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第109話 ビビビンチャンネル

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「な、なにこれ!」

「ヒゲダルマさん、これは本当なんですか!?」

「………………」

 腕のデバイスを操作して、月面騎士さんが貼ってくれた動画のリンク先を現在テーブルに置いてある大きなデバイスで開いた。

 すると、リンク先の動画のタイトルが表示され、そこには『話題沸騰中の最強配信者ヒゲダルマ、大宮ダンジョンビルの美人店員さんと熱愛発覚!』と書かれている。

「なんのことだかさっぱりなんだが……」

 本当になんのこっちゃなんだが……

 美人店員ということはもしかして夜桜のことか?

"この野郎、ついさっきまで華奈ちゃんと瑠奈ちゃんとイチャコラしておいて、まさか本妻がいるだと! @XYZ"
"すでに結婚を誓い合った彼女がいるだと! 許せん、爆発しろ! @ルートビア"
"おい、ヒゲダルマ。嫁ってどういうことだ! @たんたんタヌキの金"

「いや、そんなのいてたまるか! とりあえず落ち着いてくれ」

 本妻とか結婚を誓い合った彼女とか、いったいどこから出てきたんだよ……

"すまん、一応配慮してヒゲダルマ個人のアドレスに送ったんだけど…… @月面騎士"

「ああ、それで俺の個人アドレスに送ってくれたのか。別にそんなやつはいないから、気にしなくてもいいぞ。とりあえず、まずは再生してみるか」

 どうやら月面騎士さんは俺にいろいろと配慮をしてくれて、この限定配信のコメントではなく、俺のデバイスに直接送ってくれたらしい。だけど、別に俺にはやましいことなんてないから、普通にこっちの限定配信のコメントで送ってくれても良かったのにな。

『ど~も、ビビビンチャンネルのユキヤだ! さて、今日はサムネを見てもらった通り、今超絶話題のぶっちぎり最強配信者のヒゲダルマの女について配信するぜ!』

 配信が始まると、どこかのアパートかマンションの部屋らしき場所に4人の男が座っている映像が流れた。そして今喋っている金髪の男には見覚えがある。

「あれ、この男はどこかで見たことがあるな」

"相変わらずのダンジョン脳だな、おい! @ルートビア"
"コボルトに拷問をしようとしていたDQN配信者だよ~ @WAKABA"
"数週間前にあったばかりだろう。あんなヤバイやつら忘れんなよ! @XYZ"

「ああ、あいつらか!」

 完全に忘れていた。

 そもそもダンジョンで出会った探索者や配信者なんていちいち覚える気はない。そんなのを覚えているよりも、ダンジョン内の地形やモンスターの特徴なんかを覚えていた方が100倍有用的だ。文字通りそっちの情報は命にかかわってくるからな。

『いや~あのヒゲ面男も隅に置けねえよなあ!』

『一時はあのツインズチャンネルの華奈と瑠奈のどちらかと付き合っているなんて噂もあったのに、まさか別の女とよろしくしているとはねえ~』

『いや、分かんねえぜ。もしかしたら、あの2人のどちらかと付き合っていながら、二股かけてんのかもしれねえぞ。まさかの三股だったりしてな!』

『うっわ~あいつヒゲを剃ったらイケメンらしいから、全然あり得るな!』

 でたらめなことを言いながら笑い合う4人。こんなのを信じるやつは本当にいるのか?

『つー訳で、まずは早速俺らが独占して撮ることができた動画を見せてやろう!』

 動画が4人のいるアパートからどこかの建物の中に切り替わった。

 ああ、たぶんこれは大宮ダンジョンビルの夜桜屋がある階のフロアだな。やはり美人店員とは夜桜のことだったか。

『ここは大宮ダンジョンビルのとある階だぜ! さすがに店と相手の女の顔は隠してあるから、気になるやつがいたら自分たちで探してみろよな』

 どうやら音声は別にあとから吹き込んだようで、フロアを歩きながらDQN配信者のリーダーの声が聞こえてくる。

 確かに店の看板の文字にはモザイクが掛けられていて見えようにはなっているが、普通に大宮ダンジョンビルのフロアをひとつひとつ探していけば、すぐにばれてしまうだろう。

『さて、いよいよヒゲダルマの女の登場だぜ!』

 そのままカメラは夜桜屋の入り口のガラス越しに店内の様子をズームで映し出す。

 そこには俺とモザイクの掛けられた夜桜が映っていた。

『とても仲が良さそうに話しているねえ~』

 ズームされた動画には俺とモザイクが掛けられた夜桜と一緒に話をしている様子が映し出されていた。

『間違いなくこれは他人の距離感じゃねえよなあ』

『いやあ、2人でひとつの小さなデバイスを見てラブラブですわ! これは間違いなくできちゃっているぜ!』

「………………」

 たぶんこれは俺がニュースに載っているのを夜桜に見せてもらった時だな。そこまで近付いた覚えはないが、夜桜に掛けられたモザイクのおかげで確かに顔を近付けているようにも見えなくはない。

『モザイクで見せられないけれど、ここなんて彼女が顔を赤くして顔を背けてんだぜ! きっとヒゲダルマに愛の言葉でも囁かれたのかなあ?』

『そのあとも彼女さんはとっても楽しそうにヒゲダルマと話していたな』

「………………」

 確かにあいつはドローンなんかの説明をする時はとても楽しそうに話しているから、そう見えてしまっても仕方はないか。

『そして決定的な瞬間はここだ! 何とヒゲダルマと彼女は店の中で情熱的なキスをしているぜ!』

「「「っ!?」」」

 いや、夜桜とキスなんてしてないぞ!?

 ……ああ、なんだ。

 夜桜と顔が近付いた時にうまくモザイクを利用して、いかにもそれっぽく映しているだけか。さっきよりモザイクも不自然に大きくなっているし、完全にでっち上げの動画だな。
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