45 / 54
第45話 勇者包囲作戦
しおりを挟む「今人族の者から念話が入った。ついに勇者が動き始めたらしい」
「ついに勇者のやつが現れましたか……」
「ああ。帝国から魔族領に近い人族の街に連絡が入ったみたいだ。いつごろ勇者が帝国を出たのかはわかないけれど、さすがに帝国から街への連絡のほうが早いから、どんなに早くてもあと数日といったところだろうか?」
この世界の地図はすでにある程度頭に入っている。帝国は人族の領地の奥にある一番大きな国で、この魔族と人族の戦争の中でも人族側陣営の中心となっている国のひとつだ。
「はい、それだけあれば十分に準備ができるでしょう」
この1週間ほどで俺達も勇者対策を何も考えていないわけではない。
「よし、これより勇者包囲作戦を発動する!」
「はっ!」
うん、作戦名がダサいとかいうなよ。その辺りは自覚している。オペレーションブレイバーとどちらにするか悩んだが、どちらにしろダサいのは変わらないな。
さて、この勇者包囲作戦についてだが、まずは念話スキルを使って、人間の領地に近い魔族の集落すべてに連絡をして勇者の位置を補足する。
具体的には各集落から監視役を大勢出してもらい、人族が勇者と一緒に現れて攻めてきたら、即時集落から避難をしつつ、族長を通じて念話スキルで俺に連絡をしてもらう。
「……よし、すべての集落の族長に連絡を入れた。すぐに勇者を監視する体制を整えて、何か異常があればすぐに連絡をしてもらう手筈だ」
「さすがでございます、魔王様!」
事前に集落の族長には連絡を入れてある。すでに監視をする場所や監視のための人員は各集落で決めているはずだ。
そして実際に人族の軍隊や勇者が魔族の集落に現れた場合には、魔王城に待機している魔王軍四天王と幹部全員を連れて、転移魔法で人族の軍隊や勇者の現れた場所に転移するという作戦だ。
……えっ? やってきたやつらを魔王軍の総力を挙げて叩き潰すって?
そうだよ。交渉で済むのならそれでいいが、戦いになるなら迷うことなく全力で倒しに行くいくからな。
以前の魔王は勇者との1対1の誘いに乗ったらしいが、俺は別に乗る必要がないからな。仮に人族の軍隊がおらずに勇者一人で攻めてきたそしても、油断せずに魔王軍全員で勇者一人を袋叩きにするつもりだ。
……えっ、さすがに卑怯? いいんだよ、こっちは魔王なんだし卑怯でも。ニチアサで5人のヒーローが現れたら、初回から全勢力を使って倒しにいっちゃうぜ。オッサンに空気読めとか言われても知らんよ。さすがにこっちも命がかかっているわけだしな。
だが、たとえ勇者であっても殺すつもりはない。ジルベやルガロ達には勇者を殺さないことに対してまた何か言われるかもしれないな。
勇者は5年前に別の世界から召喚されたと言っていた。もしかしたら同じ世界、むしろ同じ日本から召喚されていた可能性もあるかもしれない。できる限り穏便に済ませたい。
「次は念話スキルでと……」
続いて魔王城から離れている魔王軍四天王と幹部に念話スキルで連絡を取って、魔王城に召集をかける。現在は魔王城から離れた場所で魔族領での内政を整えたり、食料や鉱石などの確保を手分けしておこなわせていた。
『はっ、魔王様! 直ちに城へ戻ります!』
順番に念話スキルで連絡を取っていく。集めた魔族の仲間は勇者が現れると予想されている1週間ほどは魔王城に留まってもらう予定だ。そして勇者が現れたという情報が入り次第、全員集まってから勇者のいる場所に転移する。うん、完璧な作戦だな。
次はジルベにと……
『あいよ。今倒している魔物を倒してたらすぐに戻ってやらあ』
『ああ、頼むぞ』
ジルベの部隊には少し離れた場所で食料と素材の確保のために魔物を倒してもらっていた。急いで魔王城まで戻ってきてもらわないとな。
「これで魔王軍四天王と幹部に連絡はした。武器と防具の準備は任せてもいいか、デブラー?」
他にも対勇者のために四天王や幹部用の武器や防具などの準備もすでにできている。時間さえあれば元の世界の技術を利用した武器なんかも用意しておきたいところだったが、そこまでの時間はなかった。
まあ、いくら自分の命が大事とはいえ、元の世界の兵器をこっちの世界に持ってくるのはあまり良くないから、ある意味良かったかもしれないけれどな。
「はい、お任せください!」
準備のために部屋から出ていくデブラー。
こちらでも勇者に対する準備はかなりしてきた。戦闘はしたくないが、オッサンなりにいろいろと考えてはいたんだぜ。もちろん考えたくはないが、俺が勇者に負けた後のことだって考えてはいる。
戦う前に負けることを考えているのかと言われるかもしれないが、これは試合ではなく戦争だ。もしも戦争に負ければ、俺だけではなく多くの魔族達の命までがかかっている。集落や魔王城を捨てて撤退するプランもしっかりと考えている。
もちろん俺も命を賭ける気はこれっぽちもないから、危なそうになったら転移魔法で即撤退するつもりだ。オッサンはいざとなったらすべてを捨てて逃げるのである。
さて、念話スキルでの連絡は終わったが、他にも準備することがたくさんある。早く準備をしないと……
『おい、魔王。聞こえるか!』
他の準備をしようとしていたところ、ジルベから念話スキルで連絡が入った。
『どうした、ジルベ。何か問題が起きたのか?』
『くそったれ、勇者だ! なぜか勇者の野郎がここにやってきやがった!』
『なんだとっ!?』
3
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
異世界でキャンプ場を作って全力でスローライフを執行する……予定!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
お気に入りに追加
153
あなたにおすすめの小説

スローライフとは何なのか? のんびり建国記
久遠 れんり
ファンタジー
突然の異世界転移。
ちょっとした事故により、もう世界の命運は、一緒に来た勇者くんに任せることにして、いきなり告白された彼女と、日本へ帰る事を少し思いながら、どこでもキャンプのできる異世界で、のんびり暮らそうと密かに心に決める。
だけどまあ、そんな事は夢の夢。
現実は、そんな考えを許してくれなかった。
三日と置かず、騒動は降ってくる。
基本は、いちゃこらファンタジーの予定。
そんな感じで、進みます。

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~
うみ
ファンタジー
恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。
いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。
モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。
そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。
モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。
その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。
稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。
『箱を開けるモ』
「餌は待てと言ってるだろうに」
とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。
スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。
地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!?
異世界国家サバイバル、ここに爆誕!

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。
彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。
最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。
一種の童話感覚で物語は語られます。
童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します
あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。
異世界パルメディアは、大魔法文明時代。
だが、その時代は崩壊寸前だった。
なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。
マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。
追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。
ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。
世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。
無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。
化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。
そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。
当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。
ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる