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5.秘書
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社長へのイライラを募らせながら、秘書室へ向かっていると、秘書課の看板が下がっているのが見えてくる。
秘書室は名前の通り秘書がいる部屋で、秘書課の部署だ。秘書課には社長1人に対し常に数人の秘書が在籍し、全員で社長のスケジュール、接待などを管理している。
秘書と言えば、1人で、社長の側にずっと付き従っている人というイメージがあるが、言ってもここは大手、とても1人では社長をサポートすることなど出来ない。だからこそ5.6人規模のこの秘書課が存在している。
(まあ、秘書って言っても常に社長の側にいる訳じゃないし、大丈夫か……)
常に社長の側にいるという第一秘書は秘書課の中でも上の地位にいる人間がやる仕事だ。それほど難しく重要なポジションであると聞いたことがある。
さすがに入ってきたばっかりの俺にやらせたりはしないだろう……多分……
あの社長ならやりかねないなという一抹の不安を抱えながら、秘書課の扉をノックする。
「失礼します」
ドアを開けるとそこには……
「お待ちしておりました。深山様」
一見20代後半ぐらいの男性が、糸目とも言えるような目で笑みを作りながら立っていた。綺麗なスーツを身にまとい、姿勢良く立つその姿から教養の良さがうかがえる。
「あの、貴方は?」
「私は社長の秘書を務めております磯山という者です」
「あ、秘書の」
この人がきっと社長のそばに常にいる第一秘書の方なんだろう。落ち着いた振る舞いだし、実年齢はもう少し高いかもしれない。
(あれ、そういえば秘書室に入ったのにこの磯山さん以外誰も居ない……)
てっきり入ったら6人ほど人が居て、机が並べられていると思ったのに、実際にいるのは磯山さん1人で、机も磯山さんのものらしき1個しか見当たらない。
想像と違う様子からこの後の展開が容易に考えられて、顔が青ざめていく。
「深山春さん、貴方には今日から社長の第一秘書を務めてもらいます」
(やっぱり、全然大丈夫じゃなかった……!!)
「え、でも磯山さんが第一秘書じゃないんですか?」
縋るように尋ねる。
「はい、今までは私が務めていましたが、本日から深山さんに変わるようにと社長のご命令です」
(あの社長……!想像以上にとんでもないやつだった!)
「でも私は転属させられたばかりで何も分からないのですが!」
「ご心配には及びません。私が誠心誠意サポートさせていただきます」
「……!それに、他の秘書課の人が見えないのですが」
「秘書課には現在私と貴方の2人だけです」
「え!?」
困惑した様子の俺に磯山さんが続ける。
「大丈夫です。秘書と言っても社長のスケジュール管理など社長の身の回りのサポートが主な仕事ですので。今まで私1人でしたが回っていた部署です。簡単な仕事ですので深山さんでも十分やっていけますよ」
「え、いや、それ……」
(貴方が有能すぎるだけでは……!?簡単な仕事って、1人で大手の社長の身の回りを纏める役とか全然簡単じゃないでしょ……)
自分と2人しか秘書課に居ないって聞いた時から薄々感じていたが、今まではこの磯山さんしか秘書が居なかったってことだ。そしてそれは普通は6人が対応する仕事を1人でこなしていたということ。すなわちこの人とんでもなく仕事が出来る人だと磯山さんという人物について理解した。
本来ならば一瞬でそのことに気づく春も、十分有能と言えるのだが、自分自身についてはあまり理解していなかった。
「では、行きましょうか」
「え、どこに?」
まだ状況が呑み込めない俺に磯山さんが声をかける。
「社長室です。第一秘書が変わりますからご挨拶に行かないと」
穏やかな笑みを向けながら言うが、その真意はあまり読み取れない。
(そもそもこれから俺が第一秘書になるって事は、磯山さんは降格することになるんだよな?それって磯山さんあまりよく思ってないんじゃ……)
「あ、あの磯山さんばいいんですか?第一秘書を私がやることになって……」
聞かない方がいいかとも思ったが、これから2人でやっていく上であまり疑問を残したくなかった。
(それにもしこの磯山さんが納得していないなら社長に撤回を申し込むことも出来るかもしれない!)と、まだどうにかなるかもという諦めの悪い考えがチラつき、恐る恐る磯山さんに聞いてみる。
「ああ、大丈夫ですよ。深山さんが心配になるようなことはありません。元々私は神野家に仕えている身ですので、社長がこの会社の社長に就任される前から社長の傍におりました。急にここの社長に就任されることになり、お恥ずかしながら秘書課の選任などが間に合わず、今までは私があくまで次の秘書が見つかるまでの代理として秘書をしていただけです。ですので、私の地位が下がってしまうなどのようなことはありません」
なのでご心配には及びませんよと、磯山さんはこっちの考えを即座に読み取り、十二分に安心させてくれる答えを出してくれた。
「また、今は私と深山さん2人だけですが、これから秘書課に適任な人材を見つけ、人数を確保していく予定です。最初は大変かもしれませんが、すぐに増員しますのでそれまで頑張りましょう」
磯山さんは穏やかな笑顔を向けて小さくガッツポーズをしながら言う。
その様子に、ふっと笑みがこぼれる。
人が増えるという言葉にも安堵を覚えたが、何より自分の中で磯山さんは良い人だという位置づけが強くなった。この人と一緒ならやっていけるかもしれないと、慌てていた心も落ち着きを取り戻した。
持っていた荷物を秘書室に置き、磯山さんに連れられ社長室に向かう。
「さ、着きましたよ」
秘書室は社長室と接待室を挟んだすぐそばにあるので、すぐに社長室に到着した。
昨日ぶりか……と、昨日起きたことを思い出し、憂鬱な気分になりながら、磯山さんの後に続けて社長室に入る。
「社長、深山さんをお連れしました」
「……来たか」
小さく一言、社長と呼ばれた男から返ってくる。
(ほんとになんでこんなことに……)
心の中では涙目になりながらも社長に顔を向けた。
秘書室は名前の通り秘書がいる部屋で、秘書課の部署だ。秘書課には社長1人に対し常に数人の秘書が在籍し、全員で社長のスケジュール、接待などを管理している。
秘書と言えば、1人で、社長の側にずっと付き従っている人というイメージがあるが、言ってもここは大手、とても1人では社長をサポートすることなど出来ない。だからこそ5.6人規模のこの秘書課が存在している。
(まあ、秘書って言っても常に社長の側にいる訳じゃないし、大丈夫か……)
常に社長の側にいるという第一秘書は秘書課の中でも上の地位にいる人間がやる仕事だ。それほど難しく重要なポジションであると聞いたことがある。
さすがに入ってきたばっかりの俺にやらせたりはしないだろう……多分……
あの社長ならやりかねないなという一抹の不安を抱えながら、秘書課の扉をノックする。
「失礼します」
ドアを開けるとそこには……
「お待ちしておりました。深山様」
一見20代後半ぐらいの男性が、糸目とも言えるような目で笑みを作りながら立っていた。綺麗なスーツを身にまとい、姿勢良く立つその姿から教養の良さがうかがえる。
「あの、貴方は?」
「私は社長の秘書を務めております磯山という者です」
「あ、秘書の」
この人がきっと社長のそばに常にいる第一秘書の方なんだろう。落ち着いた振る舞いだし、実年齢はもう少し高いかもしれない。
(あれ、そういえば秘書室に入ったのにこの磯山さん以外誰も居ない……)
てっきり入ったら6人ほど人が居て、机が並べられていると思ったのに、実際にいるのは磯山さん1人で、机も磯山さんのものらしき1個しか見当たらない。
想像と違う様子からこの後の展開が容易に考えられて、顔が青ざめていく。
「深山春さん、貴方には今日から社長の第一秘書を務めてもらいます」
(やっぱり、全然大丈夫じゃなかった……!!)
「え、でも磯山さんが第一秘書じゃないんですか?」
縋るように尋ねる。
「はい、今までは私が務めていましたが、本日から深山さんに変わるようにと社長のご命令です」
(あの社長……!想像以上にとんでもないやつだった!)
「でも私は転属させられたばかりで何も分からないのですが!」
「ご心配には及びません。私が誠心誠意サポートさせていただきます」
「……!それに、他の秘書課の人が見えないのですが」
「秘書課には現在私と貴方の2人だけです」
「え!?」
困惑した様子の俺に磯山さんが続ける。
「大丈夫です。秘書と言っても社長のスケジュール管理など社長の身の回りのサポートが主な仕事ですので。今まで私1人でしたが回っていた部署です。簡単な仕事ですので深山さんでも十分やっていけますよ」
「え、いや、それ……」
(貴方が有能すぎるだけでは……!?簡単な仕事って、1人で大手の社長の身の回りを纏める役とか全然簡単じゃないでしょ……)
自分と2人しか秘書課に居ないって聞いた時から薄々感じていたが、今まではこの磯山さんしか秘書が居なかったってことだ。そしてそれは普通は6人が対応する仕事を1人でこなしていたということ。すなわちこの人とんでもなく仕事が出来る人だと磯山さんという人物について理解した。
本来ならば一瞬でそのことに気づく春も、十分有能と言えるのだが、自分自身についてはあまり理解していなかった。
「では、行きましょうか」
「え、どこに?」
まだ状況が呑み込めない俺に磯山さんが声をかける。
「社長室です。第一秘書が変わりますからご挨拶に行かないと」
穏やかな笑みを向けながら言うが、その真意はあまり読み取れない。
(そもそもこれから俺が第一秘書になるって事は、磯山さんは降格することになるんだよな?それって磯山さんあまりよく思ってないんじゃ……)
「あ、あの磯山さんばいいんですか?第一秘書を私がやることになって……」
聞かない方がいいかとも思ったが、これから2人でやっていく上であまり疑問を残したくなかった。
(それにもしこの磯山さんが納得していないなら社長に撤回を申し込むことも出来るかもしれない!)と、まだどうにかなるかもという諦めの悪い考えがチラつき、恐る恐る磯山さんに聞いてみる。
「ああ、大丈夫ですよ。深山さんが心配になるようなことはありません。元々私は神野家に仕えている身ですので、社長がこの会社の社長に就任される前から社長の傍におりました。急にここの社長に就任されることになり、お恥ずかしながら秘書課の選任などが間に合わず、今までは私があくまで次の秘書が見つかるまでの代理として秘書をしていただけです。ですので、私の地位が下がってしまうなどのようなことはありません」
なのでご心配には及びませんよと、磯山さんはこっちの考えを即座に読み取り、十二分に安心させてくれる答えを出してくれた。
「また、今は私と深山さん2人だけですが、これから秘書課に適任な人材を見つけ、人数を確保していく予定です。最初は大変かもしれませんが、すぐに増員しますのでそれまで頑張りましょう」
磯山さんは穏やかな笑顔を向けて小さくガッツポーズをしながら言う。
その様子に、ふっと笑みがこぼれる。
人が増えるという言葉にも安堵を覚えたが、何より自分の中で磯山さんは良い人だという位置づけが強くなった。この人と一緒ならやっていけるかもしれないと、慌てていた心も落ち着きを取り戻した。
持っていた荷物を秘書室に置き、磯山さんに連れられ社長室に向かう。
「さ、着きましたよ」
秘書室は社長室と接待室を挟んだすぐそばにあるので、すぐに社長室に到着した。
昨日ぶりか……と、昨日起きたことを思い出し、憂鬱な気分になりながら、磯山さんの後に続けて社長室に入る。
「社長、深山さんをお連れしました」
「……来たか」
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