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第154話 守りたい屋敷の日常

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「マサヨシ様!」

「おっと」

 サーラさんが鎧の上から抱きついてきた。その目からは涙が溢れていた。ダルガさんもジーナさんもいないし、いろいろと張り詰めていたのだろう。大人びているように見えても、サーラさんは俺よりもまだ幼い。

 結局国王様は先程の俺の要求を呑んでくれた。名声とかお金はすべてパジアさんにまわしてもらって、国に貸しを作れるのは俺にとってありがたい。

 他の人達は現在俺が倒した護衛の人達の治療をしている。抑制スキルは正常に働いていたようで、大怪我をした人はいなかった。治療を終えてから、決闘の地であるバージル平原まで移動を開始する。護衛の人達の治療をしている間に、少しだけサーラさんと話をさせてもらっていた。

「……本当はマサヨシ様には頼りたくなかったのです。ですがお願いします、お父様を、お兄様達を助けてください!」

「サーラさんが俺に怪我をさせないように気遣って、この決闘のことを言わなかったのは知っています。でも俺も知ってしまったからには、黙ってサーラさんを見殺しにする気なんてありませんよ。任せてください。サーラさんのついでですけど、サーラさんの家族も守ってみせます」

 本音を言うと兄貴達だけは見捨ててもいいんだけどな。過去に自分の命を狙った兄達までも救ってほしいとは、やはりサーラさんは優しい。

「ありがとうございます。ですが、ひとつだけ約束をしてください。無茶だけは決してしないでください。命の危険があったら、迷わず逃げるか降参をしてください。

 マサヨシ様で勝てない相手ならば、どちらにせよこの国の者では誰にも勝てません。無理をしてマサヨシ様が大きな怪我をしてしまったり、死んでしまうことだけが不安でしょうがないのです!」

「……わかりました。約束します」

 とは言ったものの、こればっかりはその時になってみないとわからない。でもこんな状況でも俺のことを心配してくれるサーラさんだからこそ、俺は彼女を助けたいと思えるんだ。

 最初は盗賊に襲われているところをたまたま助けただけだった。あとでサーラさんが大魔導士の子孫であることがわかって、大魔導士から力を貰ったその恩返しのつもりで、第一王子や第二王子達から彼女を守ろうとしたんだっけ。

 それから元の世界のケーキを食べてもらった時に、とても美味しそうに食べてくれたから、こっちも嬉しくなって、何かあるたびに差し入れを持っていくようになった。やっぱり俺はあの屋敷での日々の時間が好きだ。なんとしてもあの楽しい日々を守りたい。



「それじゃあフー助、サーラさんを頼んだぞ」

「ホー!!」

「フー助ちゃん!」

 小さくなって俺の仮面の上に乗っていたフー助がたちまち大きくなって、サーラさんの肩に止まる。

「フー助は障壁魔法が使えますから、サーラさんを守ってくれますよ。フー助がサーラさんの近くにいて守ってくれるから、俺も全力で相手と戦うことができます」

「フー助ちゃんは魔法が使えるんですね!? フー助ちゃん、すごいです!」

「ホー♪」

 フー助も褒められて嬉しそうだ。そう、うちのフー助は可愛くてすごいのだ!

「そういえばダルガさんとジーナさんはここにはいないんですね?」

「あ、はい。実はこの決闘が決まった時に屋敷の者達は全員解雇したのです。正直に申し上げまして、今回の決闘は我が国の敗戦がとても濃厚でした。もちろん屋敷の者にまで、なにか処罰が下ることはないとは思うのですが、念のためにです」

 そこまでは前に屋敷の前でこっそり聞き耳スキルを使って聞いていた。でもちょっと意外だったな。ダルガさんやジーナさんは、たとえ止めたとしてもついてきそうな性格をしていたと思っていた。2人とも国というよりはサーラさんのほうを慕っていたからな。

「……じいとジーナだけはここまでついてくると最後まで言い張っていましたね。昨日料理長のファラーに頼んで2人の食事に眠り薬を入れてもらって、無理やり置いてきてしまいました」

「………………」

 ……そうなんだよな、あの2人も頑固なんだけどサーラさんも譲らないところは絶対に譲らないんだよね。2人ともサーラさんがそこまでするとはさすがに思っていなかったのだろう。

「だったら屋敷に戻って2人には謝らないといけませんね」

「……ええ、そうですね! 屋敷に戻ったら、ちゃんと2人には謝ります!」

 うん、サーラさんの表情も少しだけ明るくなってきた。そうだ、なんとしてもこの戦いに勝って、いつものあの屋敷で、楽しくみんなと美味しいものを食べていた日常を取り戻しにいくとしよう。





 ベージル平原、そこはひたすらに広く広がっている平原だ。特にこれといって何かがあるわけでもなく、ちょうどバードン国とエドワーズ国の間にあるからこの場所が選ばれただけらしい。

 バードン国とエドワーズ国をつなぐ道からはかなり距離が離れているから、決闘で誰かが巻き込まれる心配はない。

 平原の奥の方から大勢の人影が現れた。こちらと同じで何十人もの鎧を身に付けた騎士に囲まれている豪華な馬車が近付いてくる。

 そして両者の陣営が対峙し、騎士達は後ろに控えて、王族同士が前に出た。
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