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番外編『ダブルウェディング』
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「……ねえ、楓くん」
「うん?」
「……もう、ドレス、脱いでいい?」
「窮屈?」
違う、窮屈なんかじゃない。そうじゃない。
私が首を横に振ると、楓くんがふわりと笑った。
「ふふ。じゃあ、こっち来て」
ふんわりとした笑みを浮かべたのはほんの一瞬だけで、私へと手を差し出した瞬間に妖しい笑みへと変わる。
その笑みが何を意味しているのか、分かっている。だって私自身がそう望んだのだから。
私はゆっくりと彼のもとへと近づき、差し出された手を取る。目の前の美しい男が私を見つめる。
彼の瞳にただ一人映ることができるこの光栄さを、世界中に叫んで回りたい。
ギュッと抱きつくと、彼も私をギュッと抱き締め返してくれる。しあわせで、胸の奥がじんと熱くなる。
「楓くん」
「なぁに?」
「ドレス、脱いでいい……?」
「いいよ」
「……脱がせてくれないの?」
「ふふ、お望みとあらば」
分かっているくせに、時々それをわざと私に言わせようとするところがある。恥ずかしがれば彼の思うつぼ。
でも、素直に口にしたって、結局は彼の思惑通りなのだ。
どちらにしても彼には勝てなくて、やっぱり私は彼の手の平でコロコロと転がされ続けるしかない。
このドレスの背中側は全てボタンになっている。彼に背中を委ねるように背を向けると、後ろから柔らかく抱き締められた。
「……外してくれないの?」
「外すよ。僕の奥さんはせっかちさんだね。ふふふ」
楓くんはそう言って柔らかく笑うと、ボタンを止めたままの状態でも大きく開いている私の背中に口付けを落とす。
ゾクリとして身体が少し跳ねると、楓くんが小さく笑った。
「……楓くん」
焦らされてるのだと分かり、恨みを込めて名前を呼ぶ。
気づいているくせに、今度は肩口へと唇を押し付けて軽く舌先で私の肌をくすぐった。
「もう、楓くんってば……っ」
「ふふ……、だって、ドレス姿も素敵だからさぁ。脱がせるのもちょっと惜しいよねぇ、ふふふ」
そう言って、むき出しの背中を指で、つぅ、となぞる。予想していなかった甘美な刺激にまた体が跳ね、息を呑んだ。
背後でまた、ふふっ、と楓くんが笑う。
私を焦らして楽しんでいるのだから、本当に悪い男だ。
「ね、え、楓くん……っ!」
「ふふ、なに? 奥さん」
「……もうっ」
私はクルリと楓くんへと向き直り、彼の唇へ噛みつくように口づける。私の攻撃的なキスに抵抗する様子はなく、私の好きなようにさせてくれているけれど……。
そうじゃない。私が欲しいのは、それじゃない。
じれったくて、私は楓くんへと体重をかけてベッドへと押し倒した。高級なベッドのスプリングがゆらりと揺れて、私達二人の体重を難なく受け止める。
口元に悪い笑みを浮かべた楓くんが、私を見上げていた。
もうっ、本当に許せない。
「もうっ!」
「ふふっ、亜矢さんが積極的なのが嬉しくて、つい」
「……楓くんのバカっ」
「ごめんね? 朝までたっぷり愛してあげるから、許して……?」
「……っ」
ぽかり、と楓くんを叩くと、楓くんが私の背へと手を回す。
え、と思う間にドレスのボタンが全て外されて、肩からするりと青いドレスが滑り落ちた。器用すぎてびっくりするよ、本当に。
彼はそのまま背中側にいくつもあるホックを外していく。
ドレス専用の下着の構造なんて、なんで知ってるのよ?
楓くんの顔の横に両手をついて見下ろしたままジロリと睨んでみる。けれどもそんなものは何の効果もなくて、楓くんは妖しい笑みを浮かべながらあっという間に私の上半身を完全に開放してしまった。
結婚する前から一緒に住んでいるし何度も身体を重ねているけれど、さすがにこの状態で、部屋の電気も点けたままで肌を晒すのは少し恥ずかしい。
慌てて身体を起こそうとしたけれど、私の行動をどこまでも読んでいる楓くんにあっさりと阻まれてしまった。
「ふふ、だめだよ亜矢さん」
「……っ」
「恥ずかしい?」
「……分かってるくせにっ」
「ふふっ、言わなきゃ分かんない」
そう言って、また残りの下着へと手をかける。
「ちょ……っ!」
「んー?」
本当に、悪い男だ。
羞恥で赤く染まっているだろう私の顔を見てにこにこ笑う楓くんを、私はしっかりと睨みつけた。
もちろんこんなことでは彼には何の効果もないと分かった上で……。
小さな意地悪ばかりをする楓くんだけど、やっぱり私は彼のことが大好きで、つい全て許してしまう。
こうやって、一生、私は彼を愛していくんだろうな。
ねえ楓くん。
私と結婚してくれて、本当にありがとう。
とてもしあわせです。
私も楓くんを一生しあわせにするからね……。
ーENDー
ここまでお読み頂き、本当にありがとうございます。
また次の作品でお会い出来ますように……。
――2023/08/08 海棠桔梗
「うん?」
「……もう、ドレス、脱いでいい?」
「窮屈?」
違う、窮屈なんかじゃない。そうじゃない。
私が首を横に振ると、楓くんがふわりと笑った。
「ふふ。じゃあ、こっち来て」
ふんわりとした笑みを浮かべたのはほんの一瞬だけで、私へと手を差し出した瞬間に妖しい笑みへと変わる。
その笑みが何を意味しているのか、分かっている。だって私自身がそう望んだのだから。
私はゆっくりと彼のもとへと近づき、差し出された手を取る。目の前の美しい男が私を見つめる。
彼の瞳にただ一人映ることができるこの光栄さを、世界中に叫んで回りたい。
ギュッと抱きつくと、彼も私をギュッと抱き締め返してくれる。しあわせで、胸の奥がじんと熱くなる。
「楓くん」
「なぁに?」
「ドレス、脱いでいい……?」
「いいよ」
「……脱がせてくれないの?」
「ふふ、お望みとあらば」
分かっているくせに、時々それをわざと私に言わせようとするところがある。恥ずかしがれば彼の思うつぼ。
でも、素直に口にしたって、結局は彼の思惑通りなのだ。
どちらにしても彼には勝てなくて、やっぱり私は彼の手の平でコロコロと転がされ続けるしかない。
このドレスの背中側は全てボタンになっている。彼に背中を委ねるように背を向けると、後ろから柔らかく抱き締められた。
「……外してくれないの?」
「外すよ。僕の奥さんはせっかちさんだね。ふふふ」
楓くんはそう言って柔らかく笑うと、ボタンを止めたままの状態でも大きく開いている私の背中に口付けを落とす。
ゾクリとして身体が少し跳ねると、楓くんが小さく笑った。
「……楓くん」
焦らされてるのだと分かり、恨みを込めて名前を呼ぶ。
気づいているくせに、今度は肩口へと唇を押し付けて軽く舌先で私の肌をくすぐった。
「もう、楓くんってば……っ」
「ふふ……、だって、ドレス姿も素敵だからさぁ。脱がせるのもちょっと惜しいよねぇ、ふふふ」
そう言って、むき出しの背中を指で、つぅ、となぞる。予想していなかった甘美な刺激にまた体が跳ね、息を呑んだ。
背後でまた、ふふっ、と楓くんが笑う。
私を焦らして楽しんでいるのだから、本当に悪い男だ。
「ね、え、楓くん……っ!」
「ふふ、なに? 奥さん」
「……もうっ」
私はクルリと楓くんへと向き直り、彼の唇へ噛みつくように口づける。私の攻撃的なキスに抵抗する様子はなく、私の好きなようにさせてくれているけれど……。
そうじゃない。私が欲しいのは、それじゃない。
じれったくて、私は楓くんへと体重をかけてベッドへと押し倒した。高級なベッドのスプリングがゆらりと揺れて、私達二人の体重を難なく受け止める。
口元に悪い笑みを浮かべた楓くんが、私を見上げていた。
もうっ、本当に許せない。
「もうっ!」
「ふふっ、亜矢さんが積極的なのが嬉しくて、つい」
「……楓くんのバカっ」
「ごめんね? 朝までたっぷり愛してあげるから、許して……?」
「……っ」
ぽかり、と楓くんを叩くと、楓くんが私の背へと手を回す。
え、と思う間にドレスのボタンが全て外されて、肩からするりと青いドレスが滑り落ちた。器用すぎてびっくりするよ、本当に。
彼はそのまま背中側にいくつもあるホックを外していく。
ドレス専用の下着の構造なんて、なんで知ってるのよ?
楓くんの顔の横に両手をついて見下ろしたままジロリと睨んでみる。けれどもそんなものは何の効果もなくて、楓くんは妖しい笑みを浮かべながらあっという間に私の上半身を完全に開放してしまった。
結婚する前から一緒に住んでいるし何度も身体を重ねているけれど、さすがにこの状態で、部屋の電気も点けたままで肌を晒すのは少し恥ずかしい。
慌てて身体を起こそうとしたけれど、私の行動をどこまでも読んでいる楓くんにあっさりと阻まれてしまった。
「ふふ、だめだよ亜矢さん」
「……っ」
「恥ずかしい?」
「……分かってるくせにっ」
「ふふっ、言わなきゃ分かんない」
そう言って、また残りの下着へと手をかける。
「ちょ……っ!」
「んー?」
本当に、悪い男だ。
羞恥で赤く染まっているだろう私の顔を見てにこにこ笑う楓くんを、私はしっかりと睨みつけた。
もちろんこんなことでは彼には何の効果もないと分かった上で……。
小さな意地悪ばかりをする楓くんだけど、やっぱり私は彼のことが大好きで、つい全て許してしまう。
こうやって、一生、私は彼を愛していくんだろうな。
ねえ楓くん。
私と結婚してくれて、本当にありがとう。
とてもしあわせです。
私も楓くんを一生しあわせにするからね……。
ーENDー
ここまでお読み頂き、本当にありがとうございます。
また次の作品でお会い出来ますように……。
――2023/08/08 海棠桔梗
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