異世界魔王召喚〜オッサンが勇者召喚じゃなくて魔王召喚されてしまった件!人族と魔族の間で板挟みになってつらい〜

タジリユウ

文字の大きさ
上 下
39 / 54

第39話 人族との交渉

しおりを挟む

 そう言いながら領主は先ほどまで座っていた椅子に座る。剣を持った男はどうしたらいいのか分からずにオロオロとしており、もう一人の眼鏡のようなものをかけた男は腹を据えたのか領主の後ろに移動した。

「しかし、まさか魔王殿が直々に乗り込んでくるとは思っていなかったよ。後ろの青い肌の者も魔族か。この街にも警備はいるはずだが、騒ぎにはなっていないということは穏便に侵入したと考えても良さそうかな?」

 ルガロのほうも人族への変装はすでに解いている。もちろん人族としてこの街に入ってきて、転移魔法でここまでやってきたなんてことは秘密だ。

「方法は言えぬが、そうであるな。もちろんひとりたりとも気付けてはいない。屋敷の天井費用も後ほど弁償するとしよう」

「………………」

「む、どうかしたのか?」

「いや、失礼した。魔王というからにはなんというか、人族のことなど虫ケラほどにしか考えていないと思っていたのだが、そういうわけでもないらしいな」

 まあ俺も同じ人族だしな。少なくとも人族のことを虫ケラなんかに思っているわけがない。

「我が召喚される前の世界で人族と魔族は共存していた世界であったからな。この世界でもできる限りはそうありたいと思っている」

「ほう、人族と魔族の共存とは興味深いことだな。なんにせよ、街の民を傷付けなかったことには感謝する。私はサンドル、この街の領主をしている者だ」

 どうやらこの街の領主もかなり変わった人物ではあるようだ。普通の人族ならそんなことに対して礼など言わないだろう。

「……どうやらサンドル殿も人族にしては変わっているようだな。さて、今回我らが街に来た理由だが、この街にいる我が同胞達とこちらで預かっている人族の捕虜の交換の交渉をしたい」

「捕虜の交換?」

「そうだ。こちらで確認したところ、この街には少なくとも7人の同胞の存在を確認した。それと同数である人族の7人を穏便に交換したい」

「………………」

 こちらを見ながら何かを考えているサンドル。

「確かに数は同じであるが、人族と魔族ではひとり当たりの戦力が異なっている。魔族の捕虜の倍の14人であれば交渉を受け入れると言ったらどうする」

「……ほう」

 言われてみるとその通りなのかもしれない。普通の感覚でいくと魔族ひとりに対して人族の命はひとつと思ってしまうが、今は戦時中だし戦力といった面からも考えなくてはならないのか。

 むしろ2倍くらいのほうがちょうどいいかもしれない。昨日デブラーに確認させていた情報を確認したのだが、魔族側には結構な数の人族の捕虜がいる。あまりに多くて簡易宿泊所には入りきらないため、残りの人族はまだ元の集落にいる。

 魔族の数が2倍でも特に問題はないだろう。だからルガロ、わかりやすく領主相手に殺気を出すのはやめてくれ。

「いいだろう。だがこちらからはもうひとつ条件をつけ足させてもらおう」

「……ふむ、その条件とは?」

「この屋敷の屋根の修繕費はそちらで出してもらおうか」

「「「………………」」」

 あれ、滑ったかな。オッサンなりに場を和ませようとしただけなんだが……

「くっくっく、いや、失礼! すまない、実は魔王殿が本当に交渉をしにきたのかが怪しく思ってな。他の街より聞いた話通り、本当に私達人族と交渉をする気のようだな。その魔王の力をもって脅すわけでもなく、本気で交渉のテーブルについてくれるわけか」

 サンドルが笑い出した。オッサン的には最初っからずっと本気だったんだけどな。魔族が交渉をするのってそんなにおかしなことなのか?

「最初に交渉に来たと言ったはずだぞ。もちろんあまりにも理不尽な要求をしてきた場合には、同胞を守るために全力で力を振るっていたがな」

「……なるほど、魔王殿のことが少しわかったよ。その条件で喜んで受けさせてもらう」

「交渉成立だ。1時間後にこの街の門の前でよいな。この紙にはこの街にいる同胞の居場所が書いてある。もしも足りない場合には強制的に回収するからそのつもりでいることだな」

「いったいどうやってこの街のことをそれほど調べ上げたのか気になるところなんだがね……そんなことを言われてしまっては、どんなことをしてでも準備をしておかないといけないな」

「期待している。行くぞ、ルガロ」

「はっ!」

 屋敷の天井に空けた穴から風魔法を使ってルガロと一緒に外へ出てから転移魔法を使った。



「ま、まさか先ほど報告している最中でした例の新しい魔王がこの街に現れるとは……」

「……まったく、まさか昨日あれだけ戦場を暴れまわった魔王がねえ。だけど本気で人族と魔族の戦争を止めるつもりのようだ。突然現れた新たな魔王が誰も殺すことなく争いを止めたなんてありえない報告はこれっぽっちも信じられなかったがね」

「い、いかがしましょう、サンドル様! すぐに騎士団を集めて国に助けを求めますか!」

「いや、余計なことはしなくてよい。それよりもすぐにこの紙に書いてある魔族をすぐに集めてくれ。奴隷として扱われている魔族は3倍の金額で有無を言わさず買い取れ。違法で所持している者に関しては強制的にだ。とにかく急いでくれ」

「はっ、承知いたしました!」

「さてと……下手をすればあの魔王は以前の魔王よりもヤバいだろうねえ。少なくとも我が領民くらいは守り抜きたいものだよ」
しおりを挟む
下記作品は現在書籍化進行中です!(o^^o)
◆  ◇    ◆    ◇    ◆   ◇    ◆
異世界でキャンプ場を作って全力でスローライフを執行する……予定!
◆  ◇    ◆    ◇    ◆   ◇    ◆

感想 7

あなたにおすすめの小説

スローライフとは何なのか? のんびり建国記

久遠 れんり
ファンタジー
突然の異世界転移。 ちょっとした事故により、もう世界の命運は、一緒に来た勇者くんに任せることにして、いきなり告白された彼女と、日本へ帰る事を少し思いながら、どこでもキャンプのできる異世界で、のんびり暮らそうと密かに心に決める。 だけどまあ、そんな事は夢の夢。 現実は、そんな考えを許してくれなかった。 三日と置かず、騒動は降ってくる。 基本は、いちゃこらファンタジーの予定。 そんな感じで、進みます。

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~

うみ
ファンタジー
 恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。  いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。  モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。  そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。  モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。  その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。  稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。 『箱を開けるモ』 「餌は待てと言ってるだろうに」  とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。

スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。 地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!? 異世界国家サバイバル、ここに爆誕!

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

処理中です...