異世界魔王召喚〜オッサンが勇者召喚じゃなくて魔王召喚されてしまった件!人族と魔族の間で板挟みになってつらい〜

タジリユウ

文字の大きさ
上 下
29 / 54

第29話 人族の街

しおりを挟む

「このまま人族の街に行くのですか?」

「うむ。ここに人族の指揮官と他の兵士を捕えている。こいつらとこの者達の国にいる魔族の捕虜を交換するつもりだ」

「おお、同胞達を救ってくださるのですね!」

「ああ、そのつもりだ。この者達と戦って大勢の仲間を殺されしまった貴殿らにはこの者達を殺したいと思う気持ちがあるだろう。だが、同胞達を救うために、どうか耐えてほしい」

「……そうですな。確かにこの戦いで多くの味方を殺されたことに対して思うことはありますが、同胞を救うためであれば納得できます。そしてなにより、魔王様が来てくださらなければ、この戦いは勝つことができませんでした。

 ここにいるすべての者達が殺されておりましたでしょう。魔王様はここにいる者達の恩人です。私は魔王様に従います! 文句など決して言わせませぬ!」

「魔王様、ありがとうございました!」

「見事なお力でした、魔王様!」

「魔王様、バンザーイ!」

「「「魔王様、バンザーイ! 魔王様、バンザーイ!」」」

「………………」

 突如として始まる魔王様ウェーブ……

 とりあえず、人族の人質と魔族の捕虜の交換について文句のある者はいないようで安心した。内心どう思っているかは分からないが、戦争中ということで無理やり納得している者もいるかもしれない。



「……魔王様、本当に残りは置いてきても良かったのですか?」

「ああ。3分の1ほどが妥当な数だろう。残りは人質として残しておかなければな」

 先頭を進む道案内の後に進む人族の案内に従いリーベラと一緒に道のりを進む。その後ろには100人近くの手を繋がれた人族がいる。

 リーベラと魔族陣営から10人ほどの配下を借りて、人族の捕虜と共に街を目指している。

 今回戦った人族の街にいる魔族の捕虜を受取るために、人族の3分の2にあたる人数は俺が土魔法で作った土壁の中に閉じ込めている。土壁から逃げようとした人族は殺していいと魔族陣営には伝えてある。

「こちらも全員を一度に解放してしまえば裏切られる可能性もある」

「なるほど。さすがは魔王様です」

 人族の人質を全員連れて先に解放してしまえば、裏切って捕虜の魔族を盾にしてまたこちらに反旗を翻す可能性が高い。さすがに魔王の力があっても人質を取られてしまえば全員無傷で救助することは難しいかもしれない。

 人族の兵士、人族の陣営にいた指揮官と貴族っぽい者の中から3分の1を無作為に選んで連れてきている。そしてなにより大きいのが、今回はその街の領主の息子がいた。

 指揮官のレグナードの側にいた貴族っぽい男だ。たとえ領主であってもひとりの親、間違いなく交渉を有利に進めることができるはずだ。

 先にこの人族を解放し、そのあと街にいる魔族を解放、そして離れた場所にいる残りの3分の2を解放するといった手筈だな。

「見えてきたか」

 道の先には大きな壁に囲まれた綺麗な街が見えた。どうやらこの人族の街はかなり大きいらしい。



「……それではどうぞしばらくの間お待ちください」

「ああ。何度も言うが、賢い選択をするよう期待しているぞ。我はこの街程度すぐに破壊することが可能であることを決して忘れるなよ」

「ひっ!? も、もちろんわかっております!」

 これから指揮官と貴族が街の中に入り、この街の領主に話をする。街の門の前から少し離れた場所で、俺達は人質と一緒に待つ。

 今回の戦闘の敗北と兵士全員が人質となっていることを伝えるのだから、当然指揮官には罰が与えられるだろうな。

「……連中は大人しく同胞達を解放するでしょうか?」

「あれほどの兵士が人質となっているから、さすがに従う他ないだろう。それにもしも断れば街ごと制圧するだけだ」

 この街にどれほどの魔族が捕らわれているのか分からないが、少なくともこちらが捕らえた兵士よりも少ないに違いない。それに何といっても領主の息子がいるからな。

 それに俺が誰ひとり殺さずに敵すべてを制圧したこととで、魔族と人族の停戦を求めていることを示している。

 ……しかし世の中には物わかりの悪いな領主とかもいるからな。どうかまともな領主であることを祈るとしよう。



 待つこと1時間、街の門が開いて偉そうな貴族の姿をしたやつらと、それを守るような兵士が20人ほど。そして最後にみすぼらしい服を着た魔族と思わしき者達が30人ほど出てきた。とりあえずここまでは順調のようだ。

「そなたが魔王と申すものであるな」

「ああ、我が魔王である」

 高級そうな服を着て、高価そうな装飾品を身に付けた、どう見ても偉そうな40代くらいの男が前に出てきた。どうやらこの男がこの大きな街の領主のようだ。

「この度は魔王殿の多大な配慮感謝する。そなたの要求を吞ませてもらおう」

「ふむ、賢い選択をしたようで安心したぞ」

 どうやらこちらの要求を受け入れてくれるようだ。多少偉そうなのは街の者に対してある程度の威厳を見せるためだろう。

「この街にいる魔族の者をすべて連れてきた。約束通り人質を解放してもらおう」

「よかろう。まずはその者達をこちらに連れてくるがよい」

「……いいだろう。離してやるがよい」

 領主の男が手を挙げると、魔族達を拘束している兵士達が手を放して捕虜にしていた魔族を解放する。

 解放された魔族の者達はこちら側に走り、連れてきた他の魔族の者と抱き合い涙を流していた。魔族の者は殴られた跡があったり、酷い傷がある者もいた。やはり捕虜となった魔族の扱いは酷いものであったらしい。

 ……思うところはあるが、反対に魔族側にいる人族の捕虜も酷い扱いを受けているのだろうな。

「さあ、約束は守ったぞ。今度はそちらが人質を解放するがよい」

「ああ、そうだな。それでは10を残して全員を解放するとしよう」

「んなっ!? 約束が違うではないか!」

「安心するがよい。残りの10人もすぐに解放する。本当にこの街に他の同胞がいないと確認したあとにな」
しおりを挟む
下記作品は現在書籍化進行中です!(o^^o)
◆  ◇    ◆    ◇    ◆   ◇    ◆
異世界でキャンプ場を作って全力でスローライフを執行する……予定!
◆  ◇    ◆    ◇    ◆   ◇    ◆

感想 7

あなたにおすすめの小説

スローライフとは何なのか? のんびり建国記

久遠 れんり
ファンタジー
突然の異世界転移。 ちょっとした事故により、もう世界の命運は、一緒に来た勇者くんに任せることにして、いきなり告白された彼女と、日本へ帰る事を少し思いながら、どこでもキャンプのできる異世界で、のんびり暮らそうと密かに心に決める。 だけどまあ、そんな事は夢の夢。 現実は、そんな考えを許してくれなかった。 三日と置かず、騒動は降ってくる。 基本は、いちゃこらファンタジーの予定。 そんな感じで、進みます。

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~

うみ
ファンタジー
 恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。  いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。  モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。  そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。  モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。  その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。  稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。 『箱を開けるモ』 「餌は待てと言ってるだろうに」  とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。

スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。 地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!? 異世界国家サバイバル、ここに爆誕!

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

処理中です...