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第122話 拉致
しおりを挟む「うわっ、冷てえ!」
「な、なんだ!」
「こ、ここはどこだよ!」
こちらの準備が終わって、寝ていた4人に水をぶっかけて無理やり目を覚まさせる。
「や、やっぱりてめえはヒゲダルマか!」
このDQN配信者のリーダーである金髪で両耳にピアスを付けたユキヤという男が俺の方を睨むが、すでに武器は取りあげて拘束済みだ。
周囲に誰もいないことを確認してからことにあたったが、万一誰かに見られてもいいように付けていたマスクはすでに外しているから、俺がヒゲダルマだということはすでにこいつらも分かっている。
そしてここはダンジョンの18階層の森の中だが、階層の端っこの方なので他の探索者やダンジョン配信者が来ることはないだろう。仮にここへ来たとしても、俺が持っているマジックアイテムで巨大な壁を周囲に作ったので、誰も入って来ることができない。
「んなっ、何だこりゃ! おいてめえ、こいつを外せ!」
「ああ、これはモンスターの素材で編み込んだロープだ。おまえらの力では絶対に外せないと思うぞ」
こいつらの拘束は深い階層で出てくるモンスターの毛を編みこんで作った特別製のロープで縛ってある。ダンジョン内で身体能力が強化されているが、こいつの力では間違いなく外すことができないだろう。
今ここには俺とこいつら4人しかいない。華奈と瑠奈は俺を手伝うと言ってくれたが、さすがに2人を今回の件で巻き込むつもりはないからな。
一応俺のドローンは今のこの状況を撮影しているが、いつものように限定配信はしていない。映像記録は残しておくが、これから起こることはリスナーのみんなにもあまり見せたくないからな。
もちろんこの行為は完全に犯罪行為だが、無法には無法をだ。俺もあえて法を破りたいわけではないが、相手がそうしてくるのなら、こちらも遠慮なく法を破らせてもらおう。
「くそったれ! 俺たちをつけてやがったのか!」
「ああ、お前らがさっき言っていた通りだぞ。配信をしているってことは自分の居場所を常に知られていると同義だからな。そして配信用のドローンさえどうにかすれば、やりたい放題だったよな?」
「ぐっ……!」
そもそも俺に対してあれだけの敵対行動を取った後にダンジョンの中へ足を踏み入れる時点で危機感がなさすぎる。まあ、こいつらに危機感なんてものがあれば、最初会った時のようにコボルトの群れ相手にやられそうになるわけがないか。
俺がここまですることを予想できなかったという可能性もあるけれどな。俺はダンジョンの外で失うものはないし、何よりこいつらの会話を聞いていると夜桜だけでなく華奈や瑠奈、他の女性配信者にまで害を与えそうだし、改めて計画を実行して良かったと思っている。
こいつらは俺のでっち上げ動画を出した後もこれまで通り普通に配信を続けていたから、数日間監視をして、人が少なくて視界の悪いこの階層で配信を行った今日に計画を実施したというわけだ。こいつらが配信をしている最中から周囲に人がいないかを確認しつつ、こいつらの話はすべて聞いている。
「て、てめえ! こんなことをしてただですむと思ってんのかよ!」
「……いや、むしろ俺がこんなことをしているという意味をもっとよく考えた方がいいぞ」
「「「………………」」」
さっきまで威勢のよかった4人が黙る。
DQN配信者とはいえ、俺が素顔を晒してこいつらを堂々と拉致している時点で、自分たちがこれからどうなるのかを理解したようだ。
「い、今俺たちを殺したら、まっさきにてめえが疑われるぜ!」
「あ、ああ! 間違いなくヒゲダルマ、てめえが殺人犯として逮捕されるぜ!」
一応はそれくらいのことは考えられるようだな。だが、その考えは外れだ。
ダンジョンの中なら、証拠を一切残さずにこいつらを処分することはできると思うが、さすがに俺も人を殺すつもりなんてない。正直なところ、こういった輩はいなくなった方が世の中のためになるとは思うが、俺も自分自身の手で人を殺めるという一線は超えたくない。
それにこいつらの言う通り、さすがに今の状況でこの4人の消息が分からなくなったら、俺が疑われることは間違いないだろう。そしてたとえこいつらがいなくなっても、例の動画はそのまま残ってしまうからな。
「安心しろ、少なくともお前らの命まで取る気はない」
俺がそう言うと明らかにほっとした様子を見せる4人。
だが、当然ここまでしておいて、そう簡単にこいつらを解放するわけがない。
「さて、それじゃあまずはお前らが上げた俺の動画を削除してもらおうか。ほら、おまえらのデバイスだ。分かっているとは思うが、もしもおかしな真似をしようとしたら、その腕をへし折るからな」
「「「………………」」」
ドローン自体はひとつだったが、腕輪のデバイスは4人とも持っていたのでそれらは拘束時に回収してある。
まずは例の夜桜のでっち上げ動画をこいつらに削除させる。
「おい、誰でもいいんだぞ?」
「「「………………」」」
俺がそう言ってもこいつらはお互いに顔を見合わせて誰も動こうとしない。まあこれも予想通りだ。
「誰も動こうとしないなら仕方がないか。さて、まずは軽いジャブからだったな」
そう言いながら俺はある物を取り出した。
「……っ!? て、てめえ!」
俺が取り出した小さな赤い実を見てDQN配信者が声を上げる。
そう、この赤い実は以前にこいつらがコボルトに無理やり食べさせようとしていたダンジョン産の唐辛子であるギガントキャロキアだ。
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