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1巻
1-2
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「さて、俺の方はこいつだ」
俺の方はこの豚こま肉をさっと炒めて、キャンパー御用達のアウトドアスパイスを振り掛けたものだ。アウトドアスパイスとは塩コショウやハーブなど各種スパイスを調合したもので、肉、魚、野菜、そのすべてに合うようにできている。
肉炒めと一緒に、同じくスーパーで購入したおつとめ品のサラダにマヨネーズを掛けたものも用意した。キャンピングカーに冷蔵庫があると、スーパーで購入したものをそのまま持ち込めるからすばらしい。
「うん、旨い!」
シンプルに焼いてアウトドアスパイスを振り掛けるだけでも、十分に旨いのだ。
アウトドアスパイスはマジで持っていて損はない調味料だぞ。
「ホーホー」
「なんだ、もしかしてお前も焼いた肉が食べたいのか? はは、まさかな」
「ホー!」
「………………」
フクロウが俺の問いに対して、またも言葉がわかっているかのように頷く。さっき怪我の治療をしている時に、もしやと思ったが……
「もしかして俺の言葉が通じているのか?」
「ホー!」
白いフクロウは力強く頷いた。
「……いや、まさか。嘘だろ?」
フクロウが人の言葉を理解しているだと。そんなまさか?
「左の翼を広げてみてくれ」
「ホー!」
「……そのまま左の翼を上げ下げできるか?」
「ホー!」
「おう……」
フクロウは俺の言う通り、左の翼を広げてから、翼を上げ下げしてくれた。間違いなく俺の言葉を理解できている。
これはもう絶対に俺が昨日までいた世界とは違う世界にいるな。というか、どんな世界であろうと、人の言葉を理解するフクロウがいるのは信じられない。
いや、待てよ。俺が読んだことのある異世界ものだと、日本語でも現地の人に伝わることが多かったな。もしかしてこの世界もそうなのかもしれない。
異世界かあ……元の世界の両親や友人はどうなっているのだろう。
俺は失踪扱いになるのかもしれないが、まさか両親に迷惑を掛けるようなことにはならないよな? このキャンピングカーは一括で購入したし、借金なんかもないから大丈夫だとは思うが……
いや落ち着け、元の世界に戻れないと決まったわけじゃない。まずは現状をしっかりと把握することだ。
ああ、俺が勤めていたブラック企業についてはどうでもいいや。
「ホー?」
「ああ、悪い。ちょっと考え事をしていただけだ」
フクロウがぼんやりしていた俺のことを気にしてくれたようだ。
そうだな、今は元の世界のことを考えている暇はない。
これからどうするかの方が重要だ。
「じゃあ、お前も焼けた肉を食べてみるか。味が付いているから、無理しなくてもいいからな」
「ホー♪」
俺が食べていた肉を、少しだけフクロウの皿に載せてやる。
「ホホー♪」
「そうか、こっちの方が良いのか。それじゃあ、そっちの肉も焼いてやるから少し待っていてくれ。それと、まだ怪我は治っていないんだから、右の翼は動かすなよ」
「ホー!」
というか、フクロウって焼いた肉も食べられるのか……いや、そもそも元の世界のフクロウとは違うのかもな。
「ふ~。とりあえず腹は膨れたか」
腹ごしらえを終えて一段落したが、これからどうしよう?
とりあえず、水と食料は多少あるが、このままではいずれどちらもなくなる。
それまでになんとか生活基盤を作らないといけない。不幸中の幸いと言うべきか、キャンピングカーがあれば、寝床は心配いらない。
あとは食料か。ゴブリンなんかがいる世界だし、狩猟生活なんて喧嘩すらしたことがない俺には絶対に無理だ。
そうなると、どこかでこの世界の住人と接触する必要がある。
「……小さな村の近くまで行って、少し離れたところからこの世界の村の様子を見てみるか」
「ホー?」
首を傾げる白いフクロウ。
その仕草はとても可愛らしい。おかげでこんな状況なのに少しだけ和んでしまった。
「ちょっと考え事をしていたんだ。俺は別の場所に移動しようと思っているんだけれど、お前はどうする? 一応その包帯は緩めに巻いているから、しばらくすれば自分でも外せるぞ。まだ飛ぶのが難しいだろうし、家族や仲間がいるところまで送っていこうか?」
「ホー……」
すると、フクロウが寂しそうな表情を浮かべた。
もしかして、このフクロウも一人ぼっちなのだろうか。
「もし行くアテがないなら、しばらく俺と一緒に来るか? 俺は今、絶賛一人ぼっち中なんだよ」
「ホホー、ホー!」
「そうか、一緒に来てくれるか!」
フクロウが俺の右肩に乗って、俺の方に頭を傾けてくる。本当に可愛いやつだな。
「今更だけど、俺は吉岡茂人だ。よろしくな!」
「ホー!」
「そっちのことはなんて呼べばいいかな? 名前はあるのか?」
「ホー?」
首を傾げるフクロウ。さすがに名前のようなものはないみたいだ。
「それじゃあ、俺が呼ぶ名前を決めてもいいか?」
「ホー!」
何度も頷く白いフクロウ。
さて、どんな名前にしようかな。
「ちなみに君は男の子なのかな?」
「ホー!」
コクリと頷くフクロウ。どうやらこの子は雄らしい。こういう時にコミュニケーションが取れるのはとても便利だな。俺ではフクロウの雌雄はわからないところだった。
「う~ん、フクロウだから、シンプルにフー太はどうだ?」
「ホー♪ ホー♪」
「おお、気に入ってくれたか! これからよろしくな、フー太!」
どうやら俺が決めた名前を気に入ったようで、頷きながら俺の肩の上でクルクルと踊っている。とても可愛い仲間が増えたようだ。
「よし、それじゃあ、もう一人の俺の相棒も紹介しておくぞ。これはキャンピングカーと言って、家でもあり、移動手段でもあり、相棒でもあるんだ」
「ホー」
フー太を肩に乗せたまま、キャンピングカーの中へ入る。
入ってすぐの場所はキッチンになっていて、流し台や冷蔵庫、オーブンレンジ、電気ケトルなどがある。
その奥はリビングルームで、大きなソファが二つとテーブルがある。この大きなソファを伸ばせばベッドにもなる仕様だ。そして、さらに奥の方へ行くとトイレとシャワー室があり、一番奥には寝室がある。
「ホー♪」
「すごいだろ。この中でご飯を食べたり、寝たりできるんだぞ」
フー太はとても驚いた様子でキャンピングカーの中を見回している。さすがにこの世界の自然界にこんなものはないだろう。
「今日は川のあるこの場所で過ごして、明日になったら一番近い小さな村へ行ってみようと思っているけれど、フー太もそれでいいか?」
「ホー!」
コクリと頷くフー太。どうやら俺についてきてくれるようだ。
そうと決まれば、村へ行くために必要なキャンピングカーの機能を考えないといけないな。
とりあえず、燃料の補給機能や車体収納という機能は必須のように思われる。
様々な機能があるが、この選択は今後の生活を左右するからな。今は村まで行くのに必要なものだけにして、他の機能を拡張するかどうかはじっくり考えるとしよう。
「……んん、なんだこれは?」
「ホー?」
「ああ、ちょっと気になることがあっただけだよ」
「ホー」
俺が声を上げると、俺の右肩に乗っているフー太が反応した。
とりあえずカーナビの★マークをタッチして、拡張機能について確認をしていたところ、先ほどまで気付かなかったが、気になる項目があった。
『レベルアップまで残り九百七十六キロメートル』
……こんな表示、さっきまであったかな?
そう言えば、最初にいた場所から、ここまで走った距離が二十キロメートルちょっとだった。もしかすると、このキャンピングカーは千キロメートル走るとレベルアップすることができるのかもしれない。
というか、キャンピングカーのレベルアップってなんだ? もしかすると、レベルアップすると拡張機能のポイントがもらえるのかも。
あるいは、このキャンピングカーがいろいろと強化されたり、新しい拡張機能なんかが増えたりする可能性もあるな。表示された拡張機能は十個ほどしかなかったし、物足りない気もしていたから、そうであったらありがたい。
しかし、千キロメートルは結構な距離だ。速度を出せる高速道路なんて絶対にないだろうし、この悪路では結構な時間がかかってしまいそうである。
とりあえず、今はレベルアップのことは置いておいて、現在必要な拡張機能を考えるとしよう。
「……こんなところか」
じっくりと今後のことを考えて、キャンピングカーの機能をいくつか拡張した。それと合わせて、ここから一番近い村の場所をカーナビによって確認する。
いろいろと考えていたら、だいぶ時間が経ってしまったようで、空が少し赤くなってきた。どうやらこの世界でも日は暮れるらしい。
「ホー!」
「ずっと待っていてもらって悪かったな、フー太。その分旨い飯を作ってやるからな」
「ホー♪」
さて、いろいろと考えていたら、だいぶお腹がすいてきた。昼は簡単な肉炒めとサラダしか食べていなかったからな。晩ご飯はしっかり作るとしよう。
「よし、できた。昨日から仕込んでいたステーキだぞ!」
「ホー!」
晩ご飯はキャンピングカー内にあるキッチンでステーキを焼いた。
キャンピングカーの外で焚き火をして、変な動物や今朝のゴブリンなんかを引き寄せてしまったらまずい。
野生動物は火を怖がると思われがちだが、火を見たことがない野生動物は好奇心を掻き立てられて逆に寄ってくることもあるそうだ。
少なくとも、まだこの世界のことが何もわかっていない現状では、余計なことはしない方がいい。すでにカーテンも閉めて、明かりが漏れないようにもしてある。
「スキレットで焼き上げたステーキだから旨いはずだ。炭で焼ければなお旨かったんだが、それは今度機会があればだな」
スキレットとは、鋳鉄製の厚みがあるフライパンのことである。ステンレス製やアルミ製の一般的なフライパンよりも蓄熱性に優れているのが特徴で、食材をムラなく加熱でき、肉の旨みや肉汁をギュッと凝縮してくれるわけだ。
肉は予め包丁で筋切りをしておき、みじん切りにしたタマネギと一緒にビニール袋へ入れておいた。こうすることで肉の繊維が柔らかくなり、焼いた後に箸でも切れるようになる。それほど良い肉でなく、スーパーの安い肉だからこそ、余計にその違いがわかるだろう。
そして牛脂をスキレットに塗り、そこに塩コショウで味を付けた肉を投入。強火で一気に両面を焼き上げてからすぐにアルミホイルで肉を包み、火から離れたところで数分休ませた。
こうして余熱を利用することで、中までじっくりと熱を通して肉汁を封じ込めることができるのだ。
「うん、なかなかいけるな!」
熱々のステーキの中はまだ赤くレアの状態だが、口の中で容易に噛み切ることができた。
それと同時に口の中に肉の旨みがじんわりと広がっていく。そしてまた、ステーキにこのオニオンソースがよく合うんだよ。
肉を柔らかくする時に使用したタマネギのみじん切りをステーキの肉汁へ入れて、加熱しながら醤油とみりんを加え、さらにひと煮立ちさせて作ったソース。これが肉の味を引き立てている。
「ホホー! ホー♪」
「そうか、フー太も旨いか」
フー太もおいしそうにステーキを食べている。くちばしを使って器用に一切れずつ食べていくんだな。食べている姿もとても可愛らしい。
ちなみに、フー太の分のステーキは俺がカットしてあげた。
本当は他にもいろいろと作って食べる予定だったけれど、キャンピングカーに積んである食料は限られている。
日持ちする米や缶詰などの食材は今後のことを考えて残しておき、早めに傷むものから食べていかなければな。
「さて、明日はここから移動するから、食べ終わったらすぐに寝ような」
「ホー」
今日はこのままキャンピングカー内で一夜を明かし、明日はカーナビに従って村へ移動する。
この世界にはどんな人がいるのか、言葉は伝わるのかなどの不安は多いけれど、このまま異世界で一人――いや、一人と一匹だけで生き延びるのは不可能だろうから、どこかで人に会わなければならない。
それにしても異世界かあ……
ようやく長年の夢だったキャンピングカーを購入できたと思ったら、まさかの異世界だからな。まあ、キャンピングカーも一緒だったのは不幸中の幸いだ。
……だけどよく考えてみると、あのままブラック企業で働き続ける未来よりも、ある意味ではこっちの方が良かったんじゃないか?
お金が貯まったら仕事を早く辞めて、このキャンピングカーで日本一周をしてみたいと思っていたけれど、それが異世界に変わっただけだ。元々キャンプをしたり旅をしたりするのが好きだし、ファンタジーな漫画や小説のように、異世界を見て回っておいしいものを食べたいという気持ちもかなりある。
両親や友人のことだけは少し気掛かりだけれど、異世界へ来てしまって元の世界に戻れるアテもないわけだし、せっかくならこの異世界をキャンピングカーと一緒に旅してみたい。
悲観していても仕方がないし、そう考えた方が精神的にも楽だ。
また、まだ全部把握していないけれど、このキャンピングカーには旅を快適にするための機能がいろいろと備わっているみたいだし、フー太という旅の仲間もできた。それにワクワクしている自分がいる。
そうだな、何事もポジティブに行こうじゃないか!
第二章 行き倒れのエルフ
次の日、昨晩は何事もポジティブに考えていこうと決めたところ、一瞬で眠れた。
我ながら単純である。
「うう~ん、うわっ!?」
そして、目を開けると、そこには大きな白い塊があり、俺はベッドから飛び起きた。
「ホー?」
「びっ、びっくりした! お前はフー太なのか?」
「ホー!」
コクリと頷くフー太。
どうやら、この二メートルくらいに大きくなった白い毛玉の生物はフー太だったようだ。
確かに、少し離れて見てみると、その姿はフー太であることがわかる。
「……触ってもいいか?」
「ホー!」
頷くフー太にゆっくりと近付いて、右手でフー太の体に触れる。すると柔らかくふわふわとした羽毛に右手が飲み込まれた。
なんという柔らかさだ! 羽毛布団とかの柔らかさの比ではない!
今度は両腕を広げて抱き着いてみる。もふもふとした柔らかな抱き心地に加え、フー太の体のぬくもりが伝わってきた……ここは天国かな?
あまりの抱き心地に、一瞬でまた夢の世界へ入り込むところだった!
「……そうだ、今日はやらなきゃいけないことがいろいろとあるんだった。フー太、元のサイズに戻ることもできるのか?」
「ホー!」
再びフー太が頷くと、みるみるうちに小さくなって、昨日と同じ五十センチメートルほどの大きさに縮んだ。
「そんなことができるとは……」
どうやらフー太は自分の体のサイズを変えることができるらしい。いや、もうこれは完全に異世界じゃん……
「ホー?」
「いや、驚いただけだから大丈夫だ。そんなことができるなんてすごいな、フー太……ってあれ、翼の傷も治っているのか!?」
「ホー!」
昨日怪我を治療して緩めに巻いていたはずの包帯が取れており、怪我をしていたはずの右の翼の傷口が綺麗に塞がっていた。
普通の動物の回復力とはまったく違うな。焼いた肉をおいしそうに食べていたし、フー太は元の世界のフクロウとはやはりだいぶ異なるようだ。
……異世界転移だったり、ゴブリンだったり、フー太が大きくなったり、これ以降はもう何が起きても驚かんぞ。
「とりあえず、寝ている間にゴブリンかなんかに襲われた様子はないみたいだな。それにしてもこんな状況で寝られるとは、我ながらだいぶ図太いみたいだ」
キャンピングカーの周囲に何もいないことを確認してから、外へ出てみた。
今日はちゃんと昨日眠った時と同じ、森を流れる川の隣にいた。
そして、昨日のゴブリンに殴られてできたと思われるキャンピングカーの凹み以外は、他に大きな傷はない。昨日の夜は何かに襲撃された様子はなくてほっとした。
それにしても、突然異世界へやってきたというのに、その当日もぐっすりと寝られるとは、我ながら、考えれば考えるほど肝が据わっていると思う。
さて、まずは昨日拡張したキャンピングカーの機能がどうなっているか確認してみよう。
「おお、ちゃんと補給されているぞ」
運転席へ行き、キャンピングカーの燃料メーターを見ると、昨日、一昨日と走って少し消費していたはずの燃料が満タンになっていた。
これは昨日新たに1ポイントを使用して拡張した『燃料補給機能』のおかげだ。当然だが、この異世界では燃料なんて手に入れることができないだろう。間違いなく必須の拡張機能である。
「同じく水のタンクも満タンになっているな」
そして同様に1ポイントで拡張した『水補給機能』により、キャンピングカーに積まれている水タンクも満タンになっていた。
飲み水については、川の水などから補給できるかもしれないけれど、補給には手間も掛かるし、川の水を煮沸するのが面倒で、何より体に合わないものが入っていてもおかしくない。
この森にあった川の水はとても澄み切っていて透明だが、一見安全そうに見えても微生物や細菌などが含まれており、大量に飲むとお腹を壊す可能性もある。医療技術がどうなっているかわからないこの世界では、安全に飲める水の確保はとても重要だ。
「あとは補給されるタイミングを知りたいところだな。ほんの少しずつ補給されているのか、時間ごとに一気に補給されるのかも知っておきたい」
昨日は寝る前にメーターを確認してみたけれど、動きはなかった。そうなると夜中に補給されていた可能性が高いが、何時に補給されたかまでは把握できていない。
今日は定期的にメーターをチェックして、どのタイミングで補給されているかを確認していくとしよう。
「ホ~……」
「ああ、ごめんなフー太。すぐに朝ご飯にしよう」
フー太がしょんぼりした様子で俺を待っていた。俺もいろいろと確認をしていたらお腹がすいてきた。
昨日の食事は少なめにしていたから、お腹がすいている。食料の確保についても早くなんとかしたいところだ。
拡張機能には食料を得られるようなものはなかった。どうやら食料は自分で確保しなければならないらしい。
「ホー♪」
「おっ、旨いか。これはホットサンドというんだ。いろんな味があるからな」
今日の朝食はホットサンドだ。ホットサンドとは、食パンに具材を挟んで両面を焼いた料理である。最近ではホットサンドメーカーといって、二枚のフライパンを重ねて簡単に作れるキャンプギアも販売されている。
パンに具材を挟んで焼くだけなので、とても簡単に作ることができ、具材を変えることにより様々な味が楽しめるようになっている。今回は定番のハムとチーズ、スクランブルエッグにケチャップを掛けたもの、イチゴのジャムを入れたものの三種類を作った。
それに合わせてサラダと牛乳を用意してある。フー太はホットサンドやサラダを食べ、お椀に入れた牛乳を器用に飲んでいた。
「俺はハムとチーズが好きなんだよな。ザックリと焼けたパンにハムと溶けたチーズがたまらないんだよ。フー太はどれが好きだ?」
「ホー!」
どうやらフー太はイチゴのジャムのホットサンドが好きなようだ。普通のジャムも旨いのだが、温かいジャムもこれまた旨いのである。
「さあ、朝ご飯を食べ終わったら、近くにある村を目指してみよう」
俺の方はこの豚こま肉をさっと炒めて、キャンパー御用達のアウトドアスパイスを振り掛けたものだ。アウトドアスパイスとは塩コショウやハーブなど各種スパイスを調合したもので、肉、魚、野菜、そのすべてに合うようにできている。
肉炒めと一緒に、同じくスーパーで購入したおつとめ品のサラダにマヨネーズを掛けたものも用意した。キャンピングカーに冷蔵庫があると、スーパーで購入したものをそのまま持ち込めるからすばらしい。
「うん、旨い!」
シンプルに焼いてアウトドアスパイスを振り掛けるだけでも、十分に旨いのだ。
アウトドアスパイスはマジで持っていて損はない調味料だぞ。
「ホーホー」
「なんだ、もしかしてお前も焼いた肉が食べたいのか? はは、まさかな」
「ホー!」
「………………」
フクロウが俺の問いに対して、またも言葉がわかっているかのように頷く。さっき怪我の治療をしている時に、もしやと思ったが……
「もしかして俺の言葉が通じているのか?」
「ホー!」
白いフクロウは力強く頷いた。
「……いや、まさか。嘘だろ?」
フクロウが人の言葉を理解しているだと。そんなまさか?
「左の翼を広げてみてくれ」
「ホー!」
「……そのまま左の翼を上げ下げできるか?」
「ホー!」
「おう……」
フクロウは俺の言う通り、左の翼を広げてから、翼を上げ下げしてくれた。間違いなく俺の言葉を理解できている。
これはもう絶対に俺が昨日までいた世界とは違う世界にいるな。というか、どんな世界であろうと、人の言葉を理解するフクロウがいるのは信じられない。
いや、待てよ。俺が読んだことのある異世界ものだと、日本語でも現地の人に伝わることが多かったな。もしかしてこの世界もそうなのかもしれない。
異世界かあ……元の世界の両親や友人はどうなっているのだろう。
俺は失踪扱いになるのかもしれないが、まさか両親に迷惑を掛けるようなことにはならないよな? このキャンピングカーは一括で購入したし、借金なんかもないから大丈夫だとは思うが……
いや落ち着け、元の世界に戻れないと決まったわけじゃない。まずは現状をしっかりと把握することだ。
ああ、俺が勤めていたブラック企業についてはどうでもいいや。
「ホー?」
「ああ、悪い。ちょっと考え事をしていただけだ」
フクロウがぼんやりしていた俺のことを気にしてくれたようだ。
そうだな、今は元の世界のことを考えている暇はない。
これからどうするかの方が重要だ。
「じゃあ、お前も焼けた肉を食べてみるか。味が付いているから、無理しなくてもいいからな」
「ホー♪」
俺が食べていた肉を、少しだけフクロウの皿に載せてやる。
「ホホー♪」
「そうか、こっちの方が良いのか。それじゃあ、そっちの肉も焼いてやるから少し待っていてくれ。それと、まだ怪我は治っていないんだから、右の翼は動かすなよ」
「ホー!」
というか、フクロウって焼いた肉も食べられるのか……いや、そもそも元の世界のフクロウとは違うのかもな。
「ふ~。とりあえず腹は膨れたか」
腹ごしらえを終えて一段落したが、これからどうしよう?
とりあえず、水と食料は多少あるが、このままではいずれどちらもなくなる。
それまでになんとか生活基盤を作らないといけない。不幸中の幸いと言うべきか、キャンピングカーがあれば、寝床は心配いらない。
あとは食料か。ゴブリンなんかがいる世界だし、狩猟生活なんて喧嘩すらしたことがない俺には絶対に無理だ。
そうなると、どこかでこの世界の住人と接触する必要がある。
「……小さな村の近くまで行って、少し離れたところからこの世界の村の様子を見てみるか」
「ホー?」
首を傾げる白いフクロウ。
その仕草はとても可愛らしい。おかげでこんな状況なのに少しだけ和んでしまった。
「ちょっと考え事をしていたんだ。俺は別の場所に移動しようと思っているんだけれど、お前はどうする? 一応その包帯は緩めに巻いているから、しばらくすれば自分でも外せるぞ。まだ飛ぶのが難しいだろうし、家族や仲間がいるところまで送っていこうか?」
「ホー……」
すると、フクロウが寂しそうな表情を浮かべた。
もしかして、このフクロウも一人ぼっちなのだろうか。
「もし行くアテがないなら、しばらく俺と一緒に来るか? 俺は今、絶賛一人ぼっち中なんだよ」
「ホホー、ホー!」
「そうか、一緒に来てくれるか!」
フクロウが俺の右肩に乗って、俺の方に頭を傾けてくる。本当に可愛いやつだな。
「今更だけど、俺は吉岡茂人だ。よろしくな!」
「ホー!」
「そっちのことはなんて呼べばいいかな? 名前はあるのか?」
「ホー?」
首を傾げるフクロウ。さすがに名前のようなものはないみたいだ。
「それじゃあ、俺が呼ぶ名前を決めてもいいか?」
「ホー!」
何度も頷く白いフクロウ。
さて、どんな名前にしようかな。
「ちなみに君は男の子なのかな?」
「ホー!」
コクリと頷くフクロウ。どうやらこの子は雄らしい。こういう時にコミュニケーションが取れるのはとても便利だな。俺ではフクロウの雌雄はわからないところだった。
「う~ん、フクロウだから、シンプルにフー太はどうだ?」
「ホー♪ ホー♪」
「おお、気に入ってくれたか! これからよろしくな、フー太!」
どうやら俺が決めた名前を気に入ったようで、頷きながら俺の肩の上でクルクルと踊っている。とても可愛い仲間が増えたようだ。
「よし、それじゃあ、もう一人の俺の相棒も紹介しておくぞ。これはキャンピングカーと言って、家でもあり、移動手段でもあり、相棒でもあるんだ」
「ホー」
フー太を肩に乗せたまま、キャンピングカーの中へ入る。
入ってすぐの場所はキッチンになっていて、流し台や冷蔵庫、オーブンレンジ、電気ケトルなどがある。
その奥はリビングルームで、大きなソファが二つとテーブルがある。この大きなソファを伸ばせばベッドにもなる仕様だ。そして、さらに奥の方へ行くとトイレとシャワー室があり、一番奥には寝室がある。
「ホー♪」
「すごいだろ。この中でご飯を食べたり、寝たりできるんだぞ」
フー太はとても驚いた様子でキャンピングカーの中を見回している。さすがにこの世界の自然界にこんなものはないだろう。
「今日は川のあるこの場所で過ごして、明日になったら一番近い小さな村へ行ってみようと思っているけれど、フー太もそれでいいか?」
「ホー!」
コクリと頷くフー太。どうやら俺についてきてくれるようだ。
そうと決まれば、村へ行くために必要なキャンピングカーの機能を考えないといけないな。
とりあえず、燃料の補給機能や車体収納という機能は必須のように思われる。
様々な機能があるが、この選択は今後の生活を左右するからな。今は村まで行くのに必要なものだけにして、他の機能を拡張するかどうかはじっくり考えるとしよう。
「……んん、なんだこれは?」
「ホー?」
「ああ、ちょっと気になることがあっただけだよ」
「ホー」
俺が声を上げると、俺の右肩に乗っているフー太が反応した。
とりあえずカーナビの★マークをタッチして、拡張機能について確認をしていたところ、先ほどまで気付かなかったが、気になる項目があった。
『レベルアップまで残り九百七十六キロメートル』
……こんな表示、さっきまであったかな?
そう言えば、最初にいた場所から、ここまで走った距離が二十キロメートルちょっとだった。もしかすると、このキャンピングカーは千キロメートル走るとレベルアップすることができるのかもしれない。
というか、キャンピングカーのレベルアップってなんだ? もしかすると、レベルアップすると拡張機能のポイントがもらえるのかも。
あるいは、このキャンピングカーがいろいろと強化されたり、新しい拡張機能なんかが増えたりする可能性もあるな。表示された拡張機能は十個ほどしかなかったし、物足りない気もしていたから、そうであったらありがたい。
しかし、千キロメートルは結構な距離だ。速度を出せる高速道路なんて絶対にないだろうし、この悪路では結構な時間がかかってしまいそうである。
とりあえず、今はレベルアップのことは置いておいて、現在必要な拡張機能を考えるとしよう。
「……こんなところか」
じっくりと今後のことを考えて、キャンピングカーの機能をいくつか拡張した。それと合わせて、ここから一番近い村の場所をカーナビによって確認する。
いろいろと考えていたら、だいぶ時間が経ってしまったようで、空が少し赤くなってきた。どうやらこの世界でも日は暮れるらしい。
「ホー!」
「ずっと待っていてもらって悪かったな、フー太。その分旨い飯を作ってやるからな」
「ホー♪」
さて、いろいろと考えていたら、だいぶお腹がすいてきた。昼は簡単な肉炒めとサラダしか食べていなかったからな。晩ご飯はしっかり作るとしよう。
「よし、できた。昨日から仕込んでいたステーキだぞ!」
「ホー!」
晩ご飯はキャンピングカー内にあるキッチンでステーキを焼いた。
キャンピングカーの外で焚き火をして、変な動物や今朝のゴブリンなんかを引き寄せてしまったらまずい。
野生動物は火を怖がると思われがちだが、火を見たことがない野生動物は好奇心を掻き立てられて逆に寄ってくることもあるそうだ。
少なくとも、まだこの世界のことが何もわかっていない現状では、余計なことはしない方がいい。すでにカーテンも閉めて、明かりが漏れないようにもしてある。
「スキレットで焼き上げたステーキだから旨いはずだ。炭で焼ければなお旨かったんだが、それは今度機会があればだな」
スキレットとは、鋳鉄製の厚みがあるフライパンのことである。ステンレス製やアルミ製の一般的なフライパンよりも蓄熱性に優れているのが特徴で、食材をムラなく加熱でき、肉の旨みや肉汁をギュッと凝縮してくれるわけだ。
肉は予め包丁で筋切りをしておき、みじん切りにしたタマネギと一緒にビニール袋へ入れておいた。こうすることで肉の繊維が柔らかくなり、焼いた後に箸でも切れるようになる。それほど良い肉でなく、スーパーの安い肉だからこそ、余計にその違いがわかるだろう。
そして牛脂をスキレットに塗り、そこに塩コショウで味を付けた肉を投入。強火で一気に両面を焼き上げてからすぐにアルミホイルで肉を包み、火から離れたところで数分休ませた。
こうして余熱を利用することで、中までじっくりと熱を通して肉汁を封じ込めることができるのだ。
「うん、なかなかいけるな!」
熱々のステーキの中はまだ赤くレアの状態だが、口の中で容易に噛み切ることができた。
それと同時に口の中に肉の旨みがじんわりと広がっていく。そしてまた、ステーキにこのオニオンソースがよく合うんだよ。
肉を柔らかくする時に使用したタマネギのみじん切りをステーキの肉汁へ入れて、加熱しながら醤油とみりんを加え、さらにひと煮立ちさせて作ったソース。これが肉の味を引き立てている。
「ホホー! ホー♪」
「そうか、フー太も旨いか」
フー太もおいしそうにステーキを食べている。くちばしを使って器用に一切れずつ食べていくんだな。食べている姿もとても可愛らしい。
ちなみに、フー太の分のステーキは俺がカットしてあげた。
本当は他にもいろいろと作って食べる予定だったけれど、キャンピングカーに積んである食料は限られている。
日持ちする米や缶詰などの食材は今後のことを考えて残しておき、早めに傷むものから食べていかなければな。
「さて、明日はここから移動するから、食べ終わったらすぐに寝ような」
「ホー」
今日はこのままキャンピングカー内で一夜を明かし、明日はカーナビに従って村へ移動する。
この世界にはどんな人がいるのか、言葉は伝わるのかなどの不安は多いけれど、このまま異世界で一人――いや、一人と一匹だけで生き延びるのは不可能だろうから、どこかで人に会わなければならない。
それにしても異世界かあ……
ようやく長年の夢だったキャンピングカーを購入できたと思ったら、まさかの異世界だからな。まあ、キャンピングカーも一緒だったのは不幸中の幸いだ。
……だけどよく考えてみると、あのままブラック企業で働き続ける未来よりも、ある意味ではこっちの方が良かったんじゃないか?
お金が貯まったら仕事を早く辞めて、このキャンピングカーで日本一周をしてみたいと思っていたけれど、それが異世界に変わっただけだ。元々キャンプをしたり旅をしたりするのが好きだし、ファンタジーな漫画や小説のように、異世界を見て回っておいしいものを食べたいという気持ちもかなりある。
両親や友人のことだけは少し気掛かりだけれど、異世界へ来てしまって元の世界に戻れるアテもないわけだし、せっかくならこの異世界をキャンピングカーと一緒に旅してみたい。
悲観していても仕方がないし、そう考えた方が精神的にも楽だ。
また、まだ全部把握していないけれど、このキャンピングカーには旅を快適にするための機能がいろいろと備わっているみたいだし、フー太という旅の仲間もできた。それにワクワクしている自分がいる。
そうだな、何事もポジティブに行こうじゃないか!
第二章 行き倒れのエルフ
次の日、昨晩は何事もポジティブに考えていこうと決めたところ、一瞬で眠れた。
我ながら単純である。
「うう~ん、うわっ!?」
そして、目を開けると、そこには大きな白い塊があり、俺はベッドから飛び起きた。
「ホー?」
「びっ、びっくりした! お前はフー太なのか?」
「ホー!」
コクリと頷くフー太。
どうやら、この二メートルくらいに大きくなった白い毛玉の生物はフー太だったようだ。
確かに、少し離れて見てみると、その姿はフー太であることがわかる。
「……触ってもいいか?」
「ホー!」
頷くフー太にゆっくりと近付いて、右手でフー太の体に触れる。すると柔らかくふわふわとした羽毛に右手が飲み込まれた。
なんという柔らかさだ! 羽毛布団とかの柔らかさの比ではない!
今度は両腕を広げて抱き着いてみる。もふもふとした柔らかな抱き心地に加え、フー太の体のぬくもりが伝わってきた……ここは天国かな?
あまりの抱き心地に、一瞬でまた夢の世界へ入り込むところだった!
「……そうだ、今日はやらなきゃいけないことがいろいろとあるんだった。フー太、元のサイズに戻ることもできるのか?」
「ホー!」
再びフー太が頷くと、みるみるうちに小さくなって、昨日と同じ五十センチメートルほどの大きさに縮んだ。
「そんなことができるとは……」
どうやらフー太は自分の体のサイズを変えることができるらしい。いや、もうこれは完全に異世界じゃん……
「ホー?」
「いや、驚いただけだから大丈夫だ。そんなことができるなんてすごいな、フー太……ってあれ、翼の傷も治っているのか!?」
「ホー!」
昨日怪我を治療して緩めに巻いていたはずの包帯が取れており、怪我をしていたはずの右の翼の傷口が綺麗に塞がっていた。
普通の動物の回復力とはまったく違うな。焼いた肉をおいしそうに食べていたし、フー太は元の世界のフクロウとはやはりだいぶ異なるようだ。
……異世界転移だったり、ゴブリンだったり、フー太が大きくなったり、これ以降はもう何が起きても驚かんぞ。
「とりあえず、寝ている間にゴブリンかなんかに襲われた様子はないみたいだな。それにしてもこんな状況で寝られるとは、我ながらだいぶ図太いみたいだ」
キャンピングカーの周囲に何もいないことを確認してから、外へ出てみた。
今日はちゃんと昨日眠った時と同じ、森を流れる川の隣にいた。
そして、昨日のゴブリンに殴られてできたと思われるキャンピングカーの凹み以外は、他に大きな傷はない。昨日の夜は何かに襲撃された様子はなくてほっとした。
それにしても、突然異世界へやってきたというのに、その当日もぐっすりと寝られるとは、我ながら、考えれば考えるほど肝が据わっていると思う。
さて、まずは昨日拡張したキャンピングカーの機能がどうなっているか確認してみよう。
「おお、ちゃんと補給されているぞ」
運転席へ行き、キャンピングカーの燃料メーターを見ると、昨日、一昨日と走って少し消費していたはずの燃料が満タンになっていた。
これは昨日新たに1ポイントを使用して拡張した『燃料補給機能』のおかげだ。当然だが、この異世界では燃料なんて手に入れることができないだろう。間違いなく必須の拡張機能である。
「同じく水のタンクも満タンになっているな」
そして同様に1ポイントで拡張した『水補給機能』により、キャンピングカーに積まれている水タンクも満タンになっていた。
飲み水については、川の水などから補給できるかもしれないけれど、補給には手間も掛かるし、川の水を煮沸するのが面倒で、何より体に合わないものが入っていてもおかしくない。
この森にあった川の水はとても澄み切っていて透明だが、一見安全そうに見えても微生物や細菌などが含まれており、大量に飲むとお腹を壊す可能性もある。医療技術がどうなっているかわからないこの世界では、安全に飲める水の確保はとても重要だ。
「あとは補給されるタイミングを知りたいところだな。ほんの少しずつ補給されているのか、時間ごとに一気に補給されるのかも知っておきたい」
昨日は寝る前にメーターを確認してみたけれど、動きはなかった。そうなると夜中に補給されていた可能性が高いが、何時に補給されたかまでは把握できていない。
今日は定期的にメーターをチェックして、どのタイミングで補給されているかを確認していくとしよう。
「ホ~……」
「ああ、ごめんなフー太。すぐに朝ご飯にしよう」
フー太がしょんぼりした様子で俺を待っていた。俺もいろいろと確認をしていたらお腹がすいてきた。
昨日の食事は少なめにしていたから、お腹がすいている。食料の確保についても早くなんとかしたいところだ。
拡張機能には食料を得られるようなものはなかった。どうやら食料は自分で確保しなければならないらしい。
「ホー♪」
「おっ、旨いか。これはホットサンドというんだ。いろんな味があるからな」
今日の朝食はホットサンドだ。ホットサンドとは、食パンに具材を挟んで両面を焼いた料理である。最近ではホットサンドメーカーといって、二枚のフライパンを重ねて簡単に作れるキャンプギアも販売されている。
パンに具材を挟んで焼くだけなので、とても簡単に作ることができ、具材を変えることにより様々な味が楽しめるようになっている。今回は定番のハムとチーズ、スクランブルエッグにケチャップを掛けたもの、イチゴのジャムを入れたものの三種類を作った。
それに合わせてサラダと牛乳を用意してある。フー太はホットサンドやサラダを食べ、お椀に入れた牛乳を器用に飲んでいた。
「俺はハムとチーズが好きなんだよな。ザックリと焼けたパンにハムと溶けたチーズがたまらないんだよ。フー太はどれが好きだ?」
「ホー!」
どうやらフー太はイチゴのジャムのホットサンドが好きなようだ。普通のジャムも旨いのだが、温かいジャムもこれまた旨いのである。
「さあ、朝ご飯を食べ終わったら、近くにある村を目指してみよう」
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