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第24話 魔物との戦闘
しおりを挟む「ふう、ようやく終わったね」
「ええ、本当に大変でしたね」
ようやく先ほどリールさんが仕留めたワイルドボアの解体作業が終わった。リアルな解体作業は非常に手間がかかり、初めて解体作業を行ったとはいえ1時間以上もかかってしまった。有名な某狩りゲームのように数秒で剥ぎ取りを終わらせられないものかね。
着ている服はすでにワイルドボアの血に染まり真っ赤である。汚れてもいい服に着替えてきていたとはいえ早く着替えたい。
不要な部位を土に埋め、解体した毛皮、牙、内臓、枝肉を持ってきた籠に入れて背負う。リールさんと二人で分けているとはいえそれでもかなりの重さだ。さすがにこれを持ちながら移動するのは難しいので、一度荷馬車に戻ることとなった。
「それにしても俺にはリール様みたいにひっそりと背後から一撃みたいなことはできないんですけれどどうやって戦えばいいんでしょう?」
「ユウキくんは普通に正面から戦えばいいと思うけどね。身体能力強化魔法と硬化魔法を使って敵の攻撃をかわして攻撃すればいいんじゃないかな?」
「いやかわして攻撃って簡単にいいますけどね、あんな重量のある魔物と正面から戦えるわけないじゃないですか」
「あれっ、気づいてないの?もうユウキくんの力なら……ってちょっと待って、何かがくる!サーチ!」
「そういえば向こうから音が!サーチ!」
確かに向こうのほうから大きな音が聞こえてきた。詠唱を省いたため大きさや細かな位置までは曖昧だが大体の数と位置くらいはわかる。
「こっ、これは!」
「ちょっとこれはまずいかもねえ」
位置はここから数百メートル、だが問題はその数だ。少なくとも10以上のワイルドボア並みの大きさの生物がこちらに近づいてくる。
「なんですか?何がくるんですか!?」
「この森で群れで生活しているあのサイズの魔物はおそらくライガー鳥だ!」
「ライガー鳥ってあの唐揚の材料のやつですか?」
「そうだよ、おそらくワイルドボアの血の匂いにつられてきたに違いない。ついてないなあ、そもそもこの森にそれほど生息していないから高級食材として扱われているのに。数頭なら狩るんだけどちょっと数が多いね。こうしちゃいられない、一旦逃げよう!」
まじかよ……盗賊達に捕まったときといい相変わらずついていない。
「はい、逃げましょう!」
俺とリールさんは急いで元来た馬車のほうへ走り出す。急げ、早くしないと追いつかれてしまう!生い茂る森の中でリールさんの後を急いで追いかける。
「ユウキくんもっと急いで!」
「はっ、はい!」
リールさんが速い!森の中での走り方を知っているのか無駄がないからかわからないが、すごいスピードで走っていく。俺のほうはといえば、時折木の枝や根にひっかかりながら森の中をかけていく。
「……やばい、迷ったしはぐれた!」
それまではリールさんの後ろを走っていることに夢中で道なんて意識していなかった。木の根に軽く躓いてしまい、その間にリールさんを見失ってしまった。
急いでサーチを使いリールさんの位置を把握しそちらのほうを追っていったが追いつけない。またサーチを使い位置を把握しそちらのほうへ向かう。それを何度か繰り返している間に、とうとう俺がサーチをかけても位置を把握できる範囲から外れてしまった。
「道もわからないしライガー鳥はまだ追ってきている。とにかく走り続けるしかない!」
とりあえずライガー鳥達との距離は少しづつだが離れてきている。あの大きな体がこの森の中で走り続けるのに邪魔になっているかもしれない。とりあえずあいつらをまいてから馬車への道とリールさんを探そう!
「……のはずだったのに」
あ、ありのまま今起こった事を話すぜ!ライガー鳥から逃げ続けてだいぶ引き離したところで目の前に大きな岩の壁があった。右か左か迷い、右のほうに逃げていったらそっちは岩の壁に囲まれた袋小路だったぜ!
人は迷ったり未知の道を選ぶ時には無意識に左を選択するケースが多いらしいから、あえて右のほうへ行ったのに!ク○ピカ先生の嘘つき!
てか、つい最近も道を間違えて袋小路に入ってしまった気がするよ!本当についてない。
どうしよう、どうしよう?どうやって逃げればいい?ようやくエレナお嬢様の役に立つことができて、知識チートも始まったというのにこんなところで死にたくはない!
とりあえず落ち着け、剣道の試合でも平常心でいることが非常に大事である。今の俺にできることはなんだ、落ち着いてよく考えろ。俺が持っている装備はロングソードに金属製の胸当てに小手、そして血まみれになったTシャツとズボン……って血の臭いに引かれてくるなら、もしかしたらこれを脱いだら追いかけて来れなくなったんじゃないのか?
しかも俺、背中に採取したものや解体したワイルドボアの肉を入れた籠を背負いっぱなしじゃん!どうりでリールさんより全然遅い訳だよ!今はこんなもんどうでもいい!
「サーチ!」
だめだ、今から服を脱いで別の場所に置いてきてももう間に合わない。もうあと数十秒で奴らが出てくる。あと俺にできることは無属性の魔法くらいだ。とはいえ俺が戦闘でまともに使えるのは身体能力強化魔法と硬化魔法、そして回復魔法だ。
……ってあれ?俺逃げるときに身体能力強化魔法って使ってたっけ?
あほかあああ!!
俺ってここまでポンコツだったっけか……2週間以上アルゼさんとリールさんに実戦訓練をしてもらってもこれじゃあ意味がない!
もういい、とりあえず今は生き延びることだけを考えろ!全力で生き延びるんだ!
「大気に溢れたる力よ我に纏いたまえ、フィジカルアップ!大地より生まれたる力よ、我に堅牢な守りを与えたまえ、プロテクト!」
身体能力強化魔法と硬化魔法をかけ、自らの肉体と持っているロングソードを強化する。
詠唱を終えると同時に森の奥からライガー鳥がその姿を現す。ワイルドボアよりも一回り大きな体躯でその体躯以上の羽を広げている。それだけの大きな羽があるのなら飛んでこいよと思ったものだが、彼らは空を飛ぶことができない鳥であるとアルゼさんから聞いている。
走り回ることができるようにか鳥とは思えない太い足、地上で生活し獲物を仕留めるための鋭いくちばし、森で生活していくには絶好の迷彩となりうる緑の体毛、元の世界では考えられないような生物である。
一匹目が森から出てきた後もライガー鳥が続々と姿を現す。なんと総勢11匹、俺を逃がさないように隊列を組んで俺を取り囲んでいく。なんだろうな、完全に追い詰められた獲物の気持ちってこんな感じなのかな。
「グエ、グエグエ!」
あの真ん中にいる一回り大きな個体が群れのボスか?声を張り上げ周りのライガー鳥たちに指示を送っている。
確か大勢に囲まれたときは一番最初にボスを狙うか、弱そうな奴をボコボコにして他の奴らの戦意を削ぐのがいいと何かの漫画に書いてあったな。
よし、あのボスを狙って混乱を生み出し、その隙に脱出しよう。身体強化の魔法も詠唱を唱えてかけたし、混乱さえ生み出せれば案外簡単に逃げられるかもしれない。
問題はライガー鳥の強さがどれくらいかわからないことだ。あのリールさんが撤退するくらいだから弱くはないんだろうけど、この森にはそれほどまで強い魔物はいないとも言っていたしどっちなんだろう。
さあ覚悟を決めろ!
「ふううう、はああああ」
深く息を吸い、深く吐く。
「いやああああああ!」
集中、集中、集中!!
絶対に生き残る!!
「行くぞ!!」
俺は一直線にライガー鳥のボスのほうへ走り込む。虚を突かれたせいか、俺の速さに驚いたのか反応が鈍い。仲間のライガー鳥達も俺の突然の特攻に反応できていない。
狙うはその首、例え相手が魔物であろうとも首と胴を切り離せば殺せるに違いない!
「グエエエ!」
ボスが反応しその鋭いくちばしをこちらに突き刺すように反応してきた。だが鈍い、身体能力強化魔法を使った俺のほうが断然速い!この魔法を使うと反応速度も上昇し、少しだけだが時の流れが遅く感じる。
この状態ならば余裕でいける!相手のくちばしでの攻撃をかわしつつ、伸ばしてきた無防備な首に一撃を加える!
「せいやああああ!」
ズパッ
ゴトリッ
ボスの首が落ち、鮮血が周囲に飛び散る。
あれ、思ったよりも手応えがない。いくら強化魔法をかけていたとはいえこんなに簡単に生物の首が落とせるものなのか?
「「「グッ、グエエエ!?」」」
周りのライガー鳥達が混乱している。計画通り!よし、この混乱に乗じて一気にこの場から離脱してやる。
「「「グエエ、グエエエ!」」」
ダダダダダッ
………………あれっ、なんかライガー鳥が全員逃げちゃったんだけど。ちょっと計画と違うんだが。
いや群れのボスが倒されたら即時撤退するのは正しい判断なんだけどさあ。自分でもかなりの覚悟を決めて立ち向かったのになんだが、肩透かしを食らった気分だ。まあ助かったのだからなんの文句もないんだけどな。
そういえばこれだけ大きな生物を自分の手で殺したのは初めてだ。意外と罪悪感のようなものは感じない。この世界に来てから散々命の危機に陥ってきたからいろいろと感覚が麻痺してきているのかもしれない。
てか一瞬前まで俺の命を狙ってきた敵に同情の余地はない。所詮この世は弱肉強食って志○雄先生も言っていた。敵役だけどあの人超かっこよかったよね。
元の世界で見てきた異世界ものでは人の命を奪うようなものが多かったが、いつかは俺も人を殺してしまうようなことがあるのだろうか。大切な人を守るためなら仕方ないと思うが、まあ今は考えても仕方がない。
その後無事にリールさんと合流することができた。身体能力強化魔法で強化した身体で木に登り、開けた場所を探してそこから元いた場所を探し、なんとか荷馬車のところに戻る。俺が倒したライガー鳥も担いで持っていきリールさんと一緒に解体した。
「いやあそれにしてもラッキーだったね、ライガー鳥も手に入るなんて。普通に買ったら結構高いからね」
「それはよかった。でもひどいですよリール様、俺を置いていくなんて!本当に死ぬかと思いましたよ!」
「いやいや悪かったね、ユウキくん。でも大丈夫だったでしょ?正直僕だったら厳しかったけどユウキくんならひとりでも大丈夫だと思っていたからね」
「えっ、それってどういうことですか?」
「ああやっぱり気づいてなかったんだね。魔法を使って強化した身体能力なら君はもう僕の力を超えているんだよ。
これだけの数のライガー鳥がいても君の力なら少なくとも逃げ切ることはできると思っていたさ。まあ今はまだ経験が足りないから直接組み手をすればまだ僕が勝てるけれどもう少しでもう僕は勝てなくなるだろうね」
いやいやさすがにそれはないだろう。確かに俺は元の世界で身体も鍛えていたし剣道を学んでいた。そして達人であるアルゼさんとリールさんから指導を受け、魔法の達人(?)であるシェアル師匠からも魔法の指導を受けてはいる。だがそれが始まったのはたったの2週間前だ。
「さすがにそれはないでしょう。俺が皆様に指導を受け始めたのはちょっと前からですよ。確かに多少は強くなった自覚はありますけれど、そこまで強くなれたとは思えませんが」
「シェアルも身体能力強化と硬化の魔法は君にとても適していると褒めていたよ。魔法のイメージの仕方が特にいいってさ。このまま身体と魔法を鍛えていけば近接戦闘ではとても頼りになる味方になるとも言っていたね」
「そうですか、シェアルさんがそんなことを!その期待に応えられるように頑張ります!」
そうか、シェアル師匠も嬉しいことを言ってくれる。やっぱり元の世界の漫画やアニメのおかげで魔法についてイメージしやすくなっていたのかもしれないな。頼りになる味方か、みんなに早くそう思われるようこれからも頑張っていこう。
「その意気だよ。まあ今でもだいぶ頑張っているようだし無理をしすぎて体を壊さないようにね。さあそれじゃあ屋敷に戻ろうか?」
「はい!」
昔から身体だけは頑丈だったからな。それに無理はするためにあるものだと剣道部の顧問の先生からも教えられた。学校の教師の教えとしては正解なのかはわからないが俺はこの言葉が少し気に入っている。よし、今まで以上に無理に挑戦していこうじゃないか!
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