3 / 59
1巻
1-3
しおりを挟む
朝食を食べ終わって、いろいろと準備をしてからキャンピングカーで出発する。目指すは近くにある村だ。
「ホー! ホー!」
「はは、すごいだろ。フー太が空を飛べるのもすごいけれど、このキャンピングカーはこれくらいのスピードで走れるんだ」
小さな村よりも街の方がいいのかとも思ったのだが、いったん村で街の情報を集めてからにすることにした。街へ入るためにお金が必要な可能性もあるし、この世界の文明レベルやどんな住人がいるかを予め確かめておきたい。
フー太は俺の隣の助手席にちょこんと座っており、しっかりとシートベルトをお腹の部分だけ付けている。
そもそも道が悪くてスピードを出せないとはいえ、障害物などは多いから、俺が急ブレーキを掛ける可能性もあるからな。
「おっと、たぶんこれは道だな。こっちの方へ行ってみよう」
「ホー」
目的地の村に向けてしばらく走っていると、カーナビの画面に道のようなものが見えた。そちらの方向へ少し進むと、そこには地面を踏み固めて作られた道のようなものが見えてきた。
「ふむふむ。カーナビによると、こっちの道を右に進んでいくと目的地の村で、左に進むと街へ通じているらしいな。予定通り右の村に進むか」
カーナビを操作して付近の道を確認すると、どうやらこの道は今から行く村と街をつないでいるらしい。予定通り右に進んで村へと向かっていった。
道のりは今のところ順調で、今朝の野営地から百五十キロほど走り続けてきた。さて、少し遅くなってしまったけれど、そろそろ走るのをやめて昼食にするかな。
「ホー!!」
「んっ、どうした? うわっ!?」
順調に道を走っていたところ、フー太が突然声を上げ、道の先を見ると突然人影が現れた。
すぐにブレーキを掛けて急停車する。
バキンッ!
「うおっ!?」
そして、その人影から何かが放たれたと思ったら、キャンピングカーのフロントガラスへ衝突して弾かれた。
「び、びっくりした! これはナイフか?」
フロントガラスに衝突した物体がキャンピングカーの前に落ちている。どうやら金属製のナイフのようだ。元の世界のように綺麗な形ではなく、少し歪な手作業で作ったような形である。
「危なかった。フロントガラスが割れていたら大変なことになっていたぞ」
キャンピングカーの拡張機能である、『車体強化機能』を昨日の夜に2ポイントで取っておいて正解だったぜ。
危険の多そうなこの世界では、まずは身の回りの安全が求められた。昨日のゴブリンみたいな敵も出てくるかもしれないし、何かに衝突してしまう可能性もあるからな。
それと、本音を言うと自動修復機能も取りたかった。走行には問題ないとはいえ、新車であるキャンピングカーが凹んでいる姿を見るのはきつい……
「フー太、ありがとうな」
「ホー♪」
フー太が気付かなかったら、スピードを落とさずに今の投擲されたナイフに驚いて、急ハンドルを切って横転していた可能性もあった。どうやらフー太の目は俺よりも良いようだな。
そして拡張された車体強化機能のおかげでフロントガラスは傷一つ付いていない。確かフロントガラスは割れても貫通しにくい仕組みのはず……ガラス自体が割れていないということは、しっかりとキャンピングカーの車体が強化されているようだ。
「き、貴様らは何者だ! 魔物なのか!」
「ちょ、ちょっと待って!」
すると、キャンピングカーの前に一人の女性がゆっくりと近付いてきた。
一人の女性――言葉にすればその通りだが、彼女の後ろで一つにまとめられた長い髪は、元の世界では見たことがない美しく輝く白銀色だ。
そして何より、彼女の両耳は長くて先が尖っていた。
透き通った宝石のような髪と同じ白銀色の眼、整った顔立ちをした十代後半から二十代前半の若い女性、彼女の容姿はファンタジーの中でしか見たことがないエルフのそれだった。
「こっ、言葉が通じるのか!? 大きな魔物の中に人が入っているだと……」
白銀色の髪のエルフは驚いた表情を浮かべつつも、先ほどのナイフよりも断然大きなロングソードをこちらに向けて敵意を示している。
そうか、こんな高速で移動する巨大なキャンピングカーは、こちらの世界の人からすれば、大きな魔物に見えるのか。
そりゃ、こんなのが自分の方に向かってきたら、ナイフを投擲して攻撃するのも当然か。
そして、彼女の言葉は普通に日本語として理解できている。キャンピングカーの拡張機能の中に異世界言語などの機能はなかったので心配していたけれど、どうやら言葉が通じるようでほっとした。
こちらには敵意がないことを証明するため、俺は両手を上げて必死にアピールをする。こちらとしては、無駄な争いは避けたい。
「ホー!」
「何っ、森の守り神である森フクロウ様だと!」
おお、どうやらこのエルフの女性はフー太のことを知っているらしい。体のサイズを変えられるようだし、この世界のフクロウがということではなく、フー太が特別な種族だったようだ。
だけど、そのおかげでどうにかこの場を収められそうな――
「貴様、森フクロウ様をどうするつもりだ!」
「いや、どうもしないよ! 家族もいないらしいから、一緒に旅をしているところだって!」
「とぼけるな! ならば、なぜ森フクロウ様を拘束しているのだ! やはり貴様は森の密猟者だな!」
「ちょっ、誤解だって!」
いや、拘束しているって、これはシートベルトだからね!?
外そうと思えばすぐに外せるからな!
「問答無用、覚悟!」
「うわっ!?」
目の前にいるエルフの女性が両手でロングソードを持って、さらにこちらへ近付いてきた。
くそっ、キャンピングカーのギアをバックに準備しておくべきだった!
あんな大きな剣が相手では車体強化機能があっても駄目かもしれない。こうなったら、こちらも前に急発進して向こうが逃げるのを期待するしかない!
「うっ……」
「え!?」
こちらがアクセルを踏んで急発進しようとしたところ、エルフの女性が突然倒れた。慌ててアクセルから足を離す。
彼女はそのまま一向に起き上がってこない。倒れた際に手放した彼女のロングソードがキャンピングカーの前に転がっている。
いったい何が起きたんだ?
「……とりあえず、ここから逃げるか」
「ホー?」
フー太が首を傾げている。
うん、俺も正直に言うと何が起こったのかわからないが、向こうは俺を密猟者だと誤解しているようだったし、何かの罠かもしれない。ここは今のうちに逃げよう。
ぎゅるるるるるる~。
「お……お腹が……」
「………………」
ギアをバックに入れて来た道を引き返そうとしたその時、倒れていたエルフの女性からものすごい腹の虫の音が聞こえてきた。窓を少し開けているとはいえ、フロントガラス越しに聞こえてくるとは、かなり大きな音だ。
どうしたらいいんだよ、これ……
「おい、落ち着いて話を聞けよ。この森フクロウは、森で怪我をしていたところを治療してあげたら懐かれたんだ。ほら、拘束していないのに逃げ出さないだろ」
「ホー!」
このまま放置して逃げようとも考えたが、このエルフの女性を放っておくわけにもいかず、助けることにした。
というのもカーナビによると、まだ村までは距離があり、この女性は武器以外に何も持っていないため、このままにしておけば死ぬことはほぼ間違いないからだ。
こちらに剣を向けてきたとはいえ、どう見ても勘違いのようだし、死にそうな人を見捨てるのはさすがに気分が悪い。
もちろん彼女が盗賊で、お腹をすかせて倒れたのは演技という可能性もあるため、最大限の警戒はしている。彼女が手放したロングソードは回収してあるから、大丈夫だとは思うが。
……あと、腹の虫の音までは演技ではできないだろうという推察もあった。
「うう……」
返事がないし、顔も伏せたままだ。もしかしたら、本当に危険な状態なのかもしれない。
「ほら、水とお粥だ。まずはゆっくりとこれを食え」
エルフの女性の少し手前に水とお椀に入れたお粥を置いて距離を取る。さすがに相手に食べさせてあげるようなことはせずに、自分で食べるのを待った。
幸いなことに、このキャンピングカーには何かあった時のために非常食を積んである。その中にレトルトのお粥があった。まさかこんなにすぐに使うことになるとは思わなかったけれどな。
確か極限の飢餓状態で普通の食事を取ると体に悪いというのを聞いたことがある。まずは温めた消化の良いお粥を食べてから栄養のある食事を取らせてあげた方がいい。
「水……食べ物……」
エルフの女性が目の前に置かれた水とお粥に気付いたようで、ゾンビのように前へ這いずっている。
極限の空腹状態でナイフを投擲したり、あんなに大きなロングソードを構えたりしたから、一気に体力を消耗したのかもしれない。
そしてゆっくりとだが、水を口に含み、お粥を食べていった。
「この度は本当に失礼しました!」
「……」
俺の目の前には、それはそれは綺麗な土下座を惜しげもなく披露している白銀色の髪をしたエルフさんがいた。
差し出した水とお粥を食べた後、追加でオレンジジュースとレトルトのお粥に卵を加えたものをペロリと平らげたエルフさん。フー太が自由に飛び回っているのを見て、ようやく俺が密猟者ではないことをわかってくれたようだ。
というか、なんで異世界に土下座の文化があるんだよ……
「とりあえず、まずは顔を上げてくれ。あまり女性がそういうことをしているのは見たくないんだ」
「わ、わかりました」
そう言いながら顔を上げるエルフの女性。こちらの世界だと、リアルに土の上での土下座になるから見ていて気持ちの良いものじゃない。
……それにしても、この白銀色の髪をしたエルフさんは本当に綺麗だ。やはりエルフという種族は美形のチート種族なのだろうか。
「私はジーナです。あなた方のおかげで命拾いをしました。本当にありがとうございます!」
「俺は……シゲトだ。こっちの森フクロウはフー太と呼んでいる」
「ホー♪」
どうやら異世界だと苗字なんかは持たないようだ。俺も変に思われないよう、この世界ではシゲトと名乗ることにしておこう。
「シゲト殿にフー太様ですか。水と食料をありがとうございました」
「……ああ、どういたしまして」
フー太だけは様付けなんだな。とりあえず彼女はこちらの世界で初めて会った人物だ。いろいろと情報を聞いておきたい。
「それで、ジーナさんはどうして水や食料を持たずにあんなところへいたんだ?」
「私のことは呼び捨てで大丈夫です。実は数日前に森で狩りをしていたところ、道に迷ってしまいました。そして魔物と戦闘になり、運悪く荷物を失ってしまいました。なんとか森の外に出て村までの道を見つけることができたのですが、そこに得体の知れない魔物が高速で近付いてきたので、とっさにナイフを投げてしまい……本当に申し訳ありません!」
「なるほど、そういう事情だったのか。確かにいきなりあんなのが目の前に出てきたら驚くよな。それにお腹がすいて冷静な判断もできていなかったのかもな。とりあえずジーナの事情はわかったよ。こちらに攻撃してきたことはもう気にしなくていい」
どうやらこのジーナというエルフさんは、俺がこれから行こうとしていた村の住人らしい。
森で狩りをしていたら、道に迷って数日間を森の中で過ごしたようだ。人は飢餓状態になるとまともな判断ができないと聞いている。
そんな中でキャンピングカーが突然目の前に現れたら、いきなり攻撃を仕掛けてくる気持ちもわかる。もしかしたら食べることができる魔物かもしれないしな。
「それで、その……この見たことがない巨大な魔物はシゲト殿が召喚した魔物なのでしょうか?」
ジーナの視線の先にはキャンピングカーがある。さて、こいつをどう説明すればいいものか。
「……ああ、その通りだよ。これは俺が召喚したキャンピングカーという魔物なんだ!」
「や、やはりそうでしたか!」
信じてくれた。
とりあえずそういうことにしておこう。少なくとも今出会ったばかりの人に、別の世界から来たことやキャンピングカーの能力のことを話すつもりはない。まあ、フー太は普通のフクロウだと思っていたからノーカンだな。
「その証拠に……ほら、これでどうだ!」
「きっ、消えた!? す、すごい! これが召喚魔法なのですね、初めて見ました!」
俺がキャンピングカーに手を触れると、キャンピングカーの車体が一瞬で消えた。
これは2ポイントで拡張した『車体収納機能』である。朝出発をする前にいろいろと試してみたのだが、この機能は予想通りキャンピングカーを収納できる機能だった。
異世界の村や街へ行く時にこんなに大きな車体があると目立つからな。いや、目立つどころかそもそも村や街に入れない可能性が高いから、これも必須の機能と言えるだろう。
俺がキャンピングカーに触れている最中に『収納』と念じると、キャンピングカーを自在に収納できる機能らしい。
ただし、キャンピングカーを出す際には何もない空間にしか出せず、地面にタイヤが付いた状態でしか出すことができない。
空中にキャンピングカーを出して、下にいる魔物を攻撃するなんてことはできないようだ。
さすがに俺やフー太が車内にいる間に収納ができるかは試していない。その場合に収納された俺やフー太がどうなるかがわからなくて怖いからな。
これで使用したポイントはナビゲーション、燃料補給、水補給がそれぞれ1ポイント、車体強化と車体収納が2ポイントずつで合計7ポイントになった。
残りの3ポイントは緊急時に使う予定だ。
「あれほどの召喚魔法を使えるなんて、シゲト殿はさぞ名のある魔法使いなのですね!」
ジーナが尊敬の眼差しで俺を見てくる。
本当は魔法使いというわけではないんだけれどね。というか、この世界には魔法があるのか。
「いや、この魔法しか使えないから、そんなに大した者じゃないよ。ジーナは何か魔法を使えたりするの?」
「はい、シゲト殿には遠く及びませんが、風魔法を使うことができます。こんな感じで風を集めて攻撃魔法として放つことができます」
ジーナが右手を前に出すと、周囲の風がそこに集まり、俺の目でも見えるくらいの渦となっていった。
「おお、すごい!」
「ホー!」
これには俺もフー太もとても驚いている。どうやらこの世界に魔法があるというのは本当のようだ。フー太が体のサイズを変えられるのも、もしかしたら魔法なのかもしれない。
「うっ……」
「ちょっ!? 大丈夫?」
ジーナが突然片膝をついた。いったいどうしたんだ?
ぎゅるるるるるる~。
「す、すみません。魔法を使うと少しお腹が減るのです……」
「……なるほどな」
それならやらなくてもいいのに……
道に迷ったり、空腹状態で魔法を使ったりと、このエルフさんはどこか抜けている気もする。少なくとも、必要以上に警戒する必要はなさそうだな。
「顔色もいいし多少は体調もよくなってきたみたいだし、もう少しまともな食事を取ってもよさそうだな。ちょっと待っていてくれ」
「い、いえ! 先ほどはおいしい料理をいただきましたし、これ以上食事をいただくわけには……」
ぎゅるるるるるる~。
「「………………」」
再びジーナのお腹の虫の音が盛大に鳴った。彼女のお腹は正直だ。
「はうう……」
顔を真っ赤にして、お腹を押さえながら恥ずかしがっているジーナ。
その様子は年相応の可愛らしい女の子だ。なんだか少し抜けているけれど、憎めない子だな。
「こういう時はあまり遠慮するもんじゃないぞ。俺達もちょうど昼ご飯を食べるところだから、あまり気にするな」
「……はい、それではお言葉に甘えさせてもらいます」
「さてと、何を作ってあげようかな」
「ホー」
改めてキャンピングカーを出して、フー太と一緒にキャンピングカーの中へ入る。大丈夫だとは思うが、一応ジーナにはキャンピングカーの外で待ってもらっている。
「よし、野菜が取れて体も温まるアレにするか」
そしてキャンピングカー内で調理をして、外にアウトドアチェアとテーブルをセットする。アウトドアチェアはキャンピングカーを購入した際に三つほど余分に買っておいた。
……ぼっちにそんなにアウトドアチェアが必要か、という疑問は置いておけ! 俺だって元の世界で一緒にキャンプをする友人くらいはいたぞ! まあ数人だけれど……
「お待たせ。ジーナもフー太もゆっくりと食べるんだぞ。それとこれは俺の故郷の料理だから、口に合わなかったら無理はしないで遠慮なく言ってくれ」
「とても良い香りですね!」
「ホー♪」
俺が作った料理はコンソメスープパスタだ。
作り方は実に簡単。沸騰したお湯に塩を入れてパスタを茹でる。その間に別の鍋で野菜やキノコなどを茹でておき、そこにハムとコンソメを投入。
パスタが茹で終わったら、それを鍋に入れてもうひと煮立ちさせて、塩とアウトドアスパイスで味を付けたら完成だ。アウトドアスパイスはこんなものにまで使えるから優秀だよな。
簡単に作れるうえに栄養も取れて体も温まるという、まさに今欲しい料理だ。ハムをベーコンに代えても旨いのだが、今回はホットサンド用のハムしか購入していなかった。
多少食材は使ってしまったが、ジーナからこの世界の情報を得られるのなら安いものだ。うまくいけば村で野菜なんかを購入できるかもしれない。
「んん! スープに入った長くてモチモチとしたものが、スープと一緒に口の中で合わさってとてもおいしいです!」
「これはパスタっていう麵料理なんだけれど、麺は食べたことがないの?」
「はい! 私は初めて食べました! それにこのスープがとても濃い味でおいしいです。複雑な味と香りをしていて……もしかして塩だけではなくて香辛料などが使われているのではないでしょうか!?」
「ああ、塩と一緒にコンソメという調味料とアウトドアスパイスという香辛料が入っているよ」
「そ、そんな高価なものを……本当にありがとうございます!」
……ジーナの様子を見ると、この世界の食文化はそれほど豊かではないように思えるな。
味が濃いと言っていたが、ジーナの体調を考えて、味付けは少し薄くしている。この世界では塩以外の調味料や香辛料が手に入りにくいのかもしれない。
「ホー♪ ホホー♪」
フー太も器用にパスタをちゅるちゅると食べている。フー太を見ているとこちらまで癒されるなあ。ジーナも微笑ましい様子でフー太を見ている。
「本当にご馳走さまでした、シゲト殿。このご恩は決して忘れません!」
俺達はコンソメスープパスタを綺麗に平らげて一息ついた。そのままキャンピングカーの横に設置したテーブルとアウトドアチェアでジーナの話を聞く。
「これだけおいしそうに食べてくれれば、俺の方も作った甲斐があるよ。そうそう、俺のことは呼び捨てで呼んでくれていいからな」
殿なんて付けられると、なんだかむずがゆい。異世界ものの漫画や小説では名前を呼び捨てで呼ぶのが普通だったし、ジーナにもそうしてもらおう。
「わかりました。本当にありがとうございました、シゲト」
「………………」
自分で言っておいてなんだが、若干――いや、かなり恥ずかしい。綺麗な女性に苗字ならともかく名前呼びされた経験なんて、彼女がいなかった俺には小学生以来のことだ。
いかん、いかん。あまり意識しないことにしよう。
「それでジーナ。さっきも言ったけれど、俺はかなり遠くの国からやってきたんだ。いろいろとこの国のことや魔法のことなんかを教えてほしい」
「はい、私が知っていることなら喜んで。シゲトは遠くの国から来たのですね。なるほど、それでこちらのテーブルやイスなどは見たことのない構造となっているのですね」
そう言いながら、キャンプギアのテーブルやアウトドアチェアを不思議そうに眺めるジーナ。やはりこれらのキャンプギアはジーナからすると珍しい物のようだ。
さて、まずは何から聞いてみようか。
「ホー! ホー!」
「はは、すごいだろ。フー太が空を飛べるのもすごいけれど、このキャンピングカーはこれくらいのスピードで走れるんだ」
小さな村よりも街の方がいいのかとも思ったのだが、いったん村で街の情報を集めてからにすることにした。街へ入るためにお金が必要な可能性もあるし、この世界の文明レベルやどんな住人がいるかを予め確かめておきたい。
フー太は俺の隣の助手席にちょこんと座っており、しっかりとシートベルトをお腹の部分だけ付けている。
そもそも道が悪くてスピードを出せないとはいえ、障害物などは多いから、俺が急ブレーキを掛ける可能性もあるからな。
「おっと、たぶんこれは道だな。こっちの方へ行ってみよう」
「ホー」
目的地の村に向けてしばらく走っていると、カーナビの画面に道のようなものが見えた。そちらの方向へ少し進むと、そこには地面を踏み固めて作られた道のようなものが見えてきた。
「ふむふむ。カーナビによると、こっちの道を右に進んでいくと目的地の村で、左に進むと街へ通じているらしいな。予定通り右の村に進むか」
カーナビを操作して付近の道を確認すると、どうやらこの道は今から行く村と街をつないでいるらしい。予定通り右に進んで村へと向かっていった。
道のりは今のところ順調で、今朝の野営地から百五十キロほど走り続けてきた。さて、少し遅くなってしまったけれど、そろそろ走るのをやめて昼食にするかな。
「ホー!!」
「んっ、どうした? うわっ!?」
順調に道を走っていたところ、フー太が突然声を上げ、道の先を見ると突然人影が現れた。
すぐにブレーキを掛けて急停車する。
バキンッ!
「うおっ!?」
そして、その人影から何かが放たれたと思ったら、キャンピングカーのフロントガラスへ衝突して弾かれた。
「び、びっくりした! これはナイフか?」
フロントガラスに衝突した物体がキャンピングカーの前に落ちている。どうやら金属製のナイフのようだ。元の世界のように綺麗な形ではなく、少し歪な手作業で作ったような形である。
「危なかった。フロントガラスが割れていたら大変なことになっていたぞ」
キャンピングカーの拡張機能である、『車体強化機能』を昨日の夜に2ポイントで取っておいて正解だったぜ。
危険の多そうなこの世界では、まずは身の回りの安全が求められた。昨日のゴブリンみたいな敵も出てくるかもしれないし、何かに衝突してしまう可能性もあるからな。
それと、本音を言うと自動修復機能も取りたかった。走行には問題ないとはいえ、新車であるキャンピングカーが凹んでいる姿を見るのはきつい……
「フー太、ありがとうな」
「ホー♪」
フー太が気付かなかったら、スピードを落とさずに今の投擲されたナイフに驚いて、急ハンドルを切って横転していた可能性もあった。どうやらフー太の目は俺よりも良いようだな。
そして拡張された車体強化機能のおかげでフロントガラスは傷一つ付いていない。確かフロントガラスは割れても貫通しにくい仕組みのはず……ガラス自体が割れていないということは、しっかりとキャンピングカーの車体が強化されているようだ。
「き、貴様らは何者だ! 魔物なのか!」
「ちょ、ちょっと待って!」
すると、キャンピングカーの前に一人の女性がゆっくりと近付いてきた。
一人の女性――言葉にすればその通りだが、彼女の後ろで一つにまとめられた長い髪は、元の世界では見たことがない美しく輝く白銀色だ。
そして何より、彼女の両耳は長くて先が尖っていた。
透き通った宝石のような髪と同じ白銀色の眼、整った顔立ちをした十代後半から二十代前半の若い女性、彼女の容姿はファンタジーの中でしか見たことがないエルフのそれだった。
「こっ、言葉が通じるのか!? 大きな魔物の中に人が入っているだと……」
白銀色の髪のエルフは驚いた表情を浮かべつつも、先ほどのナイフよりも断然大きなロングソードをこちらに向けて敵意を示している。
そうか、こんな高速で移動する巨大なキャンピングカーは、こちらの世界の人からすれば、大きな魔物に見えるのか。
そりゃ、こんなのが自分の方に向かってきたら、ナイフを投擲して攻撃するのも当然か。
そして、彼女の言葉は普通に日本語として理解できている。キャンピングカーの拡張機能の中に異世界言語などの機能はなかったので心配していたけれど、どうやら言葉が通じるようでほっとした。
こちらには敵意がないことを証明するため、俺は両手を上げて必死にアピールをする。こちらとしては、無駄な争いは避けたい。
「ホー!」
「何っ、森の守り神である森フクロウ様だと!」
おお、どうやらこのエルフの女性はフー太のことを知っているらしい。体のサイズを変えられるようだし、この世界のフクロウがということではなく、フー太が特別な種族だったようだ。
だけど、そのおかげでどうにかこの場を収められそうな――
「貴様、森フクロウ様をどうするつもりだ!」
「いや、どうもしないよ! 家族もいないらしいから、一緒に旅をしているところだって!」
「とぼけるな! ならば、なぜ森フクロウ様を拘束しているのだ! やはり貴様は森の密猟者だな!」
「ちょっ、誤解だって!」
いや、拘束しているって、これはシートベルトだからね!?
外そうと思えばすぐに外せるからな!
「問答無用、覚悟!」
「うわっ!?」
目の前にいるエルフの女性が両手でロングソードを持って、さらにこちらへ近付いてきた。
くそっ、キャンピングカーのギアをバックに準備しておくべきだった!
あんな大きな剣が相手では車体強化機能があっても駄目かもしれない。こうなったら、こちらも前に急発進して向こうが逃げるのを期待するしかない!
「うっ……」
「え!?」
こちらがアクセルを踏んで急発進しようとしたところ、エルフの女性が突然倒れた。慌ててアクセルから足を離す。
彼女はそのまま一向に起き上がってこない。倒れた際に手放した彼女のロングソードがキャンピングカーの前に転がっている。
いったい何が起きたんだ?
「……とりあえず、ここから逃げるか」
「ホー?」
フー太が首を傾げている。
うん、俺も正直に言うと何が起こったのかわからないが、向こうは俺を密猟者だと誤解しているようだったし、何かの罠かもしれない。ここは今のうちに逃げよう。
ぎゅるるるるるる~。
「お……お腹が……」
「………………」
ギアをバックに入れて来た道を引き返そうとしたその時、倒れていたエルフの女性からものすごい腹の虫の音が聞こえてきた。窓を少し開けているとはいえ、フロントガラス越しに聞こえてくるとは、かなり大きな音だ。
どうしたらいいんだよ、これ……
「おい、落ち着いて話を聞けよ。この森フクロウは、森で怪我をしていたところを治療してあげたら懐かれたんだ。ほら、拘束していないのに逃げ出さないだろ」
「ホー!」
このまま放置して逃げようとも考えたが、このエルフの女性を放っておくわけにもいかず、助けることにした。
というのもカーナビによると、まだ村までは距離があり、この女性は武器以外に何も持っていないため、このままにしておけば死ぬことはほぼ間違いないからだ。
こちらに剣を向けてきたとはいえ、どう見ても勘違いのようだし、死にそうな人を見捨てるのはさすがに気分が悪い。
もちろん彼女が盗賊で、お腹をすかせて倒れたのは演技という可能性もあるため、最大限の警戒はしている。彼女が手放したロングソードは回収してあるから、大丈夫だとは思うが。
……あと、腹の虫の音までは演技ではできないだろうという推察もあった。
「うう……」
返事がないし、顔も伏せたままだ。もしかしたら、本当に危険な状態なのかもしれない。
「ほら、水とお粥だ。まずはゆっくりとこれを食え」
エルフの女性の少し手前に水とお椀に入れたお粥を置いて距離を取る。さすがに相手に食べさせてあげるようなことはせずに、自分で食べるのを待った。
幸いなことに、このキャンピングカーには何かあった時のために非常食を積んである。その中にレトルトのお粥があった。まさかこんなにすぐに使うことになるとは思わなかったけれどな。
確か極限の飢餓状態で普通の食事を取ると体に悪いというのを聞いたことがある。まずは温めた消化の良いお粥を食べてから栄養のある食事を取らせてあげた方がいい。
「水……食べ物……」
エルフの女性が目の前に置かれた水とお粥に気付いたようで、ゾンビのように前へ這いずっている。
極限の空腹状態でナイフを投擲したり、あんなに大きなロングソードを構えたりしたから、一気に体力を消耗したのかもしれない。
そしてゆっくりとだが、水を口に含み、お粥を食べていった。
「この度は本当に失礼しました!」
「……」
俺の目の前には、それはそれは綺麗な土下座を惜しげもなく披露している白銀色の髪をしたエルフさんがいた。
差し出した水とお粥を食べた後、追加でオレンジジュースとレトルトのお粥に卵を加えたものをペロリと平らげたエルフさん。フー太が自由に飛び回っているのを見て、ようやく俺が密猟者ではないことをわかってくれたようだ。
というか、なんで異世界に土下座の文化があるんだよ……
「とりあえず、まずは顔を上げてくれ。あまり女性がそういうことをしているのは見たくないんだ」
「わ、わかりました」
そう言いながら顔を上げるエルフの女性。こちらの世界だと、リアルに土の上での土下座になるから見ていて気持ちの良いものじゃない。
……それにしても、この白銀色の髪をしたエルフさんは本当に綺麗だ。やはりエルフという種族は美形のチート種族なのだろうか。
「私はジーナです。あなた方のおかげで命拾いをしました。本当にありがとうございます!」
「俺は……シゲトだ。こっちの森フクロウはフー太と呼んでいる」
「ホー♪」
どうやら異世界だと苗字なんかは持たないようだ。俺も変に思われないよう、この世界ではシゲトと名乗ることにしておこう。
「シゲト殿にフー太様ですか。水と食料をありがとうございました」
「……ああ、どういたしまして」
フー太だけは様付けなんだな。とりあえず彼女はこちらの世界で初めて会った人物だ。いろいろと情報を聞いておきたい。
「それで、ジーナさんはどうして水や食料を持たずにあんなところへいたんだ?」
「私のことは呼び捨てで大丈夫です。実は数日前に森で狩りをしていたところ、道に迷ってしまいました。そして魔物と戦闘になり、運悪く荷物を失ってしまいました。なんとか森の外に出て村までの道を見つけることができたのですが、そこに得体の知れない魔物が高速で近付いてきたので、とっさにナイフを投げてしまい……本当に申し訳ありません!」
「なるほど、そういう事情だったのか。確かにいきなりあんなのが目の前に出てきたら驚くよな。それにお腹がすいて冷静な判断もできていなかったのかもな。とりあえずジーナの事情はわかったよ。こちらに攻撃してきたことはもう気にしなくていい」
どうやらこのジーナというエルフさんは、俺がこれから行こうとしていた村の住人らしい。
森で狩りをしていたら、道に迷って数日間を森の中で過ごしたようだ。人は飢餓状態になるとまともな判断ができないと聞いている。
そんな中でキャンピングカーが突然目の前に現れたら、いきなり攻撃を仕掛けてくる気持ちもわかる。もしかしたら食べることができる魔物かもしれないしな。
「それで、その……この見たことがない巨大な魔物はシゲト殿が召喚した魔物なのでしょうか?」
ジーナの視線の先にはキャンピングカーがある。さて、こいつをどう説明すればいいものか。
「……ああ、その通りだよ。これは俺が召喚したキャンピングカーという魔物なんだ!」
「や、やはりそうでしたか!」
信じてくれた。
とりあえずそういうことにしておこう。少なくとも今出会ったばかりの人に、別の世界から来たことやキャンピングカーの能力のことを話すつもりはない。まあ、フー太は普通のフクロウだと思っていたからノーカンだな。
「その証拠に……ほら、これでどうだ!」
「きっ、消えた!? す、すごい! これが召喚魔法なのですね、初めて見ました!」
俺がキャンピングカーに手を触れると、キャンピングカーの車体が一瞬で消えた。
これは2ポイントで拡張した『車体収納機能』である。朝出発をする前にいろいろと試してみたのだが、この機能は予想通りキャンピングカーを収納できる機能だった。
異世界の村や街へ行く時にこんなに大きな車体があると目立つからな。いや、目立つどころかそもそも村や街に入れない可能性が高いから、これも必須の機能と言えるだろう。
俺がキャンピングカーに触れている最中に『収納』と念じると、キャンピングカーを自在に収納できる機能らしい。
ただし、キャンピングカーを出す際には何もない空間にしか出せず、地面にタイヤが付いた状態でしか出すことができない。
空中にキャンピングカーを出して、下にいる魔物を攻撃するなんてことはできないようだ。
さすがに俺やフー太が車内にいる間に収納ができるかは試していない。その場合に収納された俺やフー太がどうなるかがわからなくて怖いからな。
これで使用したポイントはナビゲーション、燃料補給、水補給がそれぞれ1ポイント、車体強化と車体収納が2ポイントずつで合計7ポイントになった。
残りの3ポイントは緊急時に使う予定だ。
「あれほどの召喚魔法を使えるなんて、シゲト殿はさぞ名のある魔法使いなのですね!」
ジーナが尊敬の眼差しで俺を見てくる。
本当は魔法使いというわけではないんだけれどね。というか、この世界には魔法があるのか。
「いや、この魔法しか使えないから、そんなに大した者じゃないよ。ジーナは何か魔法を使えたりするの?」
「はい、シゲト殿には遠く及びませんが、風魔法を使うことができます。こんな感じで風を集めて攻撃魔法として放つことができます」
ジーナが右手を前に出すと、周囲の風がそこに集まり、俺の目でも見えるくらいの渦となっていった。
「おお、すごい!」
「ホー!」
これには俺もフー太もとても驚いている。どうやらこの世界に魔法があるというのは本当のようだ。フー太が体のサイズを変えられるのも、もしかしたら魔法なのかもしれない。
「うっ……」
「ちょっ!? 大丈夫?」
ジーナが突然片膝をついた。いったいどうしたんだ?
ぎゅるるるるるる~。
「す、すみません。魔法を使うと少しお腹が減るのです……」
「……なるほどな」
それならやらなくてもいいのに……
道に迷ったり、空腹状態で魔法を使ったりと、このエルフさんはどこか抜けている気もする。少なくとも、必要以上に警戒する必要はなさそうだな。
「顔色もいいし多少は体調もよくなってきたみたいだし、もう少しまともな食事を取ってもよさそうだな。ちょっと待っていてくれ」
「い、いえ! 先ほどはおいしい料理をいただきましたし、これ以上食事をいただくわけには……」
ぎゅるるるるるる~。
「「………………」」
再びジーナのお腹の虫の音が盛大に鳴った。彼女のお腹は正直だ。
「はうう……」
顔を真っ赤にして、お腹を押さえながら恥ずかしがっているジーナ。
その様子は年相応の可愛らしい女の子だ。なんだか少し抜けているけれど、憎めない子だな。
「こういう時はあまり遠慮するもんじゃないぞ。俺達もちょうど昼ご飯を食べるところだから、あまり気にするな」
「……はい、それではお言葉に甘えさせてもらいます」
「さてと、何を作ってあげようかな」
「ホー」
改めてキャンピングカーを出して、フー太と一緒にキャンピングカーの中へ入る。大丈夫だとは思うが、一応ジーナにはキャンピングカーの外で待ってもらっている。
「よし、野菜が取れて体も温まるアレにするか」
そしてキャンピングカー内で調理をして、外にアウトドアチェアとテーブルをセットする。アウトドアチェアはキャンピングカーを購入した際に三つほど余分に買っておいた。
……ぼっちにそんなにアウトドアチェアが必要か、という疑問は置いておけ! 俺だって元の世界で一緒にキャンプをする友人くらいはいたぞ! まあ数人だけれど……
「お待たせ。ジーナもフー太もゆっくりと食べるんだぞ。それとこれは俺の故郷の料理だから、口に合わなかったら無理はしないで遠慮なく言ってくれ」
「とても良い香りですね!」
「ホー♪」
俺が作った料理はコンソメスープパスタだ。
作り方は実に簡単。沸騰したお湯に塩を入れてパスタを茹でる。その間に別の鍋で野菜やキノコなどを茹でておき、そこにハムとコンソメを投入。
パスタが茹で終わったら、それを鍋に入れてもうひと煮立ちさせて、塩とアウトドアスパイスで味を付けたら完成だ。アウトドアスパイスはこんなものにまで使えるから優秀だよな。
簡単に作れるうえに栄養も取れて体も温まるという、まさに今欲しい料理だ。ハムをベーコンに代えても旨いのだが、今回はホットサンド用のハムしか購入していなかった。
多少食材は使ってしまったが、ジーナからこの世界の情報を得られるのなら安いものだ。うまくいけば村で野菜なんかを購入できるかもしれない。
「んん! スープに入った長くてモチモチとしたものが、スープと一緒に口の中で合わさってとてもおいしいです!」
「これはパスタっていう麵料理なんだけれど、麺は食べたことがないの?」
「はい! 私は初めて食べました! それにこのスープがとても濃い味でおいしいです。複雑な味と香りをしていて……もしかして塩だけではなくて香辛料などが使われているのではないでしょうか!?」
「ああ、塩と一緒にコンソメという調味料とアウトドアスパイスという香辛料が入っているよ」
「そ、そんな高価なものを……本当にありがとうございます!」
……ジーナの様子を見ると、この世界の食文化はそれほど豊かではないように思えるな。
味が濃いと言っていたが、ジーナの体調を考えて、味付けは少し薄くしている。この世界では塩以外の調味料や香辛料が手に入りにくいのかもしれない。
「ホー♪ ホホー♪」
フー太も器用にパスタをちゅるちゅると食べている。フー太を見ているとこちらまで癒されるなあ。ジーナも微笑ましい様子でフー太を見ている。
「本当にご馳走さまでした、シゲト殿。このご恩は決して忘れません!」
俺達はコンソメスープパスタを綺麗に平らげて一息ついた。そのままキャンピングカーの横に設置したテーブルとアウトドアチェアでジーナの話を聞く。
「これだけおいしそうに食べてくれれば、俺の方も作った甲斐があるよ。そうそう、俺のことは呼び捨てで呼んでくれていいからな」
殿なんて付けられると、なんだかむずがゆい。異世界ものの漫画や小説では名前を呼び捨てで呼ぶのが普通だったし、ジーナにもそうしてもらおう。
「わかりました。本当にありがとうございました、シゲト」
「………………」
自分で言っておいてなんだが、若干――いや、かなり恥ずかしい。綺麗な女性に苗字ならともかく名前呼びされた経験なんて、彼女がいなかった俺には小学生以来のことだ。
いかん、いかん。あまり意識しないことにしよう。
「それでジーナ。さっきも言ったけれど、俺はかなり遠くの国からやってきたんだ。いろいろとこの国のことや魔法のことなんかを教えてほしい」
「はい、私が知っていることなら喜んで。シゲトは遠くの国から来たのですね。なるほど、それでこちらのテーブルやイスなどは見たことのない構造となっているのですね」
そう言いながら、キャンプギアのテーブルやアウトドアチェアを不思議そうに眺めるジーナ。やはりこれらのキャンプギアはジーナからすると珍しい物のようだ。
さて、まずは何から聞いてみようか。
405
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
第1巻発売中!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
お気に入りに追加
3,569
あなたにおすすめの小説

憧れのテイマーになれたけど、何で神獣ばっかりなの⁉
陣ノ内猫子
ファンタジー
神様の使い魔を助けて死んでしまった主人公。
お詫びにと、ずっとなりたいと思っていたテイマーとなって、憧れの異世界へ行けることに。
チートな力と装備を神様からもらって、助けた使い魔を連れ、いざ異世界へGO!
ーーーーーーーーー
これはボクっ子女子が織りなす、チートな冒険物語です。
ご都合主義、あるかもしれません。
一話一話が短いです。
週一回を目標に投稿したと思います。
面白い、続きが読みたいと思って頂けたら幸いです。
誤字脱字があれば教えてください。すぐに修正します。
感想を頂けると嬉しいです。(返事ができないこともあるかもしれません)

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた
甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。
降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。
森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。
その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。
協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~
鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!
詳細は近況ボードに載せていきます!
「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」
特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。
しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。
バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて――
こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

野草から始まる異世界スローライフ
深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。
私ーーエルバはスクスク育ち。
ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。
(このスキル使える)
エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。
エブリスタ様にて掲載中です。
表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。
プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。
物語は変わっておりません。
一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。
よろしくお願いします。
もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」
授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。
途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。
ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。
駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。
しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。
毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。
翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。
使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった!
一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。
その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

辺境の街で雑貨店を営む錬金術士少女ノヴァ ~魔力0の捨てられ少女はかわいいモフモフ聖獣とともにこの地では珍しい錬金術で幸せをつかみ取ります~
あきさけ
ファンタジー
とある平民の少女は四歳のときに受けた魔力検査で魔力なしと判定されてしまう。
その結果、森の奥深くに捨てられてしまった少女だが、獣に襲われる寸前、聖獣フラッシュリンクスに助けられ一命を取り留める。
その後、フラッシュリンクスに引き取られた少女はノヴァと名付けられた。
さらに、幼いフラッシュリンクスの子と従魔契約を果たし、その眠っていた才能を開花させた。
様々な属性の魔法が使えるようになったノヴァだったが、その中でもとりわけ珍しかったのが、素材の声を聞き取り、それに応えて別のものに作り替える〝錬金術〟の素養。
ノヴァを助けたフラッシュリンクスは母となり、その才能を育て上げ、人の社会でも一人前になれるようノヴァを導きともに暮らしていく。
そして、旅立ちの日。
母フラッシュリンクスから一人前と見なされたノヴァは、姉妹のように育った末っ子のフラッシュリンクス『シシ』とともに新米錬金術士として辺境の街へと足を踏み入れることとなる。
まだ六歳という幼さで。
※この小説はカクヨム様、アルファポリス様で連載中です。
上記サイト以外では連載しておりません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。