異種族キャンプで全力スローライフを執行する……予定!

タジリユウ

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第5章 いろんな客とトラブルがやってきた!?

第213話【閑話】とある古代竜の1日①

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「う~む、もうなくなってしまったのじゃ……」

 ここはとある巨大な山々が連なる山脈。その中でも一際標高の高い山の山頂に悠久の時を生きる伝説の古代竜であるサンドラは住処を作って暮らしていた。

 住処といっても、その巨大なドラゴンの姿でも眠ることができる大きなベッドがあるだけで、壁も入り口も何もない住処と呼ぶには怪しい代物だ。

 だが、ここは標高5000mを超える巨大な山の山頂。当然木々の1本すら生えておらず、生命の営みなど皆無である殺風景な光景しか存在しない。

「あのキャンプ場に行くまでにまだあと2日あるというのにのう……」

 そんな寂しい空間にひとりの少女がポツンと佇んでいる。燃え盛る炎のような真っ赤な髪と深紅の瞳、とあるキャンプ場という場所の女性従業員の制服であるメイド服という服を模した赤色の服を着ている。

「しょうがない、狩りに行くとするか」

 少女の身体が光り輝き、みるみるうちに巨大化していき、巨大なドラゴンの姿へと変貌する。

『まあ、いつものやつでよいか』

 巨大なドラゴンの姿で、多くの国の人族達が使用している共通語と呼ばれる話すサンドラ。人化の魔法や収納魔法などを使い、言葉を話すことができるほどの知恵を持つドラゴンは悠久の時を生きる古代竜と呼ばれる。

 サンドラもその例にもれず、永き時を生き、非常に高い魔力と知力を備えた古代竜と呼ばれる存在にまで成長していた。

 巨大な翼を広げて空へと飛び立ち、その巨体では考えられないほどの速度で空を舞った。



『う~む、やはりユウスケ達が作った料理とはまったく異なるのう……』

 住処である高山を離れてから約1時間。巨大なドラゴンの姿のサンドラの前にはサンドラほどではないが、巨大な体躯を持った魔物の死骸があった。

 全長10m以上の巨大な身体を持ち、茶色く分厚い毛皮に覆われ、額からは一本の白くて硬い角が生えている4足歩行の魔物であるブノワゾウ。温厚な草食の魔物であるが、ひとたび反撃を暴れ始めれば、その巨体により周囲のものを薙ぎ倒していく。

 ブノワゾウは冒険者ギルドで複数のBランク冒険者パーティによる討伐を推奨されている危険な魔物であることなど、古代竜であるサンドラには知る由もない。

『この魔物も大きくて腹は膨れるのじゃが、そこまでうまくはないからのう。別にユウスケ達に持っていく必要はないじゃろ』

 ブノワゾウの白くて硬い角や毛皮、骨などは様々な素材として武器や防具などにも使われるが、食材としての価値はそれほど高くない。

『まあ腹の足しにはなるからいいじゃろ。これであと2日分の食料にはなるかのう』

 赤い鱗に覆われたサンドラの右手がブレスで焼かれたブノワゾウに触れると、その巨体が瞬時に消失した。古代竜であるサンドラの収納魔法はこれほどの巨体であっても余裕で収納することが可能だ。

 そしてまたその巨大な翼を広げて、住処である山へと帰っていった。どうやら残り2日はこのブノワゾウを食べて過ごすようだ。




 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

『やれやれ、ようやくこの時が来たが、待ちわびたぞ!』

 長い時間を待ち、ようやくキャンプ場に来られる日がやってきた。

 永き時を生きてきた妾が、たった6日も待つことができなくなるとは少し情けなくなるが、それもあのキャンプ場で出てくる酒や料理が悪いのじゃ。

 妾も人化の魔法を使えるようになってから人族や魔族の街を訪れたことは何度かあるが、あれほどうまい酒や料理を出す場所など見たことがないぞ。

 昔から人間や魔族達は食材をチマチマと調理したり、穀物や果物から酒を造るという技術を発見したことには感心しておったが、あのキャンプ場という場所に初めて行った時にはその驚きの比ではなかったのう……

『さて、この辺りでいいじゃろ』

 キャンプ場が見えたところで人化の魔法を使って、人の姿へと変わっていく。

「……うむ、問題なさそうじゃな」

 手をグーパーしてみたが、問題なく人族の姿になっているようじゃ。妾以外の者が妾の元の姿を見ると驚いてしまうようじゃから、このキャンプ場という場所を訪れる際には人族の姿で来るようにとユウスケと約束しておるからのう。

 ……しかし、あやつも特別な人間であると同時にとても変わった人間じゃな。

 ユウスケが使う結界という能力は妾のブレスですら防ぐことができる。永き時を生きてきたつもりじゃが、妾のブレスをたったひとりで防ぐことができる人間など見たことがないぞ。

 本来ならば警戒すべき相手なのじゃが、あやつの態度を見ているとその気も失せる。なにせ古代竜である妾を受け入れてくれたのじゃからな。その誠意にはこちらも誠意をもって返さねばならん。

 ちゃんとユウスケとの約束も守るし、本来ならば週の半分くらいはここに来たいところじゃが、これほど食べる妾がここに入り浸ってしまえば迷惑になることは分かり切っておるから我慢しておる。

「サンドラさん、いらっしゃいませ! ようこそイーストビレッジキャンプ場へ!」

「おお、サリア。久しいのう、待ち遠しかったのじゃ!」

 サリアはこのキャンプ場で働いているエルフの女の子じゃ。見た目は可愛らしい女の子じゃが、妾のドラゴンの姿を見ているにもかかわらず、普通に接してくれて肝がとても据わっておる。

「ふふ、先週も来てくれたばかりですよ。それほど楽しみにしてくれたのなら、ユウスケさんも喜んでくれますね」

「べ、別にそこまで楽しみにしていたわけではないのじゃ!」

「そうなんですか……」

「あっ、いや、サリアと会うのはもちろん楽しみじゃったぞ! また一緒に温泉へ入ってほしいのじゃ!」

「はい、もちろんですよ。またお仕事が終わったら誘いに行きますね。今日もいつもの場所でいいですか?」

「うむ、いつもの場所で頼むのじゃ!」
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