30 / 54
第30話 非合法の奴隷
しおりを挟む「もう一度だけ確認しよう。本当にこの街にいる魔族はこの者達ですべてなのだな」
「ああ、もちろんだ。この街には奴隷台帳がある。そこに載っている魔族の者はすべて連れてきた。奴隷の持ち主にもあとで補填をすると伝えてある」
奴隷台帳……そんなものまであるのか。通りでたった1時間であの街にいる魔族全員を集めて連れてこれたわけだ。もっと時間がかかるものかと思っていたぞ。
しまったなあ、それなら問題なかったか。まあいいや、念には念を入れておくことにしよう。
「それならば問題ないだろう。安心しろ、他に魔族がいないことを確認したら、すぐに残りの10人を解放し、残りの3分の2の人質も返そう」
「ま、街の中に入る気か!?」
「ああ、我ひとりだから安心しろ」
「い、いや、それは……」
何か隠しているというわけではなく、魔王が街に入るのを許容できないようだ。まあそりゃそうか。
「何度も言うが、こちらは力尽くでも一向にかまわないのだぞ!」
「ぐっ……わ、わかった! 特別に認めよう!」
魔王威圧スキルを最小で領主と兵士達に向けて放って脅すとすぐに認めた。
うん、どう見てもこっちが悪人ですね……まあ、魔王なんだから当然なんだけど。
「魔王様!」
「問題ない。リーベラ、こいつらが馬鹿な真似をしないように見張っておけ」
「はっ!」
「さて、すぐに戻ってくる」
「っんな!?」
俺が風魔法で空を飛ぶと、領主達が驚いている。羽のある生物ならともかく、風魔法で空と飛ぶということはできないのかな。
空を飛んで街の城壁を超えて街の中に入る。城壁には見張りの者達がいたが、領主が何か言い含めているのか、こちらのほうを攻撃してはこない。
この街は結構大きな街のようで、人や建物もかなり多い。屋根の上よりも高く飛んでいるので下にいる街の人はこちらに気付いてはいないようだ。
「……なるほどな」
空を飛びながら街全体を行ったり来たりしたあとに、この街の領主やみんながいる場所へと戻ってきた。
「……何をして見てきたのかはわからんが、魔族はいなかったであろう。さあ、約束通り、残りの人質を解放するがよい」
「残念ながら、それはできない。街の中には我が同胞達がまだいる。貴様らは嘘をついていたようだな」
「な、なんだと!?」
俺が街の空を飛んで確認してきたこと、それは気配察知スキルにより、まだ街に魔族がいないかを確認してきた。魔王威圧スキルと同様に、気配察知スキルも意識してスキルを使用するとさらに詳細な情報を得ることができた。
そう、気配察知スキルによって、その生物の大きさだけでなく、その気配が魔族か人族かも察知することが可能であった。
最初の街の門番のチェックで魔族か人族かを判断する魔道具もあったが、この気配察知スキルを利用していたりするのかもしれない。
「嘘などついてはおらぬ! のう、宰相!」
「はい、確かにこの街に存在する奴隷はすべております!」
どうやら領主の隣にいるおじいさんは補佐らしい。この反応は隠していたことがバレたというわけではなさそうだ。まあ、ここでこいつらが嘘をついたり、隠すことにメリットはなさそうだ。
ということは、奴隷台帳に書いていない非合法の奴隷といったところか。
「……ふむ、どうやら秘密裏に捕らえられた同胞のようだな。ならば我らがもらい受けても問題ないであろう。それではついてくるがよい」
「これはこれは領主様! このような場所へようこそいらっしゃいませ! この度はどうかなされましたか?」
この街の領主と補佐。そして兵士の半分を引き連れて、俺と一緒にやってきたのはかなり大きな屋敷だ。この街の中心街にも近いし、上流貴族の屋敷と言ったところだろうか。
そして現れたのはでっぷりと太った50代くらいの男だ。キラキラとした装飾品や指には大きな宝石の付いた指輪をしている。
「突然であるが、レーダル卿に今すぐ確認せねばならぬことがあってな。この屋敷の中に魔族がいるという情報があったのだが、それは本当のことであるか?」
「なな、何を言っているのでしょうか、領主様! そんなわけがあるはずはございません!」
最初に思いっきり動揺していたな。まあそんな確認なんてしなくても、俺の気配察知スキルにはひとりの魔族がここにいることは分かり切ったことである。
「すまぬが、少し屋敷の中を調べさせてもらうぞ」
「え、ええ。もちろん構いませぬよ。我が屋敷には見られて困ることなどはございませぬゆえ!」
なるほど、屋敷の中を探しても、見つからないことに自信があるわけだ。
「時間の無駄だな。こちらで好きにやらせてもらうとしよう」
「領主様、この者は……?」
「うっ、うむ。何というかだな……」
まさか魔王だと言えるわけがないか。さて、この街の領主にはまだこちらの力を見せてはいない。このあたりで魔王の力を見せてやるとしよう。
「障壁」
屋敷の中にいる使用人らしき人族と、救うべき魔族の者に障壁魔法を展開する。万が一にも傷付けるわけにはいかないからな。
「黒雷電」
ズガガガーン
「な、なんという魔法だ!」
「あ、あれほどの規模の魔法を詠唱もせずにたったひとりで発動させるとは!」
「ああ、屋敷が! ワシの屋敷がああああ!」
俺が魔法を唱えると遥か頭上から、黒く巨大な雷が屋敷を撃ち抜き、屋敷を木端微塵にして瓦礫の山へと変えた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
149
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる