなのこともよく知っていないからしょうがない。
早く奴隷紋の力なんて使わなくてもみんなを信頼できるくらいの信頼関係を作っていきたいものだ。
……まあ酒に関してだけは信頼できる時が来るか怪しいものではある。
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◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
異世界でキャンプ場を作って全力でスローライフを執行する……予定!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
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