42 / 54
第42話 ジルベとの戦闘訓練
しおりを挟む「ちっ、やるじゃねえか!」
「……まったく、訓練なのだからほどほどにしておけないのか」
「はっ、本気は出してねえんだから別にいいだろ!」
今は魔王城の訓練を行う闘技場でジルベと戦闘訓練をおこなっている。そう、訓練のはずなのだが、ジルベのやつは本気で俺に攻撃をしてきている。
さすがにジルベの固有スキルである銀狼の力は使わせず、俺のほうは魔法を使わない実践式の訓練だが、それでもジルベの素の身体能力だけでも十分ものすごい力だ。
昨日は人族の街をいくつかをまわり、捕虜として捕らえられていた魔族と人族の捕虜の交換をおこなってきた。
中にはサンドルのように物わかりの良い領主だけではなく、こちらに嘘をついてきたり、断固として魔族とは取引しないと言い張る面倒な領主もいたが、その場合は多少暴れて強制的に捕虜の交換をおこなってきた。
「これが終わったら予定していた食料調達を任せるぞ」
「わあってるよ!」
そして今日も今日とて人族の街へ魔族の捕虜の解放へ行く予定だったのだが、その前にジルベに引き留められて訓練場へと引っ張ってこられたわけだ。
ジルベの部隊はこれからデブラーの指示している場所に食料調達へと向かう予定だ。今はまだ人族のほうの動きはないが、これから戦闘は激化していくことが予想されるため、多めに食料を蓄えておくことになった。
ジルベはしばらく離れた場所に行くため、その前に戦闘訓練に付き合えと言われれば、さすがに承諾するほかなかった。まあ俺のほうも戦闘経験は必要だったから、ちょうどいいと言えばちょうどよかったからな。
「かあああ~くそったれ! 本当になんつう力をしていやがんだよ」
「おまえにだけは言われたくないぞ。固有スキルなしでも十分過ぎるほどに強いだろ」
ジルベが力尽きるまでぶっ通しで実践訓練をおこなった。さすがにこれだけ動くと俺のほうにも多少の疲労が感じられる。やはりチート過ぎる力があっても、スタミナが無尽蔵にあるというわけではないらしい。
オッサン的には明日筋肉痛にならないかは少し気になるところでもある。
ジルベとの戦闘訓練は俺のほうでもかなり役に立った。元の世界ではまともに喧嘩した経験すらない俺には戦闘経験が圧倒的に不足していたからな。もしかしたらこれから人族の英雄達や勇者と戦う可能性があるのだ。準備をしておくに越したことはない。
「そりゃ人族をひとり残らず皆殺しにしてやるために死ぬほど鍛えてきたからな」
「……そうか」
「ああ、安心しろよ。てめえは別だ。まあ最初は同じ人族だと思っていたからてめえもぶっ殺そうとしちまったが、よく考えたらてめえはこの世界の人族とは関係ねえんだもんな」
「できれば俺がこの世界に来てすぐに気付いてほしかったがな……」
勝手に別の世界から召喚されて、そのまま殺されそうになったことは忘れてないからな!
「わりいわりい。まあ過ぎたことだし気にすんな」
気にすんなで済まされても困るんだけどな。だがジルベのこの軽いノリは嫌いじゃない。まだ魔王城に来てから日が浅いというのもあるが、俺が魔王の力を見せてからは誰しもが恭しい態度で俺に接してくる。オッサンとタメ語で話してくれる魔族はこいつくらいだからな。
「……やはり人族は憎いのか?」
これまで多少魔族と接してきたが、やはり魔族も人族も同じ感情を持つひとりの人であると俺は思う。アレクやジルベがこれほどまでに人族を憎んでいるということは悲しいことでもある。
「当たり前だ! 親父もお袋も妹も村の連中もみんなやつらに殺された! 俺達の毛皮が金になる、そんなクソほどくだらない理由でだぞ!」
「………………」
両親だけでなく妹に村の知り合いも全員、それも金のためという最低最悪の理由で……それは俺が軽々しく気持ちは分かるなんて言うことができない。
「その頃の俺は何もできねえ無力なガキだった。人族に復讐することだけを支えに俺は生きてきた。俺の村を襲ったやつらは見つけ出してぶっ殺してやったが、そんなもんじゃまだ全然足りねえ!」
「そうか……」
ジルベのこの気持ちだけは俺にはどうすることもできないな。人を極力殺すなという俺の命令を守れそうにない。できる限り人との戦闘に関わらないようにするしかないな。
アレクもそうだが、こればかりは時間を置くしかない。いや、時間を置いても解決しない可能性は高いだろうな。
そして人族のほうから見て逆もまた然りだ。まずは人族と魔族の戦争を止めるが、魔族との共存を目指すのは次の世代になるかもしれない。人族と魔族との隔たりは俺の思っている以上に大きいのだろう。
「……だがまあ、てめえは人族にしてはマシだ。人族をぶっ殺さねえのは納得できねえが、俺達の同胞を助けるために必死で走り回っていることだけは認めてやる。あのガキ共もてめえが助けてやったんだろ?」
「そうだな。あの子供達はこの戦争とはまったく関係ない。だからあそこで見捨てたくなかっただけだ」
ガキ共とはルトラ達のことだ。結局ルトラとビーネとアレクはこの魔王城で働いている。もちろんそこまで大変な仕事を任せてはいないが、やはり子供ということもあって、他の者の目にはよく止まるのだろう。
ちなみにアレクは働いている以外の時間はジルベの部隊の者に稽古をつけてもらっている。
「けっ、こんなに甘っちょろいやつが魔王とはよ……だがまあ前の魔王様も少しだけてめえに似ていやがったな」
前の魔王……リーベラ達から前の魔王についての話は少し聞いている。とても強い男だったが、どこか甘さのある男だったらしい。例の勇者とも自分ひとりで決着をつけると言って一騎打ちに乗ったという話だ。
「……ったく、てめえもその甘さに足をすくわれないよう気を付けるんだな」
「そうだな。忠告として聞いておくことにしよう。そろそろ行くぞ、ちゃんとデブラーの指示に従うんだぞ」
「わかってらあ! いずれはてめえの力を超えてやるからな。覚悟しておけよ!」
ジルベが魔王にでもなったら人族は皆殺しの方針になることは間違いない。少なくともジルベに負けるわけにはいかない。
まあ、なんだかんだで俺もいい気分転換になった。さて、また別の街へ行って捕らわれた魔族を救い出してやるとしよう。
3
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
異世界でキャンプ場を作って全力でスローライフを執行する……予定!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
お気に入りに追加
153
あなたにおすすめの小説

スローライフとは何なのか? のんびり建国記
久遠 れんり
ファンタジー
突然の異世界転移。
ちょっとした事故により、もう世界の命運は、一緒に来た勇者くんに任せることにして、いきなり告白された彼女と、日本へ帰る事を少し思いながら、どこでもキャンプのできる異世界で、のんびり暮らそうと密かに心に決める。
だけどまあ、そんな事は夢の夢。
現実は、そんな考えを許してくれなかった。
三日と置かず、騒動は降ってくる。
基本は、いちゃこらファンタジーの予定。
そんな感じで、進みます。

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~
うみ
ファンタジー
恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。
いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。
モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。
そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。
モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。
その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。
稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。
『箱を開けるモ』
「餌は待てと言ってるだろうに」
とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。
スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。
地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!?
異世界国家サバイバル、ここに爆誕!

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。
彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。
最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。
一種の童話感覚で物語は語られます。
童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します
あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。
異世界パルメディアは、大魔法文明時代。
だが、その時代は崩壊寸前だった。
なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。
マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。
追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。
ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。
世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。
無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。
化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。
そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。
当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。
ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる