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第16話 三重県② 津餃子、伊勢うどん、松阪牛

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「これは大きな餃子ですね」

「餃子とはなんなのじゃ?」

「小麦粉の粉で作った皮に肉や野菜の餡を包んで、焼いたり茹でたり蒸したりした料理だよ。普通の餃子はもっと小さくて焼いたやつが基本だけど、この津餃子は普通の餃子の3倍の大きさで、油で揚げて作る餃子なんだ」

 鈴鹿サーキットをあとにしてへとやってきた。三重県の県庁所在地は伊勢神宮で有名な伊勢でも、松阪牛で有名な松阪でなく、この津である。結構知らない人も多いんだよな。

 そしてこの津で有名な餃子が津餃子である。この津餃子は学校の給食が発祥となっている珍しいご当地グルメだ。

「おお、外はパリッとしていて、中はとってもジューシーじゃな!」

「揚げ餃子とは珍しいですね。ええ、中から肉汁が溢れてきて美味しいです。それにこんなに大きいのに中までしっかりと火が通っていますね」

「低温でじっくり揚げているから、中までしっかり火が通っているな。この揚げ餃子特有のパリパリ感が美味しいんだよね」

 こいつはビールにもよく合いそうだな。本当なら一緒にラーメンも食べたいところだが、このままもう一軒寄る予定なので今回は我慢だ。



 津に続けて伊勢市駅へとやってきた。……んっ、伊勢駅の間違いではないかって? そう、なぜか伊勢はこれが正解なのだ。

 横浜市駅ではなく横浜駅、神戸市ではなく神戸駅といった感じで、普通は駅名に市がつくことはないのだが、なぜかここは伊勢市駅なんだよな。地元の人達はこの駅のことを市駅しえきと略して呼ぶらしいし、いろいろと謎である。

 そして三重県にはもうひとつ謎があり、明日、明後日、の次の日のことをささってと呼ぶらしい。えっ、明々後日しあさっては? と思うが、その次の4日後を指すらしい……

 他の県の一部でも使っているらしいが、その地域の人と明々後日に約束をする時は気をつけないといけないな。さて、伊勢神宮をお参りする前にもう少し腹ごしらえだ。

「むむ、これは柔らかくてモチモチしていて美味しいのじゃ! 同じうどんでも吉田うどんや味噌煮込みうどんとはだいぶ違うのじゃな」

「こっちのうどんは長時間茹でて、あえて柔らかく作っているからね。うどんはラーメンと一緒で日本各地にいろんなご当地うどんがあるんだよ。あと吉田うどんだね」

 山梨県民に怒られてしまうからな。……しかしなぜこれだけ吉田うどんなのだろう?

「うどんなのにこんなに柔らかいのですね。あっ、でもこの濃厚なつゆは美味しいです」

「真っ黒に見えるけれど、たまり醤油と出汁を使っているから意外と甘いんだよね。コシが大事な香川うどんとは正反対のうどんだよ」

 伊勢に参りにきた人達のために常に茹で続けたうどんを提供できるようにしていたり、伊勢までの長旅に疲れた人達に向けて消化の良い柔らかい麺にしたとも言われているらしい。



「ここがかの有名な伊勢神宮ですか」

「皇室の御祖神で、日本人の大御祖神おおみおやがみである天照大御神あまてらすおおみかみを祀っている約2000年の歴史がある神宮なんだ」

「ふむ、まだこの国の歴史はそれほど学んでおらぬが、たいそう有名な場所なのじゃな」

「そうだね、日本一有名な神社だと思ってくれればいいかな。今日はまだ空いているけれど、混んでいる日は本当にすごい人が並ぶんだよ」

 初詣やお祭りの際は他県からも大勢の人が集まる。動画で見たことはあるが、やばいくらいの人混みだった。

 ちなみに三重県は大晦日のパチンコオールナイトというものが有名だ。ここ伊勢神宮に集まる人が多すぎるため、付近の駐車場やトイレが足りないという理由で、大晦日の日だけは1日中営業をすることができるらしい。それをとってもここ伊勢神宮が特別ということがよくわかる。

「さて、それじゃあ伊勢神宮を回って行こうかな。ここはいろいろと参拝の順序があるんだ」

 伊勢神宮には正式な参拝の順序がある。伊勢神宮には外宮げくう内宮ないくうに分かれている。外宮から先に参拝するのが正式な順序だ。

 手水舎での手や口の清め方、外宮の参道は左側通行、内宮の参道は右側通行、鳥居を通る際は一礼、外宮と内宮共に先に正宮を回ってから別宮を回る、正宮でお参りをする際は個人的なお願いごとではなく日々の感謝を伝えるなどなど。

 伊勢神宮へ行く際には、しっかりと参拝方法を学んでから行ったほうが良い。外宮と内宮は少し離れているし、別宮も見学すると結構時間が掛かるので、時間に余裕を持って参拝するのがオススメだ。



「というわけで三重県といえば松阪牛まつさかうしだよな!」

 三重県といえば松阪牛である。日本三大和牛のひとつに数えられ、松阪牛と認められるにはいろいろな条件がある。地元民はまっつぁかうしと言うらしいが本当のところはわからないな。

「またタケミツのテンションが上がっておるのじゃが、これも高級食材なのかのう?」

「ええ、うなぎと同様に高級食材ですね。きっと庶民の佐藤さんには今まで縁のなかった食材なんですよ」

「そこ! 聞こえているからな!」

 しかし喜屋武さんの言う通りでもある。前回旅をした時はお財布の都合上、ちゃんとした松阪牛を食べられなかったからな。だって高級店だと1万円以上するんだもん……

 というわけで、今日は国のお金で松阪牛を楽しめるというわけだ。改めてこの仕事を受けて良かったぜ!

 そしてやってきた松阪牛達! まずはステーキのご登場だ!

「ほお! これはうまい肉なのじゃ! このナイフでも簡単に切れるほど柔らかく、下の上でとろけていく肉の旨み。塩と胡椒のシンプルな味付けがゆえに、この肉の旨みがよくわかるのじゃ!」

「これが松阪牛か! 今まで食べてきた牛とは質が違う! 本当に最高級の肉は舌の上でとろけると言うのは本当だったんだな! 肉汁や肉の旨みが桁違いだ!」

「……なんで佐藤さんまで驚いているんですか」

 たとえこっちの世界にいても、こんなにうまい肉を食べるのは初めてなんだよ! うちのブラック企業の接待費なんかで、こんなうまい肉が食えるわけないじゃん!

「ぬう、このすき焼きとやら、薄く切った肉を甘辛い調味料で少しだけ煮て、生の卵を絡めて食べるとは、信じられぬ食べ方じゃが、信じられぬくらい美味しいのじゃ!」

「ここのすき焼きは最初に焼いてからシンプルな砂糖と醤油しか使わない関西風だからこそ、すき焼きの肉の旨さがよくわかるよ! この細かくサシの入った肉、まさに芸術品ってかんじだよね!」

「………………」

 うまい肉を目の前にして、テンションが上がりきったミルネさんと俺に喜屋武さんはついてこれていないみたいだ。

 うむ、やはりうまい肉は正義である!
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