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第26話 3度目の奴隷商
しおりを挟む「ここに来るのも3度目かあ……」
前回は子供達を買いに、そして最初は俺自身が売られていた場所である。俺とアルゼさんは3度目の奴隷商に訪れていた。当然目的は奴隷を購入するためである。
ランディさんから資金を借りることもできたし、蒸留酒が売れそうなこともわかったので、街の郊外に工場を作り、そこで蒸留酒や調理道具、娯楽道具を作って街で販売する。
そこで従業員を雇うわけだが、この工場はいろいろと機密情報が多い。蒸留酒などの造り方が他の者に知られてしまうといろいろと問題が起こってしまう。
そこで奴隷を購入し、奴隷紋を刻む際に情報を他のものに伝えることができないように誓約で縛るというわけだ。この方法はこの世界では一般的であり、秘密が漏れてはいけないような場合には奴隷を使うことが多くあるそうだ。
すべての奴隷を解放したいという俺達が奴隷を買うというのはものすごく嫌な気持ちになるが、これも奴隷を解放するという道へ繋がると信じて進むしかない。そして何より、エレナお嬢様の下にいたほうが他の人に買われるよりも人並みの生活ができるに違いないからな。
「いらっしゃいませ!おやこれはアルゼ様とええっと、そうだそうだユウキだったな。このたびはまた奴隷の購入でしょうか?」
さすがに3回目ともなれば名前を覚えられていたようだ。まあこいつに名前を覚えられても嬉しくもなんともないけどな。
「今回は労働用の奴隷が必要で、8人ほど用立てたい。秘密保持の誓約もあわせて頼む」
「おお!8人もですか、さすが今を時めくアルガン家様ですな。そういえば私もこの前唐揚げをいただきましたよ。あれは本当に酒にあいますな。8名ですか労働用となると大人の男を8名見繕う感じでよろしいでしょうか?」
「重労働になるわけではないから子供でも女でも年寄りでも構わん。そうだな、できるだけ売れ残っているやつでいい。そのほうが安いし8人も買うのだからだいぶ割り引いてくれるのだろうな」
「ええ、それはもう勉強させてもらいますよ!その代わりにまた奴隷のご入用があればぜひまた当店までお越しくださいませ」
「その際はまた利用させてもらうとしよう。それとあとひとつ、8人のうち1人は手先が器用で酒の味がわかる者がよい。そうだな、ドワーフの奴隷がいればそいつがいい。そいつだけは多少値が張っても構わん」
事前にアルゼさんとエレナお嬢様と相談していた。できるだけ弱った奴隷から買っていきたいというのは、俺とエレナお嬢様のわがままだ。前にエレナお嬢様も言っていたが偽善ということはわかっている。たとえここで数人を救えたとしてもこの世界にはまだまだ数多くの奴隷がいる。
それでも俺達にはできることからはじめるしかない。やらない善よりやる偽善だとなにかの漫画でもいってたことだしな。
そして手先が器用なドワーフが欲しいというのは最低ひとりは技術のあるものが欲しいからだ。蒸留器の試作品やリバーシの試作品などは俺が作ったのだが、やはりどうしても素人の作ったもので商品にするにはちょっと拙い。
やはりきちんとした物を作るためにはちゃんとした本職の者が必要であるという結論となった。ついでに試飲することができるのもアルゼさんだけというのも問題だからな。
「ええ、かしこまりました。それではまずその条件に合うものをつれてまいりますので少々お待ちを」
しばらくするとダルサはひとりの少女を連れて戻ってきた。
「お待たせしましたアルゼ様、ご希望のドワーフの者を連れてきました。今私の店にいるドワーフはこいつだけですね。ご希望通り手先は器用ですし、酒の味もわかるそうです。まあドワーフで酒が呑めないようなものはおりませんがな。ただ一つだけ問題がございまして……」
目の前にいるのは小さな少女、サリア達と同い年くらいの外見である。ドワーフといえば髭面のおっさんが出てくるものだと思っていたがこれは意外だった。
ドワーフの特徴といえる髭は女の子にはないようだ、本当に良かったぜ。褐色の肌に白い髪は少しばかり特徴的ではあるが普通の可愛らしい女の子に見える。特に問題はないように思えるけど。
「はずめますて。オラはローニといいますだ。手先は村のもんよりも器用で自信があるだ。酒ならどんなもんでも大好物ですだ」
「………………」
「………………」
「……ええ~ご覧のとおりこいつは腕は確かなのですがなまりがとてもひどくてですな、いまいち売れんのですよ。ちなみにこの二つがこいつの作品です。他の奴隷よりはいい腕をしていると思いますよ」
そういって見せてくれた髪飾りと指輪には細かく華やかな細工が施されていた。この二つを作れたのなら素人目で見ても技術的には問題なさそうだ。
「ふむ、腕のほうは問題ないようだな。まあ言葉については目をつぶるとするか。ユウキ、こいつで問題なさそうか?」
「はい、腕のほうは問題なさそうなのでいいと思います。えっと、ローニちゃんはいくつなのかな?」
「オラは今年で25になるだ」
「えっ!?」
「何を驚いている?女性のドワーフがこのような外見をしているのは常識であろう」
そうなのか!そういえばこの街ではあまりドワーフは見ていないな。見たとしても想像通り毛むくじゃらで髭面のおっさんしかあったことがなかったな。元の世界の一部の人間ならロリババアキターとか喜んでいるのかもしれない。
「そうなんですか。女性のドワーフの人に会うのは初めてでしたもので。大変失礼しました」
「気にしないでくんろ、よく間違われるだでな」
………………
なんだかいまいちこのなまりになれないな。なまりに褐色の肌のドワーフで外見幼女とかいろいろおなか一杯なんですけど。
「まあいい、こいつをもらおう。腕さえ問題なければどうとでもなる。あとの7人はどうだ」
「はい、ありがとうございます!それでは残る7人の候補を連れてまいりますね、少々お待ちくださいませ」
残りの7人を連れてくれるためにダルサの従者が部屋から出て行く。
「あのう、本当にオラでいいだか?オラ自分でもわかってるだ、この言葉遣いが変だってこと。でも直そうとしてもよ全然なおんねえだ、オラの村でもみんなに散々馬鹿にされただよ」
「うん、平気だよ。全然意思疎通もできるし問題なし。それになまりっていうのはその地域やその人の個性みたいなものだからね、別に無理に直さなくてもいいと思うよ。あっ、でも仕事自体はちゃんとやってね」
「うう~そんなこといってくれた人はじめてだ。オラ頑張るだ、みんなをがっかりさせないように精一杯働くだ!」
「うん、これからよろしくね!」
「はいだ!」
うん、なまりは徐々に慣れていけばいいだろう。まあ俺にはこれくらいのなまりなんて全然気にならないな。
というのも元の世界でうちのじいちゃんとばあちゃんが青森の津軽に住んでいた。年に1度ほど家族みんなで二人の家に遊びに行くのだが、二人の会話のなまりがすごすぎて半分くらいしか理解できない。もしかしたら英語以上に理解できないかもしれない。
嘘だと思ったら動画で東北のおじいちゃんおばあちゃんの会話の動画とか見てみ。はっきり言って日本語じゃないからな、あれ。あれに比べたらこの子のなまりなんて全然気にならない。それに方言女子ってなんか当社比1.2倍くらい可愛く見えるよね。
「お待たせ致しました。このあたりが売れ残っていたり理由があり安い奴隷達ですね。この中から残りの7人を選んでいただいてもよろしいでしょうか」
そういって連れてきた奴隷達は総勢12人。売れ残っていたり安いだけあって子供や歳をとった奴隷達が多いようだ。あれ、でも2人だけそこそこ若い男がいるな。
「……あっ!」
「てっ、てめえはあの時の!」
老人や子供などに混じっていた2人の男はあの時の、街でエレナお嬢様を襲ってきたチンピラ達のうちの2人だ!しかも1人は奴隷である俺を助けようとしてくれたあの髭面の男だ。
確かあの騒動の後捕まえられたチンピラ達は街の警備の人たちに引き渡されて首謀者の尋問をされていたはずだ。どうしてここの奴隷商なんかに?
「んっ?なんだユウキ、こいつらと知り合いか?ああ~なんだ、連れてきておいてなんだがこいつらはやめておいたほうがいいな。アルゼ様はご存知でしょうが、一応お前にも説明しておいてやろう。
名前はなんて言ったか忘れたがこいつらは犯罪奴隷だ。この街では大きな犯罪を犯したやつは街から奴隷商に売られることが多い。まあ街の牢屋で犯罪者なんて養っている余裕なんてないからな。
だが犯罪奴隷なんてものは当然売れやしねえ。そりゃ普通のやつならそんな危ねえやつをわざわざ買ったりはしねえからな。本当に金がなかったり物好きなやつらが買うくらいだ。こいつもうちの店じゃ一番安くしてあるが当分は売れないだろう。
おまえも主であるアルガン様も新しくできた屋台でかなり稼いでるらしいじゃねえか、金もあることだしそんなやつをわざわざ好き好んで買う必要はねえんじゃねえか。下手な奴隷を売ってうちの店の問題になっても嫌だからな」
「……ちっ」
「けっ!」
チンピラ達が舌打ちをする。やっぱりこの人達も目が死んでいる。そりゃそうだよな、10年以上奴隷を続けていて、せっかく奴隷から解放されたというのにまた奴隷になってしまったのだから。
とはいえエレナお嬢様を殺そうとしていたのだから自業自得ではある。だけど、それでもこの人はこの人なりに奴隷である俺の事を助けてくれようとしてくれていたんだよな。
「あの、アルゼ様……」
「好きにしろ。奴隷の人選はお前に任せるとエレナ様より伝えられている」
おう、さすがアルゼさん、短い付き合いだがもう俺が何を言いたいのを察してくれている。
「ダルサさん、2人はこの人達でお願いします。これであとは5人ですね」
「アルゼ様、本当によろしいのですか?こいつが何か起こしても責任は取れませんよ?」
「構わん、そのときはこいつに責任を取ってもらうからな」
おっと、いきなりこっちに責任が飛んできた。うん、まあそれが言い出したものの責任だよな。
それから残りの5人を選んだ。とはいえ俺に奴隷を選んで買うなんてことできやしないので、衰弱の度合いがひどい者やこの奴隷商で長く売れ残っている順番で選んだ。これも偽善だということはわかっているが、それでもこれが今の俺にできる精一杯だ。
今回はエレナお嬢様が主になるのではなく、俺がこの人たちの主になることになっていた。もちろん工場はエレナお嬢様が所有することになるが、領主の仕事があるので工場の実際の責任者は俺となる。マイル、サリア達が計算も料理もできるようになり、俺の仕事の負担がだいぶ軽くなってきたからできることだ。
奴隷が奴隷の主になることは少ないが、ないことはないらしい。これで俺も立派な中間管理職ユウキである。その後は俺や子供達のときと同じように奴隷紋の契約を行った。
俺達のときと異なるのは、工場に関する情報を他の者に漏らさないということと、主人だけでなく屋敷の人に危害を加えないという誓約が加えられている。これで主人である俺だけでなく屋敷の者に危害を加えるようなことはできなくなる。
さあいよいよ工場のはじまりだ!
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