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第95話 岩手県② 厳美渓、中尊寺、わんこそば

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「おお、これは美しいのじゃ!」

「龍泉洞の美しい青色とは異なって、美しいエメラルドグリーンですね」

厳美渓げんびけいは磐井の浸食によって形成された約2キロの渓谷だよ。激しい川の流れによって削られてできた奇岩や怪岩と美しいエメラルドグリーンの水流が認められて、国の名勝および天然記念物に指定されているんだ」

 続けてやってきたのは岩手県南部に位置する厳美渓だ。

 この川沿いに2キロメートル続く遊歩道があり、激しい流れが岩にぶつかって豪快な水しぶきを上げる上流に対して、下流ではゆったりとした深淵が見られて、同じ渓谷でも様々な顔が見られるのである。

 ここもまた雪景色や秋の紅葉で違った顔が見られるので、違う季節にまた来たい場所である。

「ぬおっ、何かが飛んでいるのじゃ!」

「ああ、あれはある意味ではこの厳美渓よりも珍しい空飛ぶ団子だよ。せっかくだからひとつ頼んでみようか」

 ミルネさんが指差す先には川の端から川を渡って対岸に飛ぶ飛来物があった。

 あれは下手をすれば厳美渓の景色よりも有名になってしまった郭公団子(かっこうだんご)、通称空飛ぶ団子だ。

 このかごにお金を入れて木槌で板を叩いて合図を送ると、対岸のお店がロープの付いたかごを引っ張ってくれて、その中に団子とお茶が入って帰ってくるという仕組みだ。

「うむ、この団子も美味いのう!」

「ええ、この景色を見ながら食べるお団子というのも良いものですね」

 郭公団子はしょうゆ、ゴマ、餡の3本が入っている。本当はひとり3本ずつ食べたかったところではあるが、少し歩いてお腹が空いてきたとはいえ、夜にメインが残っているからひとり1本ずつで我慢してもらった。

 喜屋武さんの言う通り、この美しい厳美渓の景色を見ながら食べる団子はより一層美味しく感じてしまうな。もちろん厳美渓の景色も最高に素晴らしい。旅をしながらいろんな渓谷を見てきたが、厳美渓が一番綺麗だったかもしれないぞ。



「ここが世界遺産の中尊寺金色堂だよ」

 続けてやってきたのは岩手県の世界遺産に登録されている平泉だ。正式名称は仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群というらしい。平泉には仏教の中でも、特に浄土思想の考え方に基づいて建てられた多様な寺院や庭園などが一群として保存されている。

 中尊寺、毛越寺、観自在王院跡、無量光院跡、金鶏山、その他の遺跡から成り立っているようだ。

 特に有名なのが中尊寺にあるこの金色堂だ。中尊寺金色堂は中尊寺にある平安時代後期建立の仏堂である。そもそもの建物自体が当時の浄土教建築の代表例で、当時の技術を集められて建てた国宝に指定されている。

「おお、中はその名の通り金色の仏像ばかりじゃな!」

「やはり金色の仏像や堂内はとても美しいですね」

 金色堂という名の通り、この中には金箔を張られて黄金の色をした小さな堂があり、その中に何体もの金色の仏像が奉られている。やはり黄金色をした仏像はなんとも神々しい雰囲気だよな。

 ちなみに余談だが、この仏像の下には奥州藤原氏の初代から藤原清衡・基衡・秀衡・泰衡のミイラがあるそうだ。そして4代目の泰衡は頭部だけで、頭にくぎを打たれた傷があることから、さらし首にされていたと予想されているらしい。……まあ、世の中には知らなくていいこともあるのである。

 そのまま続けて武蔵坊弁慶のお墓や弁慶堂、中尊寺本堂、月見坂八幡堂、毛越寺などを見て回った。

 他にも岩手県には童話などで有名な宮沢賢治記念館と宮沢賢治童話村がある。よだかの星、銀河鉄道の夜、注文の多い料理店など、きっと小学校の国語の教科書で誰もが触れたことがあるだろう。

 中にはその童話のジオラマや注文の多い料理店の山猫軒もあって、子供だけでなく大人も楽しめるようになっているからおすすめだぞ。



「さて、それじゃあふたりとも準備はいい? 無理はしないでいいからね。それと厳しくなったら薬味を入れて味を変えるといいよ」

「うむ、頑張るのじゃ!」

「これは楽しみですね!」

 俺たち3人の目の前には大量の薬味が並べられたお皿と、ひとつの椀がある。そしてそれぞれの隣に一人の給仕さんが付いてくれている。

「はい、じゃんじゃん」

「はい、どんどん」

 給仕さんの掛け声と共に一口分のおそばが椀に投げこまれる。それを食べるとまたすぐに椀へと次のそばがひたすら投げ込まれていく。

 これは岩手県の三大麺のひとつであるわんこそばだ。約15杯で一杯のかけそば分となっているらしい。

「はい、じゃんじゃん」

「はい、どんどん」

「………………」

 もちろんそば自体もとても美味しいのだが、80杯を超えた辺りから一気にきつくなってくる。自転車で旅をしていた時は150杯を超えたが、今回は100も行けば上々といったところだろう。

 お店にもよるが、このお店では100杯を超えれば木製の手形がもらえ、200杯を超えると記念にノートへ名前を書けるのである。

「はい、じゃんじゃん」

「はい、どんどん」

「……ここまでで」

 お腹がいっぱいの時は自分のお椀に蓋をしてここまでで終了と伝えわけだ。

 俺もなんとか100は超えられたが、それにしても2人はよく食べるよな。



 結局二人とも俺の記録を超える180杯を記録した。特にミルネさんの小さな身体によく入るものだよ。しかし驚くなかれ、店の公式の記録では男性が500杯で、女性は753杯が最高記録らしい……

 世の中には想像できないほどの化物もいるのである……
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