異世界魔王召喚〜オッサンが勇者召喚じゃなくて魔王召喚されてしまった件!人族と魔族の間で板挟みになってつらい〜

タジリユウ

文字の大きさ
上 下
2 / 54

第2話 魔王の力

しおりを挟む

「な、何という力! まさか、本物の魔王様なのか!?」

「あのジルべ殿を一撃だと! まさか、人間にそんなことができるわけがありません! 私が殺してやります! 『黒炎こくえん』」

「やめろ、ルガロ!」

 ルガロという青い肌の男が手をかざすと、そこから黒い炎が放たれた。それと同時にまた俺の周囲が遅くなっていく。さっきのステータスを見るに、これが思考加速スキルの能力なのかもしれない。

 ゆっくりとだが、黒い炎が確実に俺へと迫ってくる。これが魔法か。ステータスに障壁魔法と書いてあったし、多分俺にも魔法は使えるはずだよな。えっとルガロみたいに唱えればいいのかな。

障壁バリア!」

 おお、俺の目の前に半透明なバリアみたいな壁が出てきた。

 そしてルガロが撃ってきた黒い炎が障壁に直撃する。

「んなっ! 私の黒炎をくらって無傷だと!?」

 どうやら俺の出した障壁の方がルガロの撃った黒炎とやらに勝っていたらしく、その炎が俺に届くことはなかった。

 ……障壁は作っていたけれど、ちゃんと当たらない場所に避けていたからな。ちっともビビってなんかいなかったぞ、うん。

 そういえば四大元素魔法スキルというのもあったな。四大元素といえば火・風・水・土だったよな。ということは俺も火魔法を使えるに違いない。

「黒炎」

「ば、馬鹿な!?」

 お、ちゃんと黒い炎が出てくれたぞ。それに先程ルガロが放った黒い炎よりも大きい。

「がはあっ」

 黒い炎は完全に油断していたルガロを襲い、そのまま後ろの壁に激突した。

「おい、早くルガロ様の炎を消さねえと!」

「駄目だ消えねえ! おい、早く火を消せるやつを呼んで来い!」

 何やら黒い炎が消えないらしく、後ろが慌ただしい。この分だと俺ならあの黒い炎も消せそうだが、自分の命を狙ってきたやつをわざわざ助ける気もない。

「な、何という力!? まさに魔王様の力……しかしなぜ人間が召喚されたのだ……」

 骸骨のデブラーがそんなことを言うが、俺が聞きたいくらいだ。魔王召喚をするのなら、魔界とかがあるファンタジーの世界から呼べよな。

 それにしてもよくある異世界ものの勇者召喚だと、チート能力をもらえる代わりに、普通はレベル1から始めるものじゃないのか? 魔王召喚だといきなり最高レベルとかになるのかね。

「おい、そこの骸骨。今すぐ俺を元の世界に戻せ!」

 よくわからないが四天王とか呼ばれている2人を返り討ちにしたんだ。ここは強気にいくとしよう。

「む、無理です。帰還の儀を行うためには大量の魔力と、魔鋼結晶という特殊な鉱石が必要となります。魔力はともかく、今回の魔王召喚の儀で我が魔王軍の魔鋼結晶はほとんど使い切りました。これだけの量を新たに集めるためには10年近くの歳月が必要となります」

 いきなり骸骨が敬語になった。今更ながら俺が魔王であることを認めたのかもしれない。知ったことではないけど。

 ……ふ~む。よくわからんが、俺が元の世界に帰るためには、その魔鋼結晶というものが大量に必要となるわけか。少なくとも代償に命などが必要でないのは唯一の救いかもしれない。

 とりあえず俺自身にかなりの力もあるみたいだし、ここから離れて魔鋼結晶というものを探しに行くべきか。

「ま、魔王様、どうか妾達を助けてはくれないでしょうか? 魔王軍は今や壊滅状態にあります。あなた様のお力を貸してはいただけないでしょうか!」

 四天王の1人でリーベラと呼ばれていた女性が前に出てくる。

「勝手に別の世界から呼び出した挙句、いきなり殺そうとしたり、実験台にしようとしたくせに随分と勝手なことを言うな? お前らに協力するくらいなら、人族につくに決まっているだろう」

 確かにこのリーベラだけは俺をかばおうとしてくれていた。だからといって、俺を殺そうとしていた他のやつらに協力する気はない。

「で、でしたら魔王様の帰還の儀に協力します。魔王軍の総力を挙げて魔鋼結晶を集めれば、10年よりもずっと早い時間で魔鋼結晶を集めることが可能となります。ですからそれまでの間、どうか妾達に力を貸していただけないでしょうか?」

「ふざけているのか? 勝手に呼び出したのだから、帰すまでが当然の義務だ。なぜ俺を殺そうとしたやつらに協力する必要がある?」

 あんまりオッサンを舐めないでもらおうか。異世界ものでよくある勇者召喚もそうだが、なんで元の世界に戻るために、命をかけてまで敵国を倒さなくちゃいけないんだよ?

 それも今回は相手が俺と同じ人間ということだし、協力する理由がない。

「魔王様、どうかお願い致します。妾にできることならなんでもします! 人族に虐げられている妾達をお救いください!」

 ……な、なんでも?

 ゴクリッ

 これだけ綺麗な女性がなんでもするだと!? 魔王軍にいるということは人間ではないということになる。この角や尻尾、口には鋭い牙があることから、おそらくは竜族ということなのだろうか。

 片膝を付いて俺の目をまっすぐに見つめてくる。そしてその大きな胸の谷間が、露出が多い服装によりさらに強調されている。……いかんな、オッサンにとってその攻撃はとても効く。うっかり受ける気もないのに彼女の願いを聞こうとしてしまいそうになるだろ。

「あんたが俺をかばおうとしてくれたことについては礼を言うが、少なくとも俺は人族だ。同じ人族と争う気はない。それよりもその帰還の儀というやつは魔鋼結晶があればいいんだな」

 ……これ以上ここにいるのも良くないな。さっき吹っ飛ばした四天王2人の目が覚めたら、さらに面倒なことになりそうだ。えっと、たぶん風魔法が使えるよな。空を飛ぶことができたりしないかな。

「……おっ、いけそうだ」

 それっぽいことを念じたら身体が宙に浮いた。これなら空を飛んでこの場を脱出できる。

「そちらでも魔鋼結晶とかいうやつを集めておけよ。もしも俺の帰還に協力するなら、ほんの少しくらいは手を貸してやる」

 もちろん嘘である。さすがに元の世界に帰るためとはいえ、同じ人間を傷つける気なんてまったくない。とはいえこうでも言っておかないと、向こうも俺の帰還の協力なんてしないだろう。ここは嘘でもそう言っておいて、せいぜい俺の帰還のために役に立ってもらうとしよう。

 オッサンとはズルい生き物なのである。まあ、最初に無理やり別の世界から俺を召喚してきた相手だからな。こちらも相手を考慮する必要なんてないだろう。

 堂々とこの部屋から出ていく。強キャラっぽいやつを2人倒したのだ。さすがに俺の目の前に出て止めようとする者はいない。

 リーベラやデブラーだけはどうにか協力してほしいと懇願してきたが、その制止を振り切って進んでいく。ちょうどいいところに窓があった。どうやら俺がいる場所は2~3階みたいだ。

 これなら窓から外に出さえすれば、追ってきたとしても空を飛べる種族に限られる。まあこれだけの力を見せてビビらせておけば追ってこないとは思うが。

 風魔法で空を飛んで、この建物から脱出する。後ろを振り向いて俺が出てきた元の建物を見ると、アニメや漫画でしか見たことのないような巨大な城があった。

 とりあえずここを離れてから、これからどうするかをゆっくりと考えるとしよう。
しおりを挟む
下記作品は現在書籍化進行中です!(o^^o)
◆  ◇    ◆    ◇    ◆   ◇    ◆
異世界でキャンプ場を作って全力でスローライフを執行する……予定!
◆  ◇    ◆    ◇    ◆   ◇    ◆

感想 7

あなたにおすすめの小説

スローライフとは何なのか? のんびり建国記

久遠 れんり
ファンタジー
突然の異世界転移。 ちょっとした事故により、もう世界の命運は、一緒に来た勇者くんに任せることにして、いきなり告白された彼女と、日本へ帰る事を少し思いながら、どこでもキャンプのできる異世界で、のんびり暮らそうと密かに心に決める。 だけどまあ、そんな事は夢の夢。 現実は、そんな考えを許してくれなかった。 三日と置かず、騒動は降ってくる。 基本は、いちゃこらファンタジーの予定。 そんな感じで、進みます。

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~

うみ
ファンタジー
 恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。  いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。  モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。  そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。  モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。  その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。  稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。 『箱を開けるモ』 「餌は待てと言ってるだろうに」  とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。

スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。 地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!? 異世界国家サバイバル、ここに爆誕!

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

処理中です...