31 / 54
第31話 取引
しおりを挟む「い、いったいなにが……」
「目の前が光ったと思ったら、屋敷が……」
俺の障壁魔法によって使用人は無事のようだ。木端微塵となった屋敷の残骸の中から何人かの人族が顔を出す。
「ここか」
そして俺は屋敷の残骸の中に足を踏み入れ、気配察知スキルで魔族の反応があった場所の真上に立つ。どうやらこの下に地下室があるようだ。
「ふん!」
黒雷電によって屋敷を破壊したおかげで、隠されていた地下室への入り口らしきものが現れた。
地下室の入り口を単純な腕力で無理やりブチ破って奥へと進む。
「だ、だれ……」
「……もう大丈夫だ。助けにきたぞ」
地下室の牢屋に入れられていた魔族の女性は10代半ばくらいで、ネコミミと尻尾が生えている。こちらの世界では獣人のような種族も魔族となるらしい。
身体中には殴られたらしき青あざが多数あり、服も着ていない状態だった。可哀そうに……だいぶ痛めつけられていたようだ。
金属製の牢屋を無理やりねじ曲げ、女の子を助け出す。以前に人族の街で俺用に購入した服を羽織らせてあげた。
「この子を頼む」
「はっ!」
魔族の陣営から一緒についてきてもらった回復魔法が使える魔族の女性に、捕らえられていた女の子を託す。かなり傷付けられてはいたが、命に別状はなさそうだ。
リーベラは向こうで何かあった時のために、先ほど保護した魔族達の側にいてもらっている。
「さて、これはどういうことか説明してもらうとしようか?」
「も、申し訳ございませぬ! どうやら違法に魔族を奴隷として所有していた不届きな者がおったようです! おい、さっさとその者をひっとらえよ!」
「ひいいい!」
目の前で自分の屋敷を吹っ飛ばされた上に、領主の命により取り押さえられる太った貴族。あの子をずいぶんと手荒く扱っていたようだし、完全に自業自得だな。
「ま、魔王様! ど、どうかお許しを!」
先ほどまで対等に話そうとしていた領主が、大きな貴族の屋敷を一撃で吹き飛ばした黒雷電の威力を見て敬語になって頭を下げた。
まあそりゃそうだろうな。あれほど巨大な屋敷を一撃で吹き飛ばすのはあのジルベの力でも難しいだろう。
「……許してやろう。どうやら貴殿は知らなかったようだしな」
「はっ、ありがたき幸せ!」
……態度が変わりすぎだが、むしろこっちのほうが話を進めやすいからいいか。
「さて、我らの同胞がいる場所がもう一箇所あるが付き合ってもらおうか」
「はい、もちろんでございます!」
そしてこの貴族の屋敷と同様に、もう一箇所気配察知スキルで魔族の反応のあった場所があった。
「ここだな」
ふむ、どうやらこの大きな建物は奴隷商のようだ。中にはたくさんの気配が感じられる。
俺についてきているのはこの街の領主と補佐とその護衛が10人ほど。先ほど保護した魔族の女の子と魔族陣営にいた3人。
そして全身を禍々しい鎧に包んだ俺が先頭にいるわけだから、ものすごく目立っている。
「さて、今度は我の手を煩わせてくれるなよ」
「はっ! しばらくお待ちください!」
あの人さっきまで威厳のありそうな領主だったよな……こちらが本気で街を潰せるほどの力を持っていることを察したのだろう。
これからも人族の街から魔族を救うためには同様のことをしなければならないので、やはり魔王としての力を見せつけることは必要になりそうだ。
しばらく待つと、どのように交渉したのかは分からないが、領主達は3人の魔族を連れてきた。これでこの街にいる魔族は全員救出したことになる。
とりあえずこれからはちゃんと街の中をすべて確認しないと駄目だな。違法で魔族を奴隷にするようなあくどい輩もいることがよくわかった。
「それでは約束通り、ここにいる人族を解放するとしよう」
この街に捕らえられていた魔族は全部で25人。中には青あざどころか、火傷やひどい傷跡を負っている魔族も大勢いて思うところはあったのだが、それは魔族側も同様だと納得するしかない。
「残りの兵士どもはすぐに解放するとしよう」
「か、感謝いたします!」
リーベラ達と合流し、ここにいた領主の息子を含んだ残りの人質10人を解放する。あとは先ほどの戦場に土魔法で作った土壁に閉じ込めている人質を解放すれば、人質交換は無事に終了だ。
「だがその前に貴殿にひとつ忠告しておくとしよう」
「ち、忠告でしょうか!」
「今回の争いは我の存在を知らなかったということで許してやる。だが、次はない。もしも次に魔族の集落に攻めいってくるのであれば、容赦なくこの街ごと消滅させてくれようぞ」
「し、消滅!?」
これが俺の脅しや冗談でないことはすでに相手もわかっているだろう。……まあ脅しなんだけれどな。
「そしてもうひとつ、これは忠告ではなく取引である。今後我が同胞を見つけた場合は保護をしてもらいたい」
「ほ、保護でございますか!?」
「そう、保護だ。街の近くではぐれた同胞がいたり、奴隷として売られていた場合にはそれを買い取って丁重に扱ってほしい。もちろん取引であるがゆえに対価も渡そう」
「は、はあ。対価でしょうか……」
「我の最終的な目的は人族との共存だ。いずれはこの街とも良い関係を築いていきたいと思っている。もしも貴殿が我が同胞を国から隠れて保護してくれれば、その対価はしっかりと払おう。例えば魔族領にしかない価値のあるものなどな」
「ほ、ほう!」
領主の目の色が変わった。そう、これはある意味チャンスでもある。今は人族と魔族と戦争中で、まともな商取引なんかはしていない。
ここで魔王の俺が現れて人族と魔族の力が拮抗すれば、魔族領との取引は必ず行われるはずだ。事前に魔族とパイプが繋がっていれば、それは大きなアドバンテージとなる。
恐怖によるムチだけではなく、アメもちらつかせるという考えだ。
「そちら側から手を出してこなければ、こちらからこの街を攻めるようなことしない。他にもこちらが人族を保護した場合には少しずつではあるが、そちらの街に引き渡すと約束しよう」
「な、なるほど! 保護ですね、かしこまりました!」
「うむ、よろしく頼むぞ」
3
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
異世界でキャンプ場を作って全力でスローライフを執行する……予定!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
お気に入りに追加
153
あなたにおすすめの小説

スローライフとは何なのか? のんびり建国記
久遠 れんり
ファンタジー
突然の異世界転移。
ちょっとした事故により、もう世界の命運は、一緒に来た勇者くんに任せることにして、いきなり告白された彼女と、日本へ帰る事を少し思いながら、どこでもキャンプのできる異世界で、のんびり暮らそうと密かに心に決める。
だけどまあ、そんな事は夢の夢。
現実は、そんな考えを許してくれなかった。
三日と置かず、騒動は降ってくる。
基本は、いちゃこらファンタジーの予定。
そんな感じで、進みます。

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~
うみ
ファンタジー
恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。
いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。
モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。
そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。
モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。
その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。
稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。
『箱を開けるモ』
「餌は待てと言ってるだろうに」
とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。
スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。
地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!?
異世界国家サバイバル、ここに爆誕!

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。
彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。
最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。
一種の童話感覚で物語は語られます。
童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します
あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。
異世界パルメディアは、大魔法文明時代。
だが、その時代は崩壊寸前だった。
なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。
マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。
追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。
ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。
世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。
無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。
化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。
そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。
当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。
ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる