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第21話 配信準備

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「それで今日は何の用だい。いつもの定期的な調味料とかお米は準備してないから、数日は待ってほしいんだけれど」

「ああ、今日は別件だ。実はまたいろいろとあって、明日一度だけ例の双子の配信チャンネルへ出演することになってしまってな。また、身なりを整えてほしいんだ」

「だから私は美容師でもスタイリストでもないんだってのに……」

「急で悪いけれど頼む。モンスターを倒すとかならいいんだが、美容院へ行って髪を切ったり、スーツを試着して買うとか、今の俺にはハードルが高すぎるんだよ……」

「……イレギュラーのベヒーモスを倒せる男が何を言っているんだか」

 いや、夜桜の言いたいことはものすごく分かるが、美容院で髪を切ってもらうのって、何年もダンジョンに引きこもっていた俺にとってはかなりきつい。

 前回の会見は人が多くて、ちょっと気持ちが悪くなってしまったが、基本的には相手は敵だったから問題はなかった。

 だけど美容師さんに髪を切ってもらいながら話をするのは、それと違った心地悪さがあり、何年も美容院に行っていなかった俺にはモンスターを相手にするよりも遥かに辛いんだよ。

「ちなみにさっきの報酬とは別で、これが今回の報酬だ」

「お客様。大変申し訳ないのですが、当店の本日の営業はここまでとなります。まことに申し訳ございませんが、またのお越しをお待ちしております!」

「……現金なやつだな」

 報酬であるモンスターの素材を見せると、唯一この店にいたお客さんを追い出して、店の表の看板を閉店に裏返す夜桜。

 あのお客さんには悪いことをしてしまったが、こちらも夜桜を頼るしかないのだ。



 

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

「本当にこれで問題ないか?」

”ああ、いいんじゃないか。普段の配信でもその格好だったら、間違いなくもっと人気が出ていたな。 @たんたんタヌキの金”
”少なくとも普段のヒゲダルマさんとは全然違うから大丈夫だよ~ @WAKABA”
”これなら、いつもの蛮族スタイルとは似ても似つかないな! @月面騎士”
”あれをここまで仕立て上げてくれたその店の人を俺は尊敬するぞ…… @†通りすがりのキャンパー†”

 ……散々な言われようである。いつもの格好ってそこまで酷いかな?

 少なくともモンスターと戦闘をする分にはあっちの方が攻撃力と防御力は全然高いのに……

 今日は俺の相棒である白牙一文字も持たず、一昔前に使っていた武器と防具を用意して、その上にまともに見える既製品の防具を身に付けている。

 それでもこの階層なら、イレギュラーモンスターでもでない限りはまったく問題ない装備だ。とはいえ、油断をする気はこれっぽっちもないけれどな。

「ヒゲダルマさん。と、とっても格好いいです!」

「ヒゲさん格好いい。惚れちゃいそうだよ!」

「ああ、お世辞でも嬉しいぞ」

「……お世辞ではないんですけれどね」

「むう~それに全然嬉しそうじゃないし……」

 いや、この状況でそんなことを言われても、お世辞としか思えないだろ……

「それより、分かっていると思うけれど、配信が始まったら俺の普段のハンドルネームは使うなよ」

「はい、もちろんです!」

「うん、もちろんだよ!」

 双子の姉である華奈の方はしっかりしているから大丈夫そうだが、妹の瑠奈の方はちょっとだけ心配だ。ポロっと言ったりしないことを祈ろう。

 華奈の方は金属製の胸当て、腰当て、足当て、籠手などを身に着けており、瑠奈の方はモンスターの皮や鱗などを使った同様のものを身に着けている。戦闘スタイルとかにもよるが、あえて違った装備を身に着けているのかな。

 そして最近の防具は装飾なんかもすごいんだな。俺が自作した防具なんかとは全然異なり、細かいところまでしっかりと作り込まれており、可愛らしい装飾まで付いている。

 2人が女の子ということもあるのだろうけれど、それにしても本当に可愛らしく作り込まれている。配信者としては見習うべきことなんだろうな……

「それじゃあ向こうの配信が始まるから、こっちの配信の方はここまでだ。続きが気になる人は2人のチャンネルの方を見てやってくれ」

 今は俺の方のチャンネルの配信によって、2人のダンジョン配信の準備をしている様子を配信しているが、これ以降は2人のチャンネルで配信となる。今日の俺の配信はここまでだ。

”もうとっくにそっちを見る準備しているから大丈夫だw @月面騎士”
”というか、華奈ちゃんと瑠奈ちゃんのチャンネルの待機リスナー数がとんでもないのだが…… @ルートビア”
”そりゃ今話題のイケメン探索者(笑)を独占配信できるんだから、人も集まるに決まっているわな。 @たんたんタヌキの金”

「すみません、ヒゲダルマさんの話題を利用するような形になってしまって……」

「そこは気にするな。むしろ2人の方に話題が向かってくれる方が俺にとってはありがたい。それに前払いでたくさん報酬も貰っているわけだからな」

 出演料ということで、事前にかなりの大金をもらっている。振込先がないため、2人を通して現金でもらったのだが、かなりの大金だ。とはいえ、今の俺には使い道もないから、いくつかのマジックポーチに分散して入れてあるだけだがな。

「さて、それじゃあこっちは配信を切るぞ。ここまでの視聴ありがとうな」

 リスナーさんへ感謝の言葉を伝えて、俺の配信を終了した。

 さて、いよいよ華奈と瑠奈の配信が始まる。
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