奴隷スタートの異世界ライフ ~異世界転生したら速攻で奴隷として売られてしまったんだが~

タジリユウ

文字の大きさ
上 下
23 / 95

第23話 一狩り行こうぜ♪

しおりを挟む

「うおおおおおおお!」

 俺は今、森の中を全力疾走している。理由は簡単、俺の後ろには10匹以上の巨大な魔物の群れが俺を追いかけてきている。

 あれはライガー鳥、この街の周りの森に生息する鳥型の魔物である。その肉は非常に美味で鶏以上の柔らかさと牛や豚以上にあふれ出てくる肉の旨みを兼ね備えている高級食材だ。そう、エレナお嬢様が開いた唐揚げ屋の素材となる鳥である。

 なぜ俺がこんな森の中でライガー鳥の群れに襲われているかというと話は今日の朝に遡る。



 商業ギルドでランディさんとの交渉を終えてから数日後、いつものように朝食をとり終わった後、エレナお嬢様とアルゼさんに呼び出された。

「ユウキ、今日はリールと共に森で食材の調達をしてきてくれ」

「はいアルゼ様、でも俺は森で取れる食材とかには詳しくありませんよ」

「そのあたりはリールに聞けば問題ない。リールは月に1~2回ほどの割合で森へ行っているから私よりも詳しい。食用できるかどうかはリールに確認しろ」

「なるほど、わかりました。この屋敷で使う食材を取ってくるということですか?」

「そうだ、細かな野菜などの食材は街で購入しているが、日持ちする食材などはリールに調達を任せている。今回はお前も同行し、リールを手伝って来い。必要なものはすでにリールに用意してもらっている。夕方までには帰って来い」

「なるほど、了解しました!」

 ふむふむ、厨房の食材庫にある食材の一部はリールさんが取ってきたものだったのか。確かに食材から自分達で用意できればだいぶ食費は浮くだろう。

 アルゼさんの書類仕事の手伝いをしているときからそうだろうとは思っていたが、今この屋敷にはそれほど家計に余裕があるわけではないらしい。まあ金に物を言わせて贅沢の限りを尽くす貴族なんかよりはよっぽどいいけどな。

「ユウキ、気をつけてね!無理は絶対しちゃだめよ」

 上目遣いで俺を心配してくるエレナ様、本当にかわいらしいなあもう!

「はい気をつけます!リール様もいますし、魔法も少しは使えるようになりましたし大丈夫ですよ」

「そう?でも本当に気をつけてね」

「はい!それでは行ってきます!」

「うん、行ってらっしゃい!」

 行ってらっしゃいか、今の俺にはとてもうれしい言葉だ。元の世界からこの世界に放り出された俺にもようやく帰る場所ができた。感謝してますよ、エレナお嬢様!



「リール様、お待たせしました」

「ちょうど僕も来たところさ」

 一度部屋に戻り、普段着ている服から動きやすい服に着替え、屋敷の庭で待っているリールさんと合流した。今回乗っていく馬車は普段エレナお嬢様を乗せている装飾つきの綺麗な馬車ではなく、実用的な大きい荷馬車だった。

「それじゃあユウキくん、出発する前にまずはこれを」

 そういうとリールさんは金属製の胸当てと小手、そして無骨な長い剣を俺に渡す。

「……えっと食材をとりに行くんですよね?」

「うん?そうだよ、だからこれが必要なんじゃないか」

「……もしかして魔物を狩りに行くんですか?」

「当たり前じゃないか。野菜や木の実も取れるけどむしろそっちの肉がメインじゃないか」

「いやいや無理ですって!アルゼ様達との訓練を始めてからまだたった2週間くらいですし、ずっと組み手をしているだけなんですよ?」

「はは、大丈夫だよ。このあたりの森にはそれほど強い魔物は出ないし、僕もいるからね。ちょうどいい実戦訓練だと思えばいいさ。それに……」

「それに?」

「いやいや何でもないさ、とにかく大丈夫だから早く行こうか。暗くなるまでには戻ってこなくちゃならないかね」

 この世界の魔物がどれほど強いのかわからないが、リールさんがそういうなら大丈夫なのだろうか。うん、身体能力強化の魔法も覚えたし、少なくとも逃げることくらいは大丈夫かな。

「わかりました」

「それじゃあまずはこの剣に慣れておいておこうか。真剣を持つのは初めてなんだろう?」

 厳密に言うと前回エレナお嬢様が襲われたときに、敵が持っていたロングソードを持ってみたが実際に振ってはいない。もちろん元の世界で真剣は手に取ったこともない。

「はい、試してみます」

 リールさんから渡された胸当てと小手を身につけ、剣を手に取ってみる。なるほど、普段振っていた竹刀とはやはり違う。俺が入っていた剣道部では練習用に重い竹刀も置いていたがそれ以上の重さだ。長さは竹刀以上で両方に刃がある。

 しばらく体を動かして剣を振ってみる。胸当てや小手は想像していたよりも動きの邪魔にはならない。それよりもこの剣の重さになれないといけないな。実戦を想定するなら普段アルゼさんとリールさんと行っている組み手で使う木剣もこれくらいの重さにしておくべきだった。

「少しは慣れてきました」

「よし、それじゃあ出発しよう」

「はい」



 それから荷馬車に乗り1時間ほどかけて森の見えるところまでやってきた。この荷馬車は前に2人ほど乗れるので森に着くまで間、リールさんに馬車の運転方法を教えてもらっていた。馬車の運転方法は思ったよりも難しくはなく、基本的な方向転換や停止もすぐにできるようになった。とはいえ馬車の運転は乗馬とは比べ物にならないほど簡単らしく、馬車用の馬さえいてくれれば誰でもすぐにできるようになるそうだ。

「よし、それじゃあ馬車はここにおいて森には歩いて入ろうか」

「了解です」

 馬を森の入り口の木に縄でつなぎ、俺とリールさんは森へ入った。一応森の中にも人が通る道のようなものがあるので、それを追えば元の街道に戻ってくることはできそうだ。この道だけは見失わないようにしないとな。

 しばらくの間二人で食材を採取する。とりあえず食べれそうな物があればその都度リールさんに確認して覚えるといったやり方だ。俺も行者ニンニク、タラの芽、舞茸、椎茸、クルミなどの食材をとることができた。

 山での食材といえばもっと簡単に多くの種類のものが手に入ると思っていたのだがだいぶ甘かったようだ。やはり元の世界で有名な某狩りゲームの素材ツアーのようにはうまくいかないらしい。

「ふう、肉以外の食材はこんなものかな」

「ええ、それにしても結構大変ですね。これだけの量をとるのにこんなに時間がかかるなんて」

「まあ大変だね、労力的にも街でそろえたほうが全然楽だよね」

 確かにこれだけの労力をかけるのなら、街で働いてそのお金で食材を買ったほうが効率的な気がする。

「さあ、ここからが本番だ。山菜や木の実は街で買ってもいいけど肉は自分達でとったほうがだいぶ安く済むからね」

 ですよねえ。やっぱりメインは狩猟かあ。自分の手で動物を殺すのはちょっと気が引けるんだけどなあ……

 いやそれは単なる偽善か。今まで散々肉を食べてきておいて自分の手でやるのが嫌だなんて。

「どうやって探すんですか?」

「君もシェアルに教えてもらっただろう?探索の魔法を使うんだ。ちょうどいい、まずはユウキくんがやってみなよ」

 そういえばこういうときには探索の魔法が有効か。俺もシェアルさんから無属性魔法である探索魔法は教えてもらっている。この魔法は身体能力強化魔法とは違って一度では発動することができなかった。色々と試してみた結果、潜水艦のソナー的なイメージをして発動させたらなんとか上手く発動することができた。

 この魔法を使うと周りにいる生物の位置が頭の中に思い浮かぶ。シェアルさんほどの実力者ならばやろうと思えば10km圏内の虫レベルの生物の位置まで把握できるそうだ。今の俺の力だと1km圏内の人間レベルの大きさ以上の生物までしかわからない。

「わかりましたやってみます」

 神経を集中させる。潜水艦のソナーを使う様子をはっきりとイメージする。

「万物のものよ我が前に姿を現せ、サーチ!」

 頭の中に生物の位置が思い浮かぶ。俺がわかるのは3体、どれも牛くらいの大きさの反応がしている。

「……あっちと、それからそっちとそっちに反応があります。大きさはどれも牛くらいで一番近いのはこっちのやつですね」

「おお、すごいじゃないか?それじゃあ一番近いところに行ってみようか」

 俺とリールさんは反応があった一番近い方向へ向かう。しばらく進むと森の奥のほうにガサガサと動くものがいた。リールさんと近くの茂みにしゃがみこんで隠れた。

「何かいましたよ」

「うん、あれはワイルドボアだね、なかなかの高級肉だよ。先月僕もこいつを狩ってきたね、ユウキくんも何度か料理してたでしょ」

「ああ、あれがワイルドボアですか」

 確か初めて屋敷のご飯を作るときに使った肉だ。煮ても焼いても揚げてもうまかったなあ。なるほどあの肉はリールさんが取ってきたものだったのか。

「それじゃあまずは僕が行くからここで見ていてね」

「はい」

 リールさんは中腰のままゆっくりとワイルドボアのほうへ進む。いつの間にかその両手にはナイフを携えていた。リールさんは俺と組み手をするときにも両手木剣を使っていた。両手剣の魅力はなんといってもその手数だ。だがワイルドボアのような大型の魔物と戦う際には手数より一撃の威力が大事なのではないのだろうか?

 静かにワイルドボアの背後へと近寄るリールさん。森の中だというのにほとんど音がしない。俺だったら足音や葉っぱなどがこすれる音がしていただろう。目標であるワイルドボアまであと数メートル……

「フゴッ?」

 まずい、ワイルドボアがリールさんに気づいた。何か音がしたのか野生の勘かはわからないが、ワイルドボアがリールさんのほうを向こうとする。

 その瞬間にリールさんはワイルドボアのほうへ一気に走り出した!

 速い!

 この2週間アルゼさんとリールさんと組み手をし、少しは2人の速さに慣れてきたからこそ、まだ目で追えることができたがそれでも速い。

「フゴオオオオオォォ!」

 悲鳴をあげて倒れるワイルドボア。その胸にはリールさんの短剣が深々と刺さっていた。

「おお!すごいです、リール様!一撃であの巨体のワイルドボアを倒すなんて」

「ふふ、急所に一撃を与えたからね。僕の場合はあまり体力もないし、重い武器も持てないからこういう戦い方になってしまうんだよね」

 なるほど、スピードで翻弄してクリティカルな一撃を与えるスタイルか。人相手ならばかなり有効なスタイルだろう。少なくとも意識していなければあんな一撃防げないぞ。

 今更だけどどう考えてもこの人はただの庭師なんかじゃないよね、どこの世界に狩りをする庭師がいるんだよ……

「それじゃあこのワイルドボアを解体しようか。その後でもう一匹くらい獲物を探そう、今度はユウキ君に任せるからね」

「はい、自信はないけれど頑張ります!」

 次は俺の番かあ。あんまり自信ないんだけど。

 そしてそんなことよりも前に解体という超重労働が俺を待っていた。実際に解体という作業をしてみると内臓はグロイし、血の臭いはひどいし、かなり力は必要でとてつもなく大変であった。

 そうだよな元の世界ではスーパーに行けば綺麗に解体された肉が売られているが、実際にはこんなに重労働なんだよな。俺は改めて命のありがたさを知った気がした。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~

hisa
ファンタジー
 受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。  自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。  戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?  教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!! ※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく! ※第5章に突入しました。 ※小説家になろう96万PV突破! ※カクヨム68万PV突破! ※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

転生しても山あり谷あり!

tukisirokou
ファンタジー
「転生前も山あり谷ありの人生だったのに転生しても山あり谷ありの人生なんて!!」 兎にも角にも今世は “おばあちゃんになったら縁側で日向ぼっこしながら猫とたわむる!” を最終目標に主人公が行く先々の困難を負けずに頑張る物語・・・?

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで商売をして生計を立てていく〜

西館亮太
ファンタジー
「お前は今日でクビだ。」 主に突然そう宣告された究極と称されるメイドの『アミナ』。 生まれてこの方、主人の世話しかした事の無かった彼女はクビを言い渡された後、自分を陥れたメイドに魔物の巣食う島に転送されてしまう。 その大陸は、街の外に出れば魔物に襲われる危険性を伴う非常に危険な土地だった。 だがそのまま死ぬ訳にもいかず、彼女は己の必要のないスキルだと思い込んでいた、素材と知識とイメージがあればどんな物でも作れる『究極創造』を使い、『物作り屋』として冒険者や街の住人相手に商売することにした。 しかし街に到着するなり、外の世界を知らない彼女のコミュ障が露呈したり、意外と知らない事もあったりと、悩みながら自身は究極なんかでは無かったと自覚する。 そこから始まる、依頼者達とのいざこざや、素材収集の中で起こる騒動に彼女は次々と巻き込まれていく事になる。 これは、彼女が本当の究極になるまでのお話である。 ※かなり冗長です。 説明口調も多いのでそれを加味した上でお楽しみ頂けたら幸いです

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

処理中です...