異種族キャンプで全力スローライフを執行する……予定!

タジリユウ

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第5章 いろんな客とトラブルがやってきた!?

第239話【閑話】とある第三王女の1日①

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「姫様、本日の習い事は以上でございます」

 舞踊の習い事を終えて、ようやく今日の習い事が終わった。
 
 私の横にはいつものように黒い執事服を着たルパートが控えている。

「はあ~ようやく終わったのね。ねえルパート、最近ちょっと習い事が多すぎない?」

「申し訳ございません。最近は姫様の身体の調子が良いこともありまして、今までの分を取り戻すために、以前より少々習い事が多くなっております」

「はあ……今までよりも動けるようになった分だけ習い事が増えるのはさすがに嫌ね……」

 もちろんこの国の王族として、普通の人よりも豪勢なご飯を食べて、豪華な服を着ている以上、その分の責任を果たさなければならないことは分かっているんですけどね。

「それにしても、姫様は本当に元気になられましたね! 以前まではベッドに臥せっていることが多かったのに、最近ではそれもなくなり、多少の習い事や運動で倒れることはなくなられました」

 ルパートの反対側には鎧を着こんだ私の護衛専属部隊の隊長であるベレーが本当に嬉しそうにそんなことを言う。

「そういえばそうね。数か月前と比べると、本当に身体の調子がいいわ」

「これはやはり例のキャンプ場の温泉のおかげでしょうか?」

 ルパートがそう呟く。

「……少なくともあのキャンプ場のおかげであることは間違いないでしょうね。それ以外に生活環境を変えた覚えはないから」

 数か月前からこの街で噂になっていたキャンプ場という宿泊施設へ通うようになった。ちょうどその頃から、今までいろんな治療をしても改善されることがなかった私の体調に少しずつ向上の兆しがみられてきた。

 そう考えると、私の体調が良くなってきた要因はあのキャンプ場で出されていた料理やお酒、あるいはあの温泉に何度も浸かったことによるものと推察できる。

 以前にいただいた変異種のお肉を食べたことによるものかと考えたりもしたが、私の体調が良くなってきたのはその前からだった。

「ユウスケ様のお話によると、イド様も以前は病弱な体質でありましたが、今では普通の生活を送っているとおっしゃられておりましたな」

「そうね……話を聞く限りは私よりも病弱だったけれど、従業員として毎日あの温泉や料理に触れていたということなら、その理由も分かるわね」

 ユウスケさんの話では、亜人の従業員のイドさんも以前は病弱だったらしい。それも最初の頃はあまり厨房に立つこともできなかったほど病弱だったと言っていた。

「ユウスケ殿の言葉を信じるのなら、料理や食材にそんな効果はないと言っておりましたので、やはりあの温泉のおかげである可能性が高いかもしれません。……私個人の意見としましては、ユウスケ殿はそういったことを秘密にされる性格ではないかと思われます」

「ええ。それについては私もベレーと同意見ね。そもそもこの事を隠そうとするのなら、イドさんのことは秘密にしておくでしょうから。それにあの温泉よりもとんでもない力である結界についても隠すつもりがないみたいですし」

「私の本気の一撃でも傷ひとつ付きませんでしたからね……」

 相変わらずベレーはキャンプ場にある結界の話になるとすぐに落ち込むわね。これまでに研鑽を積み重ねてきて、王都の騎士団の精鋭にも劣らない力を持つ彼女にとって、よっぽどショックだったのは分けるけれど……

「あの巨大な変異種の討伐をまさかあのキャンプ場の従業員とお客様だけで何とかしてしまうとは思いませんでしたな。報告を聞いた限りでは、この街の全戦力を集結させても倒せたかどうか、分からないほどでした」

「……あの時はかなりの覚悟をしていったはずでしたのに、完全に肩すかしをくらいましたわね」

「そんなこともありましたな……とはいえ、あの変異種を相手にただのひとりも犠牲者を出さなかったあの結界は、伝説の大賢者様に勝るとも劣らない力であることは間違いないでしょう」

 以前にこの街の近くで今までの変異種にないほどの巨体を持ったイノシシ型の魔物が発生したことがあった。この街にいる冒険者ギルドへ所属する冒険者と騎士団の精鋭を集めても、倒すことができるかどうかも分からないほど巨大な変異種だったらしい。

 私もこの街にいる王族の責務を果たすためと、個人的にお世話になっていたキャンプ場を守るために、少ないとはいえ私が動かせる範囲の人員や兵器などを準備してキャンプ場へと向かった。

 しかし、いざキャンプ場に到着すると、すでに戦いは終わっており、しかも誰一人の犠牲者を出すことなく完勝していた。あとで冒険者ギルドマスターから聞いた話では、犠牲者がでなかったのはユウスケさんの結界のおかげだという。

「そんな結界や傷や病を治す可能性のある温泉、見たこともない料理やお酒、それにあの多くの知識の塊である本……本当にユウスケさんは何者なのでしょうね?」

「……それは私にも分かりかねますが、少なくとも姫様や兄上様、そして国王様がユウスケ殿と敵対するようなことがあれば、私は全力で止めさせていただきます」

「そ、その際は私も力尽くで絶対に止めます!」

「……そんな可能性は欠片もないから安心していいわよ」

 まったく、2人とも冗談でもそんなことを言わないでほしいわね。それにあのキャンプ場にはオブリ様を含むとんでもないお客さんが集まっていて、私ごときでは何もできないことは百も承知よ。

 むしろこの街を守ってくれて、私の身体を良くしてくれたユウスケさんたちにはこれ以上ないほどの感謝をしているのに。少なくともあの場所に何かちょかいを出す貴族がいれば、全力でそれを排除する覚悟くらいはあるわ。

「せっかく今週の面倒な習い事が終わったんだから、そんな冗談を言っていないで、ご褒美のシュークリームをお願いするわ」

「かしこまりました」

 そう言いながら、ルパートは私の毎日の楽しみであるお菓子を取りに行く。ベレーの方は冗談だと分かっていなかったみたいで、心からほっとしたような表情をしている。

 真面目過ぎるのは彼女の良いところでもあるんだけれど。

 さて、明日はキャンプ場に行く日ですし、何を食べるか今から楽しみね。
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