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第11話 静岡県③ 静岡おでん、うなぎ

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「ほう、この建物は妾達の世界の家と似ているのじゃ」

「なんだか懐かしい感じがしますね」

「まあ駄菓子屋さんといえば、昔はこんな感じの建物が多かったよね」

 俺達の目の前には木造の建物の駄菓子屋さんがある。しかし、ここまで駄菓子を買いに来たというわけではない。

「本当に駄菓子屋でおでんが売っているんですね……」

 そう、ここ静岡県ではおでんと言えば、牛スジで出汁を取り、味噌や濃口醤油で味付けをして、そのスープを毎日継ぎ足して使っているために色が黒くなった静岡おでんが有名だ。

 そしてそのおでんはなぜか駄菓子屋さんやパン屋さんでも販売している。駄菓子が並んでいる中に大きなおでん鍋がポツンとある光景を最初に見たときは俺も驚いたものだ。

「見た目通り味が濃いですが、とても美味しいですね。それに上に掛かっている青海苔やだし粉がいいアクセントになっております」

「うむ、スープがたっぷりと染みて美味しいのじゃ! それにいろんな具材があるんじゃのう。妾はこれが好きなのじゃ!」

「ミルネさんのは黒はんぺんだね。確かサバやイワシの皮や骨も丸ごと使っているから、黒い色になるんだよ。それにイワシを削って作られただし粉を掛けると美味しいよね。俺はやっぱり大根とたまごが好きかなあ」

 静岡県でははんぺんといえば、こっちの黒いはんぺんを指すらしい。骨や皮などを使っているため、栄養も白いはんぺんより多いようだ。この黒はんぺんをフライにしたものもお酒に合うんだけど、さすがに朝っぱらから酒はいかんな。

 個人的にはおでんの具材だったら、たまごと大根が好きかな。特に静岡おでんだと、普通のおでんよりも味が強く染み込むのでより美味しく感じる。駄菓子屋に売っているだけあって値段も安いのは嬉しいところである。コンビニで買うよりも安いってヤバいよな。



「おお、これは見事な建造物じゃな」

「これは昔日本で建てられていたお城の跡地だよ。本当はここにもっと立派なお城が建っていたけれど火事で焼けてしまったらしいんだよね」

 静岡駅から歩いて15分ほど、かの徳川家康が幼少の頃に育ったという駿府城の跡地へとやってきた。静岡駅にも、この駿府城跡地にも徳川家康公の像がある。

 残念ながら火事によりその天守は焼失してしまったが、大きくて立派な城門や櫓などは残っている。

「あれが昨日見た富士山じゃな。ここからもよく見えるのう」

「ええ、街中からも綺麗に見えましたね」

「この辺りに住んでいる人は道に迷ったらまず富士山を見て方角を確かめるって聞いたよ。それに横断歩道に流れる曲は富士山なんだって」

 山梨県民と同じで静岡県民も富士山を愛しているよな。富士山周辺に住んでいる人達は富士山の写真を見れば、それが山梨県側から撮った写真か静岡県側から撮った写真かがわかるらしいからすごい……

 横断歩道の曲は地域によって違っていて面白いよね。東京あたりだととおりゃんせの曲が多い気がする。



「おお、ここからも富士山がとても綺麗に見えるのじゃ!」

「遮るものがなにもないので、海岸線が綺麗に見えますね」

「空と海の青色と松の緑に富士山の白が映えて見えるよね。ここの景色は江戸時代の浮世絵とかにも描かれているからすごいよ」

 ここ三保の松原には約3万本の松が生い茂っている。松の緑と駿河湾の青色のコントラストもこれまた美しい。それとここには天女伝説で知られる羽衣の松もある。漁師が松に掛かっていた羽衣を持って帰ろうとしたら天女が現れたというあの話である。

 のんびりとこの景色の良い松の生い茂る道を散策するのも楽しいものである。



「そしてやってきました浜名湖! 浜名湖といえばうなぎで決まり!」

「ど、どうしたのじゃ、タケミツ。やけにテンションが高いのう?」

「……気でもふれたのですか?」

「ちょっと喜屋武さん、言い方!? うなぎが食べられるとなるとテンションも上がるに決まっているでしょ!」

 そう、静岡県の浜名湖といえば、うなぎの名産地として有名である。前回旅でここに来た時にはお金を節約していたこともあってうなぎは食べられなかったのだ。

 しかし今回はうなぎが食べられる。しかも国のお金で食べられるとなると、テンションは上げ上げだ。人としては良くないと思うが、他人のお金で食べるうなぎとか最高すぎるよね!

「ふむ、とてもいい匂いじゃな。日本ではそのうなぎというものはそれほど有名な食べ物なのかのう?」

「うなぎは日本で江戸時代から親しまれていた食材なんだよ。土用と言って、春夏秋冬の季節の変わり目である18日間の期間の中で、丑の日にうなぎを食べる風習があるんだ」

 何に4回ある季節の変わり目の土用の期間に、昔の暦である12支の干支の日が重なった日が土用の丑の日となる。一般的には夏の土用の丑の日を指すことが多い。

「……うな重の特上、白焼き、肝焼き、兜焼き、自分のお金ではないと思ってこれでもかと頼みましたね」

「せっかくならミルネさんにも、いろんな料理を味わってもらったほうがいいでしょ。ねっ、ミルネさん」

「そうじゃな。せっかくなら妾もいろんな料理を食べたいぞ」

「……そうですね。それに私のお金でもありませんから、別に構わないでしょう」

 ミルネさんはそのあたりを察してくれたらしい。そして喜屋武さんもそのあたりについてはドライだな。

「おお!! 皮はパリッとしており、身はふっくらと柔らかく、そしてなによりこの甘辛いタレが最高にうまいのじゃ!」

「白焼きや肝焼きに兜焼きは初めて食べました。確かにこれはとても美味しいですね!」

「肉厚で脂が乗っていて、炭で焼いてあるから外はパリッと中はふっくらでうまい!」

 やっぱりうなぎは高いけれどうまいよね。それに浜名湖周辺は産地であるため、白焼きや兜焼きなど珍しい食べかたもできる。中にはうなぎの刺身なんて珍しいのもあるらしい。

 ちなみにうなぎの上や特上は焼き肉のそれとは違って、うなぎの量が違うだけで質は同じものである。並は1匹、上は1匹半、特上は2匹みたいな感じだ。

 そしてこのあたりの小学校ではなんとうなぎが給食に出てくるらしい。しかも静岡県の給食には牛乳だけでなくお茶が出てくるようだ。地域によって給食のメニューが違うのは知っているが、さすがにうなぎは羨まし過ぎるぜ……
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