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第75話 ボスモンスター部屋への挑戦権

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「初めまして、ヒゲダルマと申します。いきなりで本当に申し訳ないんけれど、ボスモンスターへの挑戦権を譲ってくれないだろうか? あるいは俺も一緒にボスモンスターと戦わせてくれないだろうか?」

「はあ! 何言ってんだてめえ!」

「いやいや、本当に何を言っちゃってるのさ!?」

 ドレッドヘアの男性と小柄な男性が大きな声を上げる。

 だがそれも当然だ。ボスモンスターへ挑もうとしている時にいきなりそんなことを言われたら、誰だってこういう反応にもなる。

「……初めまして、ヒゲダルマさん。私はこの金色の黄昏団のパーティリーダーをしている那月蒼なつきあおいと申します。まずは今配信をしている最中ならば、一度配信を止めていただくことは可能でしょうか? 私たちはあまりメディアへ露出しないようにしておりますので」

「ああ、もちろんだ」

 3人組のリーダーである那月さんの言う通りに肩へ固定していたドローンを切って一般配信を止めた。

 ダンジョン探索者の中にはあまりメディアに出ない人も多くいる。どうやら彼らは配信をしていないようだ。彼らの周囲にはそれぞれドローンが浮かんでいるが、あれは配信ではなく録画用だろう。

 このレベルの階層のボスモンスターへ挑む際は何度か挑むことを前提として立ち回るため、記録を取りながらあとでボスモンスターの動きを分析するためにドローンを使用しているに違いない。

「ありがとうございます。念のために確認しておきますが、ボスモンスターへの挑戦権は先にゲートへ到着した順であることはご存知ですよね?」

 リーダーの那月さんがとても丁寧な口調で話してくれている。

「ああ、もちろんだ。それを承知の上でお願いをしたい。それだけじゃなくて、今から3日間……いや、念のために4日間この階層のボスへ挑戦しないでほしいんだ。無茶苦茶なことを言っている自覚はある! その対価としてお金や高価なマジックアイテムを渡すから、どうか了承してほしい!」

「ああん! 喧嘩売ってんのかてめえ!」

「さすがにそれは無茶苦茶だね……」

 2人が怒ったり呆れたりする気持ちもよく分かる。彼らだってこの階層のボスモンスターへ挑むために装備やマジックアイテムなどかなりの準備をしてきたのだろう。

 それをいきなり4日間ボスモンスターへ挑むなとか言われたところで、はい分かりましたと言えるわけがない。

「ヒゲダルマさん、さすがにそれは無理です。私たちもこのボスモンスターへ挑む今日の日のためにいろいろと準備をしてきました。今回挑戦権を先に譲るということならともかく、4日間ボスモンスターへ挑むなというのは無理があります。それに連携もありますし、いきなりあなたをパーティへ入れることもできません」

 俺の無茶苦茶な要求に対して、あくまでも冷静に正論で返してくる那月さん。

「無理を承知でどうか頼む! もちろんあなた方がこの日のために様々な準備をしていたというのは百も承知だ。俺もできる限りの対価を用意する」

 マジックポーチの中から、様々なマジックアイテムに武器や防具なんかに使えそうな素材や魔石などを取り出した。

「うわっ、こっちはハイポーションであっちはマジックプロテクション!? 高価なマジックアイテムばかりじゃん!」

「こっちのモンスターの素材は相当レアな素材だ。それにこの巨大な魔石はこの辺りで得られるような品質じゃねえな……てめえは一体何者なんだ?」

「配信で見ていましたけれど、相当深い階層にまで到達しているというのは本当みたいですね。こんな素材や魔石は今まで見たことがないです」

 3人は俺の出したモンスターの素材やマジックアイテムなどに驚いている。ダンジョン内で天使の涙を交渉する可能性もあったため、いろいろと交渉に使えそうなモンスターの素材やマジックアイテムを持ってきておいて正解だった。

「……ふ~ん。横浜ダンジョンで天使の涙っていうマジックアイテムを手に入れるためのタイムアタックをしているんだってさ。いろんなところでニュースになっているね」

 双剣使いの小柄な男性がデバイスを操作して俺の情報を集めている。どうやら俺の配信はニュースにもなっていたらしい。

「天使の涙ですか……私達もそのようなマジックアイテムは持っておりませんね」

 そうか、この3人が天使の涙を待っている可能性もあったんだ。俺もだいぶ焦っているらしい。あるいは何十時間も起きていたせいで、思考能力が落ちてきているのかもしれない。

「けっ、これだからダンジョン配信者はイケ好かねえ。話題を集めて目立とうって腹積もりか? 俺はてめえみてえな人の迷惑とかを考えない野郎が一番ムカつくんだよ!」

 どうやらドレッドヘアの大柄な男性はダンジョン配信者にあまり良い感情を持っていないようだ。ダンジョン探索者の中にはダンジョン配信者を快く思っていない人も大勢いる。

 実際のところ、彼の言う通り人の迷惑を考えずに問題を起こすダンジョン配信者が多くいるのも事実だ。自分が目立つため、あるいはダンジョン配信による利益を出すため人に迷惑を掛けるダンジョン配信者も数多くるのが現状だ。

「俺たちのことなんか何も考えずにいきなり出てきて、金やマジックアイテムを渡すからボスモンスターに挑むなだと、舐めてんのか? そもそも人に物を頼むんなら態度がちげえんじゃねえのか、ああん?」

「おい! やめろ、大和やまと!」

 大和と呼ばれるドレッドヘアの男性をリーダーの那月さんが窘めるが、確かに彼の言う通りだ。いきなり現れて金やマジックアイテムを渡すから言うことを聞けとか言われて、不快に思わないわけがない。

「いや、大和さんの言う通りだ。どうか、よろしくお願いします!」

「ちょっ、ヒゲダルマさん!?」

「ええええ!?」

「………………」

 俺は迷わず頭と両手を地面について、跪いて土下座をした。

 あいにく俺はプライドなんてものは持ちあわせていない。俺を頼ってくれた命の恩人である月面騎士さんの母親を助けるためにも、これくらいのことならいくらでもするさ。

 まずは俺にできる限りの誠意を見せる。相当な無理を言っている自覚はあるから、俺に可能なことなら何でもするつもりだ。

 ……それでも駄目ならこの人たちには悪いが、力尽くでなんとかするしかない。月面騎士さんには人を傷付けないように言われていたが、さすがにここでそれほどの時間をロスするわけにはいかない。

「ヒ、ヒゲダルマさん! どうか顔を上げてください!」

「……おい、ヒゲダルマとか言ったな。そういや、まだ理由を聞いていなかった。どうしてその天使の涙とかいうマジックアイテムを探してんだよ?」
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