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第13話 異世界の街へ
しおりを挟む今日でエレナお嬢様のお屋敷にきてから一週間が経った。ようやくこの屋敷での生活に慣れてきた。今の俺の生活はこんな感じだ。
朝早く起きてシェアルさんを起こし、朝食の準備。朝食を食べた後は後片付けをして、シェアルさんと一緒に屋敷の掃除。掃除の後はリールさんの手伝いがあればリールさんの手伝い、なければアルゼさんの手伝いをする。夕方前から夕食の準備を始め、夕食を食べ後片付けと次の日の朝食の準備。その後は自由時間で、最近ようやく少し余裕ができてきたので寝る前に筋トレを軽くしてから最後に汗を流して就寝といった流れだ。
実際に働いている時間は1日に14~15時間ほどである。元の世界の基準で言えば働きすぎといえるかも知れないが、牢屋の中に入れられた状態で何もすることがなく、満足な食事がもらえない奴隷商にいたころとは天と地との違いである。今はとても充実した奴隷生活が送れているといっても過言ではない。本当にエレナお嬢様には感謝している。
それにして1週間か。マイルやサリアはどうしているだろうか。神様が言うには1~2ヶ月くらいしか猶予がないから急がないと。もし誰かに買われてしまったとしてもエレナお嬢様のような優しいご主人様に買われていることを祈るしかない。
「おい奴隷、今日は街に行くぞ」
「はい、アルゼ様。えっと何をしに向かわれるのでしょうか?」
「例の屋台で使う道具を買いにいくからその荷物持ちだ。それと市場のほうでいろいろと買い物をしていくが、屋敷で使えそうな道具や調味料があれば購入するか検討しよう」
「承知しました」
異世界の街か。盗賊達のアジトから奴隷商に連れて行かれる時に少しだけ街の風景を見たが、あの時は気分も暗くて街を見ている余裕なんてなかったからな。今回も一応仕事といえば仕事だがすこしばかり楽しみではある。
何か必要なものはあったかな。そうだ、今度うどんやパスタみたいな麺料理を作りたいからその道具がほしいな。あとは調味料あたりか。できれば醤油や味噌がほしい。魚醤も悪くはないんだけどやっぱり日本人として醤油のほうがいいんだよな。あとはそろそろ味噌汁が恋しくなってきた。
屋敷の前に停めてある馬車へ行くとすでにリールさんがいた。
「おはようございます、リール様」
「やあ奴隷くん、おはよう」
「リール様も街へ行かれるのですね」
「そうだね、僕のほうでもいろいろと必要なものがあるからね。それに僕がいないと誰が馬車を運転するんだい?」
「確かにそうでした。あっ、でもアルゼ様なら馬車の運転もできそうなイメージがありますけどね」
「もちろんアルゼ様も運転できるよ。でもまあこれは僕の仕事でもあるから基本的には僕がいるときは僕が運転するのさ」
「なるほど」
「それじゃあきみも馬車に乗ってくれ。もう少ししたら出発するよ」
「承知しました」
後ろへまわり馬車に乗る。それにしても豪勢で綺麗な馬車だよなあ。さすがこの地区の領主であるエレナお嬢様の馬車である。
「あら、今日はユウキも街に行くのね」
馬車の扉が開き、エレナお嬢様とアルゼさんが馬車に入ってきた。
「はい、アルゼ様が屋台で必要なものを買いにいくのでお供しています。エレナお嬢様も街へお出かけですか?」
「ええ、たまには街に行かないと退屈しちゃうわ。このところずっとお仕事と習い事ばっかなんだもん」
「エレナ様はすでに立派なこの地域の領主です。あまり遊んでばかりいると領民に示しが付きませんよ」
「わかってるわよ、じい。だから普段は我慢しているでしょう。でも私だってたまにはお出かけしたいわ」
「……わかっておりますよ。ですが、街は危険でもあります。絶対に私から離れてはなりません」
「は~い、気をつけるわ」
そうか領主様ともなれば誘拐される危険もあるわけか。いやただ単にエレナお嬢様が可愛いらしいから狙われる可能性もあるぞ。元の世界でもいろいろな事案が出てたからな。うん、注意しておくに越したことはない。
おお~やっぱりすごい!この街に入ってくる時も衝撃を覚えたが、この街の大通りは何度見てもすごいな。今日も多くの人や馬車が行きかい、様々な種族の人々が道を歩いている。
「アルゼ様、僕は馬車を預けてそのまま必要なものを買ってきますね」
「うむ、了解した。3時間後くらいにまたここで待ち合わせるとしよう」
「かしこまりました。では後ほど」
街の一角で俺とエレナお嬢様とアルゼさんは馬車から降りて、リールさんだけ別行動するようだ。
「ではエレナ様、まず屋台に必要なものを買いに行くとしましょう。そのあとに市場をみてからエレナ様が行きたいとおっしゃっていたお菓子を売っている通りへ行きましょう」
「ええ、わかったわ」
三人で街を歩きながら必要なものを買っていく。屋台で使う鍋とコンロはすでにアルゼさんが発注しているので、今回は調理に必要なボウル、菜箸、計量カップや大皿、できた唐揚とポテトを入れる紙袋などを購入した。もうすでに結構な荷物になっている。
「ユウキ、大丈夫?少し持ちましょうか?」
優しいエレナお嬢様は俺を気遣ってくれているが、さすがにここで主人に荷物を持たせるようなことは絶対にできない。
「いいえ、まだ全然余裕ですよ。見た目より全然軽いですから」
「さすがユウキ、力持ちね!」
よし、今のエレナお嬢様の言葉で力が湧いてきたぞ!まだまだ全然持てそうだ。だが俺は断じてロリコンではないからな。
続いて俺達は市場へやってきた。一角の生えた狼のような魔物、両手で抱えられそうな太さの豚のような足、全長1メートルを超える大きさのグロテスクな魚、今まで見たこともないような食材が所狭しと置かれている。
食材だけではない。美しく真っ赤な色の毛皮、白く輝く何らかの魔物の牙、薬草や不気味な色をした液体の入ったビン。こっちのエリアはいろいろな素材を扱っているようだ。
これはテンションがあがる!これぞ異世界って感じがするぞ!
「こりゃすげえな……」
「ふふっ、どうこの街の市場は?この辺りの国でも一番でかいのよ。いろんな場所を旅してきたユウキも驚いたんじゃない?」
やべっ、つい口調が荒くなってしまった。
「大変失礼致しました!本当に驚きました。ものすごくいろいろなものが売られているんですね。今まで見たこともないようなものがいっぱいあります。それにお店の人も買い物をしている人も活気が良くていいですね。見ているだけでも楽しくなってきます!」
「そうね、ここがこの街で一番大きい市場だからこの辺りにある国からいろいろなものが集まってくるわ。さあ、みんなで市場をまわりましょう!」
アルゼさんと俺でエレナお嬢様をはさむような形で市場を回っていく。迷子になったりすると危ないからな。
エレナお嬢様は女性もののアクセサリーと服屋のお店をいくつか見ていた。やっぱり小さくても女の子なんだなと思う。魔物の素材や肉などはシェアルさんに少し聞いたくらいの知識しかないから今は手が出せない。俺は俺で魔物の素材のお店や香辛料などの店に興味津々だった。元の世界では見たこともないような食材がいっぱいで見ているだけでも楽しくなってくる。
そしてとある露店で足が止まる。おおっ、こいつはもしかして!
「お姉さん、お姉さん、これはもしかして味噌ですか?」
露店の主人と思われる獣人の女性に声をかける。ケモミミと尻尾から見て猫の獣人のようだ。思ったより猫よりの獣人のようで、かなり毛深く年齢はよくわからなかった。
「まったくお兄さんったらうまいわねえ。もうそんな歳じゃないってのに。それにしてもあんた奴隷のくせによく知っているじゃない。
隣の国のアデランドで作られている味噌っていう調味料よ。なんでも豆からできているらしいね。炒め物やスープに少しいれると美味しいわよ。ほら、ちょっと味みてみな」
「やっぱり!いただきます。……うん、思ったとおりの味だ」
異世界の味噌というからどんな味がするのかと思ったが、ちゃんと元の世界と同じような味がする。
「ほら、主人のお嬢ちゃんとそっちの執事さんもどうだい?」
「いただきます。ほう……塩辛い味がしますな。確かに炒め物には合うかもしれませんな」
「うわ~ありがとう。……う~ん初めて食べる味ね」
うん、ナスの甘味噌炒めとか最高にうまいしな。あとは日本人のソウルフードの味噌汁がある。
「すみません、同じように豆からできる調味料で醤油っていう調味料はありませんか?」
「あんた本当によく知っているね。確かに醤油はアデランドで作られているねえ。でも醤油は味噌と違って滅多に市場に出回らないからここには置いてないわよ。この国ではほとんど売られていないんじゃないかねえ」
「……そうですか。ありがとうございます」
残念、醤油はないか。まあでも隣の国にはあるという情報が得られただけ良かった。それにしても醤油は滅多に出回らないか。少なくとも今手に入れるのは難しそうだな。確か作るにしても1年くらいはかかるんだっけか。
「アルゼ様、もし可能であればこちらの味噌を料理で使いたいのですが。もちろんお値段が安ければですけど」
「ふむ……。ご婦人、こちらの味噌はおいくらですかな?」
「やだよう、こっちの執事さんもうまいんだから。そうね、こっちの入れ物に入っているので銀貨1枚だけどちょっぴりまけて銅貨9枚でどうだい?」
アルゼさんの仕事の手伝いをしている過程でこの国の通貨についても少し学んだ。この国の最低通貨は銅貨で、銀貨、金貨、大金貨の順になっている。銅貨が10枚で銀貨1枚、銀貨は10枚で金貨1枚、金貨10枚で大金貨1枚というレートだ。
「なるほど。こちらを試してみてもし気に入れば定期的に購入させていただくかもしれませんな。初回ということで銅貨8枚でいかがですかな、ご婦人?」
「あんたもうまいねえ。わかったよ、銅貨8枚でもってきな!その代わり気に入ったらまたうちに買いにきてちょうだいよ」
「ええ、もちろんですとも」
さすが完璧執事のアルゼさんだ、値引き交渉もお手の物か。無事に味噌をゲットできたようだ。いつか醤油も手に入れて見せるぞ!とりあえず今日の晩御飯は味噌汁と肉野菜の味噌炒めで決まりだな。
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