上 下
4 / 95

第4話 異世界の街並み

しおりを挟む

「……腹へった」

 盗賊どもに奴隷としてとらえられてから3日がたった。

 今まで3日間も何も食べないで過ごしたことなどなかったのでこれほど空腹が辛いとは思わなかった。人間って何日まで何も食わずに生きていられるんだろうなとぼーっとした頭で考えていた。確か水さえあれば一ヶ月くらいは生きていられるんだっけ。



「ユウキ兄ちゃん、今日もモモタロウの話して」

「ユウキお兄ちゃん、私はシンデレラがいい!」

 俺より早く捕まったはずなのに何でみんな俺より元気なんだよ……。でもまあ俺が最初にここに来た時よりはだいぶ元気が出てきたようでなによりだ。あの時は死んだ魚の目をしているというのをリアルで見たような気がしたよ。

 それにしてもよくこんなに童話を覚えていたものだ。俺も小さいころはこうして母さんから話をたくさん聞いていたのかな。本当に母さんに感謝だな。

 今日はどんな話をしてあげようか考えていると外がなんだか騒がしい。何か異変でもあったのだろうか。しばらくすると一人の盗賊がテントの中に入ってくる。

「おらクズ共、さっさと出てこい。これから街の奴隷商にお前らを引き渡すからよお。てめえらにとっちゃ最低限の飯は出てくるからここにいるよりはましになっかもしれねえぞ。せいぜい高値で売れてくれや」

 ……食い物か。そうか奴隷商も商売だから商品である俺達を死なせないためにも最低限の食事くらいは出してくれそうだ。少なくともこの盗賊のアジトにいるよりはマシかもしれない。

 俺達三人は荷馬車の後ろに乗っけられる。もしかしたらこの移動で逃げるチャンスがあるかもしれない。希望を捨てずに機会を見定めるんだ。





 残念なことに盗賊達と俺達の荷馬車は順調に二日間の道のりを超えて街に到着した。森を抜け広い草原を抜けて街の城壁の前までたどり着いた。日中は荷馬車を走らせて夜は野営をする。景色も日本では見られないようなとても広大で美しい草原を見れて、一緒の荷馬車に乗っている髭面で凶悪そうな顔をした同乗者がいなければ最高の旅になったに違いない。

 今日でこちらの世界にきてから5日が過ぎたことになる。この世界にきてからまだ何も口にしていないが、昨日辺りからもう空腹を感じなくなってきている。人間ここまで何も食べないとこんな状態になってしまうのか。この世界に来た時よりもすでにだいぶ痩せてきた気がする。



「すげえ、こんな大きな城壁はじめてだ」

 荷馬車の隙間から外を見るとそこには巨大な城壁があった。街の城壁は5メートル近くあり、レンガのようなものを積み上げてできているようだ。テレビとかで見るヨーロッパの城壁に見えるがなにぶんとてつもなく広い。

 街を丸々囲っているのか端から端まで移動するだけで半日くらいかかりそうだ。子供達も驚いている。村に住んでいたといっていたから、初めて街に来たのかもしれないな。

「がっはっはっ、兄ちゃん、いろいろ旅をしてきたっつってがこんなでけえ街にくるのは初めてか?ここいらじゃ一番でけえ街だからな、城壁もとんでもなくでけえだろ」

「すごいですね……というかこんな立派な街にあなた達が入れるんですか?」

「ああん?んなもん普通に入ったら捕まるに決まってんじゃねえか」

「へへっ、そこは裏技ってやつよ。今日のこの時間に行くと買収した門番に伝えてあっからな。俺たちが行ったときだけ検査はスルーって寸法よ」

「……なるほど、さすがですね」

 俺たちを売って金が手に入るおかげか盗賊たちの口は軽い。それにしても門番をすでに買収済みってわけか。買収を受けて盗賊達を街に引き入れる門番。この街も腐っていそうだな。

 盗賊達の言ったとおり、俺達や盗品がたくさん乗ったこの荷馬車はろくにチェックもされずに街の中に入れてしまった。とりあえず門番に助けを求めても無駄だということが事前にわかっていたのである意味よかった。



 城壁の中にはこれこそ異世界と呼べるような景色が広がっていた。門の前にはとても広い道、大勢の人々や荷馬車が所狭しと行きかうも余裕があるほどの広い道があった。行きかう人々の格好も様々であった。大きな荷物を背負った商人のような人、農作物をたくさん持った農民のような人、プレートアーマーを身につけて少し人相の悪い冒険者のような人と様々である。

 いや、人だけではない。頭から耳を生やし、長い尻尾をパタパタと振っている猫の獣人、ほとんど犬の姿のまま二足歩行しているような犬の獣人、毛むくじゃらの髭面をした少し背の低いドワーフなど人族以外の様々な種族がここに存在しているようだ。

 街の様子はとにかく雑多であった。大きな家に小さな家、二階建ての家なんかもある。材質も石でできていたり木でできていたり、コンクリートのようなもので塗り固められているような家もある。材料のままの色の家や白色や茶色、はたまた赤色や青色といった派手な色で塗られた家もあった。

 これらすべての存在が目の前に広がった瞬間、俺は一瞬ではあるが盗賊に奴隷として捕らえられたことを忘れてこの光景に目を奪われた。こんな状況でなければ、あの神様にこの世界につれてきてもらったことを感謝していたかもしれない。



「へへっ、それじゃあな、ガキ共に兄ちゃん!なかなかの高値で売れてくれたおかげで俺達は満足だ。これで今日はたらふくうまい酒が飲めるぜ。せいぜい達者で暮らせや、あばよ!」

 門から街に入って数十分。門の前の通りとはだいぶ違ったスラムのような雰囲気の場所にある商店に俺達を乗せた荷馬車は入っていく。そこで盗賊達は俺達をおろし、金を受け取っていた。

 くそったれ覚えていろよ、今度おまえらにあったら絶対にとっ捕まえて憲兵さん達に引き渡してやるからな!





 盗賊達から奴隷商に引き渡される際に両手両足の枷は外されたが、新たに奴隷商の枷が両手に付けられる。俺達は奴隷商の店の地下にある牢屋の中に入れられた。地下の牢屋は10以上あり、牢屋の中には多くの者が入れられていた。獣人などの人族以外の奴隷なども数多くいるようだ。不幸中の幸いか俺達三人は同じ牢屋に入れられた。

 牢屋は地下にあるため非常に薄暗い。廊下にある蝋燭のわずかな光しか入ってこない。そして何よりこの匂いがやばい。トイレは牢屋の隅にある穴にするようにいわれたがそこから臭う汚物の匂いが非常に耐えがたい。牢屋は地下にあるので窓などもないので換気ができず、数十人がこの地下にいるので排泄物の量も多いのだろう。どう考えても盗賊のアジトの環境のほうがよかった気がする。

 窓もなく頑丈な鉄格子に囲まれているため、ここから脱出することは非常に難しそうに思える。牢屋の鍵を奪って逃走するのが現実的だが、鍵は地上で管理してあるらしくどこにあるのかさえわからない。こういうとき元の世界の知識があってもどうにできない。



「おらよ、今日の飯だ。さっさと食え」

 この店の使用人らしい強面の狼の獣人が鉄格子の隙間から食料を放り投げ、水の入った桶を入れる。小さなパンが3つと生ゴミのような野菜の切れ端が今日のご飯だった。これが奴隷の食事か、さすがに心が折れそうになる。

「おいしい!よかったここではちゃんと食べ物をくれるんだね」

「わ~い、久しぶりのご飯だ」

「ユウキお兄ちゃん、食べないの?おいしいよ」

「ああ、ありがとうサリア、それじゃあ少しいただくよ」

 俺はサリアからパンをひとつと野菜をの切れ端をほんの少しだけもらった。こんな状況でも俺を気遣ってくれる本当にいい子達だ。俺が子供のころにこんな状況に陥ったら他人のことなど気にかけずに食料を全部独り占めしようとするかもしれない。

 よく考えたらこれが一週間ぶりの食べ物であり、この世界に来てはじめての食べ物である。それがガチガチのパンと野菜の切れ端か。異世界ものででてくるマンガ肉やドラゴンステーキとはほど遠い。とはいえどんなに不味そうでも食べものは食べ物だ。もはや腹も減りすぎて感覚がないがどれ。

 ……ちくしょう、うますぎて涙が出てきそうになる。

 おそらく酵母のようなものがないのだろうか、ガチガチに焼き固められた、パンとはいえないようなパン。地面に投げ捨てられ土がついたせいでジャリジャリとした感触少し残っている。野菜はキャベツの芯のような切れ端で少し腐り始めておりすっぱい味がしている。

 だがそれでも、そんなにひどくて食事とはいえないような物でも、俺が今までに食べたどんなものより美味しかったのだ。空腹は最高のスパイス?いやいやそんな生易しいものじゃない!極限状態にある状態ではどんな食べ物でもこんな味になるんだな。

 泣くな、こんなことで泣くなよ俺……

 危なかった、この子達がいなくて俺独りだったら間違いなく泣いていた。

「……そうだね、とっても美味しいな」

「うん、よかったよね、これからはちゃんとご飯食べれるんだよね」

 本当に優しくていい子達だ。むしろ年上の俺のほうが励まされるよ。

 なあ神様、もしこの状況を見ているんだとしたらさあ、この子達だけでも助けてやってくれないかな。なあ、頼むよ……
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…

小桃
ファンタジー
 商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。 1.最強になれる種族 2.無限収納 3.変幻自在 4.並列思考 5.スキルコピー  5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...