46 / 189
第46話 勇気ある若者
しおりを挟むくそっ無駄な時間をとってしまった。急がないと!
一応近くでなんらかの事件が起こった時のためにシミュレーションはしてある。トイレの中に入りカバンを収納魔法でしまい、結構前に大魔導士の家で作った変装スーツを学生服の上に装着し黒い面を付ける。
あの工場から一番近い場所は……ここだ!
転移魔法を使って爆発したという工場から一番近くの中継ポイントであるビルの屋上に移動する。ここのビルだけでなく、周りに高いビルがなく、人が出入りせず、監視カメラのないビルの屋上をいくつか中継ポイントとして不法侵入……じゃなかった、こっそりとお邪魔させてもらっていた。
さすがに変装スーツを作ったのに、うちの高校から出入りしていることがバレたら意味がないもんな。どうよ、完璧なプランじゃね?
なんて自画自賛している場合じゃない。転移したビルから急いで爆発のあった工場へ向かう。飛行魔法を使うことはできないが、風魔法で足場を作って宙を走り一直線に目的地まで走っていく。
隠密スキルを使っているし、もし見られたとしても鳥とかにしか見えないと信じたい。
「っ!! 見えた!」
確かに工場が燃えている。消防車はすでに到着しており、消化作業を行なっているが、火災の規模が非常に大きい。そして工場の内部で危機察知スキルにいくつもの反応があった。やばそうな反応があるところから順に急ぐしかない!
――――――――――――――――――――――――
「くそ、あのクソ社長が! だから安全面にもっと気を使えと散々言っただろうが!」
「そのくせ一人で先に逃げ出しやがってよ! 駄目だ、全然持ち上がらねえ!」
「おい、もういい! このままじゃ君達まで死んでしまう! 私を置いて早く逃げるんだ!」
「いいからおっさんももっと力入れろ! 絶対に全員で出るぞ!」
あの大きな地震の後、いきなり大きな爆発があった。あれほど社員全員で安全面について不備があると社長に意見したが、一向に聞き入れてくれなかった結果がこれだ。
更に運の悪いことに爆発の衝撃で私の頭上から多くの資材が降ってきた。直撃は避けられたものの、腰から下に資材が覆い被さり、完全に身動きが取れなくなってしまった。
他の者達が我先にと逃げ出そうとする中、この2人の若者だけは自らの危険を顧みず、今の今まで必死に私を助け出そうとしてくれていた。
茶髪であろうとそれがどうした。多少口が悪くあろうともそんなの関係ない。まったく、この2人の本当の優しさに今まで気付かなかったのだから私は本当に情けない。
だからこそ、この2人の未来ある若者をこれ以上危険に晒してはいけない。
「竹下くん、三木元くん、本当にありがとう。だが、もういいんだ。もう私の腰から下の感覚はない……たとえ資材をどかすことができてももう私は助からない。頼むから君達だけでも逃げてくれ……」
徐々に増えていく重さに痛みを通り越して、もう私の腰から下の感覚はない。口の中は血の味しかしない。
「……おっさん!」
「くそがっ!」
「……最後に、妻と息子にずっと愛していたとだけ伝えてほしい」
「おっさん……ああ、約束する!」
「俺もだ、約束する!」
「ありがとう! さあ早く君達も逃げてくれ! ほら、急ぐんだ!」
「……くそ!」
「すまねえ、すまねえ……」
よかった、行ってくれたようだな。ああ、神様。こんな老いぼれを最後まで助けようとしてくれたあの勇気ある若者達をどうか助けてください。
これから私は死ぬ。倒壊した建物に潰されるか火に焼かれながら死んでいく。最後に妻と息子にもう一度だけ会いたかった……
「うおらあああああ!」
「……っんな!」
私が死の覚悟を決めた瞬間、突如工場の天井をぶち破って、何者かが突然現れた。
「聞き耳スキルで全部聞こえてんだよ! そういう感動ドラマはテレビの中だけにしてくれよ!」
現れるなり訳のわからないことを言い出し始めた謎の男。真っ黒な仮面にマントまで付けてどこかで見たようなおかしな格好をしているが、まさかこんな状況でもう助けが来たのか?
「おい、なんだ今の音!」
「助けが来たのか!」
い、いけない! 2人が戻ってきてしまった!
「そ、そこのあなた、私は腰から下が潰れてもう助からない。この2人を連れて早く逃げてくれ!」
「おい、あんた! そんなおかしな格好をしているがレスキューなんだろ、3人でやりゃあおっさんを助けられるかもしれねえ!」
「頼む、力を貸してくれ!」
「スリープ」
「……ふあ」
「……んな」
「おっ、おい!」
なんだ、2人が急に倒れてしまったぞ!
「頼む、そこの2人を連れて早く逃げてくれ! 2人とも最後まで私のような老いぼれを助けようとしてくれた勇気ある若者なんだ!」
「……任せろ! あんたも含めて必ず助ける!」
「私はもう無理だ! いいから2人を連れて早く逃げてくれ!」
仮面の男が私の足の資材をどけようとする。だが2人でも無理だったのにそんな細腕でできるわけが……
ミシミシミシ
「んな!?」
2人があれほど試してもびくともしなかった資材がいとも容易く押しのけられた。この男見た目と違ってかなりの力の持ち主のようだ。だがたとえ資材をどけられたとしてももう私は持たないだろう……
「よし、もう大丈夫だ。安心してくれ! ハイヒール! スリープ!」
「……なあ」
う、急に眠気が……そんな、こんなところで気を失うわけには……
……はっ!!
ここはどこだ! あの二人は、竹下くんと三木元くんは無事なのか!?
ああ、よかった、ふたりとも隣にいる! 他にも10人近くの人が横になっていた。ここはどこかの公園か?
「竹下くん! 三木元くん!」
「……うぅ」
「……んぁ」
「よかった、ふたりとも無事だったんだね!」
「おっ、おいおっさん! その足……」
「足? えっ、な、なんで!?」
今の今まで気付かなかった。資材に押し潰されてしまった私の足。しかしそこには今まで何十年も付き合ってきた私の足がそのままの姿でそこにあった。潰れるどころか折れてさえいない。足の指先も動く!
「すげえ、傷ひとつねえじゃんか!」
「なんでだ、俺も細けえ切り傷が治ってやがる!」
「……変な仮面の男が現れたところまでは覚えてんだけどなあ」
「ああ、俺も俺も!」
……もしこれが夢でなかったなら、あの黒い仮面の男が私の傷を治してくれたのだろうか? いや、まさかそんな映画みたいなこと……
いや、何にせよ今こうして3人が無事に生きている。そのことに深く感謝をしよう。
「竹下くん、三木元くん、最後まで私を助けようとしてくれて本当にありがとう」
24
お気に入りに追加
2,767
あなたにおすすめの小説
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
異世界あるある 転生物語 たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?
よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する!
土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。
自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。
『あ、やべ!』
そして・・・・
【あれ?ここは何処だ?】
気が付けば真っ白な世界。
気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ?
・・・・
・・・
・・
・
【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】
こうして剛史は新た生を異世界で受けた。
そして何も思い出す事なく10歳に。
そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。
スキルによって一生が決まるからだ。
最低1、最高でも10。平均すると概ね5。
そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。
しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。
そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで
ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。
追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。
だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。
『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』
不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。
そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。
その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。
前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。
但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。
転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。
これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな?
何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが?
俺は農家の4男だぞ?
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される
こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる
初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。
なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています
こちらの作品も宜しければお願いします
[イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
モブ高校生と愉快なカード達〜主人公は無自覚脱モブ&チート持ちだった!カードから美少女を召喚します!強いカード程1癖2癖もあり一筋縄ではない〜
KeyBow
ファンタジー
1999年世界各地に隕石が落ち、その数年後に隕石が落ちた場所がラビリンス(迷宮)となり魔物が町に湧き出した。
各国の軍隊、日本も自衛隊によりラビリンスより外に出た魔物を駆逐した。
ラビリンスの中で魔物を倒すと稀にその個体の姿が写ったカードが落ちた。
その後、そのカードに血を掛けるとその魔物が召喚され使役できる事が判明した。
彼らは通称カーヴァント。
カーヴァントを使役する者は探索者と呼ばれた。
カーヴァントには1から10までのランクがあり、1は最弱、6で強者、7や8は最大戦力で鬼神とも呼ばれる強さだ。
しかし9と10は報告された事がない伝説級だ。
また、カードのランクはそのカードにいるカーヴァントを召喚するのに必要なコストに比例する。
探索者は各自そのラビリンスが持っているカーヴァントの召喚コスト内分しか召喚出来ない。
つまり沢山のカーヴァントを召喚したくてもコスト制限があり、強力なカーヴァントはコストが高い為に少数精鋭となる。
数を選ぶか質を選ぶかになるのだ。
月日が流れ、最初にラビリンスに入った者達の子供達が高校生〜大学生に。
彼らは二世と呼ばれ、例外なく特別な力を持っていた。
そんな中、ラビリンスに入った自衛隊員の息子である斗枡も高校生になり探索者となる。
勿論二世だ。
斗枡が持っている最大の能力はカード合成。
それは例えばゴブリンを10体合成すると10体分の力になるもカードのランクとコストは共に変わらない。
彼はその程度の認識だった。
実際は合成結果は最大でランク10の強さになるのだ。
単純な話ではないが、経験を積むとそのカーヴァントはより強力になるが、特筆すべきは合成元の生き残るカーヴァントのコストがそのままになる事だ。
つまりランク1(コスト1)の最弱扱いにも関わらず、実は伝説級であるランク10の強力な実力を持つカーヴァントを作れるチートだった。
また、探索者ギルドよりアドバイザーとして姉のような女性があてがわれる。
斗枡は平凡な容姿の為に己をモブだと思うも、周りはそうは見ず、クラスの底辺だと思っていたらトップとして周りを巻き込む事になる?
女子が自然と彼の取り巻きに!
彼はモブとしてモブではない高校生として生活を始める所から物語はスタートする。
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる