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第17話 我は汝に絶対の忠誠を誓う

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 屋敷に戻るとまず2人は体を洗わせられる。正直に言って馬車の中でもだいぶ臭っていた。俺がこの屋敷に来たときはぜんぜん気づかなかったけれど、多分俺も相当臭っていたんだろうな。

 その間に俺は2人のためにご飯を作る。2人ともおなかがすいているだろうからいっぱい作ってあげてとエレナお嬢様からも言われている。本当に優しいお方だ。

 とはいえ衰弱し過ぎている状態で食べ物を食べ過ぎると逆に危険というのを元の世界では聞いたな。俺のときは大丈夫だったが、あの子達はまだ幼いし、あのときの俺以上に衰弱している。栄養のある野菜を中心に体に優しいものを作っていこう。

「大変お待たせ致しました。おお、2人ともだいぶ綺麗になったな」

 できた料理を食堂に持っていくとすでに屋敷のものと2人は椅子に座っていた。2人ともこんな大きな食堂を見たことがないのかキョロキョロとしている。2人がこの屋敷に来ることは急だったため、まだ服が用意されておらず、代わりに大きめのサイズのシャツを着ている。

「ユウキ兄ちゃん!すごい大きかったよこの屋敷の洗い場!」

「すっごく大きいお屋敷だわ!まるでお城みたい!」

 2人とも物凄くはしゃいでいる。俺がこの屋敷に来たときはそんな余裕は全くなかったが2人で一緒にいることができて少し安心したのだろう。

「ふふっ、みんな元気ね。さあユウキ、みんなお腹をすかせているから早く自己紹介をしてからご飯にしましょう。私はアルガン=ベルゼ=エレナです。この地区の領主を担当しています、マイル、サリア、これからよろしくね!」

 俺がこの屋敷に来たときと同じように全員が自己紹介をしていく。

「それじゃあ紹介も終わったし早速乾杯しましょう!みんなグラスを持ってね、それじゃあ乾杯!」

「「「「乾杯!」」」」

 2人とも俺と同じでどうしてよいのかわからずまたキョロキョロしている。まあそうだよな、奴隷である自分達が主人であると同じ席について同じ食事をもらえるなんて思わないよな。

「ほら、みんな、食べていいのよ」

 2人ともまだ信じられないのかご飯には手を出さずに俺を見てくる。

「2人とも食べても大丈夫だ。でもご飯を食べさせてもらうことが当たり前だと思ったらだめだぞ。普通の奴隷はこんなにおいしいご飯なんて食べれないんだからな。エレナお嬢様に感謝して明日から一緒に頑張って働こうな!

 ほらこのお肉なんてとってもおいしいぞ!ゆっくりよく噛んで味わって食べるんだぞ」

 たまねぎのスープやオムレツ、野菜の甘味噌炒めなど体調に気を使った料理を中心に作ったが、ワイルドボア肉を焼いたものに塩をかけただけの肉料理も用意した。これくらいの量なら大丈夫だろう。

「おいしい、この肉とってもおいしいよ!」

「とっておいしいよ、ユウキお兄ちゃん!」

 そうだよな、あのときの肉の味は本当においしかった。あのときの俺のようにこの時の温かいご飯の味を覚えて明日からしっかりと頑張るんだぞ!そしてご飯を食べながら2人はポロポロと涙をこぼす。

「ユウキがこの屋敷に来たときと全く一緒ね。今日はみんなゆっくりお休みなさい。ユウキ、シェアル、みんなを部屋まで案内してあげてね」

「はい!」

「は、はあい!」

 マイルは俺と同じ使用人室、サリアはシェアルさんと同じ使用人室を使わせてもらえるようになった。

「はあ、すっごくおいしかった。こんなにおなか一杯になったのは久しぶりだよ。それにこの部屋僕達で使っていいんだって!僕達の村でもこんな立派なお部屋を持ってる人なんていなかったよ」

「よかったな、マイル。さあ疲れているだろう、今日はもうゆっくりお休み。俺はあとちょっと仕事が残ってるから先に寝ていてくれ」

「ええ~またいろんなお話聞きたかったのに」

「ははっ、大丈夫だよ。明日から毎日でも聞かせてあげられるからな!じゃあおやすみ」

「そっかあ、明日からもかあ。おやすみ、ユウキ兄ちゃん!」

 よかった、本当によかったよ。ゆっくりとおやすみ!

 俺はそのあといつもどおり後片付けと明日の朝食の準備をはじめた。エレナお嬢様から2人の分のごはんも作ってよいといわれているが、きっと起きるのは昼を過ぎるだろうから2人分のご飯は別にしておこう。





 やることを終えた俺はエレナお嬢様がいる領主室を訪れた。

「夜遅くにすみません、ユウキです、少しだけお時間よろしいでしょうか?」

「ユウキ?大丈夫よ、入って」

「失礼します」

 部屋の中に入る。この部屋には初めて入ることになる。シェアルさんと掃除をする際にもこの部屋は入らないように言われていた。前の領主様、エレナお嬢様の父親の部屋であり、今ではエレナお嬢様が使っている部屋で、重要な書類もあるので使用人だけでは入ってはいけないといわれている。

 中にはアルゼさんもおり、こんな遅くまで二人とも机の上の書類を片付けている。領主とはいえこんな幼い子供が遅くまで働かなければならないなんてな。

「どうしたのユウキ?2人に何かあったの?」

「いえ、先ほど様子を見てきましたが、2人ともぐっすりと寝ておりました。明日は昼過ぎまで起きないかもしれませんね。

 今日のことでエレナお嬢様にどうしてもお礼が言いたくてきました。俺の願いを聞いてくれて、あの2人を買っていただいて本当にありがとうございました!」

 俺は頭を限界まで下げる。最敬礼どころか90度以上頭を下げていた。

「ふふ、別にいいのに。どちらにしろ人手を増やすつもりだったからちょうどよかったわ」

「それでもわざわざ子供を買う必要なんてなかったはずです。それにサリアに至っては通常の値段の3倍ものお金をだしていただきました。

 俺のためにありがとうございます、このご恩は決して忘れません!!」

「……ユウキ、本当に謝らなくちゃいけないのは私のほうなの」

 急にエレナお嬢様が暗い表情になる。んん?どういうことだ?別にエレナお嬢様が謝るようなことは何一つないと思うのだが。

「この国にはまだ奴隷制度という古くからある悪習が残っているわ。周りの裕福な国は次々に廃止している制度なのにね。私のお父様と、お父様がなくなってからは私もこの国でも奴隷制度を廃止できるように動いてきたの。

 でもこの街の領主といっても3つに別れた地区のうちのひとつでしかないし、お父様が事故で亡くなってからは一番力も弱くなってしまったわ。そして今までに何ひとつ変えられなかったわ……」

 エレナお嬢様の顔がどんどん険しくなってくる。そうかこの国以外の国では奴隷制度がない国もあるんだな。元の世界の歴史でもそうだったが国が裕福になるにつれて奴隷制度は廃止になっていくことが多い。まだこの国はそこまで至ってはないのだろう。

「この国は他の国と比べてあまり裕福じゃないし、奴隷という労働力がなければ多くの街が破綻することが目に見えているの。この街ですらそうよ、奴隷制度を廃止したいと思っている領主が人手が足りなくて奴隷を買うのよ、ふふっ本当に馬鹿みたいじゃない!」

 エレナお嬢様は自嘲気味に笑っている。そしてその目からはうっすらと涙が見える。今までもずっと一人でつらい気持ちに耐えてきたのだろう。

「……だからね、ユウキやみんなが奴隷としてひどい目にあっているのは私達みたいな国や街の偉い人たちのせいなの。私が他の人より優しいなんてうそ、奴隷制度を廃止するなんてことができっこないからせめて奴隷の人たちには優しくしてあげようなんてただの偽善よね。

 ごめんねユウキ……何にもできなくてごめんね……」

「…………」

 そういうとエレナお嬢様は机に伏して泣き出してしまった。本当に小さな体だ。小学生高学年くらいの年でそんな大きなことをしようとしていたんだな。両親もいない、頼れる人も少ない、そんな状況で今まで頑張ってきていたんだな。

「何もできないなんてことは決してありません!エレナお嬢様は俺やあいつらを救ってくれました!偽善なんかじゃない、たとえエレナお嬢様がどんな気持ちであったとしても俺やあいつらを救ってくれたことは単なる善です!

 それに奴隷制度が廃止できないもエレナお嬢様のせいでは決してありません、この制度を作ったやつら、それに奴隷を作る盗賊どもや奴隷商のやつらが悪いのです!!

 エレナお嬢様、どうか顔を上げてください!!」

「……えっ?」

「俺は決めました!俺のすべてをかけてあなたを支え続けることを誓います!」

「えっ、えっ?えっ?」

 なぜか突然顔を真っ赤にして慌て始めるエレナお嬢様。あれっ?別に俺変なこと言ってないよね?

「あなたがやろうとしている奴隷制度の廃止に全力で協力します!この街だけでなく、この国、この世界のすべての奴隷を解放しましょう!!」

「奴隷風情が奴隷を解放するなどと大口を叩くではないか?」

 今まで黙って俺とエレナお嬢様のやりとりを聞いていたアルゼさんが突然話しかけてきた。

「我が先代の主人も、現在の主人であるエレナ様も成し遂げることができなかったことをただの奴隷一人が協力したところで何か変わるとでも思っているのか?だとしたら思い上がりもはなはだしい!」

 この屋敷に連れてこられた時に受けたものとは比較にならないほど強いアルゼさんの瞳が俺を射抜く。リールさんの殺気にも勝っているかもしれない。だが俺はそのアルゼさん瞳から目を背けずに答えてみせる。

「ただの奴隷一人では無理でしょう。ですがここにいるユウキという一人の奴隷ならできるかもしれません!いえ、必ずエレナお嬢様とともにやり遂げて見せます!」

 確かに俺には勇者のようなチート能力なんてなく、言葉が通じるだけの全言語理解の能力しかない。元の世界の知識があると言っても普通の高校生レベルだ。それでも異世界から来た俺になら俺しかできないことがきっとあるはずだ。

「…………」

 勇者になって魔王を倒す、冒険者になって名を上げる、迷宮を探索してハーレムを手に入れる。そういうことは他の世界に転生された人たちに任せよう。

 俺はこの世界でこの人と共に、奴隷制度を廃止してすべての奴隷を解放してみせる!この国だけではない、この世界すべての奴隷を解放する。それがどんなに困難な道かは簡単に想像することはできない。だが例えその夢半ばで倒れようともその道を突き進んでみせる!!

 俺のような、あの髭面の男のような、マイルやサリアのようなものをこれ以上出させないためにも奴隷制度自体をすべてぶっ潰してみせる!!

 なあ神様、あんたはチート能力もくれず、盗賊のアジトの目の前に転移しさせて、奴隷としてつかまっても助けてくれなかった。だがこの人に巡り合わせてくれたことはあなたに感謝しよう!不幸中の幸いではない、幸い中の幸いだ。

「……せいぜい口だけの男にならないよう気をつけるんだな!」

「はい!俺のすべてを懸けますから見ていてください!」

「……なんだ、支え続けることを誓うってそっちのほうか。びっくりしちゃったじゃない」

「エレナお嬢様?」

「いえっ、なんでもないわ!ありがとうユウキ、ちょっとだけ元気がでてきたわ!一緒に頑張りましょう」

 真っ赤な顔をぶんぶんっと振って慌てている。よくわからないけど少しでも元気になってくれたのならよかった。

「はい、エレナお嬢様!あっ、最後にひとつだけ。これは完全に自己満足に過ぎないのでエレナお嬢様はそのままお待ちください!」

「えっ?何?」

 見よう見まねだけどこんな感じかな。右ひざを地面につき、左ひじを曲げ背中の後ろに、右ひじを曲げ腹の前に。こちらの世界であるのかわからないが、元の世界では騎士の忠誠のポーズをまねる。本当は剣があればもっと格好がつくのだろうけど俺の自己満足なのだからこれでいい。

「我は汝に絶対の忠誠を誓う!!」

 奴隷契約の際に述べた全く心をこめていない宣言とは違う。これは俺の覚悟だ!俺はあなたに絶対の忠誠を誓い、俺のすべてを懸けてあなたを守ると誓おう!そしてあなたからもらったご恩を返してみせる!!
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