異世界魔王召喚〜オッサンが勇者召喚じゃなくて魔王召喚されてしまった件!人族と魔族の間で板挟みになってつらい〜

タジリユウ

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第12話 転移魔法

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「あ、あの……」

「おとなしくしていろ」

 まずは真ん中の十字架へ磔にされていた頭から2本の角を生やした女の子を拘束していた金属製の鎖を断ち切った。金属製の鎖は俺が力を込めると、いとも簡単に引きちぎることができた。

「あ、ありがとうございます!」

 わけの分からない謎の乱入者によって命が助かりそうになったことは理解しているようだが、それでもまだ困惑している表情だ。当然と言えば当然だがな。

 同様に他の魔族の子供達の拘束を順番に断ち切って自由にしていく。観衆がいろいろと騒いでいたり、他の騎士団が俺達の周囲を取り囲もうとするが、オーガスを倒した俺には手を出そうとしてこなかった。

 そして屋根の上にいる魔法を撃ってきた騎士達は、近くに倒れている騎士達を気にして魔法を撃ってはこなかった。

「あ、ありがとう……」

 この子は届かない両親へ救いを求めた一番小さな女の子だ。頭からネコっぽい耳が生えているが、それ以外は普通の人間の女の子と変わりないように見える。

 こんなにも幼い女の子を磔にして公開処刑にするなんて、魔王軍のやつらが言っていたように人族はとても残虐なようにも見えるが、これが戦争なのだ。

 たとえ子供であろうと敵は皆殺しにしなければならない。必要があれば、味方の士気を上げるためにも公開処刑などという野蛮な手段を取る必要性もあったのかもしれない。

「……おい、あんた! なんであいつらを殺さないんだ!」

 一番最後に拘束を解いた青い肌をした男の子が大声で叫ぶ。とりあえず3人とも拘束された手足は少し赤くなっていたが、大きな怪我はなさそうだ。

「俺達を助けてくれたなら、あんたは魔族の味方なんだろ! それにあんたの力ならここにいる人族を皆殺しにできるはずだ! なのになんでこいつらを殺さないんだよ!」

「………………」

 この子は処刑が始まる前からずっとオーガスや騎士団を睨んでいた。

「父ちゃんも母ちゃんも村のみんなも、全員こいつらに殺されたんだ! 俺達はこいつらに何もしてないのに! ずっと村で畑を耕して狩りをして暮らしていただけなのになんでだよ!」

 この子供達にとってはオーガスや騎士団達はみんなの仇だ。仇を討ちたい気持ちは分からなくもない。

「おまえの気持ちも分かるが、これが戦争だ。今はここから逃げるぞ」

「ふざけんな、俺は逃げないぞ! たとえ俺が死んだとしても、人族のやつらをひとりでも多くぶっ殺してやる!」

 俺が押さえていなければ、すぐにでも魔王威圧で動けなくなっている騎士達に突っ込んでいきそうだ。

「やかましい!」

「んなっ!?」

 この子の気持ちは分かるが、オッサンは誰も殺さないと決めたのだ。それに俺は魔族の味方をする気もない。さっさとこの場を離れるとしよう。

「行くぞ!」

「おい、離せ! あいつらを殺してやる!」

 暴れる男の子無理やり右脇に抱える。

「きゃっ!」

「わっ!?」

 先ほど解放した女の子2人を同様に左脇で抱える。少し窮屈だろうが、一瞬は我慢してもらうとしよう。

「魔族共が逃げるぞ! 動けるものは何としても止めろ」

「魔法部隊、しっかりと狙って撃て!」

「もうよい、止めよ! あの者の力は計り知れん!」

「し、しかし……」

「炎帝様、みすみす魔族を逃すなど……」

 まだ麻痺魔法でまともに動けないオーガスは部下の肩を借りながら、声を上げる。

 先ほどの攻防でこれ以上の追撃が無駄だと判断したのか、オーガスは部下達の追撃を止めようとする。ただ強いだけでなく、冷静な判断ができる指揮官でもあるようだ。そりゃ部下にも慕われるわけだ。

「転移!」

「んなっ、一瞬で魔族共が消えた!?」

「バ、バカな、転移魔法だと!? そんな伝説級の魔法を使える魔族が存在したのか!?」

「やはりあの者の力は計り知れん……いったい何者なのだ……」




 
「ふう……人を連れての転移魔法は初めてだったけれど、うまくいったみたいだな。」

 ここは俺が魔王城から逃げてきて、魔法やスキルの確認を行っていた草原だ。

 空間魔法スキルによる転移魔法。この魔法は俺が一度行ったことのある場所に一瞬で転移できる魔法だ。複数人での転移は初めてだったが、問題なく転移できたようだ。

 しかし他の魔法を使った時もそうだが、魔力というものを使った感覚はほとんどないな。基本的に魔法を使用した時には魔力というものを消費するのだが、ステータスにも表示されない。

 さすがに転移魔法はなかなか高等な魔法らしく、3人を連れての転移だとさすがに少しだけ疲労感があったが、もうほとんど気にならない。魔王の力は本当にヤバいな……

「離しやがれ!」

「あ、あの……」

「ああ、悪かったな」

 そういえば両手に魔族の子供達を抱えていたことをすっかりと忘れていた。慌てて3人を地面に降ろしてあげた。

「ここはどこだ! あいつらはどこに行ったんだ!?」

「ここはさっきの街からだいぶ離れた草原だ。今からあの街に戻ろうとしても何日も歩くことになるぞ」

「んなっ!?」

「す、すごいです。そんな魔法があるなんて……」

「おとぎ話に出てくる魔法みたい……」 

 どうやら転移魔法はかなり高度な魔法だったらしい。

 異世界ものだとよく見かける転移魔法だが、冷静に考えると一瞬で長距離を移動できるって相当ヤバい魔法だ。

 さて、とりあえず人族の街から離れはいいが、これからどうするかな?
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