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第1話 突然ですが君は死んでしまいました!
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目を開けると真っ白な空間にいた。あたりを見回しても本当に何もなく、ただひたすらに真っ白な空間が広がっている。
「なんだこれ、夢か?」
確か昨日は部活のあと普通に家に帰って飯を食って寝たはずだ。大会が近いから普段より遅くまで練習してたから疲れきってすぐに布団に入ったところまで覚えている。まあ夢なんだろうな。でも夢の中とは少し違うような感覚もする。
「やあやあはじめまして向井勇樹くん、気持ちはわかるけどここは夢の中じゃないよ」
なんとなくつぶやいた言葉に返事があった。突然背後から声をかけられふりむくと、そこにはいつのまにかちゃぶ台があり、その前に正座で座る幼女がいた。
さっきまで何もなかった空間、そこに突如として現れたちゃぶ台と幼女。女の子は外国人のようで金髪碧眼でかわいらしい顔立ちをしており白いワンピースを着ている。見た目からすると小学校低学年くらいかな。
なんだやっぱり夢か。でなければこんな意味のわからない状況に陥るわけがない。そういや明日は英語の小テストがあるんだったな。少し早く目覚ましをセットしたから早めに起きて少しでもテスト範囲を復習しておかないと。1学期は英語の成績2だったから2学期は3を取りたいんだよな。
「だから夢じゃないってば。現実逃避してくだらないことを考えてないで、詳しいことを説明するからさっさとそこに座ってくれるかな。こっちもそれほど暇じゃないんだよ」
いや、おもいっきり現実的なことを考えているんだけど。まあいいや、どうせ夢だしとりあえずこの幼女の言うことに従っておくか。
言われたとおりちゃぶ台の前に置いてある座布団の前に座る。それにしてもちゃぶ台と座布団なんて久しぶりに見たな。田舎のばあちゃんの家で見た以来かも。
「うん、物分りが良くて実に結構。ではまず最初に現状を説明しよう。突然ですが君は死んでしまいました!」
「はあっ!?」
「向井勇樹、享年17歳、死因は心不全。若いのに残念だったねえ……まあこればっかりは運だからよっぽど運が悪かったんだね。とはいえここに呼ばれるということは不幸中の幸いってところかな。それに就寝中だったからほとんど苦しまずに逝けたようだね、ある意味幸運というべきか」
確かにちょっと人より運が悪いけどさあ、昨日は通学中にカラスの糞が見事にヒットしちゃったし。これで今年に入って3回目でなんですけど……って違~う!俺が死んだって何言ってんだこいつ。
じゃあここにいる俺は何なんだよ。ここが天国か地獄とでも言うつもりかよ。って夢の中で俺は何をそこまでむきになってるんだか。
「なんだやっぱりただの夢か」
「だから夢じゃないってば。しょうがないな、まずはそこからわかってもらおうか」
そういって女の子は右手を俺の目の前に突き出し、何かをつかむようにゆっくりと手のひらを握り締める。
「がっ、がはっ!」
とたんに俺の胸に鋭い痛みが走る。なんだこれは、こんなもん今まで経験したことがない!痛い、苦しい、息ができない!やばい、これは死ぬ、死んじまう!
目の前の女の子が手のひらを広げるととたんに胸の痛みが治まる。なんだったんだ今の痛みは?あんな痛みは経験したことがない。よく夢の中でほっぺをつねって現実か確かめるみたいな表現があるけれど、この痛みはそんな生易しいものなんかじゃない。まるで心臓を鷲づかみされているような感覚だったぞ。
「はあっ、はあっ」
「どうだい、これでちゃんとここが夢の中じゃなくて現実だってことがわかったかい?わからないなら今度は今の10倍くらいの痛さにしてみるけど」
そういって女の子は右手を握ったり開いたりする。冗談じゃない、今の10倍の痛みなんて絶対に耐えられない。そんなの信じられなくてもわかったと言うしかないじゃないか。
「はあっ、はあっ、わかった、ここは現実なんだな。わかったからもう勘弁してくれ」
「……まだ完全には信じてくれてないような顔をしているね。まあいいや、それでもちょっとは信じてくれるようになってくれたようだし話を進めよう」
「ていうか今が現実ならここはどこだよ。そしてあんたは誰なんだ?そもそも俺は死んだんじゃなかったのか?」
「そうだね、君の疑問もごもっともだ。君の質問に順番にこたえていくとしよう。まずここは君達の世界で言う生と死の狭間とでもいうべきかな、いわゆる死後の世界と思ってくれていい。そしてボクは君達の世界で言うと神様というべき存在になるね。死んだ後の魂を管理する存在だ。
そしてなぜ君がここにいるかだね。確かに普通の生命体は死んだらその魂は完全にリセットされて別の生命体へと生まれ変わる。君の世界でいう輪廻転生というもの実は正解なんだよ。本来ならば君も今まで生きてきた記憶をリセットされて別の生命体に生まれ変わるところなんだけど……
おめでとう、君は運がいい!君は今のままの記憶と体を持って別の世界に転生できることになった!」
ああ俺これ知ってる。ネット小説でよく読んだ異世界転生だ。はじめは友達に市販されている小説を進められて読んでみたらそのままはまってしまい、今ではそれ以外のネット小説もたくさん読んできた。
その中でよく見る異世界転生ものとほとんど同じような状況だ。でもおかしい、こういった異世界ものはトラックにひかれて転生するのがパターンじゃないのかよ。
「……ええっと神様、それはとてもありがたいのですが、今のままの記憶と体を持って元の世界に戻してもらうことはできないのでしょうか?」
異世界に転生するのもいいんだが、正直俺は今の生活が嫌いではない。家族や友達とこの若さで別れるのはさすがにきつい。
「残念だけどそれは無理だね。そもそもこれは特例の措置なんだ。簡単に説明するとだね、当然だけどこの世には君達の世界の他にも非常に多くの世界が存在しているんだ。そして基本的には生命が死んだ際にその魂はそれぞれの元の世界と同じ世界に生まれ変わる。
それぞれの世界での魂の数は一定数で保たなければならない。ただし、非常に低い確率で別の世界に転生してしまうことがあるんだ。その非常に低い確率が重なることによって特定の世界の魂の数が多くなったり少なくなってしまう。
その数を調整するためにあるタイミングで生命体が転生する際に魂が多い世界から少ない世界へ魂を移動させるってわけ。どの魂を移動させるかだけど、そこは完全に運次第。その魂に君が選ばれたんだ。
まあぶっちゃけ本人と話をしないで勝手に移動させればいいんだけど、そこはお役所仕事って感じで一応許可を取らないといけないんだよね。
さて、君が選択できるのは二つにひとつだ。ひとつ目はこのまま記憶と体をリセットしてもとの世界に転生すること。二つ目は今の記憶と体を引き継いで別の世界へ転生することだ。
今の世界の記憶を引き継げる分こっちのほうが有利になることが多いからこっちの選択肢のほうがおすすめだね!」
……そうか元の世界に戻るのは無理なのか。というかこんなのほぼ一択じゃないか。魂がリセットされるっていうのは俺にとっては死ぬことと同義なんだから、死ぬか別の世界に転移と考えるならそちらを選ぶしかないじゃないか。
「……本当に元の世界に戻ることはできないんですよね?」
「残念だけどそれは無理だ、諦めてくれ。さすがに死んだ者を生き返らすことはできないからね。それから世界間を移動するようなことは当然できない。別の世界に行った後にも元の世界に戻ってくることはできないからね」
「……わかりました。それでは別の世界でお願いします」
どうやらもうどうにもならないらしい。父さん、母さん、迷惑ばかりかけてごめん、今まで本当にありがとう。俺は死んじゃったらしいけどふたりは元気でいてほしいな。
「うんうん、物分りのいいことは評価できるね。それじゃあこれから君が向かう世界のことを簡単に説明してあげよう。この世界は君の世界でいうと西暦1000年くらいの中世時代の文明レベルだね。君が暮らしている世界のほうがかなり進んでいると思ってくれていい」
う~ん、それは悪いニュースでもあり良いニュースでもあるな。よくネット小説とかで読む異世界ものも大体そんな時代だが、実際に生活しようとするなら現在の日本で暮らしなれてる人にとってはきついんじゃないか。きっと風呂もないだろうし、食事事情も日本よりだいぶ劣るに違いない。
とはいえそんな時代に現代の知識を持っている俺が行くとなるとだいぶ有利な状況になりそうだ。いわゆる知識チートってやつができそうだな。とりあえずリバーシを作っておけばいいんだよね。
「君の世界との大きな違いとしては人間という種族だけでなく様々な種族が存在していることだね。人間、獣人、エルフ、ドワーフに魔族といった種族だ代表的だね。
それからこちらの世界には魔法というものが存在するよ。君の世界のアニメや漫画といったっけ?ああいった創造物の中にでてくるような魔法が実際に存在する世界だ。どうだい、ちょっとは興味がでてきたんじゃないかい?」
「おお~!いっきにファンタジーになりましたね。はい、とても興味がでてきました!」
俺も男だ。ケモミミやエルフやドワーフのハーレムものや俺TUEEE系の小説に少しは憧れがある。
「そうだろう、そうだろう!君の世界では想像上のものにすぎなかった生物や魔法という存在があるんだ、それは興奮しても仕方がないよね。ああっ、安心してくれていいよ、向こうの世界に行けば君も魔法を使えるようになるからね」
いいねえ魔法かあ、俺はどんな魔法が使えるようになるんだろうな。古の古代殲滅魔法なんちゃらあみたいな感じか?くうっ、中二心をくすぐるぜ!
「まあ細かいところは向こうの世界に行ってから、向こうの世界の住人に聞いてくれ。さすがに僕も細かいところまで説明している時間はないからね。何かそちらから質問はあるかい?」
「……ええっと、向こうの世界についてから俺は自由にしていいんですか?魔王を討伐に行けとかはないんですよね?」
「魔王を討伐?別に君の自由にしてくれてもらって構わないさ。君の元いた世界の知識を使ってお金を稼いでもいいし、向こうの世界は魔物が多く生息し、そこそこに物騒だから体を鍛えて冒険者になってみるのもいいんじゃないかい?
まあぶっちゃけた話、君が向こうの世界に行ったあとは魂の移動も完了しているし、すぐに死んじゃっても構わないんだよね」
「ぶっちゃけすぎだ!」
さすがにそれは勘弁願いたい。俺からしたら何のために異世界にきたのか意味がわからなくなる。
「ははっ、さすがにそれは冗談だよ。せっかくこうして君と会えたのも何かの縁だしさ。せいぜい向こうの世界では長生きして人生を楽しんでくれたまえ」
「勘弁してくださいよ……後は何かあるかな。ええっと、向こうの世界ではレベルやスキルみたいな概念はあるんですか?」
「ううん?レベル、スキル?ああっ、君の世界にあるゲームやアニメの中の概念か。ないない、そんな仕組みはないよ。魔法や剣の腕は完全に個人の才能と修練によるものになるね」
「なるほど、簡単に強くなるのは難しい世界のようですね。ええっとあとは……」
「おっと、残念だけどもうそろそろ時間のようだ。最低限のことはもう説明したし、あとは実際に向こうの世界で自分で確認してくれたまえ」
「わかりました。いろいろとありがとうございました」
「うんうん、年の割りに礼儀正しくて好感が持てるね。それじゃあ最後にこれから異なる世界に向かう君に特大のプレゼントをあげようじゃないか!」
おおっこれが神様の恩恵タイムですね。異世界ものをよく読んでるから知ってますよ。とりあえず言語能力とアイテムボックスと鑑定能力はどの異世界ものでももらえるよね。
あとはなんだろう、ベタだけど魔法の全属性適正とか便利そうでいいな。それか世界中で俺しか使えないチート能力かな。伝説級の武器や防具なんかでも嬉しいですよ。
「本当ですか!ありがとうございます、感謝します!」
「ふっふっふっ、そうだろうそうだろう。神である僕に感謝するといい。いきなり今とは異なった世界に向かうわけだからね。この力があるのとないのでは人生が変わるといっても過言ではない。
君に与える力、それは『全言語能力』だ。現在向こうの世界で広く使われているのは共通言語といって多くの種族で幅広く使われている。この力はその共通言語だけでなく一部の場所でしか使われていない言葉さえも話すことができ、更には読み書きまでもできるという非常に優れた力だよ。
これで向こうの世界のどこにいってもそこにいる種族の者達とコミュニケーションが取れるというわけだ」
「それはすごい!これで向こうの世界の人達との意思疎通は大丈夫ですね」
言われてみれば異世界ものだとあまりに定番過ぎるけどこれがないとその時点でほぼ詰むもんな。さあ次は順番的にアイテムボックスかな。できれば容量制限がなくて時間が停止してるやつだと嬉しいんだけど。
「うん、うん、喜んでもらえようでなによりだね。それじゃあ勇樹くん、そろそろ向こうの世界に送るよ、準備はいいかい?」
「…………んんっ?」
えっと、まだ『全言語能力』しか貰ってないんですけど。アイテムボックスは?鑑定能力は?チート能力は?
「あれっ、まだ何か質問があるのかい?」
「えっといただける力は『全言語能力』だけですか?アイテムボックスとか鑑定能力みたいなのはいただけないんですか?」
「あははっ、勇樹くんは面白いことを言うね。そんなすごい力をそう簡単にいくつもあげられるわけないじゃないかい?漫画や小説の読み過ぎだよ」
まじかよ、言語能力だけかあ。せっかくならチート能力とか欲しかったんだけれど。これじゃあ異世界で俺TUEEEできないじゃん。
「……不満そうな顔をしているね。なんだったら『全言語能力』もなしでよさそうだね」
「いやいや不満なんてとんでもない。ありがとうございます、『全言語能力』なんてとんでもない力をいただけて俺は幸せ者です!」
この上言葉すら通じない状況とか本当に無理です、無理ゲーにもほどがあります。
「なんだか無理やりいっているような気がしてならないけどまあいいや。
あと君を向こうの世界に送る時にはどこになるかわからないけど、近くに君と同じ人族が大勢いる場所の近くに送ってあげるからその人達を頼るといいんじゃないかい。同じ人族同士、なんとかなるだろう」
「はい、いろいろとありがとうございます」
なんだかんだで俺のことを気遣ってくれているようだ。いきなり胸に激しい痛みをくらった時は神様ではなく地獄の閻魔様かと思ったけれどそれほど悪くない神様のようだ。
「うん、それじゃあ向井勇樹くん、元気でね。なんだかんだで君達のような存在と話ができて僕も少しばかり楽しかったよ。これから君に神のご加護があらんことを!」
本物の神様に言われると重みが違うな。異世界へ行った後もいいことがありそうだ。
「お世話になりました。神様もお元気で!」
感謝の意をこめて頭を下げる。すると目の前の真っ白な空間が暗転していく。どうやら異世界への転送が始まったようだ。
これから始まる俺の異世界ライフ。果たして何が待ち構えているのだろうか楽しみだ。
「なんだこれ、夢か?」
確か昨日は部活のあと普通に家に帰って飯を食って寝たはずだ。大会が近いから普段より遅くまで練習してたから疲れきってすぐに布団に入ったところまで覚えている。まあ夢なんだろうな。でも夢の中とは少し違うような感覚もする。
「やあやあはじめまして向井勇樹くん、気持ちはわかるけどここは夢の中じゃないよ」
なんとなくつぶやいた言葉に返事があった。突然背後から声をかけられふりむくと、そこにはいつのまにかちゃぶ台があり、その前に正座で座る幼女がいた。
さっきまで何もなかった空間、そこに突如として現れたちゃぶ台と幼女。女の子は外国人のようで金髪碧眼でかわいらしい顔立ちをしており白いワンピースを着ている。見た目からすると小学校低学年くらいかな。
なんだやっぱり夢か。でなければこんな意味のわからない状況に陥るわけがない。そういや明日は英語の小テストがあるんだったな。少し早く目覚ましをセットしたから早めに起きて少しでもテスト範囲を復習しておかないと。1学期は英語の成績2だったから2学期は3を取りたいんだよな。
「だから夢じゃないってば。現実逃避してくだらないことを考えてないで、詳しいことを説明するからさっさとそこに座ってくれるかな。こっちもそれほど暇じゃないんだよ」
いや、おもいっきり現実的なことを考えているんだけど。まあいいや、どうせ夢だしとりあえずこの幼女の言うことに従っておくか。
言われたとおりちゃぶ台の前に置いてある座布団の前に座る。それにしてもちゃぶ台と座布団なんて久しぶりに見たな。田舎のばあちゃんの家で見た以来かも。
「うん、物分りが良くて実に結構。ではまず最初に現状を説明しよう。突然ですが君は死んでしまいました!」
「はあっ!?」
「向井勇樹、享年17歳、死因は心不全。若いのに残念だったねえ……まあこればっかりは運だからよっぽど運が悪かったんだね。とはいえここに呼ばれるということは不幸中の幸いってところかな。それに就寝中だったからほとんど苦しまずに逝けたようだね、ある意味幸運というべきか」
確かにちょっと人より運が悪いけどさあ、昨日は通学中にカラスの糞が見事にヒットしちゃったし。これで今年に入って3回目でなんですけど……って違~う!俺が死んだって何言ってんだこいつ。
じゃあここにいる俺は何なんだよ。ここが天国か地獄とでも言うつもりかよ。って夢の中で俺は何をそこまでむきになってるんだか。
「なんだやっぱりただの夢か」
「だから夢じゃないってば。しょうがないな、まずはそこからわかってもらおうか」
そういって女の子は右手を俺の目の前に突き出し、何かをつかむようにゆっくりと手のひらを握り締める。
「がっ、がはっ!」
とたんに俺の胸に鋭い痛みが走る。なんだこれは、こんなもん今まで経験したことがない!痛い、苦しい、息ができない!やばい、これは死ぬ、死んじまう!
目の前の女の子が手のひらを広げるととたんに胸の痛みが治まる。なんだったんだ今の痛みは?あんな痛みは経験したことがない。よく夢の中でほっぺをつねって現実か確かめるみたいな表現があるけれど、この痛みはそんな生易しいものなんかじゃない。まるで心臓を鷲づかみされているような感覚だったぞ。
「はあっ、はあっ」
「どうだい、これでちゃんとここが夢の中じゃなくて現実だってことがわかったかい?わからないなら今度は今の10倍くらいの痛さにしてみるけど」
そういって女の子は右手を握ったり開いたりする。冗談じゃない、今の10倍の痛みなんて絶対に耐えられない。そんなの信じられなくてもわかったと言うしかないじゃないか。
「はあっ、はあっ、わかった、ここは現実なんだな。わかったからもう勘弁してくれ」
「……まだ完全には信じてくれてないような顔をしているね。まあいいや、それでもちょっとは信じてくれるようになってくれたようだし話を進めよう」
「ていうか今が現実ならここはどこだよ。そしてあんたは誰なんだ?そもそも俺は死んだんじゃなかったのか?」
「そうだね、君の疑問もごもっともだ。君の質問に順番にこたえていくとしよう。まずここは君達の世界で言う生と死の狭間とでもいうべきかな、いわゆる死後の世界と思ってくれていい。そしてボクは君達の世界で言うと神様というべき存在になるね。死んだ後の魂を管理する存在だ。
そしてなぜ君がここにいるかだね。確かに普通の生命体は死んだらその魂は完全にリセットされて別の生命体へと生まれ変わる。君の世界でいう輪廻転生というもの実は正解なんだよ。本来ならば君も今まで生きてきた記憶をリセットされて別の生命体に生まれ変わるところなんだけど……
おめでとう、君は運がいい!君は今のままの記憶と体を持って別の世界に転生できることになった!」
ああ俺これ知ってる。ネット小説でよく読んだ異世界転生だ。はじめは友達に市販されている小説を進められて読んでみたらそのままはまってしまい、今ではそれ以外のネット小説もたくさん読んできた。
その中でよく見る異世界転生ものとほとんど同じような状況だ。でもおかしい、こういった異世界ものはトラックにひかれて転生するのがパターンじゃないのかよ。
「……ええっと神様、それはとてもありがたいのですが、今のままの記憶と体を持って元の世界に戻してもらうことはできないのでしょうか?」
異世界に転生するのもいいんだが、正直俺は今の生活が嫌いではない。家族や友達とこの若さで別れるのはさすがにきつい。
「残念だけどそれは無理だね。そもそもこれは特例の措置なんだ。簡単に説明するとだね、当然だけどこの世には君達の世界の他にも非常に多くの世界が存在しているんだ。そして基本的には生命が死んだ際にその魂はそれぞれの元の世界と同じ世界に生まれ変わる。
それぞれの世界での魂の数は一定数で保たなければならない。ただし、非常に低い確率で別の世界に転生してしまうことがあるんだ。その非常に低い確率が重なることによって特定の世界の魂の数が多くなったり少なくなってしまう。
その数を調整するためにあるタイミングで生命体が転生する際に魂が多い世界から少ない世界へ魂を移動させるってわけ。どの魂を移動させるかだけど、そこは完全に運次第。その魂に君が選ばれたんだ。
まあぶっちゃけ本人と話をしないで勝手に移動させればいいんだけど、そこはお役所仕事って感じで一応許可を取らないといけないんだよね。
さて、君が選択できるのは二つにひとつだ。ひとつ目はこのまま記憶と体をリセットしてもとの世界に転生すること。二つ目は今の記憶と体を引き継いで別の世界へ転生することだ。
今の世界の記憶を引き継げる分こっちのほうが有利になることが多いからこっちの選択肢のほうがおすすめだね!」
……そうか元の世界に戻るのは無理なのか。というかこんなのほぼ一択じゃないか。魂がリセットされるっていうのは俺にとっては死ぬことと同義なんだから、死ぬか別の世界に転移と考えるならそちらを選ぶしかないじゃないか。
「……本当に元の世界に戻ることはできないんですよね?」
「残念だけどそれは無理だ、諦めてくれ。さすがに死んだ者を生き返らすことはできないからね。それから世界間を移動するようなことは当然できない。別の世界に行った後にも元の世界に戻ってくることはできないからね」
「……わかりました。それでは別の世界でお願いします」
どうやらもうどうにもならないらしい。父さん、母さん、迷惑ばかりかけてごめん、今まで本当にありがとう。俺は死んじゃったらしいけどふたりは元気でいてほしいな。
「うんうん、物分りのいいことは評価できるね。それじゃあこれから君が向かう世界のことを簡単に説明してあげよう。この世界は君の世界でいうと西暦1000年くらいの中世時代の文明レベルだね。君が暮らしている世界のほうがかなり進んでいると思ってくれていい」
う~ん、それは悪いニュースでもあり良いニュースでもあるな。よくネット小説とかで読む異世界ものも大体そんな時代だが、実際に生活しようとするなら現在の日本で暮らしなれてる人にとってはきついんじゃないか。きっと風呂もないだろうし、食事事情も日本よりだいぶ劣るに違いない。
とはいえそんな時代に現代の知識を持っている俺が行くとなるとだいぶ有利な状況になりそうだ。いわゆる知識チートってやつができそうだな。とりあえずリバーシを作っておけばいいんだよね。
「君の世界との大きな違いとしては人間という種族だけでなく様々な種族が存在していることだね。人間、獣人、エルフ、ドワーフに魔族といった種族だ代表的だね。
それからこちらの世界には魔法というものが存在するよ。君の世界のアニメや漫画といったっけ?ああいった創造物の中にでてくるような魔法が実際に存在する世界だ。どうだい、ちょっとは興味がでてきたんじゃないかい?」
「おお~!いっきにファンタジーになりましたね。はい、とても興味がでてきました!」
俺も男だ。ケモミミやエルフやドワーフのハーレムものや俺TUEEE系の小説に少しは憧れがある。
「そうだろう、そうだろう!君の世界では想像上のものにすぎなかった生物や魔法という存在があるんだ、それは興奮しても仕方がないよね。ああっ、安心してくれていいよ、向こうの世界に行けば君も魔法を使えるようになるからね」
いいねえ魔法かあ、俺はどんな魔法が使えるようになるんだろうな。古の古代殲滅魔法なんちゃらあみたいな感じか?くうっ、中二心をくすぐるぜ!
「まあ細かいところは向こうの世界に行ってから、向こうの世界の住人に聞いてくれ。さすがに僕も細かいところまで説明している時間はないからね。何かそちらから質問はあるかい?」
「……ええっと、向こうの世界についてから俺は自由にしていいんですか?魔王を討伐に行けとかはないんですよね?」
「魔王を討伐?別に君の自由にしてくれてもらって構わないさ。君の元いた世界の知識を使ってお金を稼いでもいいし、向こうの世界は魔物が多く生息し、そこそこに物騒だから体を鍛えて冒険者になってみるのもいいんじゃないかい?
まあぶっちゃけた話、君が向こうの世界に行ったあとは魂の移動も完了しているし、すぐに死んじゃっても構わないんだよね」
「ぶっちゃけすぎだ!」
さすがにそれは勘弁願いたい。俺からしたら何のために異世界にきたのか意味がわからなくなる。
「ははっ、さすがにそれは冗談だよ。せっかくこうして君と会えたのも何かの縁だしさ。せいぜい向こうの世界では長生きして人生を楽しんでくれたまえ」
「勘弁してくださいよ……後は何かあるかな。ええっと、向こうの世界ではレベルやスキルみたいな概念はあるんですか?」
「ううん?レベル、スキル?ああっ、君の世界にあるゲームやアニメの中の概念か。ないない、そんな仕組みはないよ。魔法や剣の腕は完全に個人の才能と修練によるものになるね」
「なるほど、簡単に強くなるのは難しい世界のようですね。ええっとあとは……」
「おっと、残念だけどもうそろそろ時間のようだ。最低限のことはもう説明したし、あとは実際に向こうの世界で自分で確認してくれたまえ」
「わかりました。いろいろとありがとうございました」
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「本当ですか!ありがとうございます、感謝します!」
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君に与える力、それは『全言語能力』だ。現在向こうの世界で広く使われているのは共通言語といって多くの種族で幅広く使われている。この力はその共通言語だけでなく一部の場所でしか使われていない言葉さえも話すことができ、更には読み書きまでもできるという非常に優れた力だよ。
これで向こうの世界のどこにいってもそこにいる種族の者達とコミュニケーションが取れるというわけだ」
「それはすごい!これで向こうの世界の人達との意思疎通は大丈夫ですね」
言われてみれば異世界ものだとあまりに定番過ぎるけどこれがないとその時点でほぼ詰むもんな。さあ次は順番的にアイテムボックスかな。できれば容量制限がなくて時間が停止してるやつだと嬉しいんだけど。
「うん、うん、喜んでもらえようでなによりだね。それじゃあ勇樹くん、そろそろ向こうの世界に送るよ、準備はいいかい?」
「…………んんっ?」
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「なんだか無理やりいっているような気がしてならないけどまあいいや。
あと君を向こうの世界に送る時にはどこになるかわからないけど、近くに君と同じ人族が大勢いる場所の近くに送ってあげるからその人達を頼るといいんじゃないかい。同じ人族同士、なんとかなるだろう」
「はい、いろいろとありがとうございます」
なんだかんだで俺のことを気遣ってくれているようだ。いきなり胸に激しい痛みをくらった時は神様ではなく地獄の閻魔様かと思ったけれどそれほど悪くない神様のようだ。
「うん、それじゃあ向井勇樹くん、元気でね。なんだかんだで君達のような存在と話ができて僕も少しばかり楽しかったよ。これから君に神のご加護があらんことを!」
本物の神様に言われると重みが違うな。異世界へ行った後もいいことがありそうだ。
「お世話になりました。神様もお元気で!」
感謝の意をこめて頭を下げる。すると目の前の真っ白な空間が暗転していく。どうやら異世界への転送が始まったようだ。
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