3 / 95
第3話 盗賊アジトにいた先客
しおりを挟む俺は盗賊のアジトのテントのひとつに入れられ両手と両足に鉄の枷をつけられた。奴隷に服なんざいらねえだろとシャツとズボンを取り上げられ今はパンツというかふんどしのようなもの一丁である。今がまだ暖かい夏でよかった。おそらくこいつらは冬であろうと同じように服を取り上げていただろう。
テントの中には見張りがいなかったので、両手と両足の枷を壊せないか試みたが駄目だった。他の世界からきた人はこちらの世界の人と比べて数十倍の力を持っているとかピンチになったことでこっそりと神様がくれた力が発動したとかそんな都合のいい展開にはならなかった。本当に頼むぜ神様……
そしてテントの中には先客がいた。10歳前後の男の子が一人と女の子が一人。子供が二人捕らえられているということはどこかの村からさらわれてきたのかな。二人ともだいぶ痩せていて虚ろな目をしているから、もしかしたら俺が捕らえられるよりもだいぶ前に捕らえられたのかもしれない。身体も心も弱りきっているせいなのか、いろいろと話しかけてみたけど全く反応が返ってこない。
俺と同じように枷をはめられ、更には鎖で俺の枷とも繋げられている。おそらく逃げられるのを避けるためだろう。さすがにこの状況では文字通り手も足も出ない。
水だけは近くにある川から汲んだ水が桶に入れられており勝手に飲むことができる。トイレはテントの外に掘った穴にし、もちろんトイレットペーパーなどないので穴の横に集められた葉っぱでふかなければならない。
結局今日はただひたすら寝ているだけだった。そもそもできることがないし、起きているだけで無駄に腹も減ってしまう。もうすぐ街の奴隷商に売るからおまえらに食わせる飯はねえと、何も食べさせてもらっていない。これが期待していた異世界かよ……
そして次の日。
「ちくしょーまた負けだ。もうやってらんねえよ」
「ガッハッハッ、相変わらず弱えな。悪いな、これで街に行った時に遊ぶ金ができたぜ」
テントの外から盗賊達の声が聞こえてくる。盗賊達は少しの人数をアジトに残して獲物を探しに動いているらしい。アジトに残った盗賊達は仲間内でバクチをしたりしていた。
「くそが!次はぜってーとりかえしてやるからな!ちっ、イライラするぜ。なあおい、捕まえた女のガキやっちまっちゃ駄目なのかよ?」
一緒のテントの中にいる女の子も聞こえたらしくガタガタと震えだす。そりゃあ怖いだろう、本当に腐ってるなこいつら。
「ああん?おめえあんなちっこいガキがいいのかよ?やっぱ女は胸だよ、胸。ナイスバディーのねえちゃんの奴隷がいりゃあ最高だったのによ」
「俺だって胸がでけえほうがいいに決まってんだろ。ただこうも長い間女がいねえとさすがにあれでもいいやって思えてくるわ。この前捕まえたやつはかなり具合がよかったのによう。勿体ねえよな一匹くらい売らずに俺達に残しといてくれりゃあいいのによう」
「ああ、この前のやつはよかったよな、思い出させんなよ。まあしょうがねえだろ、俺達の酒代のツケがたまりまくってたんだからよ。さすがにツケがきいて俺らみたいなもんが飲める店はここらへんじゃああそこしかねえから踏み倒すわけにもいかねえしな。
それにあのガキに手え出すのは駄目だぞ。女は初物だと値段が一気に跳ね上がるからな。勝手に手え出したら親分にたたっ切られるぞ!」
「だああっ、そうだよなあ、くそったれ。しょうがねえ、また腹いせに男のガキでも殴ってくるわ」
「男だったらかまやしねえよ。ああっ、わかってんと思うが顔は駄目だぞ。商品価値が下がっちまうからな」
「へへっ、んなこたわかってんよ。んなことより次はぜってー取り返すからな!」
「はっ、いくらでもかかってこいや。まっ、ストレス発散もいいが殺すんじゃねえぞ」
今度は男の子も震え出す。そうか俺が来る前にもさんざん殴られたんだろう、かわいそうに。よく見ると体にはたくさんの青あざがあった。
入り口から一人の盗賊が入ってくる。ああっこいつは俺を騙したてここまで連れてきた盗賊のうちの一人だ。確か仲間内ではボレアとか呼ばれてたっけ。
「へへっ、さあお楽しみの時間だぞ。おっと今日からは新入りもいるんだったっけな。まあもう少しで街にいくから新入りは勘弁してやるよ。ちっとでも身奇麗にしときやがれ。さあて今日はどんなことして遊んでやるかな」
……どうやら俺ではなく男の子を殴ろうとしているようだ。にやにやと下卑た笑いを見せつけながら男の子が怯えている様を見て楽しんでいやがる。
くそっ、ちょっとでもほっとしてしまった自分が情けねえ。別に俺だってそんなたいした人間じゃないことは自分でもわかっているが、こんな小さな子供が殴られるのを黙ってみているのは違うだろ。
「……博打で負けて小さい子供に八つ当たりとか情けねえ」
俺はボレアとか言う盗賊に少しだけ届くような小さな声でぼそっとつぶやく。
「……ああん、てめえ今なんつった?」
「いえっ、別に何も言ってませんよ」
わざと言ったことがばれないように、やばい聞かれてしまった、っとちょっと焦ったようにふりをする。
「嘘つけ、聞こえてんだよ!てめえにしねえとわかったとたんに調子に乗りやがってよ!ああもういい、今日はてめえだ。ここでの礼儀をたっぷりと教えてやるよ」
予定通り怒ったボレアがターゲットを俺に変える。
「がはっ!」
「はっ、何もできねえ雑魚の分際でわめいてんじゃねえよ。おらよ、もう一丁!」
いって!思いっきり腹を蹴ってきやがった。今まで喧嘩なんてしたことがないからこんな衝撃初めてだ。やっべ本気で痛てえ。
「すみません、もう勘弁してください」
こういう連中はつまらない反応をすると簡単にターゲットを変更するからな。こいつらが望むような反応をしてやらないと。……決して想像以上に痛かったからこいつらに屈してしまったわけではないぞ。
「へへっ、てめえの身の程がわかったか。おらっ、まだ終わりじゃねえぞ!」
そういってこいつは十分以上俺を蹴り続けた。ちくしょう、ボレアとかいったな、この恨みはぜってえ忘れねえからな!
「ふうっ、ちったあスカッとしたぜ。てめえはなかなか蹴り心地がいいじゃねえか。またてめえで憂さ晴らししてやるから楽しみに待ってな!」
ようやく気が晴れたのかボレアがテントから出て行く。くそっ、ドラマとかでみるのと違って本気で蹴られるとマジで痛いんだな。昨日から何も食ってないから吐けるもんもでねえや。
「……痛ってえな」
くそったれ、これが異世界かよ。チート能力で俺TUEEEとか夢のまた夢か、現実はひどいもんだな。ちょっと本気で涙がでてきそうだ。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「ありがとう兄ちゃん、僕をかばってくれたんだよね?」
二人が話し掛けてくる。よかった、話しかけても全然反応がなかったから話せないのかと思ってた。この二人からしたら見知らぬ俺を怪しんでいたのかもしれない。
それにしてもやっぱりバレバレだったか。こんな小さな子供たちが気付いているのにボレアとかいう盗賊は本当にまぬけなやつだな。
「……なんのことだかな。それより二人とも大丈夫か?いつもあんな風に殴られたり蹴られたりしてきたのか?」
「うん。たまに怖いおじさんがきて僕をぶってくるんだ。半分くらいはさっきのおじさん」
なるほど、暇な時に博打をしているから負けたやつが代わる代わる腹いせに来るのか。半分くらいあのボレアとかいうやつが来るってことはあいつは博打に弱いのかもな。
「そうか、よく我慢しているな、えらいぞ!俺の名前はユウキだ、よろしくな」
「僕はマイルだよ。こっちの子はサリアちゃん。村の外で二人で遊んでいたらあいつらに捕まっちゃって……」
「……そうか。マイルくんもサリアちゃんも大変だったな。助けが来るかもしれないし、希望を捨てずにがんばろうな!」
「もう無理よ、助けなんてくるわけないよ!もう私達一生奴隷として過ごすしかないんだわ!」
女の子、サリアちゃんが突然大きな声をあげる。いろいろと張り詰めていたんだろうか、目から大粒の涙をこぼして泣き始めてしまった。
……まあそうだよな、正直俺もここから助けが来る可能性はほとんどないと思っている。でもだからといって一生奴隷でいるつもりなんて全くない。もしかしたらここから街に移動する際に逃げられるチャンスがあるかもしれないし、この世界の奴隷制度がどんなものかしらないけれど、たとえ奴隷になったとしてもきっと自由になれる道があるはずだ。
「サリアちゃん、確かに助けが来る可能性はあまりないかもしれない。けどね、助かる可能性が完全にゼロというわけでもないと思うんだ。もしチャンスが来た時に完全に諦めていたらそれこそ助かる可能性は完全にゼロになっちゃうと思うよ」
「嘘よ!もうお父さんやお母さんにも会えないんだわ!」
「嘘じゃないよ。俺は奴隷から解放された人も大勢知っているし、自由になった人がいることも知っている」
元の世界では国によっては自分を買い戻すことができる制度がある国もあったはずだ。それに奴隷解放宣言で、すべての奴隷は一斉に解放された。
「……本当?またサリアの村に帰れる?」
「ごめんそれはわからない、でも諦めないということはそれだけでとってもすごいことなんだ。最後まで諦めなかったから大逆転できた人たちを俺は大勢知っているよ。諦めなければいつかきっと自由になってサリアちゃんの村にも帰れるかもしれないよ。
とはいえ今は耐えることしかできないんだけどね。そうだ、実は俺はここからすごく遠くにある場所から旅してきたんだ。ここに来るまでにいろんな人にいろんなお話を聞いてきたんだ。みんなにも聞かせてあげるね」
こういう時は元気の出る話をしてあげよう。定番なところで桃太郎や一寸法師とかどうだろう。あとサリアちゃんにはシンデレラとか白雪姫とかがいいかな。この世界の子供たちはたぶんこんな話は聞いたことはないだろう。
「むか~しむかしあるところにおじいさんとおばあさんが……」
さすが日本昔話とグリム童話、子供達は興味津々に話を聞いてくれた。こんなことしかできない自分の無力さが本当に嫌になるが、これで少しでも元気が出てくれるといいんだけど。
0
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
異世界でキャンプ場を作って全力でスローライフを執行する……予定!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
お気に入りに追加
364
あなたにおすすめの小説
女神様の使い、5歳からやってます
めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。
「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」
女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに?
優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕!
基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。
戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。


加護とスキルでチートな異世界生活
どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!?
目を覚ますと真っ白い世界にいた!
そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する!
そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる
初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです
ノベルバ様にも公開しております。
※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません

宇宙戦争時代の科学者、異世界へ転生する【創世の大賢者】
赤い獅子舞のチャァ
ファンタジー
主人公、エリー・ナカムラは、3500年代生まれの元アニオタ。
某アニメの時代になっても全身義体とかが無かった事で、自分で開発する事を決意し、気付くと最恐のマッドになって居た。
全身義体になったお陰で寿命から開放されていた彼女は、ちょっとしたウッカリからその人生を全うしてしまう事と成り、気付くと知らない世界へ転生を果たして居た。
自称神との会話内容憶えてねーけど科学知識とアニメ知識をフルに使って異世界を楽しんじゃえ!
宇宙最恐のマッドが異世界を魔改造!
異世界やり過ぎコメディー!

異世界転生漫遊記
しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は
体を壊し亡くなってしまった。
それを哀れんだ神の手によって
主人公は異世界に転生することに
前世の失敗を繰り返さないように
今度は自由に楽しく生きていこうと
決める
主人公が転生した世界は
魔物が闊歩する世界!
それを知った主人公は幼い頃から
努力し続け、剣と魔法を習得する!
初めての作品です!
よろしくお願いします!
感想よろしくお願いします!

元チート大賢者の転生幼女物語
こずえ
ファンタジー
(※不定期更新なので、毎回忘れた頃に更新すると思います。)
とある孤児院で私は暮らしていた。
ある日、いつものように孤児院の畑に水を撒き、孤児院の中で掃除をしていた。
そして、そんないつも通りの日々を過ごすはずだった私は目が覚めると前世の記憶を思い出していた。
「あれ?私って…」
そんな前世で最強だった小さな少女の気ままな冒険のお話である。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】
一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。
追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。
無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。
そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード!
異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。
【諸注意】
以前投稿した同名の短編の連載版になります。
連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。
なんでも大丈夫な方向けです。
小説の形をしていないので、読む人を選びます。
以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。
disりに見えてしまう表現があります。
以上の点から気分を害されても責任は負えません。
閲覧は自己責任でお願いします。
小説家になろう、pixivでも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる